9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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力の暴走《炎》

 

「九條さん……と新海……君?」

 

 大慌ての様子でやってきた二人は、眼前に広がる火の海を目の当たりにして、その状況の異端さを認識する。

 

 片や消化器を手にしていながらも、一瞬とはいえ意識を奪われつつある。そして九條さんの方も、受身をとったとはいえ、床に身体を倒してしまっている俺を心配するように両手で支え、校内を襲う火炎に危機感を感じているようだった。

 

「なん……だよ……! これ……、って馬鹿か俺は!」

 

 自分自身に喝を入れ、ほんの一瞬のロスを取り戻すかのように、新海は手に持っていた消化器を使って、炎の消化を試みる。

 

「痛っ……」

 

「大丈夫!? 無理はしないで……!」

 

 心配してくれている九條さんに支えてもらいながらも立ち上がり、新海の消火活動を横目に自分の腕を確認する。

 

 ……制服が燃えたり破れたりもしてない……? 

 

 異能力で発生した炎だからなにか特殊なのか? いや、今は別にそれでいい。とにかくまずは……

 

「九條さん、奥にいる男子生徒見えるか?」

 

 俺が燃え盛る火の奥を指さすと、九條さんはその先を見てハッキリと返事をしてくれた。

 

「うん、見えるっ」

 

「アイツ……多分ユーザーだ。どういうつもりかは知らないけど、間違いなくこの炎を放出させた能力者だ。九條さんが来てくれたのはちょうど良かったかも」

 

「でも、アーティファクトに通用するかは…………、ううん、やってみないとわからないよね」

 

「そーゆー事。でも問題は……」

 

 九條さんがどうやってあのユーザーに対して能力を発揮できる距離、約十メートル以内に侵入するか……だな。

 

 バカ正直に突っ込んでも俺のように……

 

「嘘だろ……!? 消えない……!」

 

 どうやら手にしていた消化器が空になってしまったようだ。そりゃそうだ。全力で放出すれば、たった一つだけでは二十秒も持てばいい方だろう。

 

 そんな現実を表すかのように、未だに炎は何事も無かったかのように燃え続けている。

 

「まだだ……! 一本でダメなら何度でも──」

 

「無駄だと思う。別の方法で消さないと」

 

「別の方法って!!」

 

 ……何が理由で腹立ってるのかは知らないが、彼は冷静さを欠いてしまっている。

 

「イラついてる場合かよ……。新海君、お前《ユーザー》か?」

 

「はぁ!? こんな時に何を──」

 

「いや、いい。それならこの火から離れてろ。後で九條さんにでも事情を聞いたらいい」

 

 やっぱり新海は能力者じゃない。つまりは……どうにか出来るとしたらやっぱりあの能力だけ……か。

 

「ちょ、一体何が……! ……っ! 天っ! 無事か!?」

 

 さて……どうでるか……。

 

 つっても時間が無い状況でやる事と言えば一つか……! 覚悟を決めろ俺! 

 

「アーティファクトの形は不明、あの身体のどこに隠してるのかも不明。オマケに本人は発狂状態ときたもんだ。九條さん、そんな中この火の海に入る無謀さはあるか?」

 

「……。あるよ。私の能力でこの火を消せるのなら……私は……」

 

「決まりだな!」

 

 熱苦しくなってきたのを理由に着ていた制服のブレザーを後ろに投げ捨て、自分の能力を出現させる。

 

 そして出現した鏡を扇のように横に振り、炎が揺らいだりしないかを確認するが……発生する風が少ない事もあり、さほど意味の無い行動だった事がすぐに確認できた。

 

「やっぱり強行突破しかねぇよな……」

 

「バラけないで一つに固まって一気に入った方がいいよね」

 

「あぁ」

 

 ここは九條さんの言った通りの方法で行くか。

 

 固まりになるのなら……と思い、九條さんの前にあえて並び縦に二人並ぶ陣形を作る。

 

「さっきから話してたけど、この火を消す方法があるんだろ!?」

 

「うん。あの奥にいる人、あの人が持ってるアーティファクトを私が回収出来れば」

 

「アーティファクト……!?」

 

「要するにあのシルバーアクセみたいなやつだ! 見せた事あったろッ!」

 

「あれか……! よし、それを見つけれればいいんだな!」

 

 きっと俺たちの会話を聞いていたんだろう。まず「見つける」事が必要な事すら理解できていたようだった。

 

 それに解決条件である、アーティファクトの回収の話を聞くと、有無を言わさず新海は自分の着ていたブレザーで何度も何度も火を仰ぎ、無理やり道を作りながら火中に突っ走って行った。

 

「馬鹿……! お前危ねぇぞ!?」

 

「口論は無しにしようぜ……!」

 

 無謀に、けれど勇敢にこの火炎に立ち向かうその姿は褒めてやりたいが……相手はとち狂ったユーザー、何してくるかはわからないし、何が起こるかも分からない。

 

「くそ……! 行くしかねぇ! 九條さんはしっかり俺の後ろに付いてこいよ!」

 

「え、えぇ!」

 

 九條さんの盾になりながら、果敢に突っ込んで行った新海に続くように俺たち二人も火の中に入っていく。

 

 自分たちが火だるまにならないように、できるだけ火の少なく、弱い所を掻き分けるように進み、俺の能力範囲内の半径約2メートルの距離を新海と保ちつつ奥にいる人に向かって走る。

