9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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探索する二人

《視点切りかえ》

 

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 薄暗い場所。蛍光灯の光がやけに弱々しく照らしている部屋の中で、走り続けてすっかりバテてしまっている希亜を横目に、外の様子を伺っていた。

 

 物音ひとつしやしないが、こういう時こそ油断は禁物。いつ何が起こるのかがわからないから。

 

「逃げきれた……みたいだ」

 

 何度もチラチラと外の様子を伺っているが、ひとまずは安心できるだろう。

 

「すぅ……はぁ…………」

 

 徐々に荒らげていた呼吸を整え始めた希亜は、ある程度の落ち着きを取り戻すと額から滴り落ちる汗をハンカチで拭いながら言葉を紡いだ。

 

「それにしても、あの能力は一体何だったの?」

 

 あの能力。もちろん俺たちが出くわしたあの不自然に歩く人の事だろう。

 

「知らねぇよ。むしろ俺が聞きたいくらいだ」

 

 もちろん希亜も理解はできているのだろうが……きっと納得ができていないのだろう。そりゃあそうだ。見たことも聞いたこともない能力だったし、もしも仮定通りの人を操る能力だとしたら迂闊に手を出すことすらもできない。

 

「とりあえずは俺たちの居場所だ。ここがどこなのかすらも分からねぇよ……」

 

 がむしゃらに走ってきたせいなのもあって、ここがどこの部屋なのかも分からない。ただ、小窓から外を見る限りだとそれなりの高さだ。3……いや、4階のフロアにいるのかも。

 

「それなんだけど……これ」

 

「……ん?」

 

 そんな時に希亜が差し出してきたのはやけにボロボロになっている紙きれだった。

 

「これ……この建物の詳細図?」

 

「逃げている途中で咄嗟に拾ってきた。もしかしたら役に立つかもって判断してね」

 

「やるじゃん」

 

 そうしてその紙切れを受け取り、広げてみる。

 

「俺達がいるのは……4階資料室か」

 

 やけに複雑に書いてあるマップを何とか解読し、現在地を絞る。

 

「4階、外へ脱出するには難しすぎるわね」

 

「雨戸いの配管を伝って降りれそうちゃ降りれそうだがな。まぁでも出来ることならそんな無茶はしたくは無いし……それに天ちゃんの事もある。あまり悠長な事は出来ない」

 

 改めてこの建物を見てみると、かなり異質な構造をしている。

 

 建物そのものが西側と東側に別れるように2棟建てられており、北側と南側に1本ずつやたらと長い廊下がある作りだ。

 

 そして俺たちがいる東棟には資料室や備品保管庫等の部屋こそあるが、めぼしいのはその程度で部屋らしい部屋の殆どは西側の建物内に設置されている。

 

 それに……

 

「その建物はB棟なのか」

 

 紙をよく見てみると、その建物全体がBという文字で括られている。つまりは離れた場所にもうひとつの建物があり、そこがAという区分になっていることが予想できる。

 

 どんだけ広くてデカいんだよ……

 

「…………」

 

「とにかくここを出て、階段で下に降りましょう。少し時間が経ってしまってけれど、上がってきた方向とは逆に……つまり西側の建物へと移動してから1階を目指すのはどう?」

 

 1枚の紙を見ているせいでやたらと近くにいる希亜。元々の彼女のいい香りや汗の匂いなどが混ざりあって、俺の…………

 

「聞いているの?」

 

「……っ! き、聞いてる聞いてる! とにかく隣の棟へと移るってことだろ? そうと決まればさっさと行こうぜ」

 

 一瞬何かと危ない思考が過ぎってしまっていたが、それを忘れるように振り払い、2人で扉を開けて資料室を出る。

 

 一応警戒しつつ慎重に行動しているが……特に何も起きない。いや、何も無いなら何も無い方がいいんだが。

 

 と、その途中で廊下に落ちていたある物が気になり、俺はそれを拾い上げる。

 

「…………ナイフ?」

 

 手に取ったのは刃の部分が20cm程ある刃物だった。キッチンナイフ……とでも言うべきだろうか? 何故こんなものがここに落ちているのかは分からないが、何も無いよりはと思い、それを構えてみる。

 

「ふん……っと構えてみたけど、よく考えたら俺は要らねぇよな。切れ味は悪いけど疑似刃物は能力で作れるわけだし」

 

