9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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「これは……《魔鏡》のアーティファクト…?」

まさか、《魔眼》に匹敵する危険度のアーティファクトを所持している人間を見つけてしまうなんてね。でも、まだ完全に扱えていないようね、さすがお猿さんだわ。

けれど、偶発的とはいえ《魔鏡》の力の本質を扱ったことも事実。ということは……彼にはあるのね、あの力を扱う資格が。

まだまだ私も知らない能力があるその力……そんな力に選ばれたアナタにほんの少し興味がでてきた。是非協力して欲しいのだけれど……他の枝の私はそうはしなかったようね。いえ、出来なかったという方が正しいのかしら。

ただ一つ断言出来ることは……その力の扱い方を誤れば、自己崩壊だけでは済まない。きっと世界をも壊してしまう。だからこそ、ここは敢えてカケルの方に協力を求めましょう。

この枝は何か変わるかもしれないから。


共鳴、重なった心の先に

 

 光り輝く右手、それは実際にアーティファクトを掴んではいないが、この手に伝わってくる感覚はしっかりとアーティファクトを握っていた。

 

 俺だけではなく、多分九條さんの少し小さな手と一緒に。しかし、相手はあんなにとち狂っていたのにも関わらずに、このアーティファクトだけはしっかりと離すまいとバカみたいな力で逆に引っ張り返してくる。

 

 けれど、あの男も体力の限界なのか、徐々に力を無くしていき……数分の激闘の後に、気合いでアーティファクトの回収に成功した。心で引っ張り抜いたネックレスは、ちゃんと九條さんの握られた手に収まっている。

 

「できた……!」

 

「へへっ……やったn──」

 

「すぐにその男から離れなさい!」

 

 アーティファクトの回収に成功したと喜んだその直後、謎の声が廊下に響き渡る。その声を聞いた新海は、きっと無意識下……咄嗟の反射神経で処理したのだろう。即座に飛びずさり男との距離を取った。

 

 その直後。

 

「ぁぁぁあああああァァアアアアッッ!!」

 

 アーティファクトを失ったことで精神的な支えが崩れたのか、先程とは若干違う奇行を行った。

 

 完全に目をひっくり返し、白目で叫び声を上げたと思えば、紋章の浮かび上がった場所を身が裂けるんじゃ無いかと心配するレベルで掻きむしる。

 

 まるで○○沢症候群のように。

 

 そうすると、この廊下を包んでいた全ての炎がありえない軌跡を描き、矢のように、槍のように男を中心に飛来する。

 

 例えるのならそれは、まさに炎の嵐だった。

 

「……っ」

 

 九條さんの小さな悲鳴。新海も聞こえたのだろう。咄嗟の反応でこちらに視線を向けるが……どう考えても間に合いそうにない。

 

 ほんの一瞬、一秒にも満たない期間で新海とのアイコンタクトをとり、目線で語られる。「九條を助けろッ!」と。

 

 そんなもの言われねぇでも! 

 

 素早く背後を振り返り、ただならぬ危険を感じるこの炎の嵐から守るように、九條さんに飛びつき、距離を取りつつ床に倒れるように伏せる。

 

 身体を床にぶつける瞬間のみ俺が下になり、すぐさま身体を回転させて俺が上方向に、つまり九條さんの押し倒しているような体制で彼女を庇う。

 

 すると猛り狂った炎は、凄まじい轟音を響かせながら狂った男の方へとどんどん集中的に集っていき……

 

「ァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

「ァ…………」

 

 

 

 

 声がか細く消えたのを合図に、あれだけ酷く燃え盛っていた炎も消えた。

 

 完全に消えた。そこには初めから何もなかったかのように、なんの痕跡も残さず、ただの夢だったかのように。

 

 とにかく今は──

 

「……ぃ、たた……」

 

「悪い。怪我はない?」

 

「だ、大丈夫、ありがとう、助けてくれて……」

 

 割とダメージが酷い俺の身体に鞭を打ちながら立ち上がると、九條さんもゆっくりとその場に立ち上がった。

 

 新海の方も確認してみると、アイツも何とか無事のようで、さっきまでの火事と変わりきってしまった現状に納得出来ていない様子だった。

 

 改めてあの発狂していた男を確認してみると……未だに白目を剥き、泡を吹いて倒れている。しかしその呼吸はやや激しく乱れており、そのリズムは不規則になってしまっている。

 

 紋章は消えていた。

 

 そしてこの建物も、俺たちの身体も、あんな火の海の中にいたのにも関わらず無傷。

 

