9-nine- ここのつはるそらゆきのみち。   作:紅葉555

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目的

 

 あの不思議なシルバーアクセの様な何か。あのアクセサリーは不思議な力を持っている。理屈や原理は分からないが、それは揺るぎない真実だった。

 

 もっとも、いつの間にか手元にあったものだが……いや、いつまでも手元にある物なのかもしれない。その証拠に「確かに部屋に投げ捨てたはずなのに戻ってきた」

 

 あれは俺が無意識なんかで拾ったりしたものなんかじゃない。思えば最初からそうだ。俺はいつの間にかあのアクセサリーを持っている。

 

 ……もし、あの店員も形が違うだけの同じ性質の物だとしたら。

 

 間違いなく俺の鏡を出現させる能力なんかじゃなくて、もっとカッコイイ力なんだろうなぁ……。いいなぁ。

 

 なんて楽観的に考えてはいるが、問題なのはそこじゃない。もしこの力が限られた物ではなくて、誰しもが手に入るような物だった場合が危ない。どんな能力があるかは知らないし、そもそもとして別のアクセサリーがあった所で、みんな鏡を出す能力かもしれないけど、この能力が誰しも持てた場合は間違いなく世の中は混乱する。

 

 1度冷静に考えてみると、「鏡」の能力はおそらく鏡を自在に扱うのではなくて、「鏡の性質」を自在に扱う能力なのではないか? とも思う。

 

 もしその場合、この能力を悪用しようと思えばいくらでも悪用できる。例えば……

 

「…………よし。出てきたな……鏡」

 

 パッと思いついた事を試すために、能力を使って再びあの「鏡」を出現させる。そしてティッシュを数枚取りだして、それをクシャクシャに丸めて潰し、即興の投げ物を作る。それを鏡に向かって投げてみると……

 

 投げられたティッシュの丸い塊は目の前の鏡に触れたその瞬間に、鏡に映された鏡像のように俺の元へと勢いよく返ってきた。

 

「やっぱり……。鏡の性質の方だったか」

 

 おかしいと思ったんだ。さっき俺が初めて鏡を出現させて鏡にぶつかった時、俺は頭突きされたのかと勘違いをしたんだ。鏡のような壁にぶつかったと思わないで、「攻撃された」と思ってしまったんだ。

 

 この能力は鏡の性質、つまり「モノを反射する力」。光が反射されるように、この鏡で受けたモノは綺麗に反射する。限度があるのかとかは分からないけど。

 

 ちなみに、形は想像するだけで簡単にくねくねと動かすことが出来た。つまり角度も変えることができるし、乱反射も可能。もちろんさっき実演したように正反射も。

 

 この力すげぇな。鏡の耐久値がどこまであるかは知らないけど、こと守りっていう一点のみを考えると最強の防御性能になるんじゃね? 自分からは全く攻撃できないけど。

 

 まぁ、深く考えても仕方ない。ある程度の実験も済んだし、何故かかなり疲れも溜まってきたし、さっさと寝てから明日にするか。

 

 そう思って用済みになった鏡を消して、歯を磨こうと洗面台に向かって準備をしている時、あることに気がついた。

 

「……なんでこれは消えてないんだ?」

 

 たまたま見えた俺の手のひら。そこには未だに青い光を放つ紋章が姿を現していた。これは多分、能力を使った時に現れるヤツ。しかし鏡が消えた今、これが浮き上がっているのはおかしい。

 

 もしかしたら俺の知らない能力がまだあるのか? それに気づかずに能力を使い続けているのだろうか? 

 

 そんな考え事をしていると、気がつけば右手の紋章は消え去っていた。俺が考え事に完全に気を取られた一瞬で、その紋章は最初から存在しなかったかのように証拠を残さなずに無くなった。

 

 もしかしたら、ただ消えるのに時間差が生じているだけかもしれないな。

 

「………………」

 

 シャコシャコと歯を磨きながらボーッと目の前の洗面台の上に立てかけている鏡を見る。

 

 もしこんな能力が世の中にばらまかれていた場合、間違いなく問題が起こる。その可能性を考えると、どうにも例えようのない不安に飲み込まれそうになってしまう。

 

 このアクセサリーを手にして、既に数時間が経過している。もし大量に出回っているのならネットか何かで騒ぎが起こっていてもおかしくは無いはず。と、すると少なくとも、2,3人に1人が持っているレベルでの所持率ではない。

 

 あのナインボールの店員が、このアクセサリーを持っていると仮定して、こんな身近に1人所持者がいることになる。となると、そんなに世界規模で出現したりはしていないのだろうか? それとも偶然近くに所持者がいただけだろうか? 

 

 もし、他にも色々な種類のアクセサリーがあったとして……それが近くに転がっているのなら、もっと欲しいかもな。

 

 いや、かもじゃない。欲しい。

 

 集めてみるか、あの銀色のアクセサリー。

 

 ま、その為にはまずは可能性が一番高いあのナインボールの店員に揺さぶりながら聞いてみるか。能力のことを言わないでも、例えば捨ててもいつの間にか手元にあるかどうか。最初に発見した時は気がついた時に手元にあったか。これだけを聞くことでもできれば、判断材料としては問題ないだろう。

 

 つっても、仮に俺がそれを盗んだとしても持ち主の所に戻るだけだろうが……どうやって手に入れるかは後で考えるとして、まずはこの「鏡の能力」以外の力があるのかどうかを知りたい。

 

 キーになるのはやっぱりあの店員。かなり苦手ではあるが…………明日にでもナインボールに行ってチャンスがあれば聞いてみよう。それがもし「当たり」なら大歓迎だ。

 

 さっきは悪用がどうのこうのなんて考えちゃあいたが、単純に色んな能力が使えた方が絶対楽しいと思うだけだ。

 

 結果的にそれが事件を起こさないようになる事に繋がるし、俺が間違った方向に能力を使わなければ問題ないだろ。

 

 

 

 

 今のところは。な。


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