9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
あの時に使っていた瞬間移動能力。あれは間違いなく希亜と一緒にいた時に交戦した奴の能力だ。
地面を軽く蹴ってわざわざ身体を浮かばせていたし、何より消え方が似すぎている。
と、言うことは……能力を奪ったって事だよな。つまり………………、いやいや考えすぎだ。まだアンブロシアの線もある、簡単に決めるべきじゃないだろ。
えぇ……っと、とりあえず俺が持っている情報をまとめるか。まず、俺の幻体となった《黒》のゴースト。コイツは書き換えられた人格とは、現状で記憶などの共有はしていなかった。つまり、完全に別れてしまっている。それ故にか、肝心な記憶は全て抜け落ちているように欠けているようだ。
本人には出来れば思い出してくれとは頼んではいるが……正直それが出来ればラッキー程度に考えた方がいいだろう。
そして《白》のゴースト。コイツは未だに正体不明のオリジナルの幻体として活動している。そして記憶が抜け落ちる前の《黒》に、石化の犯人に近づけるのは自分がヒントだと言われた。つまり、アーティファクトの契約者は《魔眼》所持者という可能性が高い。
となると、オリジナルは《魔眼》《赤槍》《瞬間移動》《麻痺》の四種類の力を持っているってこと…………か? 多分。
オマケに石化の条件は一切不明。槍は攻撃の主体として使っている。瞬間移動はまだわかんねぇけど使われたら間違いなく面倒。そして視線を合わせると身体を麻痺させられる。
……どうやって勝つんだよ、これ。
いや、とりあえずは犯人の特定だな。それをしなきゃ取り押さえることすら出来ねぇ。
なんにせよ、ひとまずは《白》ゴーストの契約者を探すことからだ。可能性があるのは…………《司令官》とやら。多分香坂さんは違うだろう。あの性格の豹変はアーティファクトのモノと考える方が自然だ。
新海も充分怪しいが…………今のところゴーストとの接点がない。特定する証拠が不確定すぎる。
やっぱりまずは《司令官》からだよな。確か……香坂さんは《アガスティアの葉》で知り合ったとか言ってたよな? 俺もそれっぽい言葉でどうにかして誘い出せるだろうか?
本当は香坂さんから直接連絡してもらってから正体を暴きたいが……そもそも香坂さんが《魔眼》を持っていないと考えているだけで、《魔眼》所持者の味方の可能性は十分にある。
ユーザーの為の理想郷を作るなんて言っているやつだ、何かしらの同意がないと香坂さんも仲良くはならないだろう。
それに能力も不明だ。警戒は必要だな。
となるとやっぱりあのサイトで直接連絡してみるしかない……か?
それとどうしても無視できない事が一つ。それはイーリスと名乗る異世界人のこと。
決して姿を表さず、回りくどい方法で俺の命を狙ってきている訳の分からないやつだ。しかもそいつは俺の能力を欲しがっている。
それは何故なのか、どうして俺にこだわるのか、何も分からないが常に気を張ってないといけない。いつ殺されるかがわからないから。
さて……と、それじゃあとりあえずパソコンを────
「珍しく考え込んでるじゃねぇか」
起動しようとすると、俺の隣にテクテクと歩いてきたゴーストが座る。
そう、俺は今自宅に帰ってきている。なんだかんだで一番落ち着けるのは自分家だ。
「別に珍しくねぇよ、割と俺は色々と考えてるんだぜ?」
「もっと頭空っぽだと思ってた」
「ひでぇイメージだな」
「いきなり人の服を消そうとする馬鹿だと思ってた」
「いやその節は本当にごめんなさい、男の子の出来心だったんです」
誰だってそう思うよね? 姿を自在に変えられる存在を手にしたら一度はそう思うよね!?
「どうだか……。んで、どうすんだよ。この問題だらけの現状を、オレたちだけじゃ正直どうしようもないぜ? これ」
「そうは言ってもなぁ」
誰かに相談すると誰かを巻き込むことになる。俺は命を狙われているような立場だし……実際あの時に希亜を巻き込んでしまった。
そんなことは出来ればしたくないのが本音ではあるが……
「…………」
それに、いつ裏切られるかわかったもんじゃない。
「アンタの幻体になってさ」
唐突にゴーストが語りかける。
「アンタの経験してきた事や、アンタの辛かった事とかが不意に記憶として流れてくるんだよ」
「…………そっか」
「いつも感じるのは《悲しさ》だった。今この瞬間までに何度かアンタの事を知る事ができたけど……全部苦しかった」
「あぁ」
「一言だけ言わせて貰うけど、ずっと一緒だって言い出したのはアンタだぜ? もっと人を信用してみろよ」
信用……ね。
「アンタが繋がりを捨てねぇ限りは、一人にならないはずだぜ」
「要するに今までの事を忘れて仲間を作れって言いたいわけだ」
「寂しいのは充分わかったから、楽しいを作れって言ってんだよオレは」
まぁ……なんだかんだ言いつつもずっとゴーストを出しっぱなしだもんな、俺。
…………自分が気持ちわりぃ。
「そんな気分にもなれねぇつっーの。こっちゃあ5秒後にも殺されるかもしれないんだぞ? 何時誰から襲われるかわかんねぇのに楽しいなんて思ってられるかよ」
そう言ってふて寝。
ベッドにゴロンと寝転がり、そのまま目を閉じる。
「おい大将、食器洗いは?」
「明日する……もう寝させてくれ、疲れた」
「風呂……は入ってたな、歯磨きは?」
「全部済ませてる…………」
「……ったく」
ウトウトと意識が遠のいている中、おかんのようなゴーストに適当に返事をしながら襲ってくる睡魔に抗わずに力を抜く。
すると案外凄まじい速度であっさりと眠れかけ………………
カチャカチャと食器の音がする部屋の中でそのまま意識を失った。