9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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命からがらの抵抗

 

「にしても…………見れば見るほど不気味なトコだな」

 

 扉を開けて建物の中に入り、当たりを探索しつつも4階へと繋がる階段を探して歩き回る。

 

 真夜中に1人という状況が恐怖心を揺すっているのだろうか? 自分の足音以外何も聞こえないせいだろうか? 

 

 そんなことを考えれば考えるほど少しづつ前へ歩む事を辞めたくなってしまう。

 

「そんなことも言ってられないか…………って……ん?」

 

 そんな時だった。階段に向かって歩いていると、不自然に床に落ちている手帳のようなものを見つけたのだ。

 

 不思議に思った俺は、その手帳を拾い上げて適当なページをめくってみる。

 

『消失のアーティファクトを見つけた』

 

 ……なんだこれ。消失のアーティファクト? 

 

『契約者の名前は“新海 天”、ある程度の能力適性はあるようだがまだ自在に扱えていない』

 

『先の成長を考慮すると、現段階での奪還を優先すべきだろう』

 

 雑に殴り書きをされてある手帳のページをパラパラと捲り、視線を動かしてみる。その結果理解出来たのは、この手帳の持ち主は天ちゃんを狙っている事だった。

 

 それだけじゃない、あくまで欲しがっているのは天ちゃんの能力。消失のアーティファクトとやらだ。だとすると、この持ち主はアンブロシアの所持者? 

 

 …………っ! 

 

「急がなきゃ不味そうだ……!」

 

 一刻も早く希亜と合流する為に俺は走る。

 

 もしかしたら……既に天ちゃんはアーティファクトを奪われているかもしれない。何故俺はアンブロシアを所有している前提で考えていたんだ。

 

 そんなことするよりも手っ取り早く手に入れられる手段があるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せば手に入るんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ……!」

 

 勢いよくその場を駆け出し、頭の中に残っている間取り図を思い出しながら走り抜ける。

 

 ひたすら。

 

 全力で。

 

「希亜ーッ!」

 

 そうしてたどり着いた4階のオフィスルーム。綺麗に並べられた机たちとは裏腹に乱雑に散らばった書類たち。

 

 踊るように無造作に暴れたのであろう事が想像出来る散らかりっぷりだ。

 

 しかしその中にへたり込むように座る人影が2つ。

 

「おい、希亜……いるなら返事を……」

 

 元々違和感はあった。希亜は決して仲間を無視するような冷徹なやつなんかじゃない。だからこそ、俺の声が届かない時は彼女にとって混乱してしまう自体が起きていた時なんだ。

 

 簡単に予想出来た。けど…………

 

 簡単に予測できなかった。

 

「天ちゃん!?」

 

 声を荒らげて駆け寄る俺。壁に寄り添うようにして座り込んでいる天ちゃんの気を確かめるために何度も声をかける。

 

「大丈夫か!? 大丈夫だったか!?」

 

 そんな簡素な言葉しか出てこない。きっとそれほどまでに俺も動揺してたんだろう。

 

「天ちゃん! 天ちゃんっ!」

 

 その原因は……

 

「返事してくれよ! 天ちゃん……!」

 

 守るべき人の瞳から光が消えていたからだ。

 

 その身体をよく見ると、何か縄のようなもので縛られていたかのような跡まである。

 

「私が見つけた時には、既にもう……」

 

 鉛のように思い声で、希亜はそう語る。その右手にはさっき拾った小さなナイフが握られていた。

 

「ま……まさか………………しん──」

「では無いわ」

 

「……!」

 

「脈は動いてる。僅かだけど呼吸もちゃんとしてる。息はある」

 

 希亜からのその言葉を聞いて、真っ先に天ちゃんの手首を掴み、そのまま同時に呼吸の確認をする。

 

 うん……動いてる。動いてる……! 

 

「よかった……」

 

 いや、現状を見れば良いことは無いだろう。明らかな精神的なものが異常をきたしているのは明らか。明らかなのだが……

 

 生きている。

 

 その事実が俺に安堵の息を吐かせたんだ。

 

「とにかく……やるべきことは決まった」

 

 まだ全てが解決したわけじゃない。状況の整理すらままならない現状なんだ。守るべき人も見つけた。救うべき人も救った。

 

「そうね。もうこんな場所には用はないわ」

 

 まだぐったりと力なくもたれかかっている天ちゃんをおんぶの形で背負い、立ち上がる。

 

「「さっさと(後は)ここから脱出()」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろ出口が見えるか?」

 

「まだよ! この階段を降りて裏口から出るから!」

 

 西側4階オフィスルームから走ること10分弱、俺たち2人はできるだけゾンビのような気味の悪いアレに出会わないように気が付きにくい裏から出るために走っていた。

 

 東側の建物に移り、そのまま中を大きく迂回して3階……2階へ。

 

 そして1階にたどり着いたのだが……階段から出るための扉に南京錠がかけられてある。

 