 途中から疑問ではなくなっていたが……まぁ良く考えればおかしいよな。

 

 なんて思っていると、やっとサイレンの音が俺たちの耳に届く。

 

「遅すぎんだろ……」

 

「やっと消防車が来たか……。ここから離れた方が──」

 

「お兄ちゃん!」

 

「いてぇ!?」

 

 事態が収まるや否や、さっきからボロ泣きいていた銀髪の女の子が教室から飛び出し、新海の腹に突進でもしているかのようにしがみついていく。

 

 他のクラスの子たちも、今がチャンスだと慌てて避難を開始したようだった。

 

「怖かったぁ……!!」

 

「もう大丈夫だ」

 

 泣きじゃくってる女の子の頭を、新海は優しくぽんぽんと頭を撫でる。

 

 そうか、どこかで見たことがあると思ってたら……フェスの時に会場にいた妹さんか。

 

 兄妹、羨ましい。

 

 そんな時、九條さんと視線が重なり合う。お互いに少し笑うと、俺は緊張の糸が切れたかのように身体中から力を失い、その場に倒れそうになる。というかむしろ倒れた。

 

「わわっ!?」

 

 そんな俺を九條さんが支えてくれたが……そこから先の記憶はない。

 

 多分俺は気を失ってしまったのだろう。

 

 

 

 

 …………

 

 ……

 

 ……

 

 

 

 

 

「おーい! 蓮太ー!」

 

 懐かしい声が聞こえる。俺は誰かに呼ばれているようだ。

 

「よくやったな! さすが俺の弟だっ!」

 

 周りは真っ白な空間、そこには倒れていた俺と、死んだはずの兄貴がいた。

 

「一時期ヒヤヒヤしてたけど、お前がしっかりとしてくれてよかった」

 

 いいや、しっかりなんか出来てないさ。俺はあの時、九條さんの心に突き動かされただけだ。新海の心に同調しただけだ。

 

「どんな事が理由でも、ちゃんと友達を守れたじゃねぇか! お兄ちゃんは嬉しいぞぉ」

 

 止めてくれよ、別に友達なんかじゃない。俺は友達なんか作らないって決めたんだ。

 

「……。まだあの事を気にしてるのか?」

 

 あぁ。ごめんけど、俺は多分この先簡単に人を信用出来ない。

 

 そりゃあ困ってる人がいたら助けたいと思うさ、身体も勝手に動くし、実際に悪は許せないと断言もできる。だけど……怖いんだ。

 

「でも、あの子ならきっと大丈夫なんじゃないか? もう一人の子は……ちょっとわかんないけど」

 

 多分。でもそれも確実じゃないじゃないか。いざと言う時、人は簡単に裏切る。我が身大事さに友を捨てる。そんなの……もういいんだ。

 

「あの男の子はそんなんじゃなかったと思うけどなぁ、俺は」

 

 ……あれは九條さんを守ったんだろ。男なら女に格好いいところを見せたいもんさ。

 

「じゃあ蓮太もそうだったんだな! その……九條? さんを必死に守ってたじゃないか」

 

 うるさい。

 

「でも……蓮太」

 

 なに? 

 

「お前は誇っていい。あの時のお前の判断は間違ってなんかなかったし、俺も恨んだりはしてない。むしろ俺は誇っている! お前は最後まで他人の為に命を懸けてた、最後までみんなを信じてた!」

 

「だからこそ、「今」友達を裏切っちゃいけない。蓮太を心から信じてくれていた人が、少なくとも何人かは絶対にあの場にいたはずだぜ? その子たちを裏切っちゃいけない」

 

「蓮太が、蓮太の嫌う「裏切り者」になるな。そう考えると……この事件、アクセサリーの件はいい機会かもな」

 

 何故そう思うんだ? 

 

「この先、蓮太だけじゃ必ず限界が来る。それはこの件に限ったことじゃない。これから先の人生、きっと何度も躓く。何度も心が折れかける。人間ってのは一人じゃ生きてけないんだよ」

 

「誰かとの繋がりがないと辛い事ばかりでとてもじゃないけど……な。だからこそ、友達を作れ! 失ってしまった友情を取り戻す時だ! そうだな……まずは」

 

「蓮太が今、一番信頼している人は誰だ? その人から友達になってみよう!」

 

 ……それ……は……

 

「今の俺の話を聞いて、真っ先に浮かんだのは?」

 

 浮かんだ……のは……

 

 

 

 

 

 

 

 九條……さん。

 

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