9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「ヴァルハラ・ソサイエティ……? 聞かない名だな」
「言った覚えはねぇからな! クソ電気野郎ッ!」
にしてもなんなんだ? この違和感だらけの現状は。
「蓮太……」
隣にいる希亜が俺に声をかける。
「フードの子、蓮太が言っていた人でしょう? 外傷が酷いわ」
「は? 外傷?」
意地でも視線を外さない。本当はすぐにでも後ろのみんなの安否を確認したいが…………それは一旦希亜に任せよう。
「唯一驚いている様子がない、きっと気を失っている。それにあの怪我の量…………惨いわね」
どういう事だよ、なんで《外傷》が残るんだ? アイツの能力は精神を攻撃するものじゃないのか……?
それに、ここに走って来た時は新海や九條さんと高峰には傷はなかったような……
「気を…………つけて……! 竹内くん……! あの人…………電気……を…………ッ!」
聞こえてくる九條さんの声、苦しそうな弱々しい声を力の限りに発しながら、自分の身ではなく俺の事を案じている。
「馬鹿やろう、自分の事をまず第一に考えやがれ」
「ヤーハッハッハッ! 実に面白い、確かにまず自分自身の命を大切にするべきだな」
……前に読んだ漫画にこんな笑い方の奴がいたな。
「噂には聞いているぞ、《反射》の能力者」
本当に心の底から楽しそうに笑っている名前も知らない電気男。その明らかな余裕の影で天ちゃんと香坂さんが怯えている。
クソ……どっちが先だ。天ちゃんを助けるか、後ろのみんなを助けるか、あの電気野郎をぶっ倒すか。
「ジ・オーダー、アクティブ…………パニッシュメントッ!」
とその時に俺の隣から技名を叫ぶ声が聞こえてくる。
そしてその声に続くように至る場所から無数の鎖があの男を縛らんと襲いかかるが…………
「ぬるいぞ…………小娘」
あの男を中心に《電気》の柱がグルグルと回る。そしてそれに当たった鎖は次々に粉砕されていった。
「なっ!?」
タメが短かったか? それとも能力を扱うだけで凄まじい疲労が出るんだ、その反動で威力が弱まったか!?
とにかく希亜の力が弾かれた!
「私を殺したいなのなら、もっと全力を出すべきだ。例えば…………」
そう言って、その男は人差し指を希亜に向け、ニヤけた顔でその指先を光らせる。
何か知らんが絶対まずいっ!
「
咄嗟に希亜の前に鏡の壁を作り上げる。するとその瞬間────
「百ボルト“
という声に合わせて、糸のように細い電気の光が一瞬で希亜に襲いかかった。
だか、襲いかかっただけ。肝心のその電気は俺の能力で反射され、どこか遠くへと飛んで消えた。
「危ねぇ…………ッ!」
「やはり厄介だなぁ、その能力」
先読みが当たって良かった。それがズレてたらあの電気は希亜の身体を間違いなく貫いてたッ!
それにアイツ、百ボルトって言ってたよな。百ボルトなんて生身で食らったら死ぬぞ……!?
「ヤーハッハッハッ! 後ろのゴミ達はその技ですぐ片付いたんだがな! 貴様は楽しめそうだ! ヤーハッハッハッ!」
……? なるほど。意外とアイツの言葉は信用出来ないのかもな。
一応みんな生きている。九條さんも俺に声をかけるほどの体力は残っているようだったし、最悪あれを食らっても簡単に死ぬことは無い……のかもな。
「だが…………貴様一人でどれだけ守れるかな?」
もう一度、男は指先を構える。そしてその方向は俺や希亜ではなく…………
「“
《白》のゴーストにあの細い電気が直撃。その瞬間に無理やり意識を戻らされたかのように目を見開きながら、《白》ゴーストはちぎれそうな声を発する。
「がああぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」
まるで獣のようなおぞましい声、その感電が終わると、プスプスプスと焦げたような音と臭い、そしてバチバチと電気が弾ける音が聞こえてきた。
「ゴーストッ!」
いても立ってもいられなかった。
敵ではあるが、アイツの守りたい人物がこんなことをされていることに怒りが抑えられない。
そして感情に身を任せ、《白》ゴーストの元へと走っていくと…………
「ヤハハ、いいのか?」
背後の方からバチバチと放電する音が聞こえてくる。
「仲間から離れても」
徐々にその音はデカく激しくなっていく。……が。
「想定済みだっつの!」
俺のもう一つの能力を解放する。希亜以外には見せたことの無いあの能力を。
「行けッ! ゴーストッ!」
俺の魂から抜き出てきたその黒い影は、風を切るような速度で希亜の元へと向かい、射程距離である2m以内に収めてから能力を使う。
「っだらぁ!!!」
突如として希亜の前に現れた鏡によって、さっきよりも激しく轟く雷を反射して弾き飛ばす。
よかった、間に合ったみたいだ。
「ったく……人使いが荒いご主人サマだぜ」
「貴女は……!」
「とりあえずは無事みたいだな、希亜」
そんな会話をする二人を横目に、《白》のゴーストを抱きかかえる。
「おい、おいっ! しっかりしろ! 大丈夫か!? 意識はあるかっ!?」
やや黒く焦げ染まった彼女に必死になって声をかける。
多分だけどコイツも幻体、つまり実体がない存在だ。本来なら肉体を傷つけない攻撃も、コイツにとっての肉体は精神、つまりこの手の能力者は苦手とする部類なのだろう。
だからこそこんなにも傷ついているんだ。
「お…………おま……え…………!!!!」
「意識があるならいいんだ……よかった」
彼女だって痛みはある、苦しみはある、死という概念が存在するかは知らないが、そんな苦しみは味あわない方がいいに決まってる。
「竹内…………蓮太……か……?」
「高峰、お前も無理すんな、全部終わったら色々と話したいけどな」
ここに倒れている人はみんなあの攻撃をくらったんだろう。喋ることが精一杯のように感じた。
「私は……君たちに謝らなければ…………!」
「いいから喋るな。あいつをぶっ飛ばしてから全部聞く」
そう返して再びあの男を睨む。
この胸から溢れ出る怒りの気持ちをぶつけてやりたい。
「私をぶっ飛ばす? やれるものならやってみろ、近づいたその瞬間に雷の恐ろしさを体験させてやる。ヤーハッハッハッ!」
「この……神モドキがッ!」