9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
君の選択は運命を変える
世の中は腐ってる。
それが俺が今まで生きてきた感想だった。楽しいことなんて何も無い。嬉しいことなんて特にない。本当に、無駄で虚無な人生。
でも、心のどこかで変えたいと思っていた。いや……変わったらいいなと思っていた。けれど、思うだけじゃあ何の意味も持たない。本当に成功する人間ってのは行動することを躊躇わない。だから現実が動き、結果が残るのだ。
テレビによく出る有名な人達。彼らは人知れずに努力を続けてきたんだろう。苦しくても苦しくても、時には弱音を吐きながらも歯を食いしばって努力した。だからこそのあの笑顔があるんだと思う。
それに比べて俺は違う、自分から行動することはなく、周りにある幸せを妬み、嫉妬し、周りを酷評することによって自分を保っているだけの雑種だ。
俺がさっき言ったこと、世の中は腐っている。これもその証だろう。
結局本心では変わる気などないのだ。嫌なことから目を背け続け、毎日を自堕落に生きる。そんな生活に飽き飽きしながらも、これが俺の人生なのだと思い込んでもいた。
そんな時に出会ったゲーム。9-nine-
アダルトゲームなど興味もなかったが、本当にただ何となく買ってみた。理由は時間が潰せそうだったから。シリーズ化している大作なだけあって、想定プレイ時間は半端じゃなく長かった。50~時間以上はかかったかな? まぁこれだけ時間をかけたのは多分俺だけかもしれないけど。
ゲームをプレイしていて感じたのは、キャラクターの意志の強さ。
何があっても諦めないという心。
俺にない、人としての固い意思に俺は心を奪われた。
もちろんギャン泣きもした。誰とは言わないが存在が消えてしまうその瞬間や、何度も何度も繰り返し絶望を経験する主人公。
それでも懸命に運命と戦う彼らを見ると……感情が昂ったりもする。
だが、結局それだけ、俺はいつも通りに動かず、何もせず、あの気持ちを忘れたかのように眠るだけ。
こんな人生つまらないと思っても、自害する勇気もない。
いや、こんなことを勇気とは言わないだろう。自害する覚悟もないのだ。
そんな中、俺は眠る。
泣くことで体力を消耗したのか、案外俺は夢の世界へと簡単に誘われるのであった……
……………………………………
「ハァイ、こんにちは。それともこんばんはかしら」
……ん?
聞き覚えのある声、そして聞き覚えのある音楽。この声って……さっきまで俺がプレイしていたゲームの……?
そんな俺の疑問に対しての答え合わせをするかのように、その声は続ける。
「カケルの世界の眼が不完全なせいでしょうね……。あなたを見つけるの、本当に大変なのよ。無事に繋がってよかったわ」
やっぱりそうだ。間違いない。これは俺がさっきまでプレイしていたゲーム。「ゆきいろ」のプロローグだ。
「さっき──あなたにとってはさっきじゃないかもしれないけれど──」
あの説明の様なものが延々と続く。
なんで俺は夢の中でまでゲームをプレイしなくちゃあならんのだ? そこまで俺が無意識のうちにこのゲームに惹かれていたのだろうか?
「ちょっと、あなた聞いているの? さっきから随分と呆気にとられているような感情を感じるのだけど」
……あれ? こんなセリフあったっけ? 似たようなセリフならあったような気がするけど……なんか引っかかる言い方だよな。
「というか、まず私の声が聞こえているのかしら。ここまで長々と話しておいて、全て独り言だった……なんて事は勘弁して欲しいのだけれど。聞こえているのよね? 聞こえていたら返事をしてちょうだい」
いやなかったな。こんなセリフはなかった。だってゲームの設定上ではプレイヤーからの声は聞こえない設定だったはず。だからシルエットで立ち絵が表示されていたわけだし。
「おかしいわね。朧気に戸惑いの感情を感じているのだけれど……、もう一度聞くわね。聞こえているのなら返事をしてちょうだい。ナイン。いえ…………レンタ」
──ッ!?
なんで「俺の名前」を言ったんだ!? しかも一度「ナイン」と言ったのにも関わらずにわざわざ取り消してまで、呼び直した!?
「なっ!? なんでゲームのキャラクターが俺の名前を知ってるんだ!?」
「げーむ? 何を言っているのかは知らないけれど、しっかりと聞こえているじゃない。ずっと独りで語りかけているのかと思ったわ」
「だってそうだろ!? これは俺が買ったゲームの中の話で……」
「よくわからないけれど、私にそちらの世界の専門用語で話されても伝わらないわ。それはあなたもよく知っているでしょう?」
一気に冷や汗が流れる。
で、でもあれだ! これは俺の夢の中の話なんだから、全てがゲーム通りじゃないのは当たり前、きっと自分の都合よく話を改変しているんだろう。
よし、そう考えたらなんか少し気が楽になってきた。どうせ夢の中なら楽しむだけ楽しんでみるか!
「あぁ……、悪かった。それで話の続きは?」
「だから、あなたにも協力して欲しいの。打倒イーリスの鍵になる9人目のアーティファクトユーザーであるあなたに」
随分と都合のいい展開ですね。あれかな? 9人目のプレイヤーに俺が成り代わった夢のお話かな?
