9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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変わる目的、蓮太の想い

 

 ガコンッと飲み物が落ちる音がする。自販機の口からその落ちてきた物を取り出し、また一つと購入しているからだ。

 

 そんな様子の俺を、ゴーストはただ黙って見ていた。

 

「なんだよ聞きたい事って。オレがこんな所に助けに来たことか?」

 

 三つ目の飲み物を手にしてから、一つだけゴーストに手渡す。

 

「そうじゃない。そんな些細なことは別にいいんだ。俺が聞きたいのは……」

 

 問いただすのが怖い自分もいる。けれど、問いたださなければと思う俺もいた。これだけは聞いておかないといけない。これだけはハッキリとしておかなければいけない。

 

 だって…………

 

「ゴーストは能力を二つ扱えるよな。何故なんだ」

 

 さっきの話を聞いてからずっと思っていた。正直、自分の命が狙われているなんて二の次だった。

 

 心の底から思ったことを祈るような気持ちで問いただす。俺がこの世の中で最も戦いたくない三人の内の一人に。

 

「人を………………殺したのか」

 

「…………」

 

 否定して欲しかった。確かにコイツは好戦的で手の付けられないような奴だ。だが根は優しさを持っている奴だと思ってた。

 

 それはあくまで俺が一方的に勝手に思っているだけだけど……どこか気の合う奴だったから。

 

 でも返事は返ってこなかった。

 

 彼女は沈黙を続けたまま、その場から動こうとしない。

 

 そんな彼女から俺は目を離さない。真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに見つめて祈っていた。

 

 冷たい風が吹く。春頃の風は嫌いだ。

 

「どうなんだ、ゴースト」

 

 二度目の質問の後、彼女は答えを聞くまで動く気のない俺を見透かしたのか、どこが残念そうな顔をして深くため息を吐く。

 

「……なんでそんな目になるんだよ。さっきまでの覚悟の目はどうした」

 

「変か? 俺がこう思うのは」

 

「あぁ、テメェ随分な変わりもんだからな。でもそういうのにも慣れてきた」

 

 質問の返事は……返ってこない。

 

「俺は……慣れない。元々俺は一人だったから」

 

「いいよな一人って、オレも味わってみたかった。オレは常に誰かがいないと生きてけねぇからさ」

 

 ……。

 

「今こうしている事も、アイツにはバレてるだろうぜ」

 

「お前……幻体だったのか」

 

「大正解ってヤツだな」

 

 ソフィやイーリスがこちらの世界に介入する際に使用しているアーティファクト。しかしそれらは本来正しい扱い方ではないと聞いていた。元々は仮初の身体を出す能力。

 

「テメェは幻体に向かってこうも優しく接してたんだぜ。笑えるよな」

 

「笑えねぇよ……」

 

 …………

 

 

 

「蓮太、ハッキリと言っとく。きっとテメェとはいつか練習でもなんでもなく、ガチで戦わなくちゃいけねぇ」

 

 

 

 返答はそれだった。心に穴でも空いたような気分だ。

 

 彼女が言ったのは俺の敵になるということ。それはつまり…………

 

「例えテメェがオレを信じたとしても、そこにもうオレの意思は存在しない。もうすぐ会えなくなるからな」

 

「どういうことだよ。なんでお前は──ッ!」

 

「オリジナルがテメェの能力を欲しがってる」

 

 オリジナル……。ゴーストを生み出した言わば本体のようなものだ。つまり幻体のアーティファクトの所持者のこと。

 

「誰とは言えねぇけど、蓮太はソイツと戦わなくちゃいけねぇんだ。遅かれ早かれいつかはテメェに襲いかかるだろしな」

 

「そんなことはどうでもいいんだ! 俺は……なんでお前が──!」

 

「殺してねぇよ」

 

 思わず呆然とする。

 

「オレは誰一人殺しちゃいねぇ。オレは……な」

 

 意味深な言い方、寂しそうに視線を外すゴースト。一度汚れたこの目だからわかる……俺は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 コイツには、本当の意味での味方が必要だ。

 

「さっき、もう会えないって言ってたな。聞かせてくれるか?」

 

「テメェ……たったあの一言を信じるのかよ……随分とおめでたい奴だな」

 

「信じるさ。たった一言、それを言ってくれたのなら俺は信じる」

 

 そう言葉を放つと、後ろの方から足音が聞こえてきた。

 

 どうやらゴーストは既に俺の後ろから迫った来ていた人に気がついていたらしい。

 

「生粋の大馬鹿ね。ただの一言でそこまで信用できるなんて」

 

「そうかもな。でも……苦しそうな目をしてた」

 

 背後から歩いてきていた女の子は俺の隣に辿り着いたところでその歩みを止める。

 

