つゔぁいごっどねす!ふぉっくすふぁいあ!!!〜現代に生きる神様達は信仰が欲しいようです〜 作:囚人番号虚数番
ー鳴葉大社 本殿
鳴葉の地、山奥の大社跡。最早その威厳を失い久しく経った廃墟。木漏れ日の差すあばら家の本殿にて我はただ死んだように惰眠を貪っていた。
我は鳴葉の土地神也。名は鳴葉之命。銀の毛の狐の耳と尾の生えた人の姿をしているが稲荷とは違う異端の一柱である。人々はそれもわからず稲荷神やなにやら有る事無い事を騒いでいた。ただそのおかげで妙に豊饒の神と持て囃され五穀や山海の幸を祀られたものだ。
だが社に人が最後に訪れて幾百年、かつては畏敬の対象と祀られ、時に村々が祭りを開く事もあるほどに信仰を集めた栄華はとうの昔に無くなった。信仰の無い我などもはや獣や物の怪と変わりない。いや、元から獣のような我ならそれも変わりないであろう。
「………………」
ふと目が覚めた。いつもならやることもなくまた目を閉じる。だが今日の我はたまたま暫く呆然としていた。
そして森の果てを見て思う。近頃数十年間この社で寝て、時に今のように森を見ては寝てを繰り返していた。だがいつからかこの森の果てが見えるようになっていた。きっと人がまたこの森で柴刈りもしているのだろう。それか森の木々の寿命が近いからか、と深く考えずにいたが今思い返すと少しばかり早すぎる。
「………………」ゴソッ
体を起こし頭を掻く。何でもない、少しばかり気になったから今から散歩に向かうだけだ。長らく動いたせいで積もった埃が体から落ちる。ついでに長く同じ着物から着替えていない。四肢を動かす度にボロボロと布が破れ立つまでに残った服は紐程度のサラシと褌のみだ。まあ、水行に行くものだと考えれば普通である。
「草履は何処へ」
適当に当たりの石畳を探しても見当たらない。最後に脱いだのはいつだろうか。そして2分ほど歩き周り悟る。所詮は草履、とうの昔に虫に食われたのだろう。仕方がないから裸足で本殿から去り石段を下る。
ー鳴葉大社 中腹
裸足に枯れ枝は少々痛む。だが割れた石段の上を歩き少しづつ森の外へと歩む。しかしここも知らぬ内に随分と様変わりしたものだ。灯籠は風化し砕け苔むし、案内板は朽木に紛れ茸の苗床となる。
それでもまだ遥か彼方の記憶にはまだ栄えていた頃の思い出はある。しかし今の姿のように風化し朧気でしかない。人もきっと我を忘れてしまっているのだろう。
ぐぅ……
空腹に腹の音が森に響く。動いたせいで腹が減った。長く動かずにいたからそれだけ長く飲まず食わずだというわけだ。おまけに喉の乾きも感じる。神とて腹が減れば何かと辛い物だ。今は季節もいい、探せば何かあるはずだ。
「手頃な果実でもあれば……」
だがしかし、探せど食物は見つからない。寧ろ歩き回ったせいで余計に疲れてきた。信仰さえあれば食物など腐る程手に入ったのに。いやはや時間というものは残酷だ。
「信仰……ああそうか、信仰が足りぬのか」
景色が記憶と違うのは何も時間のせいだけでない。人々から忘れ去られた分だけ神としての力が弱まり体が弱っている。どおりで木々がやたらと大きいわけだ。身長はともかく発育から察するに今の体は幼年の女子だろう。情けない。
こうなると更に下り人里で参拝客に紛れて飯屋にでも入ろうか。いや飯屋に入る銭がない。着物もこれでは表に出れない。賽銭箱はとうの昔に盗人に持ってかれて一文無しだ。それでもここで帰っても腹は減ったままだ。同じ空腹ならせめて森の先を見てから帰ろう。
更に下り鳥居をくぐる。ここも上より随分と古くなった。せめて喉が潤せればと手水舎を探す。だがやはり枯れ木と朽ちた葉で埋まり、水も枯れて使えたものではない。ただそこで見慣れぬ物を見つけ手に取る。
それは赤い瓶だ。しかし硝子瓶にしてはあまりにも軽く薄い。中身は茶色く透き通った茶が入っている。放置されていたものに変わりなく飲む気はしないしもとに戻す。用途は水入れの瓢箪だと見当づくが大きく見慣れぬ字が書かれている。南蛮の字だろうか。
「思いの外軽いな。だが南蛮の品が何故此処に……」
南蛮の品がここに、しかも古くに放置されたとなるとなにか悪い予感がする。知らぬ間に日の本が攻められていたとなるとかつての街も我の知る土地ではない可能性もある。他の神達もまだ生きているのだろうか。少なくともそれも外へでないと分からぬことだ。森の端までのつもりだったがその先の門前町まで向かおう。
