9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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3人目

 

「それで…………散々格好つけたわけでありますが、具体的には何すんの?」

 

 天ちゃんの何気ない一言で、その場のみんなが黙りこくる。そりゃそうだ、だって何したらいいかわかんないんだもん。

 

「何ってお前、そりゃあ…………何すんだ?」

 

「え、あんなにやってやんぜ! 的な雰囲気だしといてそれなの? にぃやん」

 

「うっせーな! 今のは気持ちを合わせるべきところだろーが!」

 

 なんか……もうこの兄妹ケンカにも慣れてきたな。

 

「ま、まぁ……とりあえずは今の俺たちに足りないものを補いつつ、アイツらの捜索って所じゃないか?」

 

「足りないもの……ふむ……足りないもの…………か」

 

 高峰を初めとした各々が、色々と頭を悩ませる。

 

 落ち着いて考えると……あの時に俺に足りなかったのはなんだろう? 平常心? 強さ? 対応力? 

 

 考えれば考えるほど迷走していっている感はあるが…………

 

「そうか! わかったぞっ! 今の我々に必要なものが!」

 

「んだようるせぇな高峰」

 

「いや済まない、真実を理解してしまってつい……な」

 

 なんだよそれ、普通に閃いたって言えよ。

 

「ズバリ! 我々に足りないものは決定打だっ!」

 

「決定打?」

 

「そうだ! 私の真神流のような《技》を身につけるべきだ!」

 

 真神流……あぁ、あの厨二チックな攻撃か。

 

 要するに攻撃手段を身につけろってことかぁ……まぁ、うん。わからなくもないが……

 

「そんなこと言ってもなぁ…………」

 

「なぁに心配は無用だ! 竹内蓮太。君の蹴りは見惚れるものがあったぞ?」

 

 ……認めるしかない。俺はあの時に人を殴り、人を蹴った。

 

 封印したはずの暴力だったが…………あの時はやらなきゃいけなかった。それに、これからも。

 

 もちろん昔とは違う、殴らなきゃ、蹴らなきゃ、大切な人を守れないから。

 

「かもな」

 

 やや愛想の無い返事を返してから、その場をスっと立ち上がり、新海に許可をとってからベランダに出る。

 

 理由は一度頭を冷やしたいからだ。

 

 俺の悪い癖でもあるんだが、一度ネガティブなことを考えてしまうと、ずっとそれを引きずってしまう。

 

 そんな考えを改めるには、こうやって夜風に当たるのが一番だ。

 

 考える事は山ほどある。

 

 もちろん俺はまだ何も知らない。さっきは同士だなんて言ったけど、あれは希亜が協力するつもりだったからみんなを信用しただけ。

 

 アイツがそういう決断をするってことは、少なくとも敵じゃないと判断したんだ。危険はない……と。

 

 そんな時、ガララっと後ろの窓が開く音がした。

 

 誰かを確認するまでもなく、その人は俺の腕にゆっくりと寄り添い、ピタリと肌と肌がぶつかり合う。

 

「このような所で何を悩んでいらっしゃるのですか? 蓮様」

 

「香坂さん……」

 

 なんで急に俺の腕にしがみついてきたんだ? いくらなんでもちょっと大胆過ぎませんか? 

 

 でも離れてくださいとは言えない俺がいる。だって…………うん。おっぱい当たってるし。

 

 気にしてないフリをしよう。

 

「そりゃ悩むよ。掴んだと思った情報はハズレで、《魔眼》を追い詰めるどころか、新たな危険人物がでてきた。しかもそいつらは俺たちのように仲間を作ってると来たもんだ」

 

「…………はい」

 

「幻体であるゴーストになぜ傷を残せたのか、アイツらが天ちゃんを狙った理由は何なのか、そもそもとしてこんな事をする目的はなにか。悩みのタネを考え出したらキリがない」

 

 それに現状で出来る対策だって思いつかない。急な襲撃に対応できるかも分からない。

 

 頭が痛くなる。全然冷静になれてないな……俺。

 

「蓮様……」

 

 さっきまで余裕綽々といった雰囲気だった香坂さん(エデン)が、言葉を重くして俺を呼ぶ。

 

 どうしたんだろう。こんなに不安そうな顔をして。

 

 何故だろう。さっきから小刻みに震えているのは。

 

「どうした?」

 

「申し訳ありません…… (わたくし)、皆様に……そして蓮様に謝らなければならない事があります」

 

 俺の腕を握る手に、ほんの少しだけ力が籠る。

 

 そうだ。あの時に気になってたことがあった。今は無事だからいいんだけど……

 

