9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
奇妙な関係、新たな出会い
ちゅんちゅんと小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
カーテンの隙間から差し込まれてくる陽の光を鬱陶しいと思いながら、身体を起こしたくなくてそのまま寝転がり続ける。
アラームもまだなっていないんだ、おそらくいつもの時間よりは早めに目が覚めてしまっているんだろう。
だったらこのまま寝てもいいはずだ。
妙に気だるい身体を動かして、今向いている方向とは逆側に寝返りをうつ。もちろん目を閉じたままだから視界は真っ暗闇。
そんな振り向いた先にある何かにしがみついて、再び睡魔に意識を渡す。
「すぅ…………すぅ…………」
なんか聞こえてくる。
寝る時くらいは隣人も静かにして欲しいものだ。しかも今は朝だぞ? 周りの人のことを少しは考えて────
……え? なんかおかしくない? そもそも俺はベッドにこんな抱きやすい形の枕なんて置いていない。顔のところは妙に柔らかいし、温かさもある。
てかそもそも壁を挟んで聞こえてくるような音じゃない。まるで、こう……真隣に人がいるような感じ……
でも俺は一人暮らし。もちろんこの家に誰かがいるわけでもないし、誰も泊まりになんか誘ったりはしていない。
可能性があるとするならば…………
恐る恐るゆっくりと目を開けてみる。きっと違う、多分違う、気のせい気のせい。なんて思いながら確認してみると────
「…………なんで?」
思わずそう声が漏れてしまう。だってそうだろ、何故か彼女が俺の隣で寝ているのだから。確かに色んなことがあって、ほんの少し仲良くはなったりしたが……コイツとは一緒に寝るような仲じゃない。
てかそんな記憶もない。ぶっちゃけそんな気もない。
だがそんな俺を気にしないようにそいつは眠り続けている。
つか、アレなんスね。幻体って寝るんですね。三大欲求は全くないのだと思ってたわ。
俺も立派な男の子。もちろん色々とこの状況には困る。困る……が。
どう対処したらいいのかわからない。今までにこんな経験にしたことがないのはもちろん、こんなに人に興味を持ったことがなかったから。どうしたらいいのかが本当にわからない。
起こした方がいいのだろうか? 騒いだ方がいいのだろうか? 謝った方がいいのだろうか?
てかさ、てかさ、冷静に考えたらこれって俺が無意識に能力を使ったって事だよな? 寝ている間に俺が? 《俺が》?
どんだけ寂しがり屋なんだよ気持ち悪い。
舞い上がってんのかね、誰かと一緒にいるってこのシチュエーションにさ。
あー馬鹿らし、さっさと起きよう。
…………
……
……
と、朝からそんなことがありながらもするりと受け流し、家を出る。
ちなみに寝ていたゴーストは、あんなことになっていた事実がバレる前に能力を解除した。というか解除しておかないとそろそろマジで殴られる。
元々アイツも戦闘狂なところがあるから、油断すればボコボコにされる。
まぁ……多分いつか記憶を読まれて怒られそうだけど。
とか何とか考えながら俺が向かっているのは学園ではなく駅前のパン屋。そう、前回せっかく向かったのに何も買うことの出来なかったあのパン屋だ。
今日はいつもよりも家を出る時間が遅れてしまった事もあり、こんな遅刻ギリギリであればあの行列はないだろうと考えた結果だ。
そして目的の場所へたどり着くと、案の定あの行列は見当たらない。どんな物が売っているのかと気になりながらも店の前まで行くと…………
『たまごパン』が最後の一つとして寂しそうに、ぽつんと置かれていた。
いやどんだけ人気なんだよ、他の商品はほぼねぇのかよ。つか逆になんでこれだけが一つだけ残ったんだよ。と思ったら横にも『たまごサンド』やら『たまごバーガー』やら色々と並んでいる。
…………たまご推しがすげぇな。
まぁしょうがない、あれだけの行列が出来るほどのパン屋なんだ、こんな結果になってしまうのも無理ないだろう。
そうして俺がそのパンに手を伸ばすと………………横からもう一人の誰かの手が伸びてきてぶつかりそうになった。
「ん?」
「むっ」
その誰かと声が重なり、隣を確認する、すると俺と同じ白泉の制服を着た赤髪の男が横に立っていた。
「あんたもこれが欲しいのか?」
「ああそうだ。この店の『たまご』パン……絶品だからな」
……んん? なんか喋り方が気になるんだが……ま、まぁ、人それぞれさ、そんなもんは。うん。
「絶品ねぇ……だったら買えよ、俺はまた今度食ってみるから」
事実売れているのは目に見えてわかる。結構本格的に興味が湧いてきた。明日ぐらいにはちょっと早起きして行列前に行ってみるか。
「む? 君はこのパンを食べたことが無いのか?」
「あぁ、だから明日にでも買ってみようかって思っててさ」
赤髪の男は「ふふ……」とニヒルな笑みを浮かべると、残っていたパンを手に取り、俺の手に優しく乗せてきた。
「だったら、君が食べるといい。この味を知らないとは勿体ないからな」
「え? あ、あぁ……」
なんだろう、この独特な圧は……。ちょっと近寄り難いぞ……?
「? どうした、私の顔に何か?」
「いや、なんつーか…………いいのか? 俺が買っても」
「構わない。君にもこの味の素晴らしさを体感して貰いたいからな。では、サラバッ!」
シュバッと無駄に格好をつけてくるりと身体を反転させ、テクテクと歩いている赤髪の男、ここで俺は理解することが出来た。
あぁ、コイツ厨二病だ。
と。
「なんか……なりきれないハルーシュだな……」
頑張って背伸びしてる感があるハルーシュだ。ちょっとダサい。
なんて思っていると、テクテクと歩いていた赤髪の男は、俺の言葉に反応するようにピクっと一瞬身体を止め、急旋回してこちらにツカツカツカツカーっと! 迫ってきた。
やべ、聞かれてたか……?
文句言われることを覚悟しながら、適当な言い訳を考えていると………………
何故かがっちりと両手を掴まれた。その目はどこかキラキラと輝いている。
「ハルーシュを知っているのかッ!!」
「はい?」