9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
だが実際どうする。あの神モドキをどうにかするにはどう動いたらいい。
アイツの性格を考えると、再起不能の状態の人にも遠慮なく攻撃する。それを防ぐには俺の能力が必須だ。
しかも中途半端な溜めの希亜の攻撃じゃあ簡単に弾き返されてしまう。つまりは極力希亜には力を貯めてもらわなくちゃいけない。それはつまり援護は期待できないってことだ。
となると、実質動けるのは俺と《黒》ゴースト。けど、この《白》ゴーストの状態を見るに同じ幻体であるアイツには守りに徹してもらった方がいいだろう。
でもそれじゃあ俺が下手に動くと、ここにいる高峰と《白》ゴーストを守れなくなる。アイツの射程範囲外だからな。
しかもあの神モドキに奇襲を仕掛けるにしても、速度が足りない。どう考えても俺が近づく間に勘づかれて誰かが攻撃されるだろう。
クッソ…………俺に遠距離攻撃があれば……
って無い物ねだりをしてもしょうがねぇだろ! 今俺たちが出来る最善の策を探すんだ。あの電気バカが油断しているうちに!
「どうした? 私をぶっ飛ばすのではなかったのか?」
「バカ正直に向かうわけねぇだろ、クソ厨二病が」
さっきからコイツ痛々しいんだよ、見てるこっちがキツいわ。
「そうか……ではわかった。私はここで3分待とう、その間にゆっくり作戦会議でもするがいい」
「…………は?」
俺たちを完全に舐めきった態度で、電気バカはその場に座る。もちろん俺たちが乱入してから一歩も動いていない為、その近くには天ちゃんもいる。
「なんならそこの女が相手になるぞ? ヤハハ」
「────ッ!」
呑気に笑いながらそう指図する相手は香坂さん。
今は……あのモードじゃないのか、困惑した表情でオドオドとしている。
「……?」
おかしい、あの言い方はまるで、香坂さんがアイツの味方のような発言だ。
「早く前へ出ろ、女」
でもそれにしちゃあ、あの電気能力者は香坂さんには随分と高圧的な態度だ。仲間って感じはしない。
「は……………………はい………………」
ガチガチと身体を震わせて、脅されるように言いなりになる香坂さん。ゆっくりとその足で数歩だけ歩いてきて、俺たち一人一人を見ていく。
やっぱり何かがおかしい。これは香坂さんの意思じゃない。
「うぅ……………………! …………!」
声を必死に殺している。今にも泣き出してしまいそうだ。
そんな彼女の後ろで、退屈そうにあの男は座り続ける。どうやら本当に俺たちで遊ぶ気満々らしい。
その隙に両手で《白》ゴーストを抱え上げ、ひとまず新海と九條さんが倒れている場所へと移動する。高峰も連れてこようとしたが、アイツはアイツで少しずつ詰め寄っていたようで、何とか《黒》ゴーストの能力範囲内にギリギリ入り込んでいた。
これでとりあえずはゴーストがみんなを守ってくれる。
じゃあ次の問題は…………
「香坂さん、道を開けて貰えないか?」
「いえ…………あ、あの………………その………………」
彼女の様子がおかしい事は十分にわかってる。きっとこの戦いすらも苦手なんじゃないかとも思う。
そして明らかにあの男の言いなりに動いていることも。
「大丈夫、別に香坂さんを疑ったりなんかはしてないから。ただそこは危ない、だから……ゴーストの後ろにいて欲しいんだ」
「…………」
「俺を信じて」
俺は構えない。例え最悪の場合、自分の中の恐怖心が勝ってしまって俺に攻撃してこようとも。
彼女は守るべき対象だからだ。
《魔眼》のユーザーならば、あんな雷オタクの言いなりになんかならないだろう。
一瞬でも疑ってごめんなさい。
「どうした? 早く私を楽しませてくれ。1分が経過しているぞ?」
「……!」
奥の方からあの男の声が聞こえてくる。そして香坂さんはあの男の声を聞く度に何度も何度も恐怖で声を竦める。
そして……香坂さんと目が合った。
その目からは色んな感情を感じる。申し訳なさ。どうしたらいいか。恐怖。
全部俺の確証もないただの直感だが…………その目からは助けを求められているような気がした。
そしてついに…………
「に…………逃げて下さいっ、こ……この……人は危険で────」
自分の口でそれを言った。そう。アイツの命令に背いた。
俺たちの身を案じて。
「そうか、従順な生よりも無惨な死を選ぶか、女」
俺の方から見える《雷》。さっきまでの攻撃とは違ってやたらと溜めが長い。それだけで次に襲いかかってくる攻撃の威力に恐ろしさを感じた。
「死なせるかよ……ッ!」
その溜め時間の間に香坂さんに詰め寄り、どこから攻撃がきても対処できるようにしっかりと片手を彼女の胴に回して掴む。
いや、このままじゃだめだ! せめてもっと遠くへいってコンマ1秒でも余裕を持たせないと!