大社がああであるのなら門前町も人が絶えて久しい可能性もある。森から出たら野盗に荒らされたボロ屋が延々と続いてるかもしれぬ。それならそれで我も野盗のように使えそうなものを漁るか適当な旅人でも襲って小銭と飯を掻っ攫おうか。
むしろそちらのがまだいいかもしれぬ。下手に街でもあると獣の耳と尾が出ていては物の怪か獣憑き扱いされて見世物小屋にぶち込まれるかもしれぬな。うーむ、どちらにせよ服は欲しい。汚れたボロ布でもいいからどこかに落ちてないだろうか。幸い当時も家は多かった、民家の一つくらいなら何処かにあるかもしれぬ。
そんな取らぬ狸の皮算用をしつつ石畳を更に進むと段々と明るくなってきた。本来はもっと先まで暗い筈だから森は縮小しているのは確かだ。最後の石段を下りきり鳥居を抜ける。そして我は記憶を頼りにかつての門前町の前までやってきた。
だが街は廃墟や南蛮どころかとんでもない景色が広がっていた。
高くそびえる石造りの家、黒い一枚岩に覆われた道、その上を走る獅子のごとく道を走る鉄の車……我の知る日の本の景色ではない。噂に聞いた南蛮どころか絵物語ですらも誰も描けぬほどに街が変化していた。呑気に車を引く馬や牛は、木組みの小さな家々の並ぶ城下町は、腹の減った旅人の集う屋台の数々はどこに行ったのだ。
「な、なんであるか。これがあの門前町……?ボロ屋どころか……むしろ今まで間にないくらいに栄えてるではないか!」
こうなっては腹の様子など気にしていられない。幸いここには路地が多い。建物の隙間に入りどうにか人の様子を探れぬか試みる。だが無駄に高いだけで日陰だから窓はなく、あるとしても硝子窓に阻まれて入り込めない。
ただ隠れながらに僅かに見えた室内は凄まじかった。壁は城壁のように鮮やかな白く床も畳でない。紙束が多く商人の仕事場らしいが加えて怪しげな箱が机に置かれている。それ以外にも色々あるが知っている物より知らぬ物が多い。
混乱する我にこの街は更に追い打ちをかけた。建物の一つに貼られた色あせ古ぼけている紙。どうやらこの当たりの名所の案内のようだが…………
「鳴葉神社への観光案内
鳴葉市は古来より狐が人々から信仰され当時に建設された多くの寺社仏閣が今も立ち並んでいます。また当時多くの旅人が訪れた門前町の跡地には現代も多くの商店が軒を連ねています。
時には都会のビル街から離れてちょっとした休暇に古き文化に触れ学び、森と共に癒やされてみてはいかがですか?
(以下地図)
令和○年✕月 鳴葉観光協会」
「(『令和○年✕月』……また年号が変わっとる)」
「あのーそこのお方。その……どうかされました?」
「っ!」
不意に誰かに声をかけられる。不味い。獣の耳の生えた今の姿を見られたら人を呼ばれかれぬ。すぐに人間を突き飛ばし大社のある山に逃げ出した。
ー鳴葉大社 本殿
それから神社に帰り街のことを思い出す。あの街は何なんだ。少なくとも我の知る街とは予想より遥かに乖離している。かなり時が経ったとはいえ一体我は何年寝ていたのだろうか……
真面目に考えてみる。我が最後の活躍時期で有名な出来事を思い出そう。そうだな、火山噴火とか飢饉とか政治危機とか。それから年号が変わったのを5回までは覚えている。多く見積もって倍にすると10回だ。それだけあればお国の上様は変わるのも分かる。しかし同じだけの期間でもせいぜい南蛮の船が隣国に漂着したり、その前も2つ前の幕府が出来たりしただけでこうも生活の根幹からひっくり返すような変化は流石に経験がしたことがない。
しかし……まさか土壁の茅葺屋根がいつの間にかあそこまで変わるとは。生活も変わっているだろうしこれでは神として信仰が失われるのも時間の問題だ。生活様式が変わるなら人の信条も変わりそれだけ多くの神が生まれて死ぬ。今までどうにか逃れてきたが我ももう駄目なのかもしれない。
取り敢えず今日はもう寝てしまおう。そして起きたらまた目を閉じてただ怠惰に過ごそう。またいつも道理寝てしまえばいつかは寝ている内に消えてしまえる。信仰の無い神など時代に抗うすべなど無いのだ。まだ夕刻、明るいが寝れぬことは無い。我は本殿のいつもの硬い木の床の上で倒れ、意識を落とす。
「…の……」
「あの……」
「あのーこんばんわー。そんな格好で寝てたら温かい季節でも風引いちゃいますよ」
月の登る深夜、知らぬ女子に体を揺らされて目が覚める。寝ぼけた目を擦り、それから人の存在に驚き飛び起きる。
「…………貴様、寝込みを狙うとはただの客ではないな。何者だ。名乗れ。気の触れた願いなら我は相手せんぞ」
