9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
ジュー……ジュー……
カンカンカンカン…………
「…………えいっ」
油の踊るフライパンの上で、手のひらサイズに丸められた合い挽き肉の塊。それをルンルンと鼻歌交じりの声の合間に、九條さんがひっくり返す。
トントントントン…………
レタスに……パプリカに……キュウリに…………生ハムにミニトマト。よし、とりあえずこんなもんだろ。
リズム良く野菜たちを切りながら、見栄えが良くなるように皿に盛り付ける。もちろんその皿の目立つ部分はスペースを空けて。
そんで味噌汁の方も…………うん。抜群だな。
ご飯は…………もう炊けてるな、上等!
「にしても悪いな、わざわざ料理手伝ってもらって……しかもメインの方をさ」
そう、俺は今九條さんと二人で晩飯の調理をしている。お互いに料理が好きだということもあって、話の流れで手伝ってもらうことになった。もちろん、タダでそんなことをさせるわけはなく…………
「私の方こそ……ごめんね? 私の分も用意してもらうなんて……」
「いいっていいって、気にしないでくれよ。手伝ってくれたお礼ってさっき言ったろ? せっかくだし一緒に食おうぜ」
会話をしながらも、流れを崩さずに食器たちを用意する。皿やコップはともかく……箸は流石に気にするかな? ここは割り箸にしとくか。
「変なことはしねぇからさ」
「ふふっ、竹内くんはそんな人じゃありません♪」
……えらい上機嫌だな、ハンバーグ焼きながら鼻歌を歌ってたし、何かいい事でもあったのかな。
なんにせよ、それだけの信頼が感じられるのはめっちゃ嬉しい。それだけにこの人は大切にしないと……と強く思う。
「できた〜」
若干間抜けにも聞こえる声で、九條さんは火を止める。どうやら作っていたハンバーグが焼き終わったようだ。
慣れた手つきでひょいひょいっと皿に盛り付けるその姿は、どこか母親の面影をも思わせられる。そんな記憶ないけど。
それからは二人で盛り付けられた料理を運んで、「いただきます」の号令の元、夕食の時間が始まった。
「…………うまっ」
早速手作りのハンバーグを一口食べてみるが…………女の子に作ってらもったという補正がかかっているのか、それとも単純に腕が凄まじいのか、とにかく美味かった。
柔らかく弾力のある噛みごたえ、噛む度に中から染みでる肉汁、そして…………これ、中身にチーズを入れてるのかっ!
それに……肉に紛れて細かく刻んであるピーマンを入れている。うんうん、これが絶妙なアクセントになって更に肉の旨味をひきたてている。
「米が進むな…………すげぇよ九條さん」
「私は凄くなんかないよ! でも……嬉しいです、ありがとう」
俺もそこそこ料理の腕に自信はあったつもりだが…………これはいい勝負……いや、下手をすれば負けてるかも?
うーん…………それはそれで結構悔しいな。
もっと味わって食べてみよう。俺との違いを見つけて、こういう味もあるんだなと頭と身体に叩き込まなければ。
「いやぁ、食えば食うほど思うよ。九條さん立派な嫁さんになれるな」
「おっ、お嫁…………さん……っ」
九條さんは、ボフッっと音が聞こえてきそうなくらいに顔を赤らめる。
……そんなに恥ずかしいこと言っただろうか?
「あぁ、なんか話してたら家事も出来るみたいだし、料理美味いし、気も遣えるし」
俺が褒め言葉を口に出す度に九條さんは、ボフッ、ボフッ! ボフッ!! と段階的に更に顔が赤くなる。
………………面白……。
「そ、そそそそっ、そんなこと────」
「しかも美人さんだろ? (おっぱいデカいし)優しいし、(おっぱいデカいし)頼りになるし、(おっぱいデカいし)勇気もあるしさ。尊敬してる」
おっぱいデカいし。
「〜〜〜〜────ッッ!」
「……? おーい、九條さん? 九條さ──ん」
フリーズし……た……? あ、いや違った。
九條さんの霊圧が…………消えた……!?
なんて言ってる場合かよ。
「…………はっ!」
「いや「はっ」じゃねぇよ……、なんだ? 褒め慣れたりはしてないのか?」
ぶっちゃけほとんどわざとですけどね。でも嘘なんかじゃない。そう思っているのは事実。
おっぱい含めて。
「もっ、もう! わざとに褒めてくれてたでしょ!」
「え? なんで?」
「顔がニヤニヤしてますっ」
「………………ふふっ!」
どうやら俺は無意識のうちに、この状況を楽しんでいたようだ。失礼だと分かってはいるけれど、どうしても九條さんをいじって遊んでしまっている。
「だって九條さん、いちいち反応が面白いんだもんっ! ちょっと、からかいたくなったんだ……! はははっ!」
「も、もう〜……!」
やや頬を膨らませて、ムーっとこっちを見る九條さん。けれどすぐにその顔は解れていって──
「ふふっ、でも、ちゃんと嬉しかったです」
「褒めたのはわざとだけど、本心ではあるからな? 素直に憧れるよ」
と、そんなこんなで楽しいと思える時間を、九條さんと共に過ごした。
本当……誰かと一緒にいるのって苦痛でしか無かったのに、こんな所を九條さんに変えられた。きっかけは些細な事だったけど、この人の心に触れていくことで、なんだか安らいでいくかのような気持ちにもなる。
間違いない、断言出来る。俺はこの人には完全に心を開いている。その扉は微かに開いただけだが、九條さんならその奥へと簡単に出入りできるだろう。
そんなレベルで。
「あっ、竹内くん、おかわりありゅからねっ」
「…………今、噛んだね」
「…………」
「噛んだよねっ」
「お……おかわりあるからね!」
「おかわり
「ゆ、ゆるして……」