9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「ぐぅわっ!!」
奪い取る能力を俺に使ったディオスは苦しそうな声を上げて叫ぶ。
「くっ…………!」
何故気が付かなかったのだろう。アーティファクトを使用した時の反動は決して弱くは無い。個人差があるとはいえその疲労はとてつもないものだ。
動けなくなる時もあったし、長距離マラソンを終えた直後のように息が上がる時すらもある。
それほどまでに強力な力、本来は1つ所有するだけでも大変なんだ。それを俺は……いや、
とっくに体は限界に近づいていたはず。だったら……この力でアーティファクトの力を増大させてやればいい。
俺の核に触れているディオスになら、それが出来るはずだ。
「はぁっ!!」
そして力を振り絞り、後先を考えずに能力を発動する。
すると徐々にディオスの体からは淡く光る試験管のような容器が次々に溢れ出てきた。
やった。増大させた力に耐えきられなくなったアイツの能力が奪った力を持て余したんだ。
アクセサリーの形になっていない。つまりアレらの能力は誰とも契約していないことになる。
けれどそれは俺の能力も完全に離れてしまったことになっていて…………
いや、アイツを弱体化することが出来たんだ。逆に言えば今は戦闘力に差は無い。
「くはっ!」
ディオスは咄嗟に俺の体を投げ飛ばし、俺は地面を転がるように節々を叩きつけられる。
「竹内……竹内…………!! 竹内ぃっ!!!!!」
そして怒りを顕にしたディオスは限界まで目を見開いて俺を殴る。
「ぐふっ……!」
「ごほっ……!」
何度も。
「がはっ……!」
何度も。
「ごはっ……!」
「死ねっ!!!!」
と喉を強く締め付けられたその時、天ちゃんがあいつに向かって全力で体当たりをした。
「えいっ!!!!」
完全な不意打ちをキメられて体制を崩したディオス、その隙を逃さずに天ちゃんは俺の肩を担いでその場から逃げ去ろうとする。
どこまでも、仲間思いな子だ。
その去り際に背後を確認すると、ソフィが俺たちとの戦いに巻き込まれないところで大量のアーティファクトを回収していた。
そして…………あからさまにディオスに気が付かれるように挑発をしていた。
…………
……
……
決戦の場から少し離れた道。暗くなっている世界を街灯が照らす道を俺たちはゆっくりと歩いていた。
と言ってももう俺は……
「クソっ!」
ペちっと新海の拳がブロックで作られた壁に強く当たる。
またしても終わらせることの出来なかったこの結末に納得出来ていないのだろう。
新海だけじゃない、各々が悔しそうに俯き、抑えるようにしている。
でも、大丈夫。次こそは終わらせられる。
俺はそう信じてる。
「……!? 先輩!?」
倒れた俺の体を天ちゃんが支えてくれる。
そして皆も驚くようにして集まってくれた。
「ごめんな……終わらせられなくて」
「何言ってんの!? これからでしょ!?」
泣き崩れそうな感情を殺す天ちゃん。よく見ると天ちゃんだけじゃない。心配するような顔、驚く顔、覚悟をする顔、色んな顔が見えた。
けれど誰もその口を開かない。
それは覚悟からなのか、それとも…………
「俺の……ぶんまで……」
「やめて! そんな言い方しないでよ!!」
ぼろぼろと涙を流す天ちゃん。
「天が…………生きる……」
「あたしだけじゃない! みんな揃って生きるの!! 竹……蓮太先輩も!!」
わかってる。
きっと天ちゃんもわかってる。散々傷つけられて限界を迎えた身体。そしてオーバーフローによってそれを破壊した結果……
もう。
……!
そんな時、俺のポケットに何かが入っているのに気がついた。
無くなりそうな意識でそれを触ってみると、試験管のように長い筒状の何か。
これは…………
ソフィの奴か……ちょうど良かった。
俺はそれを取り出して、震える手で天ちゃんに渡す。
「……………………やる」
「え…………これって…………」
「天ちゃん…………最後……だから……」
「先輩……! 先輩……!」
「好き……だよ」
《視点切りかえ》
「先輩……! 先輩…………」
先輩のまだ温かさのある体を支えて何度も呼びかける。好きと言ってくれた喜びよりも、この声に答えてくれない事が悲しいから。
聞こえていないだけ。
疲れてしまっているだけ。
寝ているだけ。
考えうるありとあらゆる言い訳を頭の中で巡らせて、それが虚にならないようにと願い……語る。
「せん…………ぱい……!」
やがてその体が重くなってきた時、逃げていた事実があたしの心を覆うように取り囲む。
…………重い。
「戦いはまだ終わっていない」
聞こえてきたのは結城先輩の声だった。
少し震えた……何かに怯えているような声で、結城先輩は言葉を紡ぐ。
「生き長らえた私たちは、想いを繋がなくちゃいけない」
「そんなのもう全部無いよッ!!」
咄嗟に言葉が出てきてしまった。
「なんで……なんで…………」
「なんでこんなことになっちゃったの……!」
ああ……何も見えない……
「なんでこんな目に先輩が遭わなきゃいけないの……!」
潰されちゃう……
「なんで先輩が…………」
もう……こんな世界なんてどうでも……………………
「「泣くな」」
重なったように聞こえた声。
振り返ると底にはお兄ちゃんがいた。
「「絶望するな」」
この口から聞こえてくる聞こえないはずの声。
「「そんなのは今することじゃない」」
「お兄ちゃん……」
「きっとこう言うと思ってさ」
そうしてお兄ちゃんはあたしの両手を合わせるように優しく包む。
「天、この手に握ってる物は……アイツの想い」
「想い……」
「そう、想いであって、願いであって、心。俺はそう思ってる。お前は心を託されたんだ。最後の最後までお前を信じて、初めて託した」
「その気持ちがわからないお前じゃないはずだ」
「結城の言っていた通り、まだ戦いは終わっちゃいない。逃げたい気持ちも……わからなく無い。でも俺は、もう一度行こうと思う。
お兄ちゃんは立ち上がった。
覚悟の決めた目で来た道を振り返り、ゆっくりとその足を進めていく。
一歩、二歩と……
蓮太先輩が最後……に与えてくれた好機。
この手の中にある託された心。
先輩はどうして欲しかったのだろう。
先輩はどうしてこれをあたしに託してくれたのだろう。
その答えは……
きっと…………
そうしてあたしは、