つゔぁいごっどねす!ふぉっくすふぁいあ!!!〜現代に生きる神様達は信仰が欲しいようです〜   作:囚人番号虚数番

2 / 12
「黒姫家」 狐火からの誘い

燐火と名乗る彼は話すなら場所を変えようと彼の住処へと我を案内した。どうも彼、街の我が裸同然なのを見て衣服まで用意してくれて手土産の袋から我の着物を出し我に与えた。どうも見慣れぬ服で洋服、つまりは南蛮の服らしく日の本の神が身につけるのかと問うと今日の人間の間ではこれが普通であるという。ならば紛れるには最適か。着心地はいい。

 

服を着て帽子をかぶりかろうじてやっと表に出れる格好になれた。今の我の恰好は燐火の服と似ている。これは彼の服だろう。

 

不用心に人に連れられるのは危ういことこの上ないがここまでもてなされたなら疑うほうが失礼であろう。決してまだ飯が食べたりないだとか不順な理由などでは決して、決してない。

 

彼の着せた服を着て変わり果てた夜の鳴葉の地を歩む。月は高く登り、深夜であるのに明るい。高く掲げられた幾多の提灯が夜を照らす。彼が明かりの一つ無くあの社まで来れたのもこのお陰か。

 

「この街も結構変わったでしょう?」

 

「だな。変わりすぎていて元の鳴葉の面影がないから比べようがない程には鳴葉は立派になった。江戸や京の都もきっと同じように……何笑っておる」

 

「いいえ、残念ですが今の鳴葉でも京の都と江戸に比べたらまだまだです。でも喜んでもらえて嬉しくてつい」

 

しばらく歩き彼の住処に着いた。だが彼の神社ではなく二階建ての家である。てっきり社へと向かっていると思う我は戸惑うも彼の入る部屋にとりあえず入る。

 

 

 

 

ー鳴葉市街 黒姫家

 

「ただいまー」

 

「邪魔するぞ」

 

家は外観通りの広さである。だが我の知る家とは似つかず、玄関から見える物でも知らぬ珍妙な道具が至るところに置かれている。街もそうだが一体幾年経てばこうもなるのだろう。彼ならば知っていると踏み問う。

 

「なあお主、徳川の幕府が出来て今年で何年目だ?」

 

「徳川……え!? 鳴葉さんまさか江戸からあそこに籠もってたの!?」

 

すると彼は目を見開いて驚き、そして頭を抱えた。しばらく彼は何か考えているようで大体400年と答え、考えをまとめたいから一度風呂でもうだと提案される。

 

客に突然何をとするも確かに一理ある。ボロ屋に何年もいて我は汚れている。長く一人でいたから気にせずに、川もないので雨に打たれてことを偲んでいた。しかし……いや、あまり自身の不浄については長く語りたくもない。ともかく神同士が話すのに汚れた体というのは恥ずかしい。それに家に風呂というのが気になり提案に乗る。湯が湧くまで待つらしく一度広間へ通された。ここも日の本と思えぬ風貌で戸惑う。

 

「お湯が貯まるまでしばらくかかります。なので簡単な質問なら今答えますよ」

 

そう言い足を組み椅子に座る我に彼は茶を出す。彼も茶を淹れたようだ。

 

「今の日の本は幕府ができてから幾年だ?」

 

「うーん、1603年からとなると……約420年、江戸幕府が無くなって200年、それから外国と2回戦争が起きて現在です」

 

「ほう。つまり日の本は南蛮の手に落ちたのか」

 

「うーん、南蛮というか何というか。それと今は南蛮じゃなくて西洋とか海外とかそういう呼ばれ方をしてます」

 

我の扱いに困り顔をして彼は茶を一口飲む。我も茶を飲むが初めて飲む味の茶だ。聞くと紅茶という西洋の茶らしい。そして彼は彼でまた別の物を飲んでいる。

 

「お主、何を飲んでいる。茶か?その色、まさか醤油ではあるまいな」

 

「ぶふっ!」

 

我の問に彼は口に含むそれを吹いた。咄嗟に彼が向きを変え我には当たらずに済んだが少し机が汚れた。彼はちり紙で吹いた物を拭き取る。

 

「ゲホッ……ああごめんなさい。つい……いえ、なにも。これは醤油ではありません。あなたも飲みますか? 今持ってきます」

 

拭き終えて彼は台所から何やら探して見覚えのある赤い瓶と硝子杯を持ち戻ってくる。硝子杯に中身を注ぐと煮え湯のような泡を出した。多少甘い匂いがする怪しげな薬だが毒はないらしい。一口飲むと味は甘いが泡のせいで辛くも感じる。中々いける味だ。

 

「米酒ほどではないが……美味いな」

 

「ははは、流石にお酒とコーラを比べたら負けますよ。お酒好きなんですか?」

 

「…………献上する者が社から去ってからは一滴も飲んでいない」

 

「あっ……それは、ごめんなさい」

 

