9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。 作:紅葉555
「…………痛っ」
「我慢してね、変なところに当たっちゃったりしたら大変だから」
「はい」
ゴーストからの激しい暴力によって新たに傷口ができたり、手当てしていた場所が悪化したりで余計な傷を負った俺だが、なんだかんだで優しくしてれてる九條さんに消毒液を塗って貰っていた。
「みゃーこ先輩優しいっすね〜」
「それは俺も思ってた、まさかあんな戦いの後にあの時よりも激しく蹴られるとは思わなかったっす」
ぶっちゃけ今の俺の怪我の半分はゴーストから食らった気がする。
「テメェが悪ぃんだろうがッ! ……二度目はないからな」
「はい、すみません」
俺だってああしたくてやった訳じゃないのに……
「そんでエロガッパ先輩はもう大丈夫なの?」
「エロガッパ先輩はやめて? 天ちゃん。それはすっごく傷つく。あと表現が古い」
「エロ内先輩の体の調子は────」
「だーかーら! エロを付けるのをやめろぉ! なんだよ! 悪かったって言ってんじゃん!」
猛反省してるから! つか俺だけが責められるって納得いかないんだけど!? 明らかにみんな俺の事を放置してたじゃん!
「つかよ……俺のことはどうでもいいんだ、俺が気になってるのは…………ゴーストお前はどこか身体に不備はないか?」
どうしてもあの時の傷が気になる。
何故《雷》の能力で焦げたのか、それにこの場にはいないけど《白》ゴーストの怪我もそう。なぜ幻体である彼女が傷ついたのか。
「別に問題は…………ねぇよ」
「…………」
見た目の傷は全くない。でもこれはきっと俺がそうイメージしたからだ。
いつもの感覚で傷一つない身体を創ったからだろう。反応から察するに…………
「休むか?」
「…………あぁ」
表情は辛そうだ。きっとさっき大暴れしたのも彼女なりの気遣いだったのだろう。敢えて普通を演じることによって俺を安心させたかったのかもしれない。
「わかった、ごめんな」
最後にそう言って能力を解除する。すると彼女は霧のようにスーッとその場から消えて、俺の魂へと戻っていった。
「なぁ竹内。色々と話しておきたいことがあるんだが…………そろそろいいか?」
そう俺に語り掛けてきたのは向こうチームのリーダーである新海。さっきから気になってはいたんだが窓の外が暗い。あの日も外は暗かったから……おそらく俺は一日は寝てしまってるんだろう。
悪いことしたな。
「あぁ」
「て言ってもどこから話せばいいか…………ちょっと説明することが多くてさ」
ポリポリと頭を掻きながら言葉に悩む新海に、とりあえず俺が気になっていることを質問する。
「みんなは怪我とかはないのか?」
パッと見は全員意外とケロッとしているけど、あの攻撃は精神を傷つけるのが目的の能力、なにか身体に異常が起こっていてもおかしくは無い。
「私たちは……大丈夫。でも、竹内くんと新海くん、それに高峰さんは身体への反動が少し大きい……かな?」
答えてくれたのは九條さんだった。その表情はやや暗い。
「特に酷いのは竹内くんだった。あの夜からもう二日も経過してるんだよ? ずっと目を覚ましてくれなくて…………心配だった」
「二日……!?」
今にも泣きだしてしまいそうな声で震える九條さんを宥めるために、感謝の意を込めてポンポンっと肩を叩く。そしてその後に偶然目が合った希亜にもう一度聞き返した。
「二日って……」
「私たちが何とか生きながらえたあの日が4月の24日、そして今は4月の26日……つまり今日で二日目の夜って所ね」
「そんなに経過してたのか」
「昨日までは中々この場の全員が起き上がることはなかったけど…………蓮太は特に長かった。貴方だけだったのよ、昨日目を覚まさなかったのは」
「…………心配かけたな、悪い」
「別に」
なんだか希亜の態度が素っ気ない。なんだろ……初対面の時のような冷たい対応だ。
こりゃ本格的に怒らせちまったかもな。下手をすると嫌われてるのかも……
なんて思っていたら一言だけ、聞こえてきた。
「生きてくれているのなら……それでいい」
「…………あぁ」
考えるべきことは山ほどある、対処すべき問題も沢山ある。けれど、俺はこんな仲間をもてて良かった。
絶対に失わせない。
「なんていうか……やっぱり先輩、フードの人とそっくりっすよね。名前なんだっけ? コールド?」
