9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
悪夢の始まり
「ぐっ──」
「ぁう──」
何とか希亜を抱くようにして隣の部屋に移動した俺達は、急いで体制を立て直して近くにあったロッカーの中に身を潜める。
理由は明白だ。元々俺達の居た部屋を開けるような音が聞こえてきたから、2人が逃げているのはバレてしまってるはず。だとするとこの部屋を確認する可能性は極めて高い。
だから一通りの安全が確保できるまで息を殺して身を潜める。
「…………」
「ぅぅ……」
今のところ追っ手は来ていないが……しばらくは様子見だな。
「(大丈夫か? 希亜。咄嗟に飛び降りちまったけど……怪我とかはしてないか?)」
微妙な隙間から外を眺め、警戒を解くことなく希亜に小声で声をかけて彼女の状態も確認する。
「(怪我はしてない……でも……)」
「(でも?)」
「(服が少し破れた……お気に入りだったのに……)」
やけにテンションが低いと思ったらそういう事か。あのゴスロリチックな黒服が破れちゃって萎えてた…………?
「(戻ったら直してやるよ。だから今は気にするなって)」
「(蓮太……裁縫得意なの?)」
「(これでも小学生の頃は家庭科実習の成績は5だったんだぜ? なんなら好きなコスプレ服でも作ってやるよ)」
「(期待してる)」
なんて会話をしているその時、バタバタとした大量の足音が聞こえてくる。決して一人や二人じゃない……少なくとも十人はいるだろう。
しかしその足音達はこの部屋に入ってくる気配は感じられず、そのまま雪崩が起きたかのようにどこかへ去ってしまう。
「…………」
しばらく耳を澄ませて注意深く外の音を聞いていたが……うん。今は音はしない。隙間から見える光景も安全そうだ。
そうして狭苦しかったロッカーの中から俺たち二人は出ることになったが……何かおかしかった。普通俺たちを探しているとしたらまずこの部屋を確認しないか? 小窓は開きっぱなしだし、積み上げられた物たちも放置している。
まぁ……今深く考えても仕方は無い……か。
「とりあえずは脱出ね。この場所の把握をしつつ天の救出をしなければいけないわ」
「あんまりちんたらしてられないしな」
あれから4時間。つまり目的の建物に辿り着く直前にやられてしまってから4時間も経過している。そろそろ天ちゃんの状態に異常がきてもおかしくない頃だ。
下手をすると…………
「急ごう」
早く助け出してやらないと、天ちゃんが消えちまうかもしれない。それだけは絶対に避けねば……!
「そうね」
チラッと希亜は俺の顔を確認するように見て、一瞬何かを言う素振りを見せたが……特に何も言わずに廊下の確認をし始めた。
続くように俺も確認し、安全だと判断をするとゆっくりと扉を開いた。
「とりあえずどこを目的地とするかだな。見たところかなり大きな施設みたいだけど……」
本当にこの建物は広そうだ。外観は知らないが、この部屋からでただけでも左右の道はどちらも奥へ進んでおりその途中で何度も分岐している。
「これは……?」
どちらの道へ向かうかを悩んでいると、廊下に落ちていた小型の機械を希亜が拾い上げる。そして何度か適当に操作をしていると、その機械から雑音混じりの音が聞こえてきた。
『な──何なんだコ──ツ! まるでゾン────! おい! 2階の────』
そこでその音は消えてしまう。
「これは無線機だったのか……というよりも何だ? 何が起こってるんだ?」
「わからない。でも、とても良くないことが起きているのは確かね」
ゾン……か。俺の想像しているやつなら、本当に不味いのだが…………普通ならそんなことはありえないと突っぱねることだろう。でもAFというものがある以上、どんなものが出てきてもおかしくは無い。
ラクーンみたいにならなきゃいいけどな。
「とりあえずは2階だな。何かがあることは確かだ」
「蓮太ッ!」
改めて目的地を決めて、部屋から出て左側を向いていたから、とりあえずそっちに向かおうとしていたのだが、その逆側を確認していた希亜が焦りの色を混ぜた声で俺を止める。
その先に視線を向けると…………
「ゔぁ''……」
頭部を斜めに傾け、片足を引きずりながらフラフラと近づいてくる人影が現れていた。
「おいおい……」
奇妙な声を口から出しながら、その人影はゆっくりとこちらに接近してくる。
正直怖い。意味がわからないくらいに恐怖心に負けそうになっているが……何故か俺はその姿を見たことがある気がした。
何故だろう……わからないけれど、既視感を感じる…………
「タナトス…………」
それが無意識に出た言葉だった。理由は何もわかりゃしないが、ただただ無意識にその名前が出た。
「……! 蓮太! あの身体の模様……!」
そんな時、いつの間にか俺の背後に回っていた希亜がゾンビのように迫ってくるアイツに向かって指を指す。そして改めて確認してみると、のそのそと迫ってくる人の身体に、青白く光る紋章のようなものが見えていた。
「
「自分からああなるとは考えにくいから……操られている説が濃厚だな」
こうなりゃやることは一つ。直感でコイツは危険だと感じているからな。
俺と希亜はお互いに顔を見合せて…………
「逃げるぞっ」
「逃げましょう」
謎の人物を背に向けて走り逃げた。