9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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三人集結、蓮と雪と月

 

「おい希亜ッ! 希亜ッ!?」

 

 腹を抑えてその場に踞る彼女に駆け寄り、とりあえず背中を擦りながらひたすら声をかけ続ける。

 

 わけがわからねぇ! どういうことだ! なんで急に希亜が……

 

「げほっ……! けほっ……!!」

 

 突然襲ってきた衝撃に驚いているのか、目を見開いて何度も何度も嗚咽する。慣れないからか、それともあまりに衝撃が強かったのか、口を何度もパクパクとしてまともに言葉も発せないようだった。

 

 とても苦しいのだろう、俺の服を掴んでいる手の力が尋常ではない。力を込めすぎてプルプルと震えてしまっている。

 

 これは間違いない。アイツ……何らかの能力で自分が負ったダメージを希亜に共有させることが出来るんだ……! 

 

 多分キーはあの髪の毛を食べた事。となると……とくに制限がない場合はひたすら希亜が傷つけられる……! 

 

 かといって希亜だけを放置なんて出来ない。本人を殴られたりしちゃあ普通に傷つけられるからだ。つまり、俺が希亜を守りつつ、あの共有している男を拘束しつつ、二人を倒さなきゃいけない。

 

 できるか……そんな事……

 

「やる気になったか、この状態で反撃してくる気満々なのは君が初めてだ、《反射》のユーザー」

 

 コイツ……なんでこんなにケロッとしてるんだ? 希亜がこれほどまでにダメージを受けているにも関わらず、コイツは対して辛そうではない。殴られた瞬間こそ苦しそうではあったが、今ではもう何も無かったかのように普通だ。

 

 何か謎があるはず……

 

 とりあえずは逃げ道ができた。このことを活かして逃げてみるしかない。この実質一対三の状況はまずい! 

 

 急いで希亜を抱え上げ、あの男たちの反対方向へと身体を向けるが……

 

 

 

 ジャージの男がいつの間にか真後ろにいた。

 

「嘘だろ……!」

 

 そしてそのまま意表を突かれて、戸惑っているところに蹴りが飛んでくる。もちろん人を抱きかかえた状態でそんなものを避けれるはずもなく……

 

「──ぶっ!?」

 

 まともに顔面に蹴りをお見舞いされた。

 

 よろけた身体を気合いで立て直し、視線を戻すと……あの男の姿は見えない。

 

「逃げちゃうなら、罰を与えないとねぇ〜」

 

 そして聞こえてくるあの髪の毛を食べた男の声。マズイ──

 

「ぁっ!?」

 

 と思った時には既に遅く、勢いよく希亜の顔が横に揺れた。

 

 一瞬チラリと男たちの方を見ると、案の定味方同士で同士討ちするように顔を思いっきり殴られている。

 

 きっとあの「痛み」を希亜は理不尽に受けたはずだから……

 

「アイツら…………!!」

 

 逃げる事なんて考えるな。楽な方へ向かうな。友でないとはいえ女の子が傷ついているんだ。仲間じゃないとはいえ人が理不尽に傷ついているんだ。

 

 まずはこの苦しみから解放してやらなきゃだろ。

 

 落ち着け、冷静になれ。俺が焦っちゃ希亜が傷つく。

 

 まずあの3人のうち、最もリーダーシップをとっている男の能力は痛みの共有。これは間違いない。そしてジャージの男の能力は高速移動か…………空中でのみ発動できる瞬間移動だ。

 

 蹴られた直後、ギリギリ見えたんだ。わざわざ軽くジャンプしてから姿を消していた。高速移動なら必ず何かを蹴らないと移動ができない。だが瞬間移動ならば……移動のための力が必要ないからな。

 

 だとするとジャージの男は問題ない。しっかりと見切ればあの程度の蹴りどうとでも出来る。

 

 残りの一人は能力不明だが……一番可能性があるのが、任意の相手のダメージを無効化? いや、それならそもそもダメージの共有というものが起きない。つまり……希亜だけがダメージを受け続けているのは単純に耐久力の差か……。

 

「…………」

 

 見たところ戦闘意欲があるのは瞬間移動野郎と共有野郎だけだ。

 

 さて……このダメージ共有の謎を解かないと勝ち目はないな……

 

「あれ? もう逃げないのか?」

 

「逃げない。本当は逃げようと思ってたんだけどな、お前をぶん殴らなきゃ俺たちの気がすまねぇんだ」

 

「俺たち?」

 

 不思議そうに首かしげる男をほっといて、ひとまず抱えていた子をそっと下ろし立たせてあげる。

 

 さっき、無言で俺の事を見てたからな。コイツはコイツで俺を試していたのかも? 

