つゔぁいごっどねす!ふぉっくすふぁいあ!!!〜現代に生きる神様達は信仰が欲しいようです〜 作:囚人番号虚数番
再生が出来ず手足ももげて動くことができない。それに紫炎を出して攻撃に転じようともせず藻掻くのみ。
つまり今の鳴葉には攻撃を避ける術がない、すなわち事実上の戦闘不能であるのだ。
余りにあっけなくやってきたチャンスに逆に怪しさを感じ何が原因なのか考えてみる。思い当たる原因は互いの力、特に自身の奇跡だろうか。事実彼女が弾いた矢の中には通常矢と奇跡矢が混じっていた。
それは当然天井を崩す目的が主だった。しかし奇跡の矢だけは武器としての性能は無く、つまり物理判定が曖昧で爪で弾かれることなく彼女に奇跡が起きる。奇跡とはつまり「体の再生が止まる」、あまりにも都合よくあり得ない奇跡だ。それでもそう考えると少しは納得できる。なにせ「願えば叶うのだから」。
以前彼女を撃ち抜いた時、目いっぱいに神の力の作動を祈り「鳴葉の能力が作動する」奇跡が起きた。彼女の能力が災いを起こすと知った今、奇跡で「車両事故を回避し」災いで「車両事故が起きた」のかもしれない。ここで私の奇跡の1つの特性の可能性が浮上したのだ。奇跡は、願えば叶う。たとえそれが誰かにとっての禍であっても破滅を願えば奇跡なのだ。
「……」
頭の中を概ね整理し終えて再び自身の目の前で藻掻く鳴葉さんを見る。叫び嘆くことは止めて二の腕までの手を必死に動かし逃げようとしている。彼女はきっとまだ戦うつもりでいるのだろう。歩くよりも数段遅い彼女の前に回り退路を潰す。そこで弓を構え頭に矢を向けて、彼女はそこで動きを止めた。
「逃げさせはさせぬか……」
彼女は逃げはせんと断り仰向けになる。体勢を変えて大の字になる何気ない行為すらゆっくり時間をかけてでしかなれない。その過程では傷が痛み苦悶の表情を浮かべていた。だが仰向けになってからはどこか遠くを見るような、だが平静にも思える雰囲気になった。
「クソっ、お主には殺されるとは。神として屈辱この上ない。だが武人の師として、友としては悪い気はしないな」
そう語る彼女はいつも見たく高慢で、だがどこかしおらしい。他人事のように口から出る言葉に戦闘中の覇気は無い。冗談のように語られた言葉はまるでこれが最後とも思わせる。
恐らく死を悟っているのだろう。
「それは……光栄です。私もあなたが友であって悪いことばかりでないと感じています」
「だが弓の手は降ろさないのだな。この冷酷さを忘れるにないぞ」
そして彼女は一度深呼吸した。
「さて、最後に頼み、いや最後の教えをしてやる。一思いに我を殺せ」
「……」
「何を学ぶかはお主次第、だがこの程度出来ねばお主に新たな鳴葉は任せられん」
言葉を返しはしない。ただ彼女に応えるように強く弓を絞り、力を強める。鳴葉に仇なす者を制裁する神として、弟子として、友として、精一杯祈る。次第に矢は巨大で美しい輝きを放っていた。最大限に引張り詰めた弦も加わればきっと神どころか地盤をものともしないだろう。
最後に彼女に照準をあわせる。それを終えたらあとは手を放すだけだ。しかし何故だか照準が定まらない。それもそのはず、的が震えるのだ。彼女は肩を震わせて天井から血でない所以の知れぬ液に顔を濡らしていた。それに小さく何かを呟いてはいるが精神を研ぎ澄ませ耳から排除する。
「死にとうない……死にとうない……っ」
「死ね、鳴葉之命」
手を放した瞬間、矢は私の制御を離れ更に巨大となり彼女を押しつぶす様に当たる。体を貫き、地盤を砕き、選考の如く一瞬で彼女を襲いそれを止める物もなく地面をどこまでも貫いていく。30秒程経ってやっと輝きが見えなくなり彼女のいた場を確かめると地面ごと貫いたせいで跡すら残らなかった。