「そんなもの持っていたってしょうがないでしょう」

 

「……でも俺の能力がなかったら俺たち今頃縛られたまんまだぞ?」

 

「…………まぁ、そうね」

 

 どこがぎこちなさそうにそう答える希亜の手に、刃先を自分の方へと向けて直接小型のナイフを手渡す。

 

「俺が持ってるよりも希亜が持ってる方がいい。もしかしたら護身用の脅しの道具にも出来るかもだし」

 

「脅しって……一体誰を脅すつもりなの」

 

「そんなの決まってんだろ。ほら、行くぞ」

 

 そんな軽口を言いながらも、俺たちは東棟の建物を出て、風が吹く中の渡り廊下の上を歩いて行った。

 

 しかしそこで異常事態が。

 

「ふん……!」

 

 渡り廊下を渡った後の扉。つまり西側の棟に入るための扉のドアノブに手をかざして捻ってみるが……ガチャガチャと重い音が響くだけでうんともすんとも言わない。

 

「クソッ」

 

 八つ当たりをするように右足で扉を強めに蹴ってみるが……まぁそんなものでは扉は開いたりはしない。

 

「鍵がかかっているとはね」

 

「おいおい……ここまできて引き返すのかよ」

 

「じゃあ鍵は持っているの?」

 

「バイクの鍵なら」

 

「……隣に小窓があるわね。割ることが出来たら中に入れないかしら?」

 

「……はいよ」

 

 少しでも重苦しい空気を紛らわすように軽い雰囲気で会話を流していると、何やら背後から違和感を感じる。

 

 一瞬その違和感を感じ取ることに遅れを取り、ほんの少し気を抜いていた時にその場を振り返ると……何かから激しく首を掴まれた。

 

「……っ!?」

 

 その何かは片手とは思えないほどに馬鹿げた力をしており、ミシミシと骨でも折るんじゃないかと疑うレベルの怪力で俺を襲う。

 

「蓮太ッ!?」

 

 それをよく見ると、さっき希亜と2人で逃げたはずのあの化け物のようなAF能力者……いや、AF被害者の姿であり、目にわかるレベルで不自然な蒼白い光を見に纏っていた。

 

「クソ……はな…………れろっ!」

 

 何とかそいつの腹辺りを右足で蹴飛ばすと、襲われてバランスの崩れていた俺とその人影は勢い余って渡り廊下からはみ出し、落下してしまう。

 

「うぅぅぅわぁぁぁ………………!!!!」

 

 そして次の瞬間、ガシャン! と体を強く何かに打ち付けて勢いが止まった俺は、状況を理解する。

 

 落ちた先は木材で作られた足場の上。少しオシャレに作られた花などが飾られてあるベランダのような場所だった。

 

「……! はぁ…………助かった…………」

 

 不幸中の幸いで命拾いした俺を覗き込むように、希亜は真上から俺の事を見下ろして必死に声をかけてくれる。

 

「蓮太! 蓮太!? 大丈夫なの!?」

 

「あぁ……! 何とか生きてるよ」

 

 そう言って重い体を無理やり起こし、改めて辺りを見渡してみる。するとそこは建物の構造そのものは変わらない景色が広がっており、似たような扉が近くに見える。

 

 どうやら俺は3階に落ちてしまったようだ。

 

 チラッと襲ってきた人影に視線を向けると、まるで魂が浄化していくかのように淡い光に身を包み、解けるように消えていった。

 

 ……あれは人じゃなくてAF能力で作られたものだったのか。

 

「希亜ッ! とりあえず西棟の4階オフィスルームで落ち合おう! さっき言ってたみたいに窓かち割って入ってくれ」

 

「わかったわ、気をつけて」

 

「そっちこそ」

 

 そう言って希亜と分担され別れると、俺は近くにあった扉を開けて西棟の中へと入り込んでいくのだった。

 

 その時。

 

 

 

 

 

 

 ドォンッ!! 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 元々俺たちがいた東棟の方から、何か重たいものでも叩きつけられるかのような轟音が一瞬響く。

 

「……いや、今は希亜と合流するのが先だ」

 

 胸の中に妙な違和感が走ったが、目先の目的のためにそんな気持ちを押し殺して俺は中を進んで行った。

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