「ゴーストだろ、なんで冷えてんだよ」
何気ない新海兄妹の会話。最初は特に違和感を覚えなかったが、ここに来て不自然なことに気がついた。
「あれ? なんで二人はゴーストのことを知ってるんだ?」
「それは……申し訳ありません。
「香坂さん……」
その瞬間に頭によぎったのはあの光景。ゴーストが助けてくれる直前のあの瞬間。
「いや、それならいいんだ」
もっと上手く助けられただろう。もっと誰も傷つけずにやり過ごせただろう。ホントみんなには申し訳ない。
「ねぇ、蓮太」
そこで不意に声をかけられる。
このメンバーで俺の事を名前で呼ぶやつは一人しかいない。
「どうした? 希亜」
「私たちの敵は、石化の能力者だった」
「うん」
「けれど期待した情報は得られず、それどころか同じ危険度を持つ影の刺客が現れた」
「だな」
「強大な敵に対して、私たちは小さすぎる。ただ一人の狂気すら止めることが出来なかった。私たちは…………弱い」
そう……だな。
あの瞬間は、俺たちだけじゃどうしようもなかった。全員の力を合わせてやっと一人を追い込んだと考えると……これから先のことを考えたくもない。
「だから……力を合わせようと考えている。私の能力は、正直無敵だと思っていた。私と貴方が合わさればどんな闇も振り払えると確信していた……」
「希亜。そう俯くな、言いたいことはわかったらあとは俺に任せろ」
珍しい。希亜が人前で弱みを見せるなんて今までじゃ絶対なかった。
誰よりも強くあろうと振る舞う姿が印象強いからか、違和感しかない。もちろんそんな時も必要、心の逃げどころは絶対にあった方がいい。が。
「ええ、ごめんなさい」
「いいって」
そうしてベッドに座っている俺の隣に歩いてきて、ゆっくりと並ぶように座った。
「じゃあ……俺が知ってる大体のことはみんな理解してるって解釈でいいのか?」
そう質問すると、そこでやっと高峰が口を開いた。
「あぁ、あらかたの情報は彼女から聞いた。そのつもりで構わない」
「そっか」
希亜が言わんとしようとしていること、いつもなら率先して彼女がリーダーとして話をまとめてくれるんだろうが……とてもそんな精神状態では無いだろう。
「俺たち《ヴァルハラ・ソサイエティ》の敵は石化のユーザーだった。街を脅かす悪を許せないからだ。そしておそらく、あの雷野郎の仲間に目的のユーザーがいると思う」
この言葉を聞いた新海も、俺に合わせるように口を開く。
「俺と九條、そして天の目的もそうだ。《魔眼》を回収して、アーティファクト事件に終止符を打つこと。これが目的。そしてあの二人組を見るに……多分まだ他に危険なアーティファクトを持つ仲間がいるはず」
そして最後に二人で見つめる先は高峰。
「我ら《リグ・ヴェーダ》の野望は、ユーザーの理想郷を創ること……だった」
リグ・ヴェーダ。そういや俺と希亜が乱入してきた時もそんなことアイツが言ってたな。
「AFを所有する我らが異分子と認定され、世の中から排除される未来を見据えての答えだ。だが…………今や状況が大きく変化した」
「形は違うが、事実として我々は未知の組織から襲撃を受けている。目的は定かではないが…………問題は山積み、正直私とゴーストとエンプレスでは手一杯なんだ」
俺たち男三人は、互いに視線を合わせてその場を立ち上がる。
そして一歩、また一歩と歩いていき、三人が向かい合うように立つ。
「我らの敵は同じ」
「各々はまだ未熟だが」
「強大な敵に立ち向かうには、対策は一つ」
俺は新海に手を伸ばし、新海の腕を掴む。そして新海は高峰に手を伸ばし、高峰の腕を掴む。高峰は俺に手を伸ばし、俺の腕を掴む。
片手で作られたトライアングルをがっちりと固め、あるひとつの目的の為に、強く決意を抱いた。
だから俺は口を開く。
「俺たちはそれぞれ、前には色々と腹の探り合いをしてたけど……この先にいる敵は同じだ。せっかく同じ方向を向いている者同士がバラバラに動いちゃ意味がねぇ」
三人の腕を掴む強さがギュッと強くなるのがわかる。
もう既に俺たちの心は重なった。
「いいか、俺たちは同士だ。抱えている問題は死ぬほどあるが、俺たちなら全てを越えられる」
「こんな絶望に押しつぶされるなッ! 全員目的を果たすんだッ!」
「「あぁッ!」」
「ええっ!」
「うんっ!」
「「はいっ!」」