つまり彼女の体はこの世から消え去った。悲しいがもう彼女は居ないのだ。
「……上へ戻りましょう。ここから撃てる場所はもうありませんからね」
ー--
ー鳴葉の地下駅
ふたたびアリーナに戻った私は……恥ずかしながら更に駅まで向かって火事場泥棒をしていた。なにせ戦闘中に服は破け裸に近く人前に出られない状態だったからだ。怪我はどうにかなるとして世間体ばかりは神でも厳しいものがあるのだ。神の力で気を逸らすのは今はちょっと疲れているからふと途切れた時が怖いから避けたい。
「…………」
ふと、こんな状況を経験したであろう人物を思い出した。神の力を使えず、素寒貧で人の世に乗り出した彼女だ。この大破壊を繰り返してきた主ならば災害の対処も知っているだろう。こんな時、彼女はどうするだろう。生死を賭けた戦いをして早々に殺したことを後悔する。
着れそうな服と帽子は在庫で多く残っていて見つかった。それと適当なかつての店員から背負いかばんを拝借し、ついでに何か残っている物がないか探す。ここには救助のために、また自身がここから出る為に数日耐えられるように自分用の水分と食料が欲しいのだ。そちらはドラッグストアで見つかり少量ながら数日分の行動食とコーラ、簡易的な医療品を入手できた。これで物資は十分だ。それらをバッグに入れて駅を出る。
「……一応最後に確認した方がいいかな」
私はこれから深部に残された人達を救出しに向かう。まだ瓦礫の中に取り残された人を助け、アリーナに案内してあげるのだ。アリーナの設備は最低限使えもう少し人も集めてよさそうで多少増えてもしばらくは私の助けなしでももつ。何より一か所に人が集まれば何かと信仰が集まりやすい。
だから最後に一応の点検をしたくなった。先ほどの激しい戦闘で何かの配線や配管が壊れていないかが気になる。来た道を辿りアリーナに戻って整備室へ入る。少なくとも計器に突出した値は見当たらないしおそらく平気だ。電気もまだあるし消耗品の備蓄もある。
そうなれば食料はどうだろうか。少なくともここにはないからどこにあるのだろう。人に聞けば分かるだろうが現在時刻午前3時、到着したアリーナに動いている者は少ない。だが見張りに起きている者がいたので尋ねると数日分ならあるらしい。場所も教えてもらって、後で確認するとちゃんと相応の量があった。
「にしても小さいのにこんな時間まで起きてるとは。ただでさえ緊急時で何かあったのか?」
「さっきまで家族がどこかに来ていないか探していました。それでこんな状態ですし不安で眠れなくて歩いていたらこんな時間になってしまって。心配させてごめんなさい」
そういうと彼は憐れむような眼でこちらを見てきた。もちろん嘘で、勘違いしてくれて罪悪感はあれどうれしい。
「家族が無事に見つかることを願うよ。地下で大規模な崩落も起きているし今日は寝て大人と相談するといいぞ」
「(崩落って多分さっきまでの……)……そうですね、ありがとうございます」
そして私は食料の保管先に行こうとして振り返る。その時、見張りの呟きが耳に入った。
「さっきも小さな子が帰ってきてたけど最近の子は強いな。大人が落ち込んでちゃ情けないな」
「え!? ごめんなさい。その話もう少し聞かせてもらえませんか?」
小さい子……もしや彼女がまだ? そうでなくともこんな時間にまで出歩いているとなると神として救えるか気になる。小声が聞こえると思わず、私の食いつきも良いからか見張りは驚きながら話してくれた。
「もしかして知り合いか。なら、そうだな、話すなら言葉に気を付けて慎重にな。なにせここに来た時ボロボロで一人だった。それに狐の神様が救ってくれるだとか何とか言ってたから相当に参っていそうだし……と、子供に聞かせる内容じゃないな。とにかく今はあの角で座ってるから尋ねてみるといい」
