9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
『忘れそうだから早めに送っておく。都合がいい時間に連絡をくれ』
RINGのアプリを開いて、メモされたIDの相手に文を送って直接連絡を取れるようにする。いちいち時間を気にするのが面倒なのもあるが、本気で忘れてしまいそうだからである。
今はまだ、あれから対して時間が経っていない。そう、あの女の人との突然の会話から……1時間も経っていない。
「暗い夜道には気をつけろよ? お兄さん」
今でもあの言葉が頭にこびりついている。やれやれ…………最高に腹の立つ相手だ。
あの声の重み……喧嘩なんて生ぬるいものじゃすまねぇだろうな。本当に殺し合いでもやる勢いだ。
今のうちに、俺も自分の能力をもっと詳しく調べておいた方がいい。もしかしたら……いや、次会うときは確実にアーティファクトの奪い合いになるだろう。
いざって時にまともに動けなかったら話にならねぇ。できるだけやりたくはないが…………いよいよとなれば、人を殺す事を覚悟しなくちゃあいけないかもしれない。
…………あの時に誓ったんだ。俺は、自分の為に生きるって。
信用すれば裏切られる。油断すれば殺される。
殺られる前に殺れ。
胸に強く抱いた決意を想うと同時に、ピアス型のアーティファクトをギュッと握る。
かつての俺の目標とは遠い存在になっちまったけど、あの頃と今の俺は違う。俺は兄のようには死なない。
それが、大好きだった兄から最後に教わったものだから。
……その為にはまずは自分の力量ってのを十分に理解することからだ。そんなことも理解出来ていないうちは、戦闘はするべきじゃないだろう。
「…………出てこい、鏡」
右掌に紋章を浮かばせ、能力を使って鏡を出現させる。
「さて、トレーニングの開始だ」
…………
……
……
あれから数時間後、時刻は午後八時。夕食も食べずに夢中で能力の実験を重ねていたが、ある人からのRINGの通知が届いた事で、俺はそれを止めることにした。
『わざわざごめんなさい。連絡ありがとうございます』
その相手はもちろん九條さん。…………つーか、なんでこの人敬語なんだ? 会ったら普通に話すのに。
『それで、要件は?』
手っ取り早く話を終わらせる為に、いきなり核心を突く事を聞き出したが、まずかっただろうか? ここはやっぱり適当な話から本題に移った方が……なんて思ったりしていたが、少しの時間が経過した後、その返事は返ってきた。
『こんな時間ですが、出来るなら会ってお話がしたいです。待ち合わせはできませんか?』
……じゃあ俺が帰ろうとしたあの時に話せよ。
とも思ったが、よくよく考えてみると、逃げるようにそそくさとその場を移動したは俺だ。もしかしたら本人的にはあの場で話すつもりだったのかもと思うと、あんまり強くは返せなかった。
『わかった。まだナインボールにいるのか? いるんだったらそのまま待っててくれ。ついでに夕食も済ませたい』
『わかりました。じゃあ、店内で待ってます』
と最後に送られてきたメッセージに既読マークを付けて、そそくさと外出の準備を進める。毎度の如く眼鏡(伊達)をかけて、洗面台の鏡を見て、髪がクソ長ぇな……なんて気になりながら身だしなみを整える。
しかし……話をしたいって何をだろう? あ、いや、あの事件に関することなのは簡単に想像できるんだが、俺に質問することなんてあったか? お互いにあん時は初めて目撃したんだし、俺だけの有益な情報はないと思うんだが……単に能力の相談相手が欲しいだけだろうか?
まぁ、一人で考えても仕方ない。さっさとナインボールへ急ごう。
…………
……
……
「うぅ……っ! 今日は微妙に寒いな……」
家を出ると、外は少し肌寒く、やや冷たい風が肌を襲う。空を見上げるともうすっかり星たちが顔を出しており、今は夜なんだと認識させられる。
あの言葉が再び脳内を過ぎるが……幸い、能力は実験のおかげで多少は応用できるようになった。実践で使えるかは別としても、対抗する手段は増えたんだ。相手も能力に扱い慣れていないのなら、少しは対応出来る。
つっても、ほとんどが守りの技……というか、基本的には自分から攻撃することはできないんだけど……
だからというのもあるが、基本的には戦闘はしたくない。最悪の場合は致し方ないが、面倒なのはごめんだ。
「……そろそろか」
色々と考え事をしている内に、いつもの店前の歩道を歩いていた。ここは街中ということもあって、まだまだ微妙に通行人はいるし、街灯もそれなりにある。こんな場所でなら、アイツもさすがにいきなり襲ったりはしないだろう。
「…………?」
一瞬何かに気を引かれる。なんだろう……誰かに見られてる?
