9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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暴力を封印していた理由

 

 ソフィが言っていた0に等しい1。これの意味は十分に理解出来た。俺の持つ力によって無意識に抑えられた天ちゃんの能力の暴走は今や鎮静化を始めている。

 

 しかしそれは決して0じゃない。つまりは天ちゃんは今も無意識に微力ながらに能力を使ってしまっているということだ。その対象はわからない。その辺の物かもしれないし、俺かもしれない。

 

 ……天ちゃん自身かもしれない。

 

「どうしたの? エロパイ、顔が怖いよ?」

 

 その言葉にハッと我に返され、普段通りを装っている天ちゃんの顔を見る。

 

 彼女は事の重大さを理解していないわけじゃない。むしろ本人が一番恐怖を感じているだろう。それでも弱さを決して見せないのは……

 

「……そう……だな」

 

 俺じゃあアイツの代わりになれるかどうかなんてわからない。アイツはアイツだし、俺は俺。でもきっと……天ちゃんを救うことができるとするならば、それは俺の仕事だ。

 

 もう誰も……誰一人として……! 

 

「天ちゃん」

 

「……ん?」

 

 明らかな虚勢。消滅の危機に苛まれていた状況と自分一人が消えてしまうかもしれない……いや、消えてしまいかけていた恐怖は俺なんかの想像を絶するほどの苦痛だろう。

 

 だからこそ、手に取るようにわかるその偽りの笑顔が重く感じた。

 

「笑ってくれるのは有難い。俺も天ちゃんには笑顔が一番似合ってると思うから。でも……我慢はしなくてもいい」

 

 天ちゃんが翔の事が大好きなのは()()()()()。その好意が世間には決して認められることじゃないことさえも。

 

 だが、彼女を支えているのは間違いなく翔だ。俺がどこまで寄り添えるかはわからないが……

 

「泣きたい時や辛い時は、堪えることなんてしなくていいんだぞ」

 

 ポンっと彼女の頭を撫でるように手を置き、精一杯の気持ちを伝える。

 

「もう俺の目の前で……誰も死なせないから」

 

 そうだ。もう二度と……誰も失わせない。誰も無くさない。

 

 涼ニィも。

 

 千紗姉も。

 

 九條さんも…………希亜も…………

 

「────ッ!?」

 

 その瞬間に思わず身体を震わせる。それほどまでに俺自身が信じられなかったからだ。

 

 なんで俺は今、九條さんと希亜の死を連想したんだ……!? 雷野郎との戦いのせいか? 

 

 いや違う……! 確かに一瞬過ぎったこの感情は…………

 

「竹内先輩はさ……なんでそんなに誰かの為に動けるの?」

 

「…………え?」

 

「本当にどうしようもない時。あたし達がピンチな目に遭った時。先輩は自分の事を顧みずに駆けつけてくれる。あたしが捕まった時も……さっきも……」

 

 誰かの為……か。元々はそんなガラじゃなかったんだけどな。いや、今まで偽っていたってのが正しいのか。押さえ込んでいた蓋を暖かくて小さな手が開けてくれたんだ。

 

 ……俺が心を開いていないのに、天ちゃんに安心してもらおうだなんて……おこがましいよな。

 

「昔な、兄貴がいたんだ。俺は元々狭いボロアパートの中で兄貴と2人で生活してた」

 

「え……? 2人……?」

 

「つってもあまり覚えてないんだけどな。とにかく記憶にあるのは、毎日罵倒を浴びせ合いながら喧嘩してる両親と、そんな奴らから必死に守ってくれる兄貴の姿だ」

 

 そうして俺は、思い出すかのように言葉を紡ぐ。

 

「当時の父親はどこからが持ってきた金を使って毎日毎日女の人を呼んで遊ぶ日々。暇があればギャンブル。金が尽きれば兄貴に暴力。母親は……どこに行ったのか知らなかった。でも金だけは何故か持っていて、最低限の飯は用意してくれていた」

 

 今思えば、女の人が短時間に大金を稼ぐ方法なんて……思い当たる節は1つしかないけどな。

 

「そして分かり合えない両親は日に日にそのストレスを俺たちに向け始めて、いつの間にか俺たちはアイツらのサンドバッグになっていた。金を稼ぐ宛や、親族なんかもいなかった俺たちは目の前の大人2人に頼るしかなく、身を粉にして働くことで生きていけたんだ」

 

「逃げたくても逃げられない。鳥籠の中に閉じ込められたような日々を過ごしていた時、突如として両親は()()()()()()()

 

 …………いきなりこんな話をして大丈夫か? と思って話の途中で天ちゃんの顔をチラッと見てみたが……天ちゃんは思いのほか真剣に俺の話を聞いてくれていて、離れていた距離もいつの間にかかなり近くなっていた。

 

 ……続けよう。俺の憧れた……兄貴の話を。

 

「当然の事ながら父親は職に着いていない。つまりは借金で金を蓄えていたんだが、とうとう引くに引けない状況になったようだった。しかしそんな両親でもしっかりと愛し合ってはいたようで、2人で生きていくためにはどうするべきか悩んでいて、その答えはすぐに出てきたようだった」

 

「……え? 2()()()って……」

 

「臓器売買」

 

「────ッ!?」

 

「どこからかツテがあったみたいでさ。俺たちはこれでもかって程に殺されかけた。その時だったんだ」

 

 これは遠い昔の記憶。

 

 俺が涼ニィを失う前の、幼少期の記憶。

 

 淡い物だが、あの瞬間は今でもはっきりと覚えている。

 

「生まれて初めて、殺人の現場を見たのは」

 

「そ、それって…………」

 

「身も心も限界まで追い込まれ、自分が殺されそうになった時。兄貴は母親を殺していた。腕を折られてもなお立ち向かうその姿は…………何も変わってなかったんだ」

 

「手を汚してしまった事も、自分の人生を潰してまで助けてくれたのも……全部未来の為だった。笑って過ごせる為の…………兄貴の願いだった」

 

「だから…………俺も初めて暴力を奮った」

 

 せめて涼ニィだけじゃなく、2人でいるために。俺はあの時に初めて暴力を奮ったんだ。

 

 自分自身を守るため。

 

 未来を……変える為。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは初めて…………人を殺してしまった」

どちらへ進む?

  • 東に行こう……!
  • いや……ここは西に!
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