9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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長らくおまたせして申し訳ありません……


未知の部屋からの脱出劇

 

「…………」

 

 意識がぼんやりと戻っていく。この時は本当に何も考えることが出来ていなかった。状況を理解するどころか脳が目覚めていなくて何も感じていない感覚だ。

 

「……ここは────痛ッ!」

 

 そして直後に後頭部からじわじわと広がるように痛む感覚。ゆっくりとプレス機で頭を押しつぶされるように奇妙な感覚だけが残っている。

 その痛みから少しでも逃れようと頭を動かして唸っていると……不意に背後から声が聞こえてきた。

 

「目が……覚めた?」

 

「その声…………希亜か?」

 

 その声で我に返り、俺の今までを思い出す。電撃のように脳内に流れ込む映像たちが徐々に蘇ってきた。

 

 そう……確か俺は唐突にきた希亜からの電話をとって……異常事態を予感して天ちゃんと2人で救出に……

 

 それで……なんでこんなことに? 

 

「よかった、何とか意識はあるみたいね」

 

 今、俺と希亜は背中合わせになるように座っており、お互いに両手を背中に回され、四本の腕を完璧に分厚いロープで拘束されている。

 

 周りを見ても冷たく、光も照らされていない牢屋のような場所。いや……これは倉庫などで使われる特大サイズのコンテナか。

 

 つまり俺達はなにかヘマをして捕まえられたって事…………いや、そうだ。希亜を助けに来たはいいものの、誰かに襲われて負けたんだ……! 誰かは分からないが……その時に天ちゃんを連れていかれて…………! 

 

「天ちゃんを助けないと!」

 

 なんで俺は忘れていたんだ! この場所に向かって来ている時に起こった出来事を……! 急いでここから脱出を……! 

 

「わかってるから落ち着きなさい。まずはこの両手のロープをどうにかすることからでしょ」

 

「あ、あぁ……」

 

 焦る気持ちを何とか押し殺しつつ、周囲を何度も視覚で確認する。しかし暗くて光もないせいで何がなにやらわからない。

 

「ちなみに、蓮太がなにか小型の携帯できる刃物を持っていることを期待しているのだけれど」

 

「……いや、無いな。強いて言うならバイクの鍵くらいだ」

 

「そう」

 

 やけにあっさりと話を切りあげる希亜。

 

 ……なんでこんなに冷静なんだ? なんでそんなに落ち着いていられるんだ……? 

 

「希亜、なんでお前はそんなに冷静なんだよ……こんな状況下で焦らないなんてよ……」

 

「私は意識が戻ってからはもう4時間ほど経ってるから」

 

「4時間……」

 

「蓮太のスマホが教えてくれてるの。偶然私と同じゲームをしていたから」

 

 なるほど。ゲームアプリのお知らせ通知から時間を推測したのか。毎日一定の時間で通知が来ているのなら……ある程度の計算はできる。

 

 4時間……4時間ねぇ……

 

「ということは現状で脱出の目処は無いってことかよ」

 

「ええ」

 

 ここまで冷静なやつが真後ろにいたらパニックになっていた心も妙に落ち着いてくる。しかし、天ちゃんの場合は俺から離れすぎると能力の暴走が始まっちまう。一刻も早くここを出て救い出したいのは事実。

 

「……とりあえず立ち上がって動いてみるか? お互いに支え合えば立って動くぐらいはできるだろ」

 

「私と蓮太じゃ身長差がある。互いの両手が繋がって拘束されているから厳しいでしょうね」

 

「そりゃまいったな」

 

 つい、だらんと両足を伸ばしてしまう。八方塞がりの状況で何も策が思いつかずにヤケになってしまっていたからだ。

 

 しかし……

 

 

 

 

 

 ドンッ……

 

 

 

 

 パリィンッ! 

 

 

 

 

 

 と何かを蹴り飛ばしていたようで、更に高いところからガラスが割れたかのような音が聞こえてきた。

 

 ということはここは倉庫? こんな電気も点いていない殺風景の部屋の中にそんなものがあるってことは物置か何かか? なんて思っていると……

 

「一つ質問なのだけれど、蓮太の能力(ちから)を使ってこのロープを切る事はできない?」

 

「……え?」

 

 考えてみればそうだ。俺の能力は鏡を出現させる能力。しかも1枚分の範囲なら形も変幻自在だ。

 

 俺達の両手も能力範囲内。なんでこいつの存在を忘れていたんだろう。

 

「……さっさとやるか」

 

 そんな自分に呆れるように、鏡の力を使ってみる。角を鋭利にして両腕のロープに向かって突き刺すと…………

 

 パラパラとロープは力なく切れ落ち、両腕の拘束が開放された。

 

「さて……」

 

 希亜と俺は互いに立ち上がり、両手を握りしめたり広げたりとしながら互いに近寄る。すぐさまスマホを取り出してライトを点け、辺りを見回してみると……

 

「……! 蓮太、あそこにスイッチが」

 

「点けてみるか」

 

 特に話し合った訳でもないのに、お互いが密着して離れないのはこの暗闇の中で離れてしまうことがどれだけ危険かを本能で理解しているのだろう。

 

 ……腕がちょっと震えているのは、やっぱり希亜も女の子だ。心の底では恐怖しているに決まってる。ここは男として俺が何とかしないとな。

 

 なんて思いながらも壁に設置されているスイッチに手を伸ばすが……いくらカチカチとスイッチを押してもその場所は照らされない。

 

「電気とは関係ないか……単純に壊れてるか、何かしらの問題が起きてるのかもな」

 

「そ、そう……ね」

 

「……ん?」

 

 気になっていたスイッチも無駄だと悟り、とりあえずこの空間をもう少し調べようとしていると……少し高いところに人が通れそうな小窓があることに気がついた。

 

 隣も暗くて何も見えなさそうだが……もしかしたら脱出の糸口が見つかるかもしれない。

 

「隣に行けそうだな……」

 

「……え?」

 

 一応先に俺が向かった方がいいだろう。本当は希亜を肩車でもしてよじ登らせた方が早そうではあるが……隣の部屋に落ちる時に怪我をするかもだし、まず隣が安全だという保証もない。

 

「……さっき何かを蹴ったよな。あれを探してみるか」

 

 それからスマホのライトを頼りに部屋中にあるテーブルや本などを上に重ねて、何とか小窓まで登る。

 

 一通り適当なライトで照らしてみるが……怪しそうなものはない。それに……

 

「希亜、隣の部屋はドアが開けられるぞ。こっちから脱出しよう」

 

 さりげなく小窓に登る為に色んなものを集めている時、元々俺たちがいた部屋の扉は鍵がかかっていて開けられなかったのだが……隣の部屋は扉が歪に歪んではいるものの、そのおかげで完全に扉が閉まることはなく、ほんの少しだけ隙間が開いていた。

 

「で、でも! 私は届かな────」

 

 

 

 

 ガチャガチャ────

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 少し不安そうに希亜が喋っていると、元々居た部屋。つまり希亜だけが取り残されている部屋の扉のドアノブあたりが音を立てて揺れ始めた。

 

「希亜ッ! 早く来い!」

 

「でも……!」

 

「跳んで俺の手を掴め! 早く!」

 

「────ッ!」

 

 ほんの少し躊躇した希亜だったが、心の中で決意を固めると、積み上げた物をタンタンっ! っととび上り、差し伸ばしていた俺の手目掛けてジャンプする。

 

 そして希亜の手を掴むとそのまま力任せに引き上げて抱きしめ、逃げるように隣の部屋へ飛び降りた。

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