9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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天色の涙

 

 あれから何時間経過しただろうか、ただそれだけが気になっている。

 

 落ち着きをどうにか取り払う為に何かしらの会話をしてはいるが……各々が心のどこかで天ちゃんを心配していて、会話に入りきれていない。

 

 ちなみに何度も何度も新海が天ちゃんに電話をかけてはいるが、一度も反応がない。多分引き止められることを予想して、敢えて出ていないのだろう。

 

 チラッと窓の外を見ると、外はもう暗い。

 

「……やっぱり俺行ってくる! どうしても天が心配で……」

 

「何処に行くんだよ。天ちゃんは場所を言わなかったぞ」

 

「あ……、そうか…………」

 

 俺と九條さんもそうだが、それ以上に新海がソワソワとしていてどこか落ち着きがない。

 

「連絡を取ってくれないから……信じて待つしかない……よね?」

 

 ちびちびと何度も何度もドリンクを飲む九條さん。彼女も今すぐにでも駆け出したさそうだ。

 

「まぁ……な。何もなけりゃいいんだけど」

 

 昨日のユーザーの件もある。まだ俺の知らないユーザー達が蔓延るこの街で、女の子を一人にするのはまずかったな。

 

 存在感が薄いとはいえ…………見つからない確証なんてのはどこにも────

 

 とその時、俺たち以外にはもう誰もいなくなった店の中に誰かのスマホの着信音が響き渡る。

 

『ピリリリリリリッ』

 

「──ッ!」

 

 素早くスマホを取り出したのは新海。その顔はどこか焦り、どこか怒り、どこか安心しているかのような表情だった。

 

「天からだ!」

 

「天ちゃん!? 上手くいったのかな?」

 

 向こうからの連絡ということもあって、一気に緊張の糸が切れたかのように安堵する。

 

 少し肩の力が抜けたみたいだ。

 

「もしもし! 天、どうし────」

 

 何も無くて良かったと九條さんと顔を見合わせて笑っていると、その不自然な言葉のキレの悪さが気にかかり、思わず新海の方へと顔を向ける。

 

 その表情はさっきとは打って変わって何かに危機感を感じているかのようなものに変わっていた。

 

「新海……くん……?」

 

 九條さんが心配そうに声をかけるが…………もちろんそれに対しての返事は返ってこない。それはおそらく、新海がそれどころじゃあないからだ。

 

「お前は誰だッ!?!?」

 

 尋常ではない怒りの声。そしてこのセリフ。事態は悪い方向へと動いているようだ。

 

「新海、スピーカーにしろ。状況を知りたい」

 

 俺の言葉に新海はゆっくりと首を縦に振ると、耳から話したスマホの画面をタンタンっとタップし、テーブルに置く。

 

『私の名は…………そうだな、『司令官』とでも言っておこうか』

 

「「「────ッ!?」」」

 

 そのスマホの奥から聞こえてきた声、変な機会を使っているのかノイズがかかったかのように雑音が混じっていて聞き取りづらいが、おそらく男の声だ。

 

 それに声質を変えているのだろう、ハッキリとした人の声とは思えない。

 

『君だな? 彼女に私たちの事をコソコソ嗅ぎ回らせていたのは』

 

 明らかに天ちゃんじゃない。最悪だ……やらかしちまった! 

 

「天に何かしたのかッ!? 無事なんだろうなッ!!」

 

『まぁ待て、そう慌てるな。心配はいらないさ、()()()()()()まだ大したことはしていない』

 

 コイツ……なにか目的があるな。こちらに挑発するかのような言葉選びだ、要するにお前の反応次第では人質になってる天ちゃんに手を出すぞってことだろう。

 

 そして先程の新海の質問に答えるように、ある声が聞こえてきた。

 

『お兄ちゃん…………ごめん……っ』

 

 今にも泣き出してしまいそうなか細い声。

 

 恐怖に支配されているような弱々しい声。

 

 助けを求めている天ちゃんの声。

 

 それが聞こえた瞬間────

 

「天ッ! どうした!? 大丈夫かッ!?」

 

 すぐさま新海が声をかける。だがしかしその返事は貰えず、直ぐにあの男の声と入れ替わった。

 

『君はAFユーザーだな?』

 

「…………」

 

