9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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瞬間、心、重ねて

 

 ドクン……

 

 ドクン……

 

 心臓がいつもよりも激しく暴れているのがわかるほど、強く重たく胸の内を叩いてる。

 全身に血液が駆け回り、その鼓動一つ一つをハッキリと捉えられてしまう。

 この感覚は、あたしにも覚えがある。例えば……授業の体育で思いっきりはしゃいだ後。あとは、寝ているお兄ちゃんの顔に落書きしてバレた時とか、怖い映画を見た時とか。

 

 そんな感覚に近い気がした。

 

 でも、きっとこれはそんな笑えるようなことではなくて。きっとこれはあたしの体が泣いていて。そして怒っていて。

 

 自分のしてしまった事に少し迷いもあった。だって、普段は聞こえない心臓の鼓動が止まらない。

 

 自分でも何度も、何度も確認する。

 

 体が。心が。それを受け入れているのに。

 

「あたしが! 全部終わらせるんだっ!!」

 

 あたしの大切な人。いや、みんなにとっても大切な人を殺…………っ! 

 殺してしまったアイツを前に、あたしは立ちはだかる。

 

 きっといつもなら、感情のままにあたしは怒って。思うままに叫んで。そんな事をしていただろう。

 

 本当は今でもそれをしてしまいたい。叫びたい。怒鳴りたい。でも違う、今するべきはそうじゃないんだ。

 

 先輩が託してくれたもの。これで全部を…………! 

 

「天……」

 

 お兄ちゃんの声が聞こえてくる。それはとても不安そうで、悲しそうで……

 まるでその先の言葉を我慢しているようだった。

 

「えいっ!」

 

 ディオス。憎き敵のその姿を捉えると、あたしは右の手のひらをアイツに向かって向けて立つ。

 

 そして手のひらから浮かんでくる紋章(スティグマ)。それはハッキリと形を保っており、あたしの体だけに留まらずにその粒子を周囲に散りばめていた。

 

 この紋章(スティグマ)から、光の糸が放射されているように。

 

「成程。あの子はこっちの方が向いていたのね」

 

「ソフィ……! 一体どういうことだよ!?」

 

「簡単な話よ。あのレンタの力は、ソラの方が適正だったってだけ」

 

「反射の……力が……」

 

「まあ、力そのものを耐えられいても……体の方はそうじゃないみたいだけれど」

 

 体が重い……! そして熱い……! 

 

 少しでも気を抜いてしまえば、意識を失ってしまいそうになる。ダメだ、それじゃあダメなんだ。

 

 あたしは見つけなきゃいけないんだ。ただやっつけるだけじゃない。ただ復讐するだけじゃない。わざわざ戻ってきた理由、わざわざこうして目の前に現れた理由。

 

 答えが知りたかった。

 

 何故、能力を集めているのか。何故あたし達を狙うのか。

 

 その答えを。

 

「見せて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 ……

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 この能力の使い方はすぐに理解できた。アーティファクトは選ばれたその瞬間に使い方も脳に叩き込まれるから……

 

 まぁ何故か元々のあたしのアーティファクトよりも鮮明にわかっちゃったんだけど、今はそうじゃない。そんなことを気にしているわけじゃない。

 

 鏡の力。受けたモノを反射する力。

 

 それだけじゃない。この力は目の前の真実を写す力でもある。例えば悪い人がついた嘘、それを反射するとその人の心が見えてしまう。

 

 簡単な話、心の奥底の本音が見えてしまう。

 

 人は何か嘘をついて生きている生き物だから……? 理由はよくわからないけど、本当の姿を見ることが出来るんだ。

 

 嘘も、夢も、幻も。全てを透け通して、真実を見せてくれる。

 

 だからこそ、あたしは見ることが出来た。ディオスの心にある核を。その真実を……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「からっぽ……」

 

 アイツの心は何も無かった。感情が無いわけじゃない。意識が無いとか……そんなハッキリと口にできるものじゃなかったけど……

 

 心その物がなかった。

 

 真実を見せてくれるこの力でわかったこと。心がない。そんなわけない。

 

 みんな誰だって、生きてるだけで感情はある。はず。人に限った話じゃなくて……犬とか猫とかも。きっと。

 

 でも何も感じられない理由。それはきっと…………

 

「なんなの……一体……!」

 

 たった一つ。

 

「なんで生きてんのっ!?」

 

 そんな言葉しか出てこなかった。

 

 だって、だって……本当の心がないってことは、そこに()()()()()ってことだから。

 

 訳が分からない。だったらあたしは……あたし達は……! 

 

 蓮太先輩は何のために戦っていたの!? 

 

「答えてよ! お前は一体……!」

 

 その時、あたしの右手の光がより一層強く輝き始める。

 

 もうその瞬間から、あたしがコントロール出来るような状態じゃなくて。ただただ能力が暴発していた。

 

 でも決してあたしの心を蝕もうとはしていなくて。むしろ……先輩に守られているように感じた。

 

 そしてあたしの中に詰め込まれていく真実の形。

 

 それを理解する頃には、あの眩い光は既に収まっていて……あの惨状は嘘のように消えてしまっていた。

 

 夢オチ? いや、そんなことは絶対にない。だってそれは、この反射の力が証明しているから。

 

 先輩から離れてしまったこの能力が。

 

 でも、そんなことよりも分かったことが1つある。

 

 ニセモノだったんだ。アイツも、そして…………()()も……! 

 

「消えた……? 一体どうなっているの?」

 

 結城先輩が珍しく戸惑いながらポツリと呟く。

 

「天! 大丈夫か? 天!」

 

 次に聞こえてきたのはお兄ちゃんの言葉。

 

 伝えなきゃ。あたしが感じてしまった事。

 

「うん……あたしは大丈夫。でも、でも聞いて? 確かめたい事があるの、お兄ちゃん」

 

「確かめたいことって……今はそんなこと言ってる場合じゃ……」

 

「今じゃなきゃダメなの!」

 

 つい言葉を荒げてしまう。きっとあたしもまだ動揺していて、心が落ち着いていないからだと思うけど……

 

「幽凛高校って知ってる!?」

 

「幽凛高校……? 知らないけど、それがどうしたんだよ」

 

「じゃあ石炎病は!?」

 

「いや……知らない。だからそれがなんなんだよ!」

 

 お兄ちゃんだけじゃなく、他のみんなも首を横に振る。

 

 この結果はほんの少しだけ予想できた。出来てしまった。

 

 だって多分……きっと……

 

 

 

 

 そんなのは存在しないモノだろうから。

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