「では、さらばだ。
バッ! っと空にむかって上げられた腕が俺を……いや、香坂さん目掛けて振り下ろされる。その瞬間に空高くから太い雷の柱が俺たちの真上へと降り注いできて…………
「クソ────」
その瞬間に俺は横腹を強く蹴られる。
身体の半分くらいまでにめり込んだその足は、痛みを感じる前に俺と香坂さんの身体を軽く吹き飛ばす。その蹴りが襲ってきた方向に視線を向けると…………
「ったく…………。マジで世話のやける奴だな」
「ゴース──」
「勝てよ? 大将」
その言葉がかき消されるように雷音が激しく轟く。
蒼白い光の集合体に身体を激しく叩きつけられ、悲鳴の一つも聞こえない。
あまりにも突然の事で幻体の能力を解除することが出来なかった。
「ゴーストォッ!!」
叫ぶ声も虚しく、返事は返ってこない。
その雷光が収まると、その場所には黒い影が突っ立っている。
その影へと希亜が駆け寄って必死に声をかけているが……俺のところまでは声が聞こえてこない。
「ヤーハッハッハッ! 泣けるじゃないか! 自分の身を投げ出して他人を助けるなど簡単には出来んぞ? ヤーハッハッハッ!」
「…………」
許さねぇ。
許せねぇ。
「ふざけんなよ…………」
どこからともなく音が聞こえる。ピシピシとまるで何か割れやすいものにヒビが入っていくように。
気がつくと、俺の手のひらの紋章は今までに見た事ない程に強力な光を放出していた。
力の使い方がわかる。更に頭の中に入り込んでくる。
「…………ざけんなぁぁぁぁッッッ!!」
怒りを解放するように、俺は目の前の《空間》をぶん殴る。すると殴られたその空間はますますヒビが広がっていき、そこを中心に砕けきってしまった。
そしてその破片が辺りへと散らばっていき、無数の鏡となって飛び回る。
「おや? なんだ、その面白い能力は。そんなもの報告にはなかったぞ?」
まずは安否の確認だ! 俺の幻体とはいえ全てがわかるわけじゃない!
俺は香坂さんを抱え上げ、無数に散らばる鏡の一つに飛び込む。するとするりと鏡の中へと入り込み、そのまま《黒》ゴーストの近くの鏡の欠片から飛び出した。
「あ…………あれ……? さ、さっきまで私………………」
香坂さんは俺の能力にまだ対応しきれていないようだ。
「とにかくここにいてくれ、それと…………ゴーストたちを頼む……」
ゴーストは身体を燻らせ、意識を失っていた。
心臓こそ動いちゃいるが、完全にやられてしまっている。
「精神が追い込まれて能力が進化したのか? それでも貴様如きが私に攻撃など────―」
不意に頭に流れ込んだ言葉。聞いたこともない異能力の名前。きっとこれが俺へ急激な変化をさせたのだろう。
「《オーバーフロー》」
「なに?」
「俺も知らねぇよ、興味もねぇしどうでもいい」
そう、そんなことはどうでもいいんだ。俺は。俺は────ッ!
散らばった鏡の欠片を経由して、あの雷能力者の目の前に移動する。そして……
「速────ッ!?」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!」
力の限りの全力で