9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
朝のあの出来事から数時間経過して、今はもう昼休み。最近は忙しくてまともに弁当を作ってきていない為、今日も今日とて購買に行って適当な食べ物を買ってくる。
香坂さんの件も重大なことではあるが、それと同じくらいに大事な事を九條さんからにでも聞かなければいけない。
ついでに昨日のアイツがちゃんと九條さんのとこに行ってアーティファクトを渡しているかどうかも確認しておかなきゃな。
……つかバカ正直に約束を守らなかった場合のことを全然考えてなかった。でも、九條さんのことを知ってたし間違いなくこの地域に住んでいる奴だろう。希亜の事は知らない様子だったから、学年違いの学生という可能性が一番高いか。
となると……アイツは白泉の一年か三年かな? 玖方のケースもあるけど、その辺は実際に来てなかった場合に考えておこう。
まずは九條さんに声をかけてみないと何も変わらない。
そう思って九條さんを探すが……なかなか見つからない。いつものように教室にいるもんだと思ってたんだが、今日に限ってそんなことは無く、ウロウロと探しているうちにいつの間にか中庭まで足を運んでいた。
ここまで探して見つからないんだ、しょうがない。RINGでメッセージを送って確認してみるか。
「九條さん、メッセ見るかな……」
タッタッタッとリズム良く画面をタップしていると、いきなりどこからともなく声が聞こえてきた。
「その必要はないわよ、レンタ」
「……んぁ?」
聞いたことがあるようなないような声、その声が聞こえてきた方向に視線を向けると、可愛いとは言えないよく分からないお人形さんがフワフワと宙に浮いていた。
初見なら間違いなく驚くところだろうが……いや、驚いてはいるんだが、俺が危惧しているのはそんなことでもなんでもなく……。
「お前はイーリスか? それともソフィーティアか?」
二人とも同じ人形のような姿という事を聞いている。実際にどちらも見たことの無い俺は名を聞くことでしかどちらなのかを判断することができない。
まぁ、俺の命を狙っている奴が正直に自分はイーリスです。なんて言うとは思わないが。
「イーリス………………なるほど。あなたは既に彼女の存在に気がついているのね」
意味深な言葉を漏らす人形は、ちっこい両腕をピコピコと動かしながらひたすらに飛んでいる。
「……ソフィーティアの方か」
「えぇそうよ。長ったるいでしょう、ソフィでいいわ」
こりゃ丁度いい、わざわざ向こうから出迎えてくれたんだ。何か用件があるんだな。
「それで、なんの用だ? わざわざそっちから声をかけてきたんだ、何かあるんだろ?」
「別に用はないわよ。ただあなたの行動にほんの少し協力してあげようと思っただけ」
……俺は新海にも九條さんにもまだ何も伝えていない。となると、ソフィーティアを知る人間たちには何も知らせなくても、俺の行動がバレていたということになる。
監視でもされてるのかね。
繋がりのある二人か……本人から。
「だったらもう分かってんだろ? 《アンブロシア》の霊薬、アレをくれないか?」
「意味が無いわよ。幻体が二つの人格を保つなんて話、聞いたことも無い。間違いなくアンブロシアの霊薬じゃどうしようもないわ」
そりゃ知らないはずだろう。そもそもとして、あのゴーストという存在が特別なんだと自分で言っていた。つまりは前例がない存在ということだ。
「霊薬を使って契約を破棄できたとしても、人格が別れるとは思えない。その進行は止まることは無いでしょうね」
「そうか……」
何かしらの可能性があるかもと思っていたが……ダメか。
「私からも一つ質問。あなた、今何度目かしら」
「はぁ? なんの事だ?」
「……もういいわ、忘れてちょうだい」
訳の分からん事を急に言われて、忘れろ……か。コイツ人間舐め腐ってるなぁ。
俺も人の事は言えないか。
「まぁいいけど」
「…………」
適当に返事を返すと、ソフィはただ無言でじーっと俺の方を見続ける。まるで品定めでもするかのように。
人形だからわかんないけど。
「この枝は何もかもが違う……あなたなら、『オーバーロード』を複製されずに救えるかもしれない」
「オーバーロード? 何? 俺これからタケンガとか名乗った方がいいのか?」
「訳の分からないことを言わないでちょうだい」
訳の分からないことって……なんだよ、コイツアレか? 漫画やアニメを見ないタイプか?
「前のあなたは残念ながら失敗していたけれど……今はちゃんと仲間を作ろうとしているみたいね。その代償に色んな事を失ってしまっているけれど……まぁ誤差でしょう」
「……?」
別に俺は仲間なんて……ってんな事はどうでもいいんだ。それならゴーストを救出するにはどうするかをちゃんと考えとかねぇと……
「それなら何か特殊な方法はないのか? 何とかしてゴーストを助けたいんだ」
「……別に何も必要ないわよ」
「必要ないって……どういうことだよ」
「そのままの意味よ、アンブロシアなんて無くてもあなたは奇跡を起こせるはず。おそらくね」
「んな曖昧な……」
「要は心の持ちようよ、自分を信じなさい」
そんな言葉を残して、ソフィは時空の彼方へと消えていった。
いやいやいやいや、要するに無計画のまま何とかしろってことだろ? どんだけ適当なんだよ……
あの力はおそらく真なる影のアーティファクト。オーバーロードが王の力とするならば、あの子の本当の能力はその側近、王にその地位を譲った《王の素質を持った》アーティファクト。
王が光ならば影。
太陽であれば月。
力であれば技。
正義の反対にある、もうひとつの正義。
周りの力に同調し、自らを犠牲にすることでその者を大きく躍進させる奇跡。
あの子が異例の幻体となってしまった事も、元を辿ればその力が原因。
でも、だからこそ新たな道が開かれようとしている。正直最初はヒヤヒヤとしていたけれど、まだ一筋の希望はあるようね。
彼女が十人目となるかは……あなた次第。
この一日は未来が大きく変わるでしょうね。あなたは今、二度目の大切な選択肢を迫られている。
一つ目は………………そう、助けたのね。
そのおかげで、あなたは完全にこの力に目覚めてしまった。まだ無自覚で気づいてなんかはいないでしょうけど。
きっとその力のせいで、オーバーロードが別の手に渡ってしまったのね。全く……死なずにアーティファクトを別人に渡すなんて、本当にふざけた能力ね。
《暴走》でもない、《覚醒》でもない、新たなコントロールを可能にする唯一のアーティファクト。
《進化》の力、《オーバーフロー》。