9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
月明かりに照らされて、音もなく静かにそこで待っている人。
息を潜めるように必死で声を殺しているんだろうか。そんな事を不意に思う。
意味の無い思考を何度も繰り返し、そのどこか見覚えのある人の近くへとゆっくり移動する。
その後ろ姿はいつか見た少し小さな背中。すっかりと灰色に変わってしまっていたそのパーカーはいくら風に靡かれようが揺れ動かない。
白でも黒でもない。灰色。
そう……灰色。
「…………」
言葉が出ない。
なんて声をかければいいかが分からなかった。いや、声をかけたくはなかった。
返事が返ってこなかったらと思うと、怖くて怖くて仕方がないからだ。
そしてついに、その灰色に変わってしまった人の真後ろまでたどり着く。ここからじゃあ顔が見えない。
見たくない。
嫌という程、頭の中のアイツと似すぎているからだ。
背後からでも分かるほどに深く被ったフード。
そんなフードからもはみ出る長すぎる髪。
服のデザイン。あの時の、あの日の服装。それら全てが一致する。
試しにその灰色に触れてみると……やたら冷たく感じた。
どれだけの間こうして外にいたんだろう。どれだけの間ここで待っていたんだろう。どれだけの間………………!!
「遅かったのね」
それの背後から声が聞こえてくる。
「ああ……」
やっぱりそうなんだ。これは希亜も見えているんだ。この、
灰色になったゴーストを。
「香坂さんは…………?」
「消えたわ。私もその瞬間は確認できていないけれど、初めから誰もいなかったかのように……ね」
「そっか……」
ゆっくりと灰色に染まったゴーストの前に移動し、その場にしゃがみこむ。
その顔はどこか寂しそうだった。
「幻体でも……石になるんだな……」
「………………そうね」
「夜風に当たり続けたんだろ、もう随分と冷たい」
「……そう」
その瞬間、目の前の石像がパキッと音を立てて、ほんの少しずつヒビが広がっていった。
胸の辺りから徐々に身体全体に大きく亀裂が走っていき……四肢を分断するように割れてしまった。
そんな崩れた身体をそっと拾って、俺の真横に集める。
「何をしているの」
そして崩れたパーツを繋ぎ合わせるかのように次々に並べていく。
「蓮太……もう一度質問する。………………貴方は何をしているの」
「何か変わるかもしれない」
「もしかしたら元に戻る方法もあるかもしれない」
「まだ生きてるかもしれない」
「何とかなるかもしれない」
「夢なのかもしれない」
「奇跡が起こるかもしれない」
「助けられるかもしれない」
「まだ────」
その言葉を発した時、何かが俺を包んでくれた。
妙に生暖かい誰かが……俺の身体を動かし、視界を塞ぐように包んでくれている。
「まだ……」
「逃げてはダメ。貴方は心に受け止めなければいけない。彼女の……彼女にとって一番の理解者である貴方が、誰よりも負けてはいけない」
「負け……る」
「逃げても結果は変わらない。いまこの瞬間に貴方が事実から目を背ければ、彼女自身を貴方が否定する事になる。だから……」
まただ。また、俺は助けることが出来なかった。
兄貴の時と同じだ。結局全て口だけで、何も知らないまま俺は……
「止めてくれ……」
「止めない」
「離れてくれ…………」
「離れない」
「殺してくれ………………」
「死なせない」
「もう嫌だ。たくさんだ。これ以上苦しみたくない。悲しみたくない」
「耐えなさい。貴方が死んだら誰が彼女を供養するの。彼女を思い偲ぶ事が出来るのは…………貴方だけ」
「思った所で何も変わらないじゃないか。願った所で何も動かないじゃないか。俺は……何度大切な人を殺せば気が済むんだ……!」
だから言ったじゃないか。友達なんていらないって。
そんなカスみたいなものどうでもいいって。
だって、結局は消えるんだから。
「蓮太……貴方は何度、そう言って自分を責めてきたの。貴方は何度、自分に罪を被せてきたの。貴方は何度…………そう言って命を絶とうとしたの」
「…………」
「私にはわからない。過去に何があったのかも、今貴方がどんな思いを抱いているのかもわからない。けれど──」
スっと俺は顔を上げられ、希亜の姿が目に入る。
「
「だから……生きなさい」
「生き…………る」
「えぇ。貴方が、彼女の生きた証」
俺は……俺は………………
*(視点切り替え)
ゆっくりと彼から身体を離して、俯いたままの彼を思う。
私の知らないところで、彼はどんな辛い経験をしたのだろう。彼はどれだけの痛みを知っているのだろう。
思えば彼は常に不安定だった。おそらくは心の奥では誰も信用出来ていない、誰にも心を開いていなかったのかもしれない。
ただ一人を除いて…………
きっとこの痛みは、私じゃ消してあげられない。彼が一度も疑わなかった彼女なら…………可能性はあるけれど。
けれど……それも難しいでしょうね。
「──────ッ!」
その時、何か嫌な予感がした。
冷たい槍にでも貫かれているかのような感覚。思わず私は神社の屋根の上に視線を向ける。
すると────
不敵に笑う石化したはずの白い彼女がいた。
その目元はあの聖遺物の力を扱う証である紋章が現れている。
そして…………
その人物と目が合うと、私の身体は動かなくなった。
あなたは
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この枝の観測を続ける
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この枝を諦める