9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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これは、数年前の過去の記憶。

アーティファクトの事件が起こるよりもかなり昔の傷の記憶。

彼が心を閉ざしてしまったキッカケ。

その窓がこじ開けられ、手が差し伸べられるのは…………まだ先のお話。


特別章 蓮太過去編
追憶の壱


 

「おーい! 蓮太ー!」

 

 んだよ……俺は眠いんだっつーの……。

 

「早く起きろって! お前今日から中学生だろ! そろそろ自力で起きれるようになれよッ!」

 

 朧気な意識の中、俺は突如として襲ってきた激しい痛みに叩き起される。

 

「ホイっ!」

 

「痛ってぇ!?!?」

 

 その衝撃でパチクリと目を開けると、俺の腹の上に新品の通学カバンがずっしりとふんぞり返っていた。

 

「まともに起こせねぇのかよっ!?」

 

「はははっ! バーカ! お前がさっさと起きねぇのが悪ぃんだよ!」

 

「普通に起こせよな……涼ニィ」

 

 

 

 

 

 竹内 蓮太 12歳 春

 

 

 

 

 

「ふあぁ〜…………」

 

 乱暴な起こされ方に、やや不満を持ちながらも俺はリビングへと移動する。すっかり朝日は空高くへと登っており、電気なんかつけなくても気持ちのいいくらいに部屋の中は明るくなっていた。

 

「やっと起きたか、今日は蓮太が当番の日だぞ」

 

「わ〜ってるよ、とっとと作るから待っててくれ」

 

 重い身体をくねくねとほぐしながらキッチンへと向かい、適当な材料を持ってそのまま調理に取り掛かる。

 

 そう、うちは毎日俺と兄で交代しながら、家事をやりくりしている。

 

 その理由としては、突如として親がハマった海外旅行。元々俺の父親は小説作家という事もあり、見識を広げるために海外へ……と言った流れなのだが、いつの間にかそれが夫婦旅行へと様変わり、母親も共について行くこととなり、俺たち兄弟はこの一軒家に置いてけぼりを食らっていたのだ。

 

 もう3ヶ月程だったが……流石にもう慣れてきた。多分俺なら仕送りがあればこれからもこうして生きていけるだろう。そう思えるほどに。

 

「れ〜ん。今日はなんにするんだ〜?」

 

「うっせぇな、適当に卵焼きとかの弁当のあまりだっつの」

 

 こんな感じで俺を急かしてくるこの男は俺の兄、名前は『竹内 涼太』。度が過ぎるほどの優しさを持つ人で、顔も美形、成績もトップ、運動もできる、と言った漫画の世界に生きているような完璧超人。

 

 俺は全てのスペックにおいて負けていて、内心憧れている自慢の兄だ。

 

「なんだ……手抜きかよ」

 

「だったら自分で作れっての」

 

 いや、一つだけ俺が兄に勝っていると断言出来ることがある。それがこの料理だ。

 

 自慢じゃないが、俺は料理が大の得意。昔から親から教わっていたということもあるが、俺が頑張って料理を作る度に、兄に「これだけは蓮太には勝てねぇな」と何度も言われたからだ。

 

 それが俺の唯一の自慢になった。

 

「そう言えば蓮太は何か部活とかするのか?」

 

「しねぇよ、俺は少しでも成績をあげなきゃいけないんだ。涼ニィと一緒の高校に行きたいから」

 

「頑張るのはいいことだが……お前が入学する頃には俺はいないんだぞ?」

 

「んなこたぁわーってるよ! 涼ニィと同じ高校に行って俺の方が上だってことを成績として残すためだ!」

 

「なーんだ、そんなことか! 安心しろよ、蓮太じゃ俺を越えられないから」

 

「涼ニィの朝飯は米だけな」

 

「ごめん、マジでごめんなさい。せめてふりかけだけでも下さい」

 

 これが俺の日常。俺の生活。俺の人生。

 

 どうでもいい話をしながら、いつまでもこんな感じの生活が続くのかと思ってた。まぁ、せめて涼ニィが家を出ていくまでは、こんな毎日が続くと思ってたんだ。

 

 幸せだった。

 

 当時はそんなことを思いもしなかったけど、思い返す度に何度も思う。あの時は幸せだったって。あの時の普通は特別だったんだって。

 

 今の俺には、それがないから。

 

 

 

 

 

 

 それから涼ニィを見送ってから、自分の準備を進める。

 

 正直言って走ればまだギリギリ学校には間に合うと思うが……面倒なので歩いていくことにした。

 

 ちゃんと鍵を閉めて、新品のカバンを雑に持ち、通学路を歩いていく。

 

 道行く学生たちに、嫌悪の目を向けられながらも俺はそれを気にしない。

 

 どうやら何かと噂になっているようだった。

 

 数日前、目つきが悪い。なんて理由で高校生から喧嘩を売られたんだが……結果としてそいつをぶっ倒してしまった。そのことを初めとして、色んな子にその話が飛び回っているみたいで……中々に面倒なことになっている。

 

 

 

 

「あれ、竹内君じゃない? ほらあの話の…………」

 

 

「うわ、出たよ……どうせあんな不良は学校にすぐ来なくなるんだから、最初から来なけりゃいいのに」

 

 

「ああいう喧嘩しか脳のない奴が、社会に出てからボロクソに虐められるってお父さんが言ってた」

 

 

「近寄っちゃダメだよ、私、友達とか思われたくないもん」

 

 

 

 

 

 

 そうだな……今日の晩飯も俺の当番だから……どうすっかな? スーパーに行くにしてもこの辺のスーパーじゃあ面倒だし、隣町まで行くしか……でもあっこなら商店街の方が安いしなぁ。

 

 昨日は……あぁ、確か涼ニィが魚を焦がしたんだっけ。しゃあない、とりあえず俺が見本として作ってやるか。

 

 そんなことを思いながらも時間を確認すると、さっきは遅刻ギリギリだと思っていたのに、今は10分程余裕がある。あれ……? 家の時計がズレてたのか? 

 

 まぁいいか、間に合うのならそれでいいや。

 

 そしてテクテクと道を歩いていき、校内に入ろうとすると……何やらガタイのいい男の教師らしき人から止められた。

 

「お前が噂の竹内 蓮太か。今までは自由に遊んできたらしいが、これからはそうはさせんからなッ!」

 

「るっせぇよ……」

 

 俺は元々遊んでなんかねぇっつーの。てめぇらみたいな人の話だけで決めつける馬鹿が勝手に噂を立てて遊んでるんだろーが。

 

 もう抵抗する気もない。まともに相手をするだけ無駄だしな。

 

「なんだその口の利き方はッ!」

 

 既に最初から俺に悪印象を抱いているのか、朝っぱらからだと言うのにいきなり俺の胸ぐらを掴んでくる男の教師。

 

「上っ面だけのクソ教師に対しては上等だろ?」

 

「…………ッ! お前みたいな奴が何で成績が高いんだよ! ろくに努力も知らない様な子供が!」

 

「はぁ……、いいから離してくれよ、お前のせいで遅刻扱いになる」

 

 パシッと適当に教師の腕を弾き、俺は学校の中へと歩いていく。

 

「絶対後悔させてやるからな……」

 

 後ろの方からそんな言葉が聞こえてきた。

 

 本当……人と関わるのはめんどくせぇ。

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