9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
そういえば、前にも希亜を俺の家に誘ったことがあったな。俺から言い出した訳でもないけどさ。
あの時は……変なやつらに襲われて結局解散することにしたのか。アイツら…………今どこで何してるんだろ。すっかり忘れてた。
って……何か引っかかる。俺、何か大事なことを見落としてないか?
なんだろう、この感覚。
俺は何か大きなミスをしているような…………?
なんて疑問を抱きながら、歩き慣れた道を行き、自分の家に辿り着く。
「ここが俺ん家、とりあえず適当にくつろいでていいから」
ガチャりと鍵を開けて中へ入る。いつもの流れでカバンを定位置に置き、とりあえず客人を迎えるための準備を始める。
俺に遅れて希亜の声が聞こえてきたが……多分「お邪魔します」とでも言ったのだろう。
「奥の部屋で待ってて」
「……わかったわ」
適当なコップを出して、飲み物の準備を済ませ、それを運ぶ。
茶菓子などは生憎持ち合わせていないが…………まぁ大した問題じゃないだろう。特別なにかをする訳でもないし、特殊な関係性でもない。
そして希亜を待たせている1番大きな部屋に入ろうとすると…………《何か》が影となり、大きな山のように陣取っている。
そう、もっこりとした三角形のシルエットが見えるのだ。
何やってんだアイツ。などと思いながらガチャりと扉を開けると────
「…………」
「………………」
言葉がなかなか出なかった。
なんて言ったらいいのだろう……上手くこの気持ちを例えることが出来そうにない。
俺自身がこんな事を経験するのが初めてだということもあり、平然を保ってはいるが、文字通り言葉を失っていた。
「何やってんの……」
「蓮太を待っていた」
「いや……そうじゃなくて」
とりあえずテーブルに飲み物を置いて、その場に座る。
「なんで俺の布団を被さってるの」
さっきから俺が微妙な気持ちになった最大の原因、それにやっとツッコミを入れることが出来た。
そう、希亜は俺の布団を頭から覆いかぶさっていたのだ。まるで弁慶にでもなっているかのように。
あれって髪のセットとか崩れたりしちゃわないのだろうか?
「気にしないで」
「気になるだろ…………もしかして《匂い》の事、マジで捉えてる?」
何真顔で答えてんだよ。明らかな異様の光景をさも当然かのようにサラッと流すなよ。
「これで猫様とお近づきになれるなら……」
「だからなれねぇって」
とりあえずグビっと一口だけ飲み物を飲んで、話を切り替える。
まぁそうしたいのなら別に止める理由はないから。これはこれ、それはそれって割り切らないとこれ以上話が進まない気がしたからだ。
「まぁいい、とりあえずおさらいからだ。一昨日の夜の出来事、それは伝えたよな?」
「ええ、蓮太が『一人』で危険な人物と接触するため為に神社へと向かった」
……コイツまだ根に持ってるな。
「だから悪かったって……。その一連の流れで、俺はもう一つの能力を手にすることが出来た、それが────」
あの時のように能力を使ってみる。
自分の魂から引っ張り出すようなあの感覚で…………
「────おう」
「幻体の能力だ」
実際に目の前で能力を使わないと言葉だけじゃあな。信じるのは難しいかもしれない。
「つか大将、オレを呼ぶのはいいんだけどよ」
「あー、待て、言いたいことは分かる。だがあえてスルーしてやってくれ」
「ま、アンタがいいなら別にどうでもいいけど」
きっとこの弁慶のことだろう。そりゃそうだ、初見じゃないにしてもアレはどうしても一言言いたくはなる。
「どうやら本当に複数の能力を扱えるようになったようね」
「まぁな」
と話しているうちに、ゴーストもちょこんとテーブルを囲うように座る。
流石に出させておいて一人だけ飲み物がないのはおかしいと思い、自分のコップをゴーストに渡して、続きを話す。
「そんで、肝心の情報源の『香坂春風』さんには九條さん率いるあの三人組に調査を依頼してもらってる。そしてここからが希亜に伝えていない事だ」
未だに布団を取らない希亜と、何を言わんとしているかがわかっているゴーストは、二人して一応話の切り出しを待ってくれてる。
渡したジュースを飲みながら。
