9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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猫様、気まぐれ故に

 

 なんか野良猫たちとじゃれあっていると、その光景に驚いたのか、希亜がボーッとこちらを見続けてくる。

 

 鞄まで落として。

 

「にゃー?」

 

 とりあえず手元にいる子猫の前足を優しく掴んで、手を振る動作をするようにクイクイっと動かす。ついでに猫の泣き真似をしながら。

 

 ぷにぷにの肉球が柔らかい。

 

 しかし、10秒ほど経過しても一向にその場から動かない希亜。まるで緊張でもしているかのように全身を硬直させている。

 

「いや……、ずっとそこで固まられても困るんだけど……」

 

「ね、ね、ね…………猫……様ッ!」

 

 いや猫様ってなんだよ、さっきはちゃん付けだっただろ。

 

「だから、とりあえずこっちまで来てくれよ。まともに会話すら出来ねぇ」

 

「…………、…………」

 

 バグってるバグってる。動きがおかしくなってる。

 

 ……しょうがない。このままじゃ埒が明かないし、可愛かったけどこの猫たちには離れてもらうしかないか。

 

「ほら、お姉ちゃんが座れなくて困ってるから、君たちはどっかに行きなさい。適当にその辺歩いてりゃ色んな人が────」

 

「そのままでいいッ!」

 

 あ、やっと反応した。

 

「そのままでいいつったって、座れないからそんなとこに立ちっぱなしなんだろ? だったらもうしょうがねぇじゃん」

 

「あっ、あっ……あぁ〜〜…………」

 

 抱き上げていた猫たちを地面に下ろし、どこか別の場所へと向かわせるように優しく手を仰ぐ、すると各々が「にゃあ」と返事でもするかのようにちりじりになってバラけてしまった。

 

 それと同時に聞こえてくる、明らかに残念そうな声を出す希亜。

 

「……?」

 

 どうしたのかを聞くまでもなく、その落胆っぷりは半端ない。もしかしたら猫と触れ合いたかったのかも? 

 

 なんて考えていると、いつの間にか鞄を拾っていた希亜が、とぼとぼとスローペースで俺がいるベンチに向かって歩き出し、さっきまで猫がうようよいたベンチの場所に腰を下ろした。

 

「私も触らせて欲しかった……」

 

 そして追撃の一言。さすがの俺もこれを聞いたら確信に変わる。

 

 希亜、猫好きなんだ……と。

 

「……悪いことしたな、まさかそんなに猫が好きだとは思わなかった」

 

「べ、別に私は────」

 

 否定をするのかと思えば、その途中で言葉が止まる。どうやら表面上とはいえ大好きな猫を否定するのも嫌なようだ。

 

 自分の中でそんな葛藤が生まれるくらいに好きだったのか。

 

「別に隠さなくてもいいだろ、好きなものを好きだと言って悪い事ねぇよ」

 

「私は…………」

 

 とそこが気がついた。あのお友達に置いていかれたのか、ベンチの影に1匹だけ子猫が残っていたことに。

 

 ソイツは毛繕いをしていたのだろう、身体を丸めてのんびりとしていたのだが、俺に気がつくとぴょんぴょんと軽々しくベンチを登ってきて、俺の膝上に陣取った。

 

「おい希亜、こいつどうしたらいい」

 

「また猫様を……!? 貴方……一体……!?」

 

 なんかよく分からない驚き方をしている彼女を横目に、堂々と俺の膝に君臨している子猫を撫でる。

 

 

「………………」

 

 

「……」

 

 

「………………」

 

 

「……」

 

 

 俺はなんて声をかければいいんだろう。ただなんとなく撫でただけなんだが、希亜にその光景を羨ましそうに目を輝かせて見られる。

 

 居心地が悪いぞぉ? 

 

「あの……よかったら撫でてみます……?」

 

「──ッ!?」

 

 俺の一言に大袈裟とも思える反応を見せる希亜。やっぱりそうなんじゃん。もう触りたくて触りたくてうずうずしてたんだろコイツ。

 

「で、でもっ、私如きが……?」

 

 え? え? どゆこと? ()()? なんでそんなに自分を下げるの!? 

 

「ふ、普通に撫でてもいいんじゃね?」

 

「でも……」

 

 なんてずっと言葉では遠慮して入るが、その身体はゆっくりと俺の方へと近づいていってる。

 

 なんだよお前、面白すぎかよ。

 

 そしてついに密着、猫からしたら急に足場が増えて驚いたことだろう。

 

 しかし、せっかく並んだ四本の足の内、俺の二本から動こうとしない。

 

 希亜の身体が若干ぷるぷると震えている。

 

 おーい、子猫さん? 空気を読んでくれませんか? 俺なんかよりも半端なく可愛がりたさそうな女の子が真横にいますよ? そっちの相手をしてやってくれませんか? 

 

 ここまでやって君が寄り添わなかったら、彼女メンタル壊れますよ? だって自分を卑下するくらいに君の事が好きなんだよ? 相手してあげてよ。

 

 なんて俺の願いとは裏腹に、猫すけはその場から動こうとしない。

 

 心做しか希亜の震えが激しくなってる気がする。

 

 このままでは埒が明かないと思い、子猫を抱えて無理やり希亜の膝の上に移動させる。

 

 もちろん脅かさないように優しくゆっくりと。

 

「…………、…………! …………ッ!」

 

 隣の女の子はもう興奮しすぎておかしくなりかけてる。さっきから言葉を発しない。

 

 そして俺に動かされ、とうとう希亜の膝の上に子猫が降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、すぐさまぴょんっと俺の膝の上に飛び乗ってしまう。

 

 …………流石にこれはフォローしなきゃまずい……よな。

 

 俺個人としては物凄く面白いんだけど、本人からしたらたまったものじゃないだろう。

 

 恐る恐る希亜の様子を確認してみると…………

 

 

 ちょっとだけ目に潤いが宿っていた。

新海 翔の恋人は?

  • 九條 都
  • 新海 天
  • 香坂 春風
  • 結城 希亜
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