9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「よぉ、元気にしてたか?」
黒い服を着た彼女は相変わらずフードを深く被り、何かを噛みながらテクテクとこちらへ歩いてくる。
「何故貴女が……?」
「ん? おう、そっちの奴も半日ぶりだな。偶然だよ偶然、たまたま通りかかった所にテメェらがいたんだ」
「嘘つけ」
今の今まで全くと言っていいほど人が通らなかったんだ。アイツらが間違いなく何かの細工をしていたはず、となると意図的にこちらへ来ないとこの場には来れなかったと思うんだ。だが、そんなことは別にいい。
「悪いな、助かった」
「テメェが死んだらオレの遊び相手がいなくなるからな、その女はついでだ。それに……こんな楽しそうな事をテメェらだけでやってるなんてずりぃじゃねぇかよ!」
そう言ってゴーストは次々に槍を無造作に繰り出す。一直線上に飛んでいくだけとはいえ今やコイツは十数本の槍を連続して出すことの出来る力を持ってる。そんなものを簡単に避けれるはずもなく──
消える能力者だけがその場を軽くジャンプして、予想通りに瞬間移動で避けたが……あとの二人には無数の槍が襲いかかる。頑張って躱していたが……影の能力者が、リーダーのような男を庇って何とか守っていた。
やっぱりだけど、ゴーストは強い。これだけ巧みに一つの能力を自在に扱えるなんて異端だったんだ。そりゃ一人じゃ勝てねぇわけだわな。
「彼女は味方なの? それとも……」
唖然とゴーストの戦闘を見てしまっていた俺だったが、その希亜の声で我に戻る。
「さぁな。少なくとも……今は味方の解釈で良さそうだ。安心しろよ、アイツは思ったほど悪い奴じゃねぇから」
「そう」
未だに警戒は解いていないようだが……今この状況でそんなことは言ってられない。アイツらには聞きたいこともあるしな。
「ゴースト。一応アイツらの能力を言っとく。俺の推測も混じってるからあくまで参考程度に聞いてくれ」
「一人は瞬間移動だろ? あれは見りゃわかる」
「あぁ、そんで最初にお前が攻撃した男。アイツは『影を踏むとその対象者を縛る』能力だと思う。そんで最後の一人は『任意の相手と肉体ダメージを共有』できる。こっちは確定だ。今は希亜が──」
と説明の途中で、ゴーストは隙を見つけたのか希亜とのダメージを共有しておる男に向かって槍を飛ばして突き刺した。
「おまっ! 馬鹿ッ!」
「んだよ、魂が共有してねぇんなら別に問題ねぇだろ」
そんな彼女を一旦置いといて、急いで希亜の方を振り向くと、別にどこかを痛そうにもしていないし、何かを我慢しているようにも見えない。
「痛みは無いのか?」
「ええ、問題ない」
……この槍は外傷を残さずに感覚だけを伝えることの出来る力じゃなかったのか? あ、いや待てよ……ということはこの槍で傷つくのは痛みを感じる心、魂なのか?
そして相手の能力はあくまで肉体ダメージの共有。なぜなら感じている二人の感情が全く違うからだ。とすると……
この槍は相手の能力なんて関係なしに攻撃できるモノ!
「まあここはオレに任せてしまえよ、能力には相性ってのが必ずあるもんだ。相性のいいオレに遊ばせろよ」
……なんか助けてくれたのが変だと思ってたけど、コイツあれだな。ただ戦闘で遊びたいだけだな。
「それに、悪用じゃねぇだろ?」
はぁ……ったく。
「わかった。わかったから好きにやれよ。だが俺も参戦するあの偉そうな男だけはぶん殴らなきゃ気がすまねぇ」
「どうするつもりなんだ?」
「アーティファクトをぶっ壊すッ!」
九條さんから聞いた事、その中にアーティファクトの破壊についての説明があった。あのアーティファクトは一応破壊の概念があるらしい。粉々に破壊したとしても数日で元に戻ってしまうが、一時的に能力を封じる手段の一つだ。
となると……
「希亜、アーティファクトを狙って攻撃できるか?」
「それは……難しいわね。でも、せめて時間を稼いでくれればあの能力者を拘束することぐらいはできる」
「だったらそれでいい!」
必要最低限の情報だけで会話を済ませ、一番ムカついているやつに向かって全力で走る。そうすると、一瞬にして俺の前方にあの瞬間移動男が現れたが……
「邪魔すんッなッ!」
繰り出されたパンチをスルリと躱し、すれ違い様に後頭部に蹴りを入れて問題なく対処する。
「ゴーストッ! 俺に槍を投げ飛ばせッ!」
「あ? まぁいいか」
どうせアイツは反射するから、なんて思っているのか、特に深くは考えずに間隔をあけて連続で槍を数本飛ばしてくる。
まぁもちろん俺だからこそこんなことをさせたのだが……
「
能力を発動して鏡を出現させ、偉そうな男に向かって反射するように角度を整える。それに当たった槍はもちろん思惑通りに男に向かって反射されていき……
次々と容赦なく槍をぶっ刺していく。痛みを共有しないのならば……