「……聞かせてくれ」

 

 きっと本人からしても、伝えることが怖いことなのかもしれない。躊躇うってことは、それに罪を感じている何よりもの証拠だ。

 

 告白しようとしているのも、このままでは何かがマズいと思ったからだろう。

 

 それに皆様にってことは、まだ誰にも伝えていないってことだ。

 

 だったら黙って話を聞いてあげた方が彼女も楽になるだろう。一人で抱えたままだってのはかなり辛いから。

 

「一昨日の夜です。(わたくし)達が白陀九十九神社で司令官さん達とお話しておりました」

 

 うん、その話し相手のことを知ろうとして、天ちゃんが偵察に行ったんだよな。

 

「あっ、司令官さんの名前は高峰さんってことはもうご存知ですか?」

 

「……いや、知らなかったけど、大体察しはついてたから大丈夫」

 

「では、高峰さんで。あの時に現場にいらしたメンバーは、(わたくし)と高峰さん、そしてゴーストさんでした」

 

「招集の令を受け、三人が集まっていた時に天さんがやって来てたみたいなんです」

 

 ……みたい。ねぇ。

 

「ですがすぐにゴーストさんに目をつけられ、天さんは捕まってしまいました」

 

 と、言うことは…………やっぱりあの電話の主は高峰か。ま、さっき香坂さんが言ってたけど。

 

「…………それ……で」

 

 そのタイミングで、話しづらそうに言葉を詰まらせる香坂さん。

 

 そこから先は俺の知らない出来事だ。俺と希亜が神社へたどり着いた時にはほとんど壊滅状態、二人を除いて既にやられていたんだから。

 

 けれど俺が言葉をかける間もなく、自らの意思で彼女は言葉を紡ぐ。

 

(わたくし)が……呼んだんです。あの…………《雷》のユーザーを…………」

 

「え…………」

 

 まさかの発言。

 

 いや、落ち着いて考えてみれば、その可能性も十分にあった。だってあの時はあの男の言いなりになっていたから。

 

 でも……! 

 

「理由があったんだろ?」

 

「え……?」

 

「だから、香坂さんがそうしなきゃいけなかった理由があったんでしょ?」

 

 今、全てを俺に伝えようとしてくれている時点で、俺の中では十分に信頼出来る人だ。

 

 だから俺たちを嵌めるためにそんな行動をしたなんて思いたくもない。

 

「あ…………あの……………………」

 

 ドクンッと心臓が大きく鼓動するような感覚とともに、一瞬で香坂さんの雰囲気が変わる。

 

 絡んでいた腕はするりと離れていった。

 

 ……よく分からないけど、エデンモードを止めたようだ。

 

「どう…………して…………、私……なんか…………を」

 

「どうしてって言われてもな……、なんつーか、そのぉ、疑いたくないんだよ」

 

「…………?」

 

「今、こうして俺の知らないことを教えてくれてるし、それに………………あの時、俺たちの身を案じてくれた」

 

「そんな優しい人が敵だなんて思わないよ」

 

 俺の正直な心を言葉に変える。

 

 この時の香坂さんは小動物みたいでなんか臆病だから、できるだけ優しい言葉で。

 

 すると返答に困ったのか、ポケットからスマホを取り出して、ある画面を開き、俺にそれを見せるように手渡してきた。

 

 その画面に写されていたものは…………

 

「なんだよ…………これ……!」

 

 思わず声が漏れた。

 

 そこに書かれていたのは脅迫文。内容は天ちゃんを誘拐すること。拒否すると香坂さんを含めた周りの人達を殺すこと。

 

 最後の方には黙って指示に従えともある。

 

「わた、私…………の、能力……は…………想像を………………具現化でき…………るんです」

 

 想像の具現化……

 

「きっ……と、この方…………は……そ……れを…………知って……て」

 

 こんな文をいきなり送られたりした香坂さんはどんな気持ちだっただろう。

 

 自分が犯罪行為を行わないと、自分が死ぬかもしれない。周りの人が殺されるかもしれない。そんな恐怖と一人で戦ってたのか……!? 