 

「貴方……反撃を許したのは初めて、と言ったわよね」

 

 明らかに痛みを経験しているようだが、あくまで経験するだけで実際に外傷を与える能力では無さそうだ。その証拠に希亜の顔はどこも腫れてなどいない。

 

 痛みを共有する力。それは身体に対する物理的な攻撃のみ共有するのか。精神面での共有は全く行われていない。

 

 だからこそ、希亜の心は折れていない。

 

「うん。大体はこうなると全く反撃してこなくなって、薬を使うだけだからね」

 

 ……なるほど。やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「よしわかった、アンタらは立派な罪人だ」

 

 チラッと希亜と目が合う。その目を見るだけで彼女の覚悟を理解出来た。

 

 本当にごめん。俺もそれしか思いつかなかった。でもここは俺に任せてくれ、()()()()()()()()から。

 

 そう思った。せめて一度だけで済むようにと覚悟を決めた。だからこその一歩を踏み出そうとしたのだが…………

 

「…………ッ!?」

 

 身体が動かない。まるで自分の身体だけが時を止めたかのようにピタリとその場で留まってしまっている。

 

「……ッ、どうしたの」

 

「わからねぇ……! 身体が……!」

 

 どうにか視線は動かせる。どうやらこの能力は身体の細かいところまでは止めることは出来ないようだ。ってそれもそうか、そうなら心臓が止まっちまってる。

 

 そして一番可能性がある敵。まだ能力が判明していない人物の方向に視線を向けると……無表情のままただじーっと俺の事を見つめている。

 

 紋章は見えるところには出現していないが……間違いなくなにかの能力を使っているはずだ。相手をよく見ろ……! 

 

 あの男はポケットに手を入れて、本当にただ俺を見ているだけだ。唯一怪しいと思えるところは……、俺の影を踏んでいる。

 

「影か……!」

 

 そう言うと、その俺の影を踏んでいる男は初めて口を開いた。

 

「お前、その気出せば頭がキレるんだな。()()()()()()()()から別人みたいになった」

 

 そんな事はどうでもいい。俺にとって一番のピンチは、誰の能力も反射出来ないこと。つまり、俺の力じゃまともにコイツらと戦うことすら出来ないということだ。

 

 多分それを知ってて、こいつらは戦いを挑んできたんだろうけど。

 

 でも、恐らく知っているのは俺の情報だけ。その証拠に希亜には能力云々の話をしていない。全て俺にのみ語りかけている。つまりは希亜の能力が俺たちの勝ち筋。

 

 だが……バレていないのであれば軽率に能力のことを話す訳にはいかない。

 

 どうする……? どうする……? 

 

 正直大ピンチだ。希亜は相手の好きなタイミングで攻撃することができ、何時でも足止めできる。そして俺は影を踏まれて身体を動かせない。しかも三人とも俺の能力じゃあ反射できない。

 

 いくら強がってもぶっちゃけ勝てないと薄々感じていた。

 

 だが、その状況をぶち壊してくれたのは──

 

 

 

 ビュンッと俺の真横を何かが凄まじい速度で駆け抜ける。それはどこかで見慣れた「槍」だった。

 

 この槍は、一度俺を苦しめたあの槍。それが俺の背後から飛んできて、影を踏んでいる男の胸に突き刺さった。

 

「ぐわっ!?」

 

 こんな槍を出せる奴は一人しかいない。

 

 そう確信していると槍が飛んできた俺の背後から女の声が聞こえてきた。

 

「止めてくれよ、蓮太(ソイツ)はオレのお気に入りなんだ」

 

 本当、なんでお前がこんな所にいるんだよ…………ゴースト。

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