9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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オーバー

 

 問題は……どうやってこの霊薬をアイツにぶち込むかだ。

 

 俺はもう能力を奪われてしまって幻体の力も鏡の力も無い。

 

 そんな俺が幾つもの力を持ち、絶対的な強さを持つディオスに勝てるのか? 戦う権利すらないのでは無いのか? 繰り返されるはそんな疑問。

 

 無鉄砲に挑んでも結果は見える。

 

「先輩!」

 

 聞こえてきたのは天ちゃんの声。不安と焦りと恐怖の混じった音だった。しかしそれは不思議に感じるほど力強く、徐々に大きくなっていく。

 

 敵の姿なんて見ずに……ただ真っ直ぐに彼女が走ってくる。

 

「馬鹿……! 早く逃げろよ!!」

 

「逃げない!」

 

 そしてディオスの奴は俺たちを……いや、天ちゃんで遊ぶかのようにまるで当たりそうもない雷の圧を放つ。

 

 ギリギリで当たらないところを狙う電撃、わざとだ。

 

 わざと当てないで恐怖心を煽っていんるだ。

 

「逃げる時はみんな一緒がいい……!」

 

 結局たどり着いてしまった。天ちゃんは横になっている俺を起こすように手を差し出し、肩に預けるように持ち上げる。

 

「無茶だ……置いてけ」

 

「嫌だッ!」

 

 顔を見ずとも分かる、彼女はきっと泣いている。

 

 その声色で、その行動で、その心で伝わってきた。

 

「負ける訳にはいかないんだよ……逃げるわけにはいかないんだよ」

 

 あの時誓ったはずだ。必ず守り抜くって心に決めたはずだ。

 

「今逃げたとしても、奴は必ずまた襲ってくる。それこそ最も油断をしている時を付け狙ってくる」

 

 俺は右手に握りしめたアンブロシアの針を出す。

 

「ここでケリをつけなきゃいけないんだ……!」

 

「先輩……それって……」

 

「アンブロシア。俺たちの運命を変える希望……正真正銘最後の切り札」

 

「どれだけ効くかは分からない。全てが強制解除されるのかもわからない。ただ、ソフィは言ってた……これは俺たちの世界の人間にならリスクもあるって」

 

「きっと苦しいはずだ。動けないはずなんだ」

 

 仮に効果そのものが遅れてやってきたとしても、一瞬でもいい……怯んでくれさえすればみんなは助かる……! 

 

 そして遅れてやってくる! アーティファクトの強制解除の効果が! 

 

「だから……霊薬をアイツに────」

 

「させると思っていますか?」

 

 そうして現れる顔のない大男。ディオスが作り出した朧な存在。

 

 ソイツが天ちゃんに手を振りかざそうとする。

 

「天ちゃんッ!」

 

 急いで俺を支えてくれていた彼女を突き放しで距離を置く…………天ちゃんは雑に飛ばされたせいで地面にころげてしまったが、振りかざされた手は彼女に当たることなく素通り、そのまま俺の体を鷲掴みにして持ち上げた。

 

「かはっ……!?」

 

 メキメキと軋む体。その痛みに耐えながらもしっかりとあの霊薬だけは守り通していた。

 

 そして俺は投げ飛ばされる。いとも容易く、ボールでも投げるかのように。

 

 しかし俺その体はなにかに打ち付けられるような強い衝撃には襲われず、代わりにディオスの背後から現れた触手によって拘束された。

 

 もちろんこの触手のタネもわかっている。

 

 存在しない物体を作り出す能力だ。

 

「対抗する手段があることを知っていて、みすみす逃しませんよ」

 

 そう呟くと、ディオスは再び俺の顔面を抑えるかのように、自身の手のひらを当てる。

 

「貴方以外はどうとでもなりますからね。さぁ……何を消しましょうか? 記憶? 存在? それとも……繋がり?」

 

「契約だ……!」

 

 僅かにあった触手拘束の隙間から腕を出し、霊薬の針を奴に向ける。

 

 そしてそのまま奴に刺そうと振りかざすが……

 

「させるわけないでしょう」

 

 難なくその腕を止められる。

 

「まぁいいでしょう。とりあえず消しておきましょうかね、存在を………………ん?」

 

 最後の攻撃を止められ、ディオスが手のひらを輝かせたその瞬間、何故か奴の動きがピタリと止まる。

 

「まだ……異能の力を隠していたのですね。貴方」

 

 力? 隠す? 

 

 いや、俺は確かに奪われたはずだ。幻体も鏡も……確かに奪われたはず……

 

 いや……! そうか……! もしかしたらアレのことか……!! 

 

「その力も頂きますよ、ミスター竹内……………………!?」

 

 不敵に笑うディオス。しかしその表情は一気に崩れることとなる。その理由は俺が力を使ったからだ。

 

「ぐぁっ……!?」

 

 俺にだけ残された唯一の力。

 

 奇跡とも言われた力。

 

()()なんだよ、お前……数多のアーティファクトの力を奪い続けてきたお前は今まで感じたことがなかったんだろう。その意味を」

 

「俺たち人間がアーティファクトの力を手にすること……そのリスク……お前は持つべき者だったのかもしれない。多分……俺も。でも普通じゃないんだよソレ」

 

「俺の経験がそう言ってる。アーティファクトの複数所持は体への大きな負担となるって……」

 

「奪えるもんなら奪ってみろよ……俺の奇跡の力(オーバーフロー)を!」

 

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