「結局のところそれが貴方の正義。迷い人を見捨てない心。流石ヴァルハラのメンバーね」

 

「だから違うってば」

 

 未だに勝手にメンバーに入れている希亜に飲み物を手渡し、再びゴーストの方へと視線を向ける。

 

 俺たちのこんな会話に馬鹿馬鹿しさを感じたのか、呆れるように笑っていた。

 

「オレもアンタがオリジナルだったのなら、楽しかっただろうな」

 

「遅くないさ。まだ間に合う、手を汚していないのならまだ──」

 

「いや遅い。自分で制御出来ないんだ、近いうちにオレは白に奪われる」

 

「白……?」

 

「幻体の中でもオレは特殊でな、契約者に囚われずに自我を保つことが出来た。だからこそ誰と契約してもオレはオレなんだ。誰の色にも染ることは無い。いや、無かった」

 

 確か……幻体ってのは分身ではあるが意思があって自律的な行動するはず、だかその性格は契約者に似るようになる……だったか? 

 

「オレは平気であん時に茶を飲んだだろ? アレを含めてオレは特殊だっつーんだよ。でもな、オレの創造主サマは適性が低いにも関わらずオレとは全く別の人格を作った。要するにオレはソイツに飲まれちまうって事だ」

 

「それで、会えないって……」

 

「いつになるかはわかんねぇけど、飲まれる前に一発《恩返し》でもしてやろうと思っててな、その前にテメェに会いに来たら……偉いボロカスにやられてるじゃねぇか」

 

「うるせぇよ」

 

 それでさっき俺らの元へとやってきたのか。まぁ結果的には大助かりだった。下手をしたら……俺は今頃死んでたかもしれねぇしな。

 

 だからこそ……助けたい。

 

 いや、助ける。

 

「俺になにかできることは無いのか? お前を助けたい」

 

「ねぇよ、せいぜい殺されねぇように強くなり続けろ。しか言えねぇ」

 

 そう言ってゴーストはこちらにテクテクを歩いてくる。そうしてポケットから手を出したかと思えば、俺の顎をクイッと持って唇が当たるんじゃないかって思うほどに顔を近づけた。

 

「いいか? オレの顔をよく覚えとけ。それが石化の能力者を見つける鍵になる」

 

 前はこんなこと思わなかったのにな。誰に対してもこんな感情を抱いた事は全く無かったのに、今じゃ不思議と自然に思ってしまってる。

 

「可愛いじゃん」

 

「うるせぇ死ね」

 

 暴言を吐いたあと、ゴーストは乱暴に俺の顎を手放して少し距離をとる。

 

 なんだよ、死ぬなつったり死ねつったり訳わかんねぇな。

 

「でもまぁ……あんがとよ。テメェだけだぜ? んな馬鹿なこと言ってきたのは」

 

 そこで気がついた。彼女の身体が半透明に消えかけていたことに。

 

「必ず見つけて、また言ってやるよ」

 

「二度とごめんだ」

 

 そんなぶっきらぼうな返事を残して、彼女は幽霊のようにスーッと消えてしまった。その瞬間に目の前にボトンと飲み物が落ちてしまう。

 

 幻体だからだろう。あの言い方的にはまだ時間はほんの少しだけありそうだ。

 

 そう、まだ時間はある。

 

「どうするの、彼女、早くしないと本当に消えてしまうわよ」

 

「消させはしないさ。絶対にオリジナルを見つけて……ゴーストを助け出す」

 

「殺人以外の方法でね。本物の悪に堕してしまうのなら……私たちが戦わなければならない」

 

「俺が戦う相手が本物の悪だ」

 

 そう、ゴーストは言った。石化の能力者を見つけるヒントは自分自身にあると。それに、オレは殺していないと。

 

 つまり、ゴーストのオリジナルが石化事件の犯人。そして複数の能力所持者。少なくとも、ゴーストが扱えていた槍の力と麻痺の力、そして幻体の力と石化の力を持っているはず。

 

 かなりの強敵だが……俺は勝たなくちゃいけない。アーティファクトの収集なんてしている場合じゃない。

 

 ここからが俺の本当の戦いだ。

 

「まずはオリジナル探し、そんで《アンブロシア》についてソフィに聞かなくちゃな」

 

「それなら私の方で彼女についての情報を探ってみる。霊薬の方は蓮太に任せるわ」

 

「んぁ? なんで希亜が──」

 

「ヴァルハラ・ソサイエティはどんな小さな問題だろうと決して仲間を見捨てない。助けてくれたお礼よ、協力する。私も……石化の能力者を裁くつもりだったから」

 

 ……なるほどね。

 

 希亜が味方になってくれるのは正直ありがたい。とんでもなく心強くなる。

 

 でも………………

 

 

 

 

「ヴァルハラ・ソサイエティのメンバーになった覚えはないけどね」

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