「まあまあ落ち着いて。私は別にあなたとお話しに来ただけですよ。ほら、よく私を見てください」
拳の届かない距離まで離れて彼の姿を見る。武器の類はない、代わりに袋を持っているが中身は判断がつかない。腕と足も細く今の我と変わりない小柄で無害そうな娘だ。周りにも彼以外の気配もないし囮という風でもない。帽子と服は下は見たことのない服、上は和装に近い奇妙な格好だ。本等にこちらを傷つけるつもりがないのは本当らしい。それとこの娘の声を我は知っている。
「貴様もしや街で我を見た人間か?」
「にんげ……そうです。あの時突然申し訳ありません」
「つまり貴様は我を神と見込んでここへ来たのだな。だが残念だ、今の我に何かを成し得る力は残っておらぬ。だから貴様にはもう用はないはずだ。夜も遅い、早く家へと帰るといい」
畳み掛けるように小娘に立ち去るように促す。だが彼は石段に座り隣に座るように促してきた。
「人如きが思い上がるな。貴様が神と同列とでも」
「怯えなくてもいいのに。もっと肩の力を抜いてお話しましょ」
そう言って彼は袋から弁当箱を出す。中にはお稲荷さんがみっちり詰まっていた。彼は一つを食べて、それからチラチラと見せてこちらも食べるように促してきた。
「要らぬ」
「美味しいのに?」
「甘ったるいのは好まん。それと素性の知れぬ者から施しを受けるのは……」
ぐうぅ……
……腹の虫が鳴いた。そういえばあれから何も口にしていない。
「お一つどうです?」
「…………恩に着る」
我も一つを貰う。箸すら久々に持ったがどうにか突き刺して一口で食べる。味覚が衰えすぎて味はよく分からない。だがまともな飯は久々だ、味など関係なくそれなりに旨く感じる。それから彼が持ってきていた全てをつい食べ尽くした。しかしどうやら我の為に作ってきたそうで彼は笑って許した。
「成程。神前にこんな物を持ってくるだけあって味はいいな」
「ありがとうございます。これ、私の自信作なんです」
彼の言う通り美味い。しかも彼の手作りとなると是非我の眷属にでもして定期的に作って貰いたい。そのためではないがまず彼の素性を知ろう。
「して、貴様稲荷の使いか?それともただ我を獣憑きとの好機からか?」
腹が満たされ彼の話に耳を傾ける気になれた。我も彼の隣に座る。
「私は『狐火の燐火』と申します。『鳴葉稲荷神社』の祭神をしています」
彼は立ち上がり帽子を外す。その下には赤毛の狐耳が生えていた。その耳はピクピクと動いているから偽物でなく我と等しく本物の狐耳だ。そして彼はどこかからお守りを出し割れに握らせた。お守りには「鳴葉神社」、裏には「良縁祈願」と書かれていた。
「失礼した。我は『鳴葉之命』。鳴葉の土地神也。鳴葉と呼べ。それで、神が態々己の足で来るとはどういう要件だ」
「実は……鳴葉さんを同じ鳴葉の土地神と見込んで協力を申し出る為お声がけしました」
ー--
稲荷の良縁護符
円に下へ1本、上に放射状の5本線が描かれた鳴葉大社の護符。浄罪の証として捧げられた手を形どった模様の護符は悪しき物との縁を断つ。
江戸以前の多くの時代、鳴葉の神には縁切りの意味が込められていた。だから鳴葉はかつての姿から縁を切り、代わりに鳴葉の名を冠する社とした。
だから禰宜黒姫は古き社を禁忌とし、後の社で宮司を継いで豊饒と福の神を祀る稲荷神社を形成したのだ。
小説の適切な話数
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5話以下
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10話
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12話
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20話
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24話
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30話
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36話
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40話以上