なるほど、彼女ではなさそうだ。だが同時にその狐は私ではないので恐らくそれは彼女だろう。まさか正体を知っている誰かがいるのは意外だった。お礼をし、教えてもらった人物を探すとほどなくして見つかった。その子供は以前に公園で会い命を救った小さな女の子だった。角の暗がりで膝を抱えて座り遠目から見てもわかる程うつらうつらしているがまだ起きているようだ。
もう少し近づいてみてみたがとても眠そうでこちらから声をかけるのに躊躇する。確かに心配されるのも納得だ。見張りの言う通り足に出血の跡だらけ。そして多くが数人で固まる中で一人だった。まあきっと放置しておけば暫くしないうちに眠るだろうから早く去ろう。
「……んう? あ、きつねのおねえちゃん。ひさしぶり」
「お久しぶりです。起こしてすみません」
私が去る前に彼女に気づかれしまった。彼女は眠い目を擦り私を見て、それからキョロキョロと辺りを見渡した。
「あれ? きんぱつのきつねさんはいないんだ」
私を見てのこの言い方は間違いない。彼女のことを指している。私が彼女の不在を教えると彼女は残念そうに下を向いた。何を彼女があの人を心配するのだろうか。見張りからも神がどうこう言ってたそうだが。もしかして私の知らない間に彼女と何かしらの関係を持ったのだろうか。
「かみさまに助けてもらったの」
「(助ける……一応の信仰集めですかね)」
彼女の言葉を要約するとショッピングモールで彼女を見つけてここまで送ってくれたらしい。その時自身が神と教えられ神の力を使ったらしい。余程頼もしかったのか彼女を語る言葉は楽しそうだった。だが亡き彼女が求めたのはそうでないだろう。彼女を示す言葉に神様の言葉が加わり以前は無かった強い信仰も感じる。この信仰をきっと享受したかったのだろう。だが今やそれも私の信仰である。
「でもきんぱつのおねえちゃんはかみさまじゃないっていってた」
「(何らかの意図を持った愚痴でしょうが……)」
「でもおねえちゃんもきつねのかみさまだよね」
一応どう返すか思考し彼女の疑問を肯定する。だが私は自身を神と肯定したことを後悔した。答えを聞いた後彼女も何か考えて最悪なことを聞いてきた。
「きいろのおねえちゃんはどこ? いっしょにおはなしするっておねえちゃんをさがしてたよ」
空気が凍る。確かに話はした。話はしたがそれを伝えたらなぜこの場にいないのか聞かれるだろう。もちろん聞き返されてもはぐらかせばいい。とりあえず今は嘘をつく。
「残念ながら彼女は見てません」
すると彼女は下を向いて見るからに落ち込んだ。もしかして何かまだ用でもあったのか。
「おれい」
「……え?」
「おねえちゃんにつれてきてもらったのにおれいしてなかった」
「彼女に感謝を伝えたい、と」
「だからねちゃだめ。かえってくるまでがまんしてるの」
私は何も言えなかった。彼女の純粋な優しさの裏の決意はたどたどしい喋りでも伝わる。それを裏付ける証拠を無数の足の傷が示す。出血の跡は多く止血して時間がそれほど経っていないものが無数にあり、彼女に送ってもらった後にできた傷だと分かる。つまり彼女はずっと探していたのだろ。
親も居ずに孤独にも関わらずなんて強い子なんだ。きっと私が去った後で寝てしまっても朝が訪れたらまた探しに瓦礫の山を彷徨う。そして多くの傷をつけてアリーナの隅で彼女を待つのだろう。
だけど私はそれが叶わないと知っている。
「ごめんなさい。私は一つ嘘をついてました」
だけど……顔に出ていたのか彼女も不安そうに私の言葉の続きを待つ。かなわない願いだというのなら、せめてその心を折ってしまった方が幸せかもしれない。だから私はより残酷な嘘を彼女に教えよう。