 

 送られている文の中には他言無用はもちろんのこと、様々な詳細の流れも書かれている。

 

 だからあの時にあんな反応だったのか。

 

「馬鹿野郎…………ッ! じゃあなんで…………! あの時に俺たちに逃げろって言ったんだよ!?」

 

「……ッ!」

 

 つい感情的になり、強く言葉を発してしまう。

 

「仕方なかったんだろ!? こうしなきゃどうしようもなかったんだろ!? なんであんな危険なことをしたんだよ!?」

 

 香坂さんは目を丸くして驚いている。最初こそはビクッと身体を震わせ、俺に恐怖していたが、俺の言葉を聞いて違和感を感じたようだった。

 

「え……? え…………?」

 

「お前が狙われるんだぞッ!? あん時はウチのゴーストが助けてくれたけど…………あんなの死にに行くようなもんだ!」

 

 実際、俺だけじゃどうしようもなかったと思う。最悪少しでも離れるように投げ飛ばしたかもしれないけど…………結果的に俺たちはゴーストに助けられた。

 

「もっと自分の命を大切にしろよ……! 馬鹿か!」

 

 さっきまでは()()()()()()から優しい人だと思って終わった。だけど、こんな事情があるんなら話は別だ! 

 

 文の内容から読み取るに、作戦を裏切ったら殺すって言われてるようなもんだろう。それがわからなかったわけが無い。

 

 ……でもつい口が悪くなっちまった。馬鹿は流石に言い過ぎたな…………

 

 現に、香坂さんはもう泣いてしまってる。

 

「でも…………生きててよかった。香坂さんが無事でよかった」

 

「ごめんなさい…………! ごべんなざい……!!」

 

「あー……あの……その…………、強く言いすぎたな、悪い……」

 

 ボロボロと涙が凄い、ついでに鼻水も凄い。

 

「……ティッシュ取ってくる」

 

 なんかもう見ていられなくなって、部屋の中からティッシュ箱を持ってくる。

 

 そこから何枚か取り出して香坂さんに手渡すと……

 

「あびがほうございます…………」

 

「言えてない言えてない……」

 

 いや泣かしてしまったのは俺なんだけどさ……やっべぇなマジでやっちまったな。

 

 なんて反省していると、なんかこう…………人前で出しては行けないような音を出して、豪快に香坂さんは鼻をかみはじめた。

 

「──────ッ!」

 

 あ……うん。なんか…………えぇ…………? 

 

「すみませんでした……」

 

「うん、別にいいんだけどさ」

 

 なんかこう……今の一瞬でイメージがかなり変わってしまった。あれ? って思っちゃった。

 

「とりあえずちょっと言いすぎたよ、ごめん」

 

「い、いえ、少し驚いただけ……です。あんなに私に優しくしてくれた人…………初めてで……」

 

 いやいやいやいや…………。それは嘘でしょ。

 

 誰だって女の子が泣きだしたら心配するって。あ…………そこじゃないのか。

 

「やっぱり竹内さんは、白馬の────」

 

「まぁでも──」

 

 と香坂さんが何かを言いかけてた気がするが、よく聞き取れなかったのでとりあえず俺の言葉を続ける。

 

「あんな脅迫文が送られてきて怖かったと思うけど、もう一人じゃないんだ。だからこれからはみんなを頼るといいさ。もちろん俺に相談してくれてもいいけどなっ」

 

「相談……」

 

「あぁ、また何か狙われるようなことがあったら誰でもいい、直ぐに助けを求めたらいい。きっとみんな力になってくれる」

 

 何よりも腹が立つのは相手の手口だ。人の優しさに漬け込んでこんな酷いことをさせるこのやり方が気に入らない。

 

 ……考え出したら段々腹が立ってきた。

 

「じ、じゃあ…………」

 

「ん?」

 

「竹っ……内さんに、そ、相談…………しても……」

 

 まぁ……元々俺たちは少しとはいえ面識があるからな。もしかしたら香坂さん的には俺が話しやすい相手なのかも? 

 

 うーん……できるだけ安心させてあげたい。君にはちゃんと仲間がいるんだよってことを伝えたいんだが……どうすれば……

 

 …………よし。

 

「えぇっ!? ええっっ!?!?」

 

 気持ちを伝えるには相手の目を見ることが一番。そして真っ直ぐに向き合えばより伝わると思う。

 

 その答えに行き着くと、俺は両手を香坂さんの肩に乗せるようにしてから、相手の目を真っ直ぐに見る。

 

 ちなみにこの時点で香坂さんは身体をカチンコチンに固まらせており、目をぐるぐると回していた。

 

「いくらでも俺を頼ってくれ! 上手くいくかはわからないけど…………全力で香坂さんを守るから」

 

 そう伝えると、更に目がグルグルと回り、視線があちらこちらへと泳ぎまくる。

 

 そしてとうとう限界が来たのか…………

 

「は…………はひぃぃぃぃ!」

 

 と鼻血を垂れ流してなんか幸せそうな表情で昇天していた。

 

「……え? ちょちょちょっ!?!? 香坂さん!? 香坂さーん!?」

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