9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
カランっと店内に鳴り響く鐘の音。その音が聞こえてきた方向へと視線を向けると……いつぞやに見た黒を基調としたゴスロリ服の知り合いがいた。
間違いない、あんなに恥ずかしげもなさそうにそんな服を着こなせるのは、俺の知る中でただ一人だけ。
「きたか」
予定の時間よりも少し早く到着した希亜を確認して、香坂さんに声をかけ、会計を済ませて俺たちは外に出る。
とりあえず二人の顔合わせの挨拶を済ませ、歩みを進めながらこれからの事を話していた。
『…………じゃあ希亜は俺たちとは別にわざとに遅れて入ってくるって事か?』
『そう。適当な理由で私が遅れる理由を捏造して、二人だけでまずは白陀九十九神社へ入る。私は少し距離を離したところで対象を観察するわ』
……やっぱまだ疑ってるか。さっきは顔合わせの挨拶、とは言ったが名乗ることはしなかった。おそらくその観察をする対象には香坂さんも含まれているんだろう。
だからこそ口ではなく、RINGを使って俺にだけこう送ってきたんだ。
それでも俺を向かわせるということは、信用してくれているか、都合がいいか。まぁどちらも含めていそうだ。
でも確かに危険視はしておかないと……か。
怪しさMAXの香坂さんにその知り合い。しかも『司令官』だなんて呼ばれてる。余程の厨二病でないかぎりは意味もなくそんな呼び名を使わないだろう。となると、この二人は何かのチームの可能性が高い。
しかもその二人はどちらもゴーストを知っているようだったが……あの時希亜が言っていたように《白》なのか《黒》なのかが分からない。つまり、
あの時のゴーストの発言。オレは殺していないと言っていた。
その《オレは》の意味はまだ理解できないけど……白の人格かオリジナルに対してか、どちらにせよその両方に気をつけなければいけない。
となると希亜のこの行動も分からなくはない。第一、心の底からまずいと思えば、人って生き物は簡単に裏切るから。それなら俺の目に見えないところで逃げて欲しい。
微妙な気持ちだ。希亜を信じているような気持ちもあれば、どうせ裏切ると思う俺もいる。悪い癖だ。
精神的に追い詰められるせいか、簡単に俺が人を裏切ってしまっている。
だが…………
『互いに守り合う為にそばにいた方がいい。伝えてなかったか? 俺の能力操作範囲は2mなんだ、距離を離されちゃ希亜をカバーできない』
そう送ると、ややジトーっとするような目で希亜に見つめられる。
あーはいはい、俺が悪かったよ。つかお前も能力については詳しく教えてくれてないだろーがよ。
「はぁ……」
ボソッと小さくため息を吐いた希亜は、スっとスマホをポケットに入れて再び前を向く。
返事はなかったが、どうやらさっきの作戦のようなものは中止するようだ。
「はぁ…………」
それが移るように俺もため息を吐いてしまう。
「どうかなされましたか? 蓮様」
「いや……、これからを考えるとちょっと憂鬱なだけ」
「それでは──」
と言う声が聞こえると、いきなり俺の右腕に何かが絡みつく。
「へ?」
その方向を向くと、何故か香坂さんが優しく俺の腕にしがみつくつき、ピッタリと密着してきた。
「このようなモノは、好かれませんか?」
「え……? いや……あの……」
「ふふっ」
いや「ふふっ」じゃなくて……
「ふふっ」じゃなくてっ!! なんなんすか!? 急にこの人何してはるんですか!?!?
腕絡みまくってますけど!? どゆこと!? どゆこと!? おまっ、童貞にこんなことすんなよ!? キャラぶっ壊れるわ!!
だめだ……! この一瞬で頭がパニクってしまってる! 希亜に助けを──
「…………」
「あの、の、希亜……?」
「………………っ」
「え……? なんか怒ってる……?」
「怒っていない」
「えぇ……」
じゃあなんでそんなに俺の事を睨むんですかね。さっきまでは呆れてはいたけど今は明らかに怒ってますよね? さすがの俺でもそれくらいはわかるよ?
そりゃそうさ、今は一分一秒を急ぐような事態なんだ。そんな状態の中こんな事してたら何してんだと思うだろう。
しかもどちらかと言えば俺のワガママみたいなもんだ、それに協力してくれているのにこんなものを見せられちゃ腹立つ気持ちも分からんくはないが……
俺はどちらかと言えば被害者なんだよなぁ。
「と、とりあえず香坂さん? 腕から離れて欲しいな〜って……」
「離れる必要なんてありません、私は蓮様の疲れた心を癒したい。その一心でこうして腕を組ませて頂いているだけですわ」
離れてと言っているのに、香坂さんはその逆、俺の腕を更にギューッと掴む。この辺でもう俺は一周まわって冷静になりつつあった。
「いや、あの……胸が当たってるけど」
「えぇ、そうですわね」
「わざとかい……」
こんなことは人生で初めてだ。シチュエーションもそうだが、テンパリが高まりすぎると一周回るんもんなんだな〜。
俺が普段から意識しすぎないだけ……か? いや、んな事はないだろ。多分。
「胸……」
みんなそんなもんだって、そうそう、そういうことにしよう。うん。
「元気はでたから大丈夫、ありがとう」
「もうよろしくて?」
「あぁ、それに……そろそろ辿り着くだろ? 例の神社に」
そう言って半場無理やり絡まれていた腕を解く。
意外と簡単に解けたな……
「今からは気持ちを切り替えておかないと……さ」
そう、いつまでも気を抜いていられない。今の時間は……20:30過ぎ……大体38分か。
「よし、いこう」
予定よりはそこそこ早いが、まぁ元々俺は待ち合わせには早めに向かうタイプだ。待たせるよりは待った方が楽だからな。
さっきまでのどこか気の抜けた雰囲気から一転、神社の奥に進むにつれて少しずつ心臓の鼓動が早くなる。
柄にもなく緊張してるんだ。まだ待ち合わせ相手は到着していないだろうが、これからを想像するとやっぱり多少は焦ってくる。
おそらく一人だったら、先を急いで走り抜けていただろう。まぁ、香坂さんがいる以上は一人なんて状況はありえないが。
ともかく、ああして緊張を和らげてくれてよかった。そういう意味では感謝してる。
でも、もう油断はしない。夜の暗闇の中、いつ狙われてもいいように全方向に注意を向けてひたすらに歩き続ける。そして神社にたどり着くと、予定の時間よりも随分早くにたどり着いたにも関わらず、境内の真ん中に誰かがいるように見えた。
暗くてまだよく見えないが、多分人だろう。もしかしたら相手も早めに待ち合わせの場所には向かうタイプの人だったのかもしれない。
とりあえずその人影の方へと向かっていくと………………
「──────ッ」