9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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オレノキオク 断片

 

 自分の作り出した鏡をぶち割る。粉々になった欠片を散りばめさせ、申し訳程度のびっくりギミックを発動させた後、全力で右拳を構えて力を込める。

 

 相手からしたら、いきなり空間でも破れたかのように感じた事だろう。それが俺の技「透視鏡(クレヤボヤンス)」。鏡を自分と任意の対象の間に出して微妙に角度を変える事で別の景色を写し、自分の姿を眩ます技。

 

 つまりはただ状況に合わせてそれっぽい景色と同化しただけ。

 

 たが、ただそれだけでも人間を一瞬撹乱させるのは容易い。一度焦りを覚えてしまうと、冷静さを取り戻すのに必ず数秒はかかる。だからこその隙、だからこその好機。

 

 そしてこの一度のチャンスを無駄にはしまいと、目の前の女に殴りかかろうとするが…………

 

 

 

 突如として懐かしい過去を思い出す。

 

 それは優しかった兄との思い出。何も考えずに遊んでいた頃の記憶。

 

 昔からトゲトゲしかった俺は、俗に言う皆からの嫌われ者だった。オマケにありえないほど性格がひねくれてるから、本当に親しくしてくれる人はかなり少なかった。

 

 それらは勿論、子供ながらに自分が悪いのだと理解はしていて……。でも、やっぱりそれが俺の生きる道で、俺自身を証明する事だった。

 

 売られた喧嘩は全て買い、自分の正しいと信じた正義を掲げる。皆からの信頼の厚かった兄から教わった正義を、俺なりに受け継いだつもりだったんだ。

 

 だが、俺と兄の決定的な違いがある。それが、暴力についての価値観だ。世の中には殴らないと分からない奴もいる。実際、今までに数々の問題を暴力が解決したこともあるだろう。もちろんその逆。暴力が原因で起きた問題もあったろうが……

 

 それでも、兄は決して人を殴らなかった。暴力を嫌い、相手に心を説く事で解決を図り、誰も傷つけたりしなかった。

 

 

『いいか? 拳ってのは簡単に振るっていいものじゃない。それは俺たち二人にとっては最終手段。いうなら秘密兵器だ。そして、その秘密兵器は自分にとって一番大切なものを守る時にだけ使っていいんだぞ』

 

 遠い昔の記憶、今ではすっかり忘れてしまっていたあの時。俺は売られ続ける喧嘩を買い続け、その度に相手を殴ってきた。

 

 俺に喧嘩の意思はないのだが、噂が噂を呼び、すっかり俺は一匹狼のような……いわば不良に近い曖昧な何かになっていた。だからか、あの時は本当に色んなやつから喧嘩を売られたもんだ。

 

「んなもん知らねぇよ! 昨日のアイツだってそうだ! 明らかに喧嘩を売ってきたのは向こうからじゃねぇか!」

 

『そうかそうか、そうだったな。でも……意味もなく人を殴って一番傷つくのは、蓮太自身なんだぞ?』

 

「俺のどこに傷があるんだよ……。つかさ、それじゃあ兄貴は大切なものってのがないのか? 兄貴が人を殴ってるとこなんて見たことねぇし」

 

 そんな他愛もない会話のシーン。

 

 俺だって殴りたくて殴ってたわけじゃない。殴らなきゃ自分を守れなかったから殴ったんだ。だから……俺の大切なものってのは、自分自身。

 

『俺の大切なもの……か、今の蓮太に言ってもわかんないだろうなぁ』

 

 そう言って俺の頭をクシャクシャに雑に撫でてきたのを覚えてる。ぎこちなくて、不器用で、でも……妙に温かい……

 

『そうだな。きっといつか蓮太にもできるさ、なんたってお前は…………誰よりも優しいから。だから………………これからは意味もなく人を殴っちゃダメだぞ』

 

 

 

 

 

「──ッ!?」

 

 目の前の女を殴るその瞬間、突如として思い出した兄の言葉のせいで一瞬反応が遅れてしまう。

 

 完全な不意打ち、勝てると思ったその瞬間。思い出が邪魔をした。

 

 そして振りかぶった拳が女の顔に当たると思った寸前で……俺は拳をピタリと止めていた。

 

 何故かはわからない。止めたら俺は殺されるかもしれない。それでも俺は人を殴る事をしなかった。心がそれを止めていた。

 

「なんだよ、オレの事を殴んねぇの? なんだ……結局人を殴る事を知らねぇ甘ちゃんかよ。しょうもねぇ……」

 

「馬鹿野郎が……テメェなんか殴る価値もねぇだけだ……! とっとと失せろ」

 

「………………目は本物だな。人を殺した事のある目だ」

 

黙れ…………! 

 

「ハハッ! お前マジでヤベェな! わかったわかった、ここは大人しく引いとくよ。………………また力の練習相手になってくれよ? お兄さん」

 

 そう言い残し、女は再びフードを被って、夜の街の中にゆっくりと消えていった。

 

 俺はその後ろ姿を眺めて、改めて思う。結局……俺は変わることの出来ない人間なのか? と。

 

 思い出したくもないあの時から数年。………………もう数年か。

 

 だから人と関わるのは嫌いなんだ。

 

 そんな嫌悪感を深く感じながら、その場に崩れるように倒れてしまう。自分の腕を見てみると、切り傷のようなものが大量に残っていた。きっと鏡を割った時の反動だろう。

 

 敵の攻撃を反射する。だったら俺の攻撃も反射されてもおかしくない。あの時に鏡を割るために使った片腕は、大量の血を流して傷だらけになっていた。

 

「人を殴らなくても傷だらけになるじゃねぇかよ……」

 

 ……やっぱり殴っとけばよかった。アイツ、また俺のアーティファクトを狙う気でいたよな。

 

 あんな感じで下手くそな使い方でも、これだけの危機だったんだ。扱い方に慣れられたら……次は負けるかもな。

 

 あークソ……ちょっと休憩でもして休もう。

 

 

 

 

 ……なんであの時、殴らなかったんだろ。まぁ……殴ったところでそこから先のことを考えると意味なさそうだったけど。

 

 あ、いや、アーティファクトを人から奪う方法をアイツは知ってるってことだから、その方法を聞き出したかったんだ。

 

 ……あれ、そう言えば眼鏡どこいったんだろ。いつの間にかなくなってる。あーあ、また買い直さなくちゃなぁ。

 

「甘ちゃん…………ねぇ………………」

 

 アイツが言っていた言葉を思い出しながら、夜空を見上げていると、遠くの方から誰かが歩いてこちらに来ている気配がする。

 

「……ん?」

 

 その顔までは見えないが、暗い公園の中を一人で歩いてきたその人は……

 

9人目のユーザー(主人公)の友人は?

  • みゃーこ先輩 (九條 都)
  • 皆の妹、天ちゃん (新海 天)
  • デスカレー先輩 (香坂 春風)
  • パフェクイーン (結城 希亜)
  • にぃやん (新海 翔)
  • 司令官 (高峰 蓮夜)
  • 勿論、僕だよね? (深沢 与一)
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