 

 その途中で、わざとらしく身体の四肢を振り回し訳の分からない挙動をしている男から先程のように火炎の玉が数発乱射されるが……

 

「危ない! 新海くんっ!」

 

「うわっ!?」

 

 運悪くそのうちの一発が新海目掛けて飛んでいく。しかし……

 

反射鏡(リフレクション)ッ!」

 

 怯んで立ち止まった新海と火球の間に鏡を出現させて、あらぬ方向へとそれを飛ばす。

 

「な、なんなんだよお前ら……」

 

「説明は後って言ったろ」

 

「凄い……あんなに大きな火の玉を……」

 

「行くぞ」

 

 俺にとっては二度目の突撃、一度目と同じく無謀に近い形の突撃だったが、何故か今度は簡単にユーザーの近くまで近づくことができた。

 

 しかし依然としてこの男は苦しそうに悶えている。

 

 本来ならこの辺で能力が使えたら丁度いいんだが……この距離は明らかに十メートルなんて距離じゃない。

 

「だめ……まだ近づかないと……」

 

「はあ!? これ以上はかなり近いぞ!?」

 

「わかってる。でも、試してみたら十メートルが限界だったから」

 

「わけわかんねぇ……! 後で説明してもらうからな!」

 

 ……だろうな。俺だって知らなかったら頭のおかしい厨二病がいるのかと勘違いしてしまうだろうし。

 

「うぉおおおおああああああっ! 俺のぉっ! 力があああああぁぁっ!」

 

 ……少し先で発狂してるこんな感じで。

 

 なんて小馬鹿にしていると、その声に反応するように天井の一部から火柱が立ち上がる。そして次々と周りの炎も更に勢いを強め始めた。

 

 もう揺れ上がる炎で、1ーDと書かれているはずのプレートが見えない程だ。

 

 まさに地獄絵図だな。

 

「力がぁぁぁぁっ! 勝手にぃぃぃぃぃぁぁぁっ!」

 

 ……!? 勝手に!? 本人の意思で制御できていないっつー事か!? 

 

 となるとこれは意図的じゃなくて暴走!? 能力の暴走なんてそんな事有り得るのか!? だとするとアーティファクトを奪ってもどうしようもないんじゃ……!? 

 

「熱っ!? なんだよアイツ、厨二か!?」

 

「ある意味「本物」の厨二病かもな!」

 

 マイナスのことばかり考えるな! どうにもならなかった時に考えろ! 今はとにかく急いで九條さんをあの男の側まで導くんだ! 

 

 一歩一歩を全力で周囲に注意しながら歩んでいく。もちろん前方向は目で、背後や側面は能力の鏡を使ってあちこちを確認しながら。

 

 そしてついに……

 

「竹内くんありがとう。やっと射程距離に入った!」

 

「どういたしまして……お嬢様」

 

 俺が横へと身体を半身分ずらすと、その隙間から九條さんの左手がバッと勢いよく飛び出てくる。

 

 割とかっこいい雰囲気を感じていたが、俺は朝から能力を使いすぎたせいか、その場にガクンっと片膝を着いてしまう。

 

 妙に気だるいと思ってたけど……そりゃそうか。俺、今日何度鏡をだしたんだ……? 

 

 まぁいい。今は少し休憩だ……鏡を一旦消してしまおう……

 

 能力を解除して、辺りを確認するために使っていた鏡を完全に消してしまう。すると予定通りに鏡は消えたが……あの時のように俺の右掌には紋章が持続するように光を放っていた。

 

「低劣な盗人の力……せめて、世のため人のために……」

 

 九條さんが何かをボソボソと呟く。それに大した意味を持たないことは十分に理解しているが……その言葉は彼女の《心の意思》だろう。

 

 その言葉に呼応するように、差し出された左手の甲に俺とよく似た紋章が浮かび上がった。

 

 さぁ見せてくれよ……お前のその能力……! 

 

「どれ……? あの人を凶気に走らせたのは……!」

 

 何かを探すように九條はその左手を動かして能力を扱う。だが……! 

 

 その時、右の方から俺たちを襲うように炎の波が迫ってきた。

 

反射鏡(リフレクション)っ!!」

 

 溜まった疲労感と戦いながら、気力を振り絞って能力を発動させ、俺たちがいる範囲だけその波に飲まれないように反射させる。

 

「まだか九條っ!?」

 

「アーティファクトは……どこ……!?」

 

 炎の波を落ち着いてやり過ごすと、もう一度能力を解除し、その場に尻もちを着くように身体のバランスを崩してしまう。

 

 流石にキツいとはいえ座ってしまうのはまずい……! 急いで立ち上がらないと……! 

 

 そしてその場に立ち上がろうとした時、ユーザーである発狂した男は両手を大きく振り回し、まるで生きているのかのように炎を俺たちに向かって飛ばす。

 

 その軌道は緩やかな光線のようでありながらも、確実に狙っている様な動きだった。

 

(リフ)──」

 

 咄嗟に反応して能力を扱おうと右掌を前に出すが……

 

 ダメだ! 間に合わ──

 

 

「ぐわぁぁっっ!!」

 

 

 俺が鏡を出現させる前に、新海が躊躇わずに俺と九條さんの前に両手を広げて入り込んで、迫り来る炎から身を挺して護ってくれた。

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