もちろん直接は手を出さない。あくまで怯みをメインとした時間稼ぎだ。そしてこんな少量でも使えると思い、秘めていた力を解放する。
男の目の前で、俺の能力である鏡を出現させ──
「
吸収していた微妙の力を使って眩いばかりの閃光を発光させた。
そして──
「ジ・オーダー……アクティブッ!」
と希亜の声が聞こえてくる。そしてそのまま素早くその男から距離をとると…………希亜は力を解放し──
「パニッシュメントッ!」
黄金色に輝く無数の鎖がありとあらゆる場から出現し、まるであの男に罰を与えるかのようにその鎖たちは次々に男に絡まっていく。
手足や身体を鎖に封じ込められ、身動きひとつ取れなくなり、完全に捕らえることに成功した。
チラリとゴーストの方を見ていると、つまらなさそうにガムを噛みながらこちらを見ている。どうやらあっちの方は既に終わっていたようだ。
それを確認すると、俺はゆっくりとその男に近づいていき……あの時の出来事を思い出しながらアーティファクトの位置を探る。
そして男の内ポケットからリングのようなアーティファクトを取り出すと……力の限りに地面に投げつけて、思いっきり踏み潰す。すると粉々にはならなかったが、見事にあのアーティファクトは割れてしまい、破損した。
試しに軽く男に向かってデコピンをしてみるが……希亜にはもうダメージはいっていないようだ。
「そ、そんな……こんなことが…………あの女もユーザーだったなんて聞いて──」
「てめぇの事なんざどうでもいい。てめぇ、何故俺のことを知っていた? 誰から聞いたんだ」
この発言……間違いなく誰かから聞いたんだ。俺の情報のみを聞いており、勝てると踏んで計画を立てて襲ってきた。つまり意図的に俺に敵を仕向けた奴がいるってことだ。
「おっ、俺は……!」
怯えながらもその男は口を開く。
フワフワと浮かぶ人形のような怪しい存在から俺に関する事を聞いた事。そしてアーティファクトとの契約を破棄する方法、そしてアーティファクトの意志とは関係なく強制的に自分の支配下に能力を置くこと。
それら全ての情報を与えた者の名は……《イーリス》
自らをイーリスと名乗る異世界人に全ての情報を与えられ、俺を狙っていたらしい。
そう、コイツらが狙っていた訳ではなく、あくまでイーリスが俺を狙っていた。そういえば九條さんも言っていた。異世界に存在するソフィはこちらの世界へやってくることが出来ずに、《幻体》のアーティファクトを使用して仮の体を扱っていると。
つまりはそのイーリスとやらもソフィと同じ手段でこちらの世界に干渉しているのだろう。
何故俺を狙っているのかまでは分からない様子だった。
そして判明したもう一つの事。それはアーティファクトとの契約の破棄方法。それは俺の予想通りに、所有者を殺害するか、《アンブロシア》という霊薬を使用することで魂を仮死状態にし、アーティファクトを誤認させて破棄するというもの。
既にこの男はこの霊薬を他人に使用しているらしく、いくつかの不思議な容器に入れて持ち歩いていた。
容器に入っていると言うのは、契約者を無くしたアーティファクトは固形から液体に変わるようで、それを試験官のような物に詰め込んでいたのだ。
ちなみに逆に新たに力を得るには、この液体のとなったアーティファクトを体内に摂取すれば良いらしい。
……となると、一つの疑問が生まれてくるが、今はその話は置いておこう。まずはこの男の対処だ。
と考えていると、能力を使用できなくなって警戒を解いたのか、希亜の能力で作られた無数の鎖は次々に消えていき、男を拘束から解放した。
そしてこの男のことを聞いていると、俺と同じ白泉に通っている学生だったことが判明し、明日中に九條 都の所へと向かい、アーティファクトを明け渡す事を約束に逃がしてやることにした。
ぶっちゃけぶん殴ってやりたがったが……ある一つの疑問が俺の心を揺さぶり続ける。
とにかく……
「大丈夫か? どこかまだ痛んだりはしないか? 希亜」
「痛みは大丈夫。かなり疲労したけれど、少し休めば問題はない」
「そっか。ならとりあえず少し座って休んでろよ。ちょっと飲み物買ってくるから、すぐ戻る」
確かここら辺は近くに自販機があったはず。残りの男たちを処理して……っていなくなってらァ。
思い出したかのように確認すると、あの男が二人とも連れていったのか、まるまる姿が消えていた。
「……。いくぞゴースト」
「オレもかよ」
「当たり前だ。聞いておきたいこともあるしな」
「……」
それから俺とゴーストは二人で近くにある自販機まで歩いていく。
どうしても俺の中で警戒心が強まってしまっているんだ。さっきの話を聞いた時からずっと。それは……
何故ゴーストが二つの能力を扱えるのか。
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ゴースト