具体的には何もないのだろうが……どうも何故か誰かに見られているような気がしてならない。……まさか。
嫌な予感を感じた俺は、できるだけ急いで逃げ込むようにナインボールの店内へと入っていった。
カランっと音の鳴る扉を開けて、店内に入ってみる。客は一人食事をしている程度でほとんど中にはいなかった。
辺りを少し見渡すと、1番奥の角の席に九條が座って待っていたようで、俺をみかけると片手を軽く振るようにしてニコッと笑っていた。
……絶妙に作り笑いの気もするが。
軽く手を挙げて俺なりの返事を返すと、九條の目の前に対面するように座る。そして互いに飲み物を注文し、俺はそれにプラスして適当な食べ物を注文。「かりこまりました」と店員が去っていったのを機に、改めて九條の方に顔を向けた。
邪魔すぎる髪を安いヘアピンで固めながら。
「竹内くん、髪が長いよね」
「鬱陶しいくらいにはな。次の日曜に散髪でもしようかと思ってる」
「短くしても似合うと思うよ」
「そりゃどーも」
最初は適当な会話。そんなことをしているうちに飲み物が来て、俺の頼んだハンバーグがきて少し時間をかけて全て平らげる。
そして〆のパフェ。今日は、マンゴーパフェにしたのだが、それが届くと流石に待たせすぎたと悪く思い、俺の方から話を切り出した。
「それで? わざわざ会ってまで話したかった事って?」
パフェを一口食べながら九條さんの様子を伺うと、なにやらそこそこ険しい表情をしていた。
「……あの石像の事。竹内くんはどう思う?」
「どう思うも何も、十中八九『
そう、俺と九條さんはある言葉を同時に呟いた。「アーティファクト」……と。
「竹内くんも、やっぱり不思議な力が──」
「あぁ。つっても俺のは石化じゃないからな。変な疑いは止めてくれよ」
「えっ、あ…………う、うん」
ぎこちない返事をしながら、九條さんは何か言葉を選んでいるようだ。そんな彼女の言葉を待ちながら、俺はまたパフェを一口、二口……と口に運んでいく。
「アーティファクト。で、伝わるかな?」
「わかる。あのアニメから取ったんだろ? 一通りは見てるから軽くなら専門用語を出されてもわかるよ」
「よかった。それじゃあ……これ、これが私のアーティファクトなんだけど……」
そう言って九條さんが唐突にポケットから取り出したのは、例の髪飾り。ちょっと前に呪いが〜なんて言っていたアレだ。
「竹内くんは、あのピアス……だよね?」
「うん」
「能力について、どう思う?」
「…………」
その質問にちょっと悩んでしまう。正直に答えると俺個人としては「最高」の一言なんだが……さっきから九條さんの様子がおかしい。下手なことを言えば……面倒な事になりそうだ。
「なんだ。結局俺の事を疑ってるのか」
「そ、そんなつもりは無いよ!」
「じゃあなんでそんなに能力のことを聞こうとするんだよ」
「それ……は…………」
そこで少し吃る。自分の中の気持ちと葛藤しているようだ。
俺は絶対に能力の詳細は言わないぞ。相手が能力者である以上、最大限の警戒をさせてもらう。
「あの時……………………笑ってたから」
……やっぱりか。理由はどうあれ、怪しまれていることには間違いなかったな。
だとすると、九條さんは中々の度胸の持ち主だぜ? 俺がもし、石化の能力を持っていたとしたら……自分が殺されるかもしれないのにわざわざ会いたいって言ったんだ。
「結局疑ってんじゃん」
「……ごめんなさい」
「でも、そんなこと言っていいのか? 周りを見てみろよ」
「……え?」
俺の言葉通りに九條さんは店内を軽く見渡す。先程まで食事を摂っていた客は会計を済ませて出ており、店員は何故か全員奥の方へと行っていて、この空間には俺と九條さん以外に人がいなかった。
もちろん大声を出したり、呼んだりすればすぐさま店員がやってくるだろう。だが……目に映る所に人影は一切なかった。
「俺が石化の能力者なら……この場で九條さんを石にしてるね」
「……っ!」
「よかったな。俺が犯人じゃなくて…………、迂闊な行動は止めといた方がいいと思うぜ? それは勇敢じゃなくて無謀だ」
そして再びパフェを一口。
うん。やっぱりこの店のパフェはハズレがない! めっちゃ美味い!
