9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「「ご馳走様でした」」
パンっと手を合わせて合掌した後、食器をまとめて台所へと運ぶ。
「洗い物は私がするから、竹内くんは食休みしてて」
その途中で、九條さんからそんな提案……? があった。
「え? いや、客はそっちなんだから九條さんがくつろいでてくれよ」
「いいから、私に任せて下さいっ」
そう言って俺の背中をグイグイっと押して、九條さんは扉の奥まで押し出す。
……返答する暇すら与えて貰えなかった。
既に洗い物を始めているのだろう、扉の奥から水が落ちる音と綺麗な鼻歌が聞こえてくる。
「まぁ……ああ言うなら、甘えとくか……?」
ボスンッとベッドに腰を下ろして、特にやることが思いつかないためボケーッと九條さんを待つ。
そういえば………………誰かに家事をしてもらうのって、何時ぶりだろう。
母親のその姿は、もう覚えてはいない。
父親の姿も、あまり覚えてはいない。
結構長い間一人だったしな。
タンスの上に立てかけている小さな写真立て。ふとそれを思い出し手に取って写真を眺める。
そこにはもう数年出会っていない父親と母親の姿、そしてあまりに幼い俺の姿だけ写っていた。
そこには…………兄はいない。
何故、わざわざこの写真を飾っているのかなんてのはもう忘れた。きっと、当時の俺がわざとに兄貴のいない写真を選んだのだろう。
……兄貴に憧れていたからだろうか、若干この子供が兄貴に見える。
一時期は完全に真似してたりしてたからな、髪型や口癖まで。結局やめたけど。
「…………?」
なんだろう……、この感じ。
なんか違和感がある。何かが…………違う。
この写真……………………何か…………
…………
「お待たせー、終わったよ、竹内くん」
音を立てて扉を開けた九條さんが、洗い物を終えた後にこちらの部屋へと戻ってきた。
「あ、あぁ。ありがとう、九條さん」
「いいよ、私が言い出したことだし」
まぁいいか、違和感を感じるなんて日常だし。
手にしていた写真をタンスの上に戻して、元いたベッドに再び腰を下ろす。
そして畳んでいたノートパソコンを取り出して、ブラウザを開く。理由は特にないけど、やることない時は大体ネットサーフィンしてたら時間が潰れるからな。
カチカチとマウスを動かしながらクリックを繰り返していると、あることを思い出す。
「そうだ……」
「……?」
横でいつの間にか画面を覗き見ていた九條さんが首を傾げている。てか……えっ!?
なんで急に横にいるの!? なんで!? なんで当たり前かのように並んで座るのッ!?
ま、まぁ……いいか……。落ち着け…………落ち着け…………
そのままベッドにゴロンとうつ伏せになる形で寝転がり、カタカタと検索欄に文字を打つ。
「適当にくつろいでていいからな」
検索しているのは……《アガスティアの葉》。そう、メビウスのファンサイトだ。
香坂さんから聞いたあの情報、嘘なんかじゃなければこのサイトに何かヒントがあるかもしれない。
《司令官》と名乗る人物について。
「じ、じゃあ…………失礼します……」
と、その時、俺の隣で掛け布団たちが少し波打つように跳ねる。
そしてほのかに香るいい香り。そして何よりも、それほど大きくはないノートパソコンの画面を見るんだ、となると…………
「あ、はい……失礼してください」
距離がかなり近い。
前もテーブルに置かれたノートパソコンを二人で見ることはあったが、あの時以上の……こう、悶々とする何かがある。
文字通りくつろいでいるのだ。二人して。
「あっ、これ……《アガスティアの葉》……、竹内くんもアカウントを作ってるの?」
知ってるのか? このサイトを……。なんて一瞬思ったけど、元々九條さんはアニメの制作側の人間なんだ、ファンサイトの一つや二つ知っててもまぁ……おかしくは無い……かな?
フェスの日も自分から立候補するような人だし、責任感とかそういう系はしっかりと持ってる人だしな。
それよりも…………
「「も」? 九條さん、このサイトでアカウント作ってたのか?」
「ううん、私じゃないよ。私はそこまでの勇気がなかったから」
まぁ、これ……なりきり掲示板みたいなもんだからな。耐性がない人が関わるべきじゃないだろうし……黒歴史にもなりかねん。
「ふ〜ん…………」
チャット欄を適当に漁ってみる。ふむふむ…………ほむほむ…………へむへむ…………
「これか…………」
そんな中で見つけた会話。
《司令官》という名前そのものは何度も何度も出てきてはいたが、俺が探しているのはそれだけじゃない。
誰かが能力について相談をしている部分だ。それがあれば香坂さんの言っていたことは事実になるから。
「《エデンの女王》…………あの人やべぇな」
「……?」
なるほどねぇ……確かに女王だな。多分だけど…………能力を扱った時は。
「ちなみに俺はアカウントなんて持ってない。でもなんでそんなこと聞いたんだ?」
「私たちも昨日からこのサイトを見ることにしたの、もしかしたら本物の《魔眼》を持っている人がいるかもしれないからって」
…………出来ることはやってみるって感じだな。つまりは《それ》をやらないといけないくらいには八方塞がりってわけか。
…………まだ新海が危険だということは十分に理解しちゃあいるが…………憶測だけじゃ何も生まない、変わらない。
実際に接触して、安心できるかどうかを自分の目で確認しなくちゃいけないな。遅かれ早かれ新海の件はどうにかしなきゃいけないんだ。
アーティファクトを持たない《ユーザー》。お前は一体何なんだ。新海 翔。
「俺…………もしかしたら《魔眼》の人物を特定出来るかもしれないんだ。多分だけど」
「えっ……!」