「今日、ウチの学園で新たなユーザーを見つけた。紋章が浮かんでいたから間違いないと思う」
「どういう能力だったの」
「それが……俺の憶測でしかないんだが、多分《雷》じゃないかと考えてる」
あの時の音。あれは間違いなく電気に関する音だった。そしてその電気を1箇所に固めるように放出すると、電気は変化し雷となる。
「もちろん《雷》とは言っても、どれほどの威力が出るのか、範囲はどれくらいなのか、制限はあるのかなんて事はわからないんだけどさ」
「《雷》…………厄介ね」
「厄介どころの話じゃねぇよ、下手すればオレたちじゃあ太刀打ちできないかもしれねぇ」
「ゴースト……」
太刀打ち出来ない……か。確かにそうだ。
「あの時に大将が感じ取った《静電気》、あれは間違いなく《幻影系》の能力だ」
「《幻影系》? ってどういう事だ?」
「前に《炎》の能力者と対峙しただろ? アイツの炎も幻影系だ。違和感ぐらいは大将も感じたはずだ」
あの時っていやぁ…………確か不可思議な炎だったな。燃え盛っていたにもかかわらず、焼け跡も何も無かった。
火力も全然無かったしな。
だからこそあの業火の中に突っ込むことができたんだが。
「あぁ……確かにおかしな炎だった」
「そこに実体が無いから、《燃えた》って事実が残らなかったんだよ。前に大将に槍をぶっ刺しただろ? あれと同じようなもんだ」
「確かに……あの時に蓮太は出血すらしていなかった。私たちを助けてくれた時も《痛み》は共有しなかったわね」
あの精神を攻撃する槍か! 確かにそうだった!
なるほどな…………
「あの《雷》は同じ性質だった。つまりは精神を攻撃する類のものだ」
「なら俺の能力で《反射》できそうだな」
あの炎は簡単に反射することが出来たんだ、あの速度にさえ気をつければ何とかなるんじゃないだろうか。
「そんな簡単に対処ができるのなら、苦労はないと思うけれど」
「ですよねぇ……」
普通に考えて無理だよな。人間の反応速度を明らかに上回ってるし。
でも何かしらの対処は必須……か。
…………
……
「とりあえずちょっと席を外す、すぐ戻ってくるから」
考えてると少し催してきた。ここは一旦トイレに向かおう。
「おう」
スっとその場を立ち上がり、部屋を出ようとしたその時、身体がガンっとタンスにぶつかった拍子で物が数個落ちてしまう。
「何やってんだよ……ったく」
「悪い」
ゴーストから言われる文句を流しながら、それらを拾おうとすると、あっち行けと言わんばかりに手をブンブンと奥へと振られる。
「いいからさっさと行ってこいよ、拾っといてやるから」
「そうか? 本当ゴメンな」
(視点切り替え)
「……ったく、どんくせェ奴だぜ」
ひょいひょいっと物を拾っていく中で、ついポロッと愚痴が零れてしまう。
ほんっと、アイツは一人にはできねぇ。
なんて心の中でブツブツと文句を言いながら手を動かしていると、不意に視界外からやけに綺麗な手が伸びてきた。
「いつもこうなの?」
わざわざ拾うのを手伝ってくれたのか、あの弁慶姿を解いてまで。
「いつもってわけじゃねぇけど……まぁ目は中々離せねぇな。…………あんがとよ拾ってくれて」
無駄に飾るように置いていた香水とかを元に戻していく。
アイツこんなもの使わねぇだろ、なんで持ってんだよ。
トントンと棚に物を並べていると、その作業の中で希亜が物珍しそうにあるものに手をさし伸ばした。
それは────
「…………この写真に写ってる子、蓮太に似てる」
昨日も蓮太が見ていたあの写真。オレの知らない父親と母親と
そこに蓮太の姿は無い。
「アイツには兄貴がいたんだ。そこに写ってるのは大将の兄ちゃんだな」
「いた。というのは?」
「…………大将には秘密にしてくれよ?」
本当はこんな事を勝手に言うのはダメなんだと思う。本人も忘れたいと願っているかもしれないこの出来事を思い出させるかもしれない。
それに誰にも言いたくない事かもしれないし、わざわざ人に言うべきことでは無いかもしれない。
でも…………オレは………………オレは……………………
「数年前に…………死んじまったんだ」
「……え?」
新海 翔の恋人は?
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