「死にたくなかったら、下手な行動をしない事だ。この街の中に殺人犯がいる事は間違いないんだ。こんな事を簡単にしてたら早死するだけだ」
思えば接触してきたあの時、RINGのIDを貰った時も九條さんの方からだ。石像の探索を誘ったのも。
……厄介な相手だな。
「竹内くんは気になるの? ……石化のユーザー、殺人犯の事」
さて……まぁ、俺を犯人の容疑者から外したのなら来るであろう質問が来た訳だが……九條さんは唯一、俺がユーザーだということをハッキリと知っている人だ。敵対するのは……やめておいた方がいい。
「気にはなる……な。俺の能力だったらどんな奴でも対応できると思うし、犯人を見つけようとは思ってる」
もちろんそれは、殺人を止めさせる為なんかじゃなくて、俺自身がそのアーティファクトを貰う為だが。
「……!」
「……?」
ピクっと微妙な反応を見せる九條さん。変なやつ……なんて思ってるパフェを食べようとしたら……もうなかった。
「じゃ、俺はそろそろ──」
「あ、あのねっ!」
会計を済ませて帰ろうかと思った直後に、勇気を振り絞るかのように決死に声をかけられて思わずその場で止まってしまう。
「なに」
「私も手伝わせて欲しい……! 石化のユーザー探しに」
……はぁ?
何言ってんだコイツ。そんなもん承諾するわけねぇだろ。第一に九條さん本人が石化のユーザーである可能性もあるわけだし、能力を隠したままで協力なんてできるかよ。
それに俺は、人を信じたりはしない。こういう偽善者である奴ほど、肝心な時に簡単に人を裏切る。
「断る。手を組む相手探しなら他を当たってくれ」
「な……なんで……?」
「お互いの能力すら知らないんだぜ? しかも殺人犯かも〜って疑われたすぐ後に協力しようって……馬鹿にしてんか?」
「……! ごめんなさい……」
……ったく。
まぁ、本人も大分反省してるみたいだし、別にどうでもいいけどさ。
「焦りすぎなんだよ……」
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!!」
……え?
「軽率に人を疑ったりして、本当にごめんなさい……! 本当はそんな事を伝えたかった訳じゃなくて……」
な、なんか異常なほど謝られてるんですけど。別に俺はそこまで気にしてないんですけど……
「あー、あー! もういいって。面倒だ。とにかく……相手は殺人犯。これ以上人を殺させない為にも俺が犯人を探し出す。だから邪魔はしないでくれ」
こうやって言えばもう下手な勘違いはされにくいだろう。能力を明かしてない以上はまだまだ疑われ続けるだろうが、それでも、九條さんの中での俺は『一人で石化のユーザーを探している』って事になるはず。
さっきの言葉的に、多分九條さんは正義感が強いんだろう。大方……アニメのように表すなら、自分がアーティファクトに選ばれたのならその力を悪用する人を自分が止めなければ……なんて思ってるんじゃなかろうか?
ま、彼女がもし殺人犯と接触でもしようものなら……よほど強い能力でないと、返り討ちにあうだろうけど。
……それらは九條さんが石化のユーザーでなかった場合だが。
「じゃあな。俺はもう帰る。……ハンバーグとパフェ美味かった。ご馳走様」
そう言って俺は、九條さんの分の会計も一緒に済ませて店を出た。
…………
……
……
……結局能力の事聞き忘れた。
夜道を歩きながら、早速俺は若干の後悔を胸にとぼとぼと帰っていた。
よくよく考えたらあれって九條さんの能力を聞き出せる絶好のチャンスだったんじゃね? お互いの能力を教えあったらこっちのもバレるけど、相手の能力も判明したのにな……。しかも自分の容疑は完全に晴れる。
うーむ。もったいないことした気がする。でもなぁ……自分のアーティファクトの能力もバラしたくないしなぁ……
まぁ、次の機会でいっか。
なんて思いながら歩いていると……
「────……」
見たことの無い「ある人物」と鉢合わせした。
無意識のうちに俺は最短ルートにショートカットできる道……つまり公園の中を突っ切っていたのだが、不気味な程に誰一人いない公園のど真ん中に、街灯にゆらりと照らされている、白いフードを被った人が佇んでいた。
特に声をかけるわけでもなく、その人の横を素通りしようとすると……
「夜道に気をつけろって言ったろ? お兄さん」
アンケートありがとうございました。この投稿で、今回のアンケは終了させていただきます。
今回の結果で、主人公の選択の一つが決定しました。
次回のアンケは・・・主人公と友好的になってくれる、言わば友達を決めたいと思います。事件を追う協力関係ではなく、日常生活面での友達です。
ちなみに、自分的には一人だけ友好的になるキャラは決まっているのですが、これからの物語の構成上、もう一人欲しいんですよね。
今のところは、なんかものすごくひねくれてる主人公ですが、そんな彼に良くしてくれそうな人をお聞きしたいです。
では。
9人目のユーザー(主人公)の友人は?
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みゃーこ先輩 (九條 都)
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皆の妹、天ちゃん (新海 天)
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デスカレー先輩 (香坂 春風)
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パフェクイーン (結城 希亜)
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にぃやん (新海 翔)
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司令官 (高峰 蓮夜)
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勿論、僕だよね? (深沢 与一)