「ダメ……! 鍵が……!」

 

「どけ!」

 

 ガチャガチャとドアノブを回していた希亜に一声かけると、勢いをつけてその扉を蹴りつける。

 

 激しい音こそするが、そんな簡単には開いてくれない。

 

 しかしもう一度。焦りを思いっきりぶつけるように再度力を込めて扉を蹴る。

 

 今度は先程よりも一際大きな音がして、金物が擦れるような音までも聞こえてきた。よく見るとドアノブあたりの据え付けが悪くなっていたのか、ボルトが外れかけている。

 

「さっさと…………開けッ!」

 

 なかなか開かないドアにイラつきをぶつけるように、体重を乗せて前蹴り。すると流石に頑固だった扉も、引っかかっていたものが壊れたせいで勢いよくその道を作った。

 

「無茶するわね」

 

「真似すんなよ」

 

「出来ないわよ」

 

 そんな軽口を叩きながら、少し遠くに見える非常口に向かって走り出した…………その時。

 

 

 

 

「くはっ……!!」

 

 

 

 

 ほぼ一本道の廊下の横壁から、まるで大砲の弾でもぶつけられたかのように何かが勢いよく入ってきた。

 

 そしてそれは苦しそうな声を出している。

 

「「…………ッ」」

 

 まともに状況が理解出来ない中、無意識にその足を止めると……壊れて山積みになった瓦礫の中から見覚えのあるシルエットが素早く何かに蹴りつける。

 

 よく見るとその先には2mはゆうに超えているであろう大男が……

 

 その大男は蹴りを回避することも無く無抵抗なまま受けると、何事も無かったかのように飛びかかった人影の足を掴んで乱雑に投げ捨てた。

 

 もう、その人影の正体はわかってる。

 

「レナ!!!」

 

 俺たちの方に投げられたレナは、ダメージを負いながらも華麗に受身を取り、体勢を持ち直した。

 

「よう……無事だったみたいだな、大将」

 

「お前……なんでここに──」

 

「話は後だ」

 

 パンパンとスカートの埃を払うと、レナはあの大男に向かって威圧するように視線を飛ばす。

 

 よく見るとその顔には目や口などのパーツがない。のっぺらぼうのように真っ白だ。

 

「逃げるぞ大将! コイツ……まともじゃねぇ!」

 

「逃げるったって……!」

 

 そんな俺の言葉を聞かずに、レナは顔のない大男に向かって走り出し、攻撃するような素振りを見せる。

 

 そして大男がレナに向かって丸く握った拳を振り被ろうとした瞬間。

 

反射鏡! (リフレクション)

 

 レナが能力を使って鏡を出した。

 

「行け! 大将!」

 

 その声が俺の体を突き動かす。パッと横を見るとあまりにもの恐怖ゆえか、足がすくんでしまっていた希亜の腕を引っ張り、非常口の方へと走っていく。

 

 そしてすぐさま振り返ると……

 

「ぐっ……!」

 

 パリンという高音と共に、身体を殴られたレナが俺たちの方へと再び飛ばされた。

 

 そして今度は攻撃された怯みからか、受身を取ることができずに床にゴロゴロと叩きつけられる。

 

 レナはムクリと立ち上がるが……

 

「レナ、天ちゃんを頼む」

 

「あ?」

 

 ある程度の距離が離れている今のうちに、背負っていた天ちゃんをレナに預ける。

 

「あっ……おい! 大将! どういうつもりだよ!」

 

「どうもこうもあるかよ。そもそもとしてお前はスタミナが無限だろ? MAXスピードを維持できるのならレナが天ちゃんを守った方が安全性が高いと思っただけだ」

 

「だからってテメ──」

 

「いいから走れ!!」

 

 何故だろうか。

 

 一緒に逃げるべきだとも思っていた。わざわざこうして残ることもないと思ってはいた。

 

「だから大将も──」

 

「すぐに行く!!!!」

 

 だけど……腹が立ったんだ。

 

「……クソ! 後でぶん殴ってやるからな……!」

 

 そういうレナの声が少しずつ遠ざかっている。

 

 そうかい。殴ってくれるのか。

 

「来い! 希亜!」

 

「ちょ……ちょっと!」

 

 それじゃあ気持ちよく殴ってもらうためにも絶対ミスは許されないよな。

 

「よくも俺の家族に手を出してくれたな……クソ!」

 

 たった一撃だけでいい。

 

 ほんの数秒でも足止めになる攻撃でいい。

 

 だから、全力の一撃を……!! 

 

 

 

 

 この時の俺は、暴力に対しての抵抗が少なからず無かったんだ。

 

 それは大事な家族を傷つけりた怒り。大切な友を危機においやった怒り。続く理不尽への怒り。

 

 少しずつ薄れつつあったあの記憶を……乗り越えた瞬間だった。

 

「《オーバーフロー》で……一撃を!」

 

 そうして、俺は無言で近づいてくる大男の頭を、全力で蹴りつけた。

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