9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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4月17日
不思議なアクセサリー


 

 傍から見るとめっちゃ仲のいいカップルを無視して通り過ぎ、俺は真っ直ぐに家に帰る。

 

 そしてそこそこの量のアニメコラボグッズを一応しまって、奥にあるベッドに勢いよくフルダイブ。

 

 ぼふんっとなかなかのクッション性のある生地に今日も惚れ惚れしながら、歩き疲れた自分を癒す。今の時間は夕刻ではあるが……まだ特に腹は減っていない。後で適当に外食で済ませよう。

 

 とも一瞬思ったりしたのだが、俺のようなタイプは外に出ることも嫌う。もしかしたら家の中にあるもので何とかならないかと思い、冷蔵庫の中を一応確認してみると……

 

 うん。ろくなものがねぇ。

 

 6パックもあるオレンジジュースに、唐突に親から送られてきた冷凍みかん。みかんゼリーにみかんのジャム。

 

 なんでこんなにみかん系があるんだよ、アホかよ。俺別にみかんが好物じゃねぇよ。

 

 とまぁこんな感じで自分じゃどうしようもなさそうだ。ここは大人しく外食で済まそう。

 

 そうしていつもの流れでポケットの中に入れている小銭袋を取り出そうとすると……別の何かが入っている。

 

「あれ……? ポケットに小銭入れ以外の物を入れたっけ?」

 

 ボソッと独り言を呟きながら、その違和感のある物を取り出してみると……見たことの無いピアスが入っていた。

 

 シルバーアクセ……になるのだろうか? 銀色の輪っかでシンプルなデザインに、側面に小さく俺の好きな色の紺色の宝石のような物があり、俺好みの見た目ではあった。……が。

 

 こんなものを買った覚えはない。もちろん拾った覚えもない。そもそも俺のものでもない。

 

 ただ何故か……「能力の使い方」を理解することが出来た。

 

 いや、そもそも能力の使い方ってどういう事だよ。てか能力ってなんだよ、あほらし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて投げやりになることは出来ずに、色々と試してみる。

 

 だって不思議な能力だぞ! 俺みたいな陰な者にはこれ以上の心がゆさぶれる言葉があるものか! 

 

 えぇ……っとぉ、さっき覚えたやり方で、力を……こうやって…………

 

 イメージした通りに力を扱ってみると、偶然見ていた右手の手のひらに紋章のようなものが青く映し出された。

 

 おぉぉぉぉっっ!? なんかかっけぇ!?!? 

 

 そしてそして〜! 能力の方は……っ! 

 

「はぁっ!!」

 

 なんて1人で思いっきり叫んでみるけれど……期待も虚しく俺の声が部屋の中に少しだけ響く程度で、特におかしな事は起こらない。

 

 ……なんだか1人でカッコつけて「はぁっ!!」なんて言ってたから物凄く恥ずかしいんですけど。こんなの誰かに見られたりしたら人生終わるんですけど。どうしたらいいんすかこの状況。

 

「はぁ……、アホらし」

 

 やっぱり厨二病をこじらせてただけ……か。なんかこんな事してたら腹も減ってきたし、外に出よーっと。

 

 考えるのも面倒になり、視界に写った玄関の方へと向かおうとしたのだが……1歩足を踏み出すと、ゴンッと目の前の何かに頭をぶつけた。

 

「痛て」

 

 明らかな不意打ちの頭突きに動揺し、改めて前を見てみると目の前に俺が頭に手を当てて立っている。

 

「あ、すんません。俺の不注意でぶつかってしまって──って俺ッ!?」

 

 間違いない! 目の前に向かい合うように立っているのは間違いなく俺だ! しかも俺と同じように頭に手を当ててアホみたいな顔してる! 

 

「って誰がアホだよ!」

 

 軽く身を乗り出して自分自身にツッコミを入れると、目の前にいる俺も同じ動きをしていた。

 

「…………」

 

 試しに俺は右手を上にあげてみる。すると目の前の俺も俺から見て右手を上にあげる。そして上げた右手を下ろすと……目の前の俺も上げていた手を下ろした。

 

 そのまま俺は両手を上げる。すると目の前の俺ももちろん両手を上げる。腰を若干曲げてくねくねと左右にケツを揺らすと、目の前の俺も同じ動きをし始めた。

 

「ハーイハーイハーイハーイ、トントントントン…………」

 

 うん。間違いない。これは鏡だ。実際、俺の後ろに玄関があるのに目の前にも玄関が見える。そして俺と同じ動きをする俺。答えはこれだろう。

 

 改めて俺の右手の手のひらを見てみると……まだ青色の紋章は光っている。おそらくこれは俺の能力で作り出された鏡。

 

 なるほど! 突然目覚めた俺の能力は鏡を自在に出現させることが出来る力ってか! こりゃすげぇぞ! これがあれば世界の一つや二つ救えたり……

 

「するかボケェェェェェッッッッ!!!」

 

 と全力で床に向かってピアスをぶん投げる。それと同時に俺の右手の紋章は輝きを失い、目の前の鏡も虚空へと消え去った。

 

「アニメみたいに力が目覚めたかと思えばなんだよ! 鏡を1枚作る能力て! 弱いとかそんな次元の話じゃねぇだろ! なんだ!? 例えばみんなが大魔王と戦ったりしている中で俺だけ鏡見て身だしなみを整えたりすんのかぁ!? そんなヒーローいてたまるかッ!!」

 

 つかそもそもこんな物での変な能力がある時点でおかしいんだけどさ。そんな事どうでもいいよね! こんなん拗ねるわ! まだ体がゴムになったりとか、小宇宙を燃やしたりとか、惑星へシータで超ヤサイ人になったりした方が断然いいっつーの! 