「オーバーロードを使って……って事か?」
「そう。カケルとの同一存在であるあなただからこそ、新しい枝を作り出すことが出来るはず。オーバーロードの使い方は……わかるわよね?」
「あぁ。カーソルを動かして左クリックするだけだからな」
「…………。よくわからないけれど力を扱うことは出来るのね。だったらよろしくお願いするわ。レンタ」
その瞬間に、俺の目の前に現れるすっかり見慣れた選択肢…………?
『9-nine-の世界に移動する』
意識をその選択肢に向けると……
視界が渦巻きのようにグルグルと歪み始めた。
ちょっと気持ち悪い。
「ここで、吉報を待っているわ」
……………………………………
『輪廻転生のメビウスリング』ってアニメを知っているだろうか? 俺の住む街、『白巳津川』がスポンサーとなり、地域振興を目的として制作されたアニメだ。
『白巳津川』に残る伝承をモチーフにした超絶難解なストーリーは一部のアニメファンに強烈な印象を残し、結局何がしたかったのかよくわからないと、高く評価されたヤツだ。
ま、事実だけを言えば完全に地域振興の失敗例として日本の誇るアニメ史に名を刻むことになったのだが……お偉いさんは何を思ったのか、アニメ放送から2年が経過し、放送に合わせて無理やり行われた春のメビウスフェスは地元住民の圧倒的な不支持を無視して今年も開催されるのであった。
もっとも、結局は今年のフェスはお祭り騒ぎどころではなくなってしまったのだが。
その理由はついさっき起こった地震が原因だった。流石に俺も若干の焦りを覚えていたが、パニックになったと自覚した時にはその地震は呆気なく収まったいたのであった。
そんな中聞こえてくる透き通る声。
「皆さん落ち着いて、スタッフの誘導に従ってくださ〜い!」
アニメの中に出てくるキャラクターの衣装を身にまとった、なかなかにきわどい見た目のコスプレイヤーが数少ないフェスの参加者に向かって声を張り上げている。
彼女の名は「九條都」白泉学園内での随一の美人さん。そんでもってコロナグループの社長令嬢て大金持ち。そして超絶お淑やかっぽい性格。ゲーム以外でこんな人がリアルに存在するのかと目を疑うほどの完璧超人だ。
何故彼女の事を知っているのかと言うと、それは俺も同じクラスの同級生と言うやつだからだ。
ここで自己紹介を1つ。俺は白泉学園に通うふっつーの学生。名は「竹内蓮太」海外旅行に出かけたっきり全く帰ってこない両親を持つ、なかなかに見ない生活を送っている何の変哲もない人。
定期的に送られてくる無駄に大量の金を何とか節約しながら過ごしている苦労人さ。
適当なアパートに住む中で特におかしいと思うことは、両親以外に血縁者がいないのにも関わらず、4年前には既に両親は海外へと出かけていっていること。普通学生を1人にして置いていきます? ある意味虐待にでもなるんじゃないの?
なんて思いもするが、おかげで自由な時間が増えまくっているので深くは考えないことにした。
そんな俺が何故春のメビウスフェスに来ているのかと言うと……父親が大が着くほどのファンだからだ。地元のアニメだから〜とか言って見始めたらしく、1度見始めたら止まらないと、一時期大量のメッセージが送られてきた時もあった。
話を合わせる為に俺も一通り見てみることにはしたが……正直何が面白いのかが俺にはわからなかった。あれならまだ「何が嫌いかより、何が好きかで自分を語れよ!」で有名のあの漫画の方が別の意味で面白いと感じたものだ。
そして一通りの限定グッズを買い漁り、特に用事もないので俺は家に帰ることにした。
ちなみに俺があのクラスメイトのコスプレイヤーに話しかけなかったのは、極度の人見知りだから。
恥ずかしいし、面倒だし、どうでもいいから。
俺は昔からそう。いっつも一人で生きてきて、特に友達なんて作らないままいつの間にかこの歳まで過ごしてしまった。しかも不思議なことにどれだけの美人を目にしても、何故か一目惚れもした経験がない。それほどまでに他者に興味が無いのだ。
そんな俺だからこそ、きっとあのコスプレイヤーに話しかけたとしても俺の事なんて名前も知らないだろう。そもそもとして一部を除いてクラスの人間とも話していないし、まぁ興味無いんだけど。
なんて思いながらも家までの帰り道をフラフラと歩いていると、偶然近くで男の女が並んで歩いているのが目に入る。
カップルでアニメフェスに来るなんてなかなか面白い奴らもいるもんだ。なんて思いながらも横を素通りした。
「こ〜〜〜んなちっさいのに、八百円もした。味もふつ〜だし。コンビニのスイーツの方が美味いし。楽しみにしてた自分を呪ったね」
「あれ、グッズもついてたろ」
……なるほどな、それは言えてるかも。
すれ違いざまに聞こえてきた会話に共感しながらも、俺は構わずに前へと足を動かず。
「……ん? あれって」
「どしたのにぃやん」
「いや、なんでもない。多分クラスメイトかも? って思っただけ」
……へぇーそーなのかー
多分あんな反応を見せたってことはクラスメイトなんだろうけど……悪いが一切の興味が無い。
俺は独りで人生を謳歌しますよぉ〜っとぉ……