「彼女は、あの地下の崩落で鳴葉さんは、私を庇って死にました。地下の崩落に巻き込まれて即死です」
「……うそ、だよね」
私は何も言わない。それと同じく彼女もまた呆然として言葉も出ない。数秒硬直してから彼女は強く足を抱え込み静かに泣く声が聞こえた。命を2回も救われずっと待っていたのに告げられた言葉は彼女の心を折った。私は嘆く彼女を抱きしめ優しく頭を撫でる。母が子をなだめるようにただ慈悲深く、彼女を慰める。
「彼女はもう仕方ありません。神様も死ぬときはあっけないものです。何があるか分からない非常時です。きっと運が悪かったんです」
「おねえちゃん……」
「だけどお互い彼女に助けられた命です。今は彼女がいたからこそある命を大切にしませんか」
「……うん」
「今日はもう寝ましょう。そして彼女の死を糧に明日からはここから出る為に進みましょう」
そうして私達はブランケットを借りてきてアリーナの端の暗がりで横になる。安心できるよう彼女に寄り添って優しく抱擁する。
「おねえちゃん……あした、おねえちゃんのところにつれていってくれる?」
「……彼女の居場所は崩落があったばかりで危険です。大人の方に頼んで待ちましょう」
「いっちゃだめなの?」
「…………」
「…………そんなの、いやだよ」
その言葉を最後に彼女は眠りに落ちた。余程無理して彼女を待っていたのか数分もせずにぐっすりと深い眠りとなり何をしても起きないだろう。私も少し仮眠をとり30分程して立つ。しかし運の悪いことに立ち上がると体の各所が強く痛む。戦闘後の高揚と時間経過の回復で心身共にどうにか耐えていたのだ。今は興奮も収まって痛みがぶり返してきた。
「うぐっ、まだ治ってないの? 信仰は十分にあるけれど流石にあの重症の治癒は厳しいか」
当然治すのであれば短時間でまとまった信仰があればいい。回復を待ってもいいけれどこの先も探索を続けるにあたり早めに治した……い…………
「人より多い信仰を持っている人材……」
私はすぐ横で寝る彼女を見た。ああ、条件を満たす者はここにいるではないか。
一度、深呼吸をする。これから行う業にまみれた行為の為に覚悟した。
「……腹を括りますか」
彼女のブランケットを剥いで彼女の体を見る。小さく、だが活力のある体だ。
「心苦しいですが……悔しいですが鳴葉さんの信仰の集め方はある種合理的です。私みたいな奇跡よりもあなたの災の作る負の感情は単純に残る、つまりそれだけ強いのです」
神の力を使い矢を出す。出せるだけの奇跡を矢というより槍のような大矢を両手に彼女の前に立つ。
神の無慈悲さが神性だというのなら鳴葉の信仰を持つ彼女も等しく殺すべきなのだ。それに彼女は孤独で心の支えであった恩人すら死んだ。ならいっそ殺してしまえば悲しまずに済むのだ。だが、だからこそ私は新たな信仰と幸福の礎により残酷に信仰を追い求めよう。
彼女の両足の下に丸めたブランケットを挟む。続けて私は自身の腹に矢を突き刺し貫いて奇跡を付与する。痛みはない、自身の体と同じ長さの矢が体を貫いているのに何とも不思議だ。そしていつからこんな使い方を思いついたのか、自分が嫌だ。
「はぁ、本当に嫌になります。どうしてこうなっちゃったんだろう」
慎重に刃を入れる向きを調節する。膝の関節に合わせ何度か角度を変え最適な位置を見つけるのだ。2、3度繰り返して納得する角度を見つけた。
鳴葉を愛す君へ、どうか私を許さないで下さい。信仰に飢えた神とは、愛憎すらも惜しいのです。
糞が、何が鳴葉の神だ。何が奇跡、何が災だ。結局なにも変わらないじゃない。
私は最後に心の中で彼女に謝り、自身を憎みながら矢を高く掲げ、振り下ろした。
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