9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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記憶とキオク、巻き起こる波乱

 

 …………

 

 俺は……何を言っているんだ? 俺は何を思い出しているんだ? 

 

 確かにあるあの鮮明な記憶。思い出したのは心の奥にあるトラウマだった。だが……違う。そんな記憶はないんだ。

 

 いや……でも……これは……確かに俺の記憶……確かに経験している……

 

「……パイ」

 

 違う……俺はこんな事…………知らない……! こんなの俺じゃ────

 

「先輩っ!」

 

「……っ!」

 

 天ちゃんの震えた声。その声に意識を呼び戻されると気がついた。尋常ではない程の手汗に過呼吸気味の身体。その事実が俺を錯乱させていたのだと認識させる。

 

「そんなに辛いことなら、無理して言わなくてもいいんだよ……?」

 

 違う。

 

 違うんだよ。恐怖したのはそこじゃないんだ。

 

「あ、あぁ……」

 

 俺が本当に恐怖したのは……一体誰の…………

 

「ごめん天ちゃん。ちょっと顔を洗いに行ってくるよ」

 

 そんな思いから逃げるように、俺は洗面所に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 バシャバシャと勢いよく流れ出している冷水を両手に溜めて顔にぶつけるように当てる。それでも1度感じたあの疑問はすんなりとは消えてくれなかった。

 

「…………」

 

 あの記憶は何だったのだろう。頭の中には確かに残っているのに、そんな経験をした覚えがない。そうだろ? そもそも俺の親は海外に旅行をしにいっているはずなんだ。

 

 だから殺しただなんてそんな……

 

「……手、震えてらぁ」

 

 本当に訳が分からない。こんなにも混乱するだなんて……疲れてるのかな。そんな言葉で片付けていいものかとも思うが……きっと俺は考えたくないのだろう。気づきたくないのだろう。

 

 顔と手を拭き終え、自分のスマホを取り出して電話帳を開いてみる。そこにあるのは確かに父親と母親の電話番号だ。

 

 覚えてる。過去にこの番号は何度も打った。

 

 だが……

 

 なんて考えていると、唐突に画面が暗くなり、陽気な曲と同時にバイブレーションを始めた。

 

『神様からの 導く言葉♪』

 

 その相手は……

 

「はい、もしもし」

 

『ザー……ザー……』

 

「……!?」

 

 圧倒的違和感。余程のことがない限り聞かないであろう砂嵐の様な音に困惑しつつ、異常事態だと言うことを認識する。

 

「もしもし!? おいっ! どうした!? 聞こえているのか!? 希亜っ!」

 

『もし……し……! 蓮…………!』

 

 辛うじて希亜が何かを発しているのは分かるが、電波が悪いのか雑音だらけで上手く聞き取れない。そしてそれが何か嫌な予感を思わせる。

 

「おい! おいっ!! なにかあったのか!? 希亜!」

 

 そして段々と雑音が引いてきて、何とか声が聞けるようになってくると……

 

『やら…………れた…………! 強すぎ…………る………………!』

 

「やられた!? どういう事だ!? お前は今どこにいるんだ!!!」

 

 電話越しの声が響いている。そして電波がとてつもなく悪い状況。そして希亜の言葉。それら全てがドシドシとのしかかるように圧へと変わっていく。

 

『わた…………せもの…………! 貴方……も…………気をつけ…………!』

 

「なんだ!? 何を言ってるんだ!?!?」

 

 わたせもの? 一体何を伝えたかったんだ!? そんな事を考えている暇もなく、希亜の声が直ぐに聞こえなくなり、ガサガサと砂嵐とは違う大きな雑音をたてながら、鉄か何かに激しく当たったかのような音を響かせて、液体が暴れるような音、そして笛の様な音を最後に何も聞こえなくなった。

 

「……くそっ!!」

 

 何が起こったのかわからない。どこにいるのかもわからない。ただ一つ確かなことは希亜がピンチだってことだけだ! 

 

 勢いよく洗面所を駆け出し、リビングに置いてあるPCを立ち上げて周辺の地図を開きカタカタと文字を打ち付けてとある場所を探す。その途中で微妙な顔を続ける天ちゃんが俺に声をかけてきた。

 

「どしたのエロパイ。急にPCなんか点けて……」

 

「緊急事態だ! 希亜が危険な目にあってるかもしれない!」

 

「……え!? 結城先輩が? どうして?」

 

「俺にもわかんねぇ! ただ、すっげぇ嫌な予感がすることは確かだ! 今場所を割り出してるから…………天ちゃん! 今の時間は!?」

 

「えぇ……!? あ、えと……! 21時過ぎ!」

 

「21時過ぎな……!」

 

 思い出せ……! あの電話から最大限の情報を引き出すんだ! まず希亜の声が響いていた。このことから狭い部屋とか、とにかく壁に近くて障害物がない場所にいる可能性が高い。

 

 そして最初に聞こえてきた衝突音。あれは間違いなく鉄だ。となると簡単に想像できるのは鉄製の壁や窓、最悪檻の中にいる可能性がある。希亜のセリフから考えるに誰かと交戦した後だろう。となると拉致られた、もしくはその場に捨てられた可能性がある。

 

 その次は……液体のような音! 衝突音の後だからスマホを投げられた後、水がある場所にスマホが落ちた可能性がある。……となると近くに池やダム、もしくは海があってもおかしくない。

 

 最後に聞こえてきたのは笛の様な音。水辺の近くであのタイプの笛が鳴るのは……

 

「あった……午後21時7分発、なんかの出荷用の船…………って二箇所あるのか……!」

 

「エロパイすっげ……ってどうするの!? あたしも大体状況が理解出来てきたけど……この二つとも遠いよ!?」

 

 どうする……どうする……! ソフィの忠告を守る為に天ちゃんからは離れる訳にはいかない! となると誰かの手を……いや、他のみんなは移動手段がない……! 

 

 確認できるそれらしき場所は西の港か東の港だ。

 

 どうする……!?

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