 下手な返事はできない。変に嘘をついたりすると、天ちゃんの身が危険だ。ここは言葉を慎重にえらんで…………

 

『沈黙は肯定と受け取ろう。おそらくそこにいる()()()もそうなのだろう?』

 

 ……チッ。聞こえてたか。

 

「だったら何だ」

 

『神社へ来い、白陀九十九神社だ。そこで話そう』

 

「おい! お前────」

 

『拒否権はないと思え、彼女が大切なのならば…………な』

 

「ぐっ────」

 

 そこで通話は切れてしまった。

 

『ツー、ツー』っと音が鳴るスマホを力強く握り絞め、新海は苛立ちと共に深いため息を吐き出す。

 

「まずい状況になった」

 

「そ、天ちゃんがまさか…………そんな……」

 

 電話の相手は間違いなくユーザーだ。本当に司令官と名乗る人物なのならば、より危険性が高い。

 

 俺の予想が正しけりゃ《魔眼》を持っている可能性が1番高いからだ。

 

 それに…………ゴーストという幻体がいる以上は数的有利もとることが出来ない。

 

 相手はゴーストを差し引いても三人、こっちも三人ではあるが…………一人は実質無能力者であり、もう一人はもし戦闘になった場合、ほぼ動けないだろう。

 

 しかも俺は防御型の戦い方しかできない。

 

「とりあえず新海、お前は神社へ行くべきだ。ほぼほぼお前が指名されたと言ってもいいしな」

 

「もちろん行くさ、このままだと天が危険だ! すぐにでも行かないと!」

 

「私も行く! 相手がユーザーなら、きっと役に立てると思う」

 

 ……そうだな、二人で行ってもらえればスピーカーにした言い訳をどうにかこうにか作ることが出来る。

 

 問題は…………その後だ。

 

「二人とも、俺も必ず行くから先に向かっててくれ」

 

「竹内くんは他に何かが!?」

 

「人を一人連れてくる。ソイツも味方と思ってもらって構わない、もし戦闘になってしまった時にソイツが入れば間違いなく形成は逆転する! 運がよけりゃこっちの勝ちまで持ってこれるかもしれない!」

 

 どちらにしろ俺たちの戦力が低すぎる。相手が何かしらの攻撃的な能力を持っていた場合、何も出来ずに殺されてしまう危険性もある。

 

 それに《白》のゴーストが相手にいるんだ、その事実だけで俺が自由に動けなくなるから……絶対に希亜は必要だ! 希亜がいないとこの喧嘩には勝てない! 

 

「そいつは信用できるのか? 竹内」

 

「あぁ、俺にとっての唯一心から信用している二人の内の一人だ」

 

 そう答えて、九條さんに一瞬視線を送る。新海に残りの一人はこの人だと伝えるために。

 

「…………わかった。とにかく俺たちは急いで現場に向かう。もしもの時は…………」

 

「その為の俺だ。いいから急いで行け!」

 

「う、うん! じゃあ後で!」

 

 バタバタと会計を済ませ、俺と新海達のチームで二手に分かれて大急ぎで走り去る。

 

 俺の向かう先は自宅。走りなんかよりももっと早い移動手段を扱う為だ。

 

 そして時間の節約の為に、走りながらもスマホを取り出して希亜に電話をする。

 

 するとワンコールで直ぐに出てくれた。

 

『もしもし……? 蓮太? なにか急いでいるの?』

 

「希亜! すまん! 非常事態だ! 詳しく説明してる暇もない、直ぐに俺と会えるかッ!?」

 

『非常事態? 一体何があったの?』

 

「知り合いがユーザーに攫われた! 今絶賛喧嘩を売られている最中だ! だから頼む! 希亜の力を貸してくれ!」

 

 俺があまりにも急いで端的に説明をしているからか、それとも著しいほどに息を切らしているからか、この緊迫した状況は直ぐに希亜には伝わったようで、希亜なりに受け止めてくれた。

 

「…………後で事情を説明しなさいよ」

 

「はぁ……! はぁ……! 助かるッ!」

 

 と、ヴァルハラの仲間からの承諾を受け、急いでバイクの準備を済ませて希亜の家までぶっ飛ばす。

 

 1分でも1秒でも早く天ちゃんを助け出す為に。

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