 

 ……はぁ。もういい。飯食いにナインボール行こ。

 

 若干疲れた心を癒すためにも今日もあのパフェを食わなきゃ。

 

 適当に眼鏡をかけて……ちょっと長い髪を片側に寄せて片目を隠して……マスクをして……よし、こんなもんだろ。

 

 さっきの出来事を忘れるかのように、俺はあのピアスを放ったらかしにしたまま家を出て、行きつけの店のナインボールへと向かっていった。

 

 …………

 

 ……

 

 ……

 

 喫茶ナインボール。

 

 一応喫茶店なのだが、何故か飲食物のメニューが豊富で量が多いのにも関わらず値段も安い。俺達のような学生には最強の憩いの場である。

 

 しかも平日ならともかく、休日のこの時間は比較的に人も少なくて究極の時間だ。

 

 レトロな雰囲気の扉を開けて中に入ると──

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 と奥から店員の声が聞こえてきて、すぐさま席の案内にやってくる。

 

 好きな席へと案内されたので、個人的に一番のお気に入りの窓際の角に座り、テーブルに置かれているメニューを眺める。

 

「お水です。お決まりになられましたらお呼びください」

 

 とグラスを置いて店員が立ち去っていく。

 

 メニューの一覧を見て、今日はどれを食べるかを決めると、店員を呼び決めたものを注文した。それはハンバーグとチョコのパフェ。

 

 ちなみに俺はここのパフェが大好物。いや、ほかの店とは違って頭おかしいくらいの安すぎる値段にあの美味さと量。何故この店が経営出来ているのかを疑うレベルで値段と品物の質が噛み合っていない。だからこそ毎回頼んではいるのだが。

 

 店員はかしこまりましたと答えた後に、店の奥へと向かっていく。

 

 ちなみにパフェを頼んだ時に、ふふっと少し笑われたから多分、またこいつパフェ頼んでるわ、アホやろって思われてるんだろうな。

 

 ま、興味はないんだけど。

 

 そんなことを思いながらも、注文の品がやってくるまでの間に、スマホゲームのイベントをこなして行く。その途中でカランっと扉の音が空いて、扉に着いた鈴が、別の客が来たことを店に伝えるように響いていた。

 

 そしてその客を案内したのだろう。俺の隣のテーブルに座らせると、その店員は何やら少し不安そうにしながら、何かを訪ねていた。

 

「ありがとう。これ、見覚えないかな?」

 

 不意に聞こえてきたその言葉に釣られて、一瞬だけ視線をその方向に向けると、その手の先には俺がさっき見たような銀色のアクセサリーが。

 

 あれは……髪留め? 髪飾り? 

 

 とにかく思ったことは、俺が家に投げ捨てたあのピアスによく似た、シルバーアクセのようなものだった。

 

 珍しい偶然もあるもんだと、思ったりもするが……別にどうでもいい。適当に商品が来るまで時間を潰したあと、食事をゆっくりと楽しんで、喫茶店での時間を俺の中では優雅にすごした。

 

 そして食事後の会計の時、金を渡そうとポケットから財布を取り出した時に、同時に何かが床に落ちる音が聞こえてきた。

 

 ……あれ? 俺って何かポケットに物を入れてたっけ? 

 

 となんだか似たような経験をしたなと思っていたら、その異常な事態に気がつく。

 

 そう、落ちていたのはあの家に投げ捨てたはずの『銀色のピアス』。ここにあるのがおかしいもの。ここにあるはずがないもの。

 

 一応それを拾い上げるが……やはり間違いない。俺が確実に家で投げ捨てたものだ。

 

「……あっ」

 

 拾い上げた銀色のピアスを見た店員が、驚くようにしてまじまじと拾ったピアスを見る。

 

「そんなに気になります?」

 

「え、あ、いえ……私も似たようなものを持ってて」

 

「そうなんすね」

 

 特に相手の返事も待たずに適当な返事をした後、表示された金額を払って足早に店を出ていった。

 

 あの眼鏡を掛けた店員さんは、何かを伝えたそうにあのピアスを見ていたが……まぁどうでもいい。別に俺は困らねぇし。

 

 なんであんなものがまた俺のポケットに入っているのかはわかんないけど……多分無意識のうちに拾ったりしたんだろう。

 

 そう思うことにして俺は一日を終わらせるために家に戻って行った。

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