9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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生きることだけを考えて

 

「…………ざけんなぁ!!」

 

 動いたのは身体だった。体感にして一瞬、ほんの数秒間の出来事……けれどそれは脳が理解しようとしない。

 

 なによりも俺の心が受け入れようとしなかった。

 

「ふふ……」

 

 全てを振り払うかのように力の限りに拳を握る。怒りの感情に身を任せ、考えることなんか放棄しての突進。

 

 ディオスは俺を見続け、不敵な笑みを浮かべている。

 

 その顔すら気に入らなかった。今の気持ちは“ただ殴りたい”これ一つ。

 

「…………せ」

 

 理由は簡単だ。

 

 俺は先程からずっと力を使っている。家族を呼び出し、力を借りたくて……能力を使用している。

 

 にも関わらず……ゴースト達はその姿を現さない。

 

「返せッ!」

 

 それはつまり……俺の力は奪われてしまったということ。今の俺は何も出来ない無力な人間。

 

「良いですよ、“返して”あげます」

 

 そしてアイツの顔面を目掛けて全力で拳を突き出すその瞬間、ほんの少しだけ違和感を感じた。

 

 俺の力は奪われてしまった事実。目の前でゴーストが消されてしまったんだ。これらを結び合わせられるのか? という疑問。

 

 そう、あくまでゴーストは消滅した。力を奪われたのであればあの瞬間にゴーストは召喚できていないのではないか? そんな考え。

 

 しかしそれはあくまで希望。脳内が勝手に作った都合の良い妄想に過ぎない。

 

 それを言うなら最初から変だったのだから。

 

 何故幻体のAFを受け取った時に彼女が存在してしまっていたのか? そもそも分裂したキッカケは? 彼女そのものが特異的な存在である以上は似たようなケースが起きたとしてもそれらに理由付けはできないだろう。

 

 だとしたならば、消滅ではなく強奪、つまりは力が使えない理由は俺の能力は奪われた事に繋がる。

 

 もちろんそれは幻体だけじゃない。

 

 つまり……

 

反射鏡(レフレクシオン)

 

 突如として現れる俺にとっては見慣れたモノ。それは俺の行く道を遮るように目の前に出現し、力の限り振りかざした右拳を受け止める。

 

 いや……正確には受け止められなかった。

 

 まるで反発し合う磁石のように“それ”は強力な衝撃を放つ。俺の拳が触れた刹那、全く同じ力が鏡合わせになるように激突する。

 

 それは正しく……俺の能力のモノ……

 

「ぐわっ!?」

 

 力強く激突しあった拳は小型の爆弾でも爆発したかのように放射型にその衝撃を拡散させ、俺の体を弾き飛ばす。

 

 地面に体を強く打ち付け、何度か転がされた俺は睨みつけるようにディオスを見上げる。

 

「クソ……!」

 

 そんな俺を見たアイツは、俺たちを遮断していた雷の壁に手をかざす。するとその壁は瞬く間に消滅し、2人に別れていたディオスの体は融合でもするかのように元のひとつの身体に戻る。

 

 改めて見えた壁の向こう側は苦そうな表情を浮かべている仲間たちが立っていた。

 

 その中でも特に新海は、俺の姿を見るや否や悔しそうに歯を食いしばる様子を見せる。

 

「蓮太っ!」

 

 そしてすぐさまこちらに駆けつけてくるみんな。

 

「…………」

 

 いの一番に希亜が俺の名を呼び、上半身を抱えあげるようにしてその場にしゃがみこむ。

 

「立てる?」

 

「…………」

 

「ゴーストは? あの子はどうしたの!?」

 

「盗られた……」

 

 そして遅れて到着した九條さん達が俺の言葉に妙に納得したかのようにディオスの方を警戒した。

 

「やっぱり……奪われちゃったんだね」

 

「さっき、結城の能力が跳ね返されたんだ。だからもしやと思ってはいたんだけど……当たって欲しくなかったよ」

 

「私の技もな」

 

 終わった。もうどうしようも無い。

 

 元々の攻撃力は相手の方が遥かに上だった。にも関わらず最強の防御ともいえる反射の力を手にされてしまった。

 

 先頭の要である2人のゴーストも消えてしまった。いや……むしろ相手に使われる可能性もある。

 

 オマケに俺と天ちゃん、そして新海は戦える状態じゃない。

 

 前線に立てるユーザーは女の子3人。

 

 いくら素の戦闘力が高いとはいえ、高峰じゃあアイツには勝てないだろう。

 

 もう……終わった。

 

「逃げましょう」

 

 沈黙を破ったのは希亜だった。

 

「この場は不利すぎる。一旦各自で逃げ延びてからもう一度集合しましょう」

 

「結城さん!? 逃げるって────」

 

 九條さんがそう言いかけた時、青白い閃光が空を駆けて襲ってくる。

 

「きゃっ!?」

 

 咄嗟の反応でみんなが運良くその攻撃を躱すことができたが、その一撃で終わらず次々に稲光が広範囲に襲いかかる。

 

 圧倒的な力の差、自分の未熟さ、弱さ。その全てがズシズシと重い岩のように背中にのしかかるようだ。

 

 その拍子に希亜の腕から離れた俺は、力なく地面に再び体を打ち付けられる。

 

 そしてその時に何かがコツンと俺の手に当たった。

 

「…………!」

 

「全員逃げなさい! 戦うことではなく生きることだけを考えてッ!」

 

 希亜の叫ぶ声。なかなか聞くことの無い彼女の叫び声はしかと皆の耳に届いたようで、それぞれが決意を固めるように散り散りとなった。

 

 九條さんは高峰と、新海は春風と、そして希亜は天ちゃんと共に必死に敵の雷から身を守るように隠れている。

 

 みんなが動けないのはアイツの攻撃が止まらないから。

 

 だったら……

 

 だったら…………! 

 

 折れかけていた心を引き締め、偶然落ちてあった物を強く握りしめる。

 

 そうだ。

 

 この場所はゴーストが消されてしまった場所だ。だからこれは彼女が持っていたものなのだろう。

 

 この()()()()()は何かわからないが、こっちの()()()()()()は分かる。

 

 これは……アンブロシアの霊薬だ。

 

 コイツを刺すことが出来れば、コイツをぶち込むことが出来れば……!! 

 

 

 

 

 運命が変わるかもしれない。

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