「気にするな。慣れておる。それよりそろそろ湯も貯まるんじゃないか」

 

我の言葉と同時に奇妙な短い曲がどこかで鳴る。彼曰く湯が沸いた時の音だそうだ。

 

 

ーバスルーム

 

 

 

さて、念願の風呂だ。早速体を洗って湯に浸かりたい……が、我の見込み以上に災難続きだった。例えば壁に付けられた管の仕掛け、後にシャワーと知るものを使った時は……

 

「えーと、この赤と青は湯加減か?それとこれは……っ冷た!?おい燐火!この風呂はどうなっておる!」

 

叫んで燐火を呼び出すとバタバタと彼がやって来る。

 

「それじゃ水しか出てきません!ああもう、私が洗ってあげますからそこに座ってて!」

 

と、裸体を見られながら懇切丁寧に使い方を指導してもらったり、他にも垢すりを使うにも……

 

「これを水につけてからぼでぃなんとかをぶっかける。なんだ結構簡単……あだだだだだだ!目が、めがああああああ!」

 

「水!水で目を洗って!って何で体で目がやられるの!?」

 

とまあ我が人の進歩に対応しきれずに結局は彼におんぶ抱っこだ。結局彼に体を洗ってもらいやっと湯船に入れた。慣れぬことは意地を張らず初めから教えてもらってからの方がいい。

 

「消えたい……神にこんなことをさせて……色々恥ずかしい…………」

 

それで我は湯に顔まで浸かりながら真っ赤になっていた。勿論湯が熱い訳でなく恥ずかしいったらありゃしないからだ。

 

「平気ですって。私も最初はそうでしたから」

 

彼は我がまた粗相をした場合に備え出入り口で待機している。本当に彼には申し訳ない。我の知る風呂といえば五右衛門風呂だったからな。道理で火を焚く空間がない訳だ。

 

「…………随分と人は変わってしまったな。もしかしたら人が神を超える日も相当くないやもしれぬな」

 

久々に湯に浸かり気持ちよくなったからかぽろっと弱音が漏れてしまった。それが聞こえたらしく彼は笑う。

 

「ですが人は我々神が必要としています。人の信仰無くして神は存在しえませんから」

 

「ならばその体には成らぬはずだ。稲荷神はどうした」

 

 

 

我が言葉を返すと彼はそれ以上何も言わなかった。多分彼にも図星なのだろう。それならそれで早く話せばよかろうに。

 

「…………………」

 

黙る彼に話を続ける。

 

「赤毛の狐は稲荷の眷属の証だ。何故己を神と名乗り、挙げ句社でなく人里におる。それにその体は我と同じ幼子の体。それだけお主の信仰心も薄れておるということであるがどうだ?」

 

「…………流石生粋の土地神様。何でもお見通しですね」

 

彼の声は先程までの優しさの籠もった声から神らしい冷徹な声に変化した。妙に人間臭い彼もやはり神なのだ。仕事になればこうもなる。

 

「あなたの言う通り私はつい数十年前までは稲荷の使いでした」

 

稲荷、宇迦之御魂率いる狐の一派で五穀豊穣の神。いつの時代も人々の信仰を集めるいわば手練共の集まりで当然神の間内でも信者が多いからとそれなりに影響力の強い。だがどうも彼はもうそうではないらしい。

 

「となると稲荷神のやつが神逐されたか。それか須佐之男に飯でも振る舞ったか?」

 

「それは月読尊が既に……そうでなく私の出自の問題で一騒動起こしてしまって。元々この辺りの守りの神として狐が信仰の対象となっていました。しかしいつしか人々は私を稲荷様と同一視して信仰してしまって。それで丁度その時に私が生まれ鳴葉の信仰対象に合わせて稲荷様と高天原にて職務をしてたんですよ」

 

高天原か。我のような地方の土着には関係ない場所だ。百姓と貴族位には我と彼等は違う。それこそ忌み嫌われる程に。って此奴そんなところで働いてたのにこの様とは本当に何をしたこいつ。

 

「しかしある日上から急に整理中に土地神だと伝えられて契約違反で脱退になりました。しかも地方の土地神との内輪もめなので誰もマトモに取り合ってもらえず」

 

「高天原の連中に頼ってはいかん。あそこは全国規模だから地方のぽっと出には害悪でしかない」

 

彼も口こそ冷静だ。だが彼の尾に心の荒れようが現れている。最も高天原に関しては我が一方的に嫌っているだけだ。だが彼も土着でしかも豊穣の神と同一視された経験をしていたとなると何となく同情してしまう。

 

「それだけならただの私用で済みます。ここからが本題であなたをここに招いた理由です」

 

「……ほう」

 

風呂がぬるくなってきた。確か赤い方がお湯だったか、気合を入れる為に熱い湯を足す。

 

「実は神の間で現在の日の本では人々の信仰離れが問題になっています」

 

「……ほう?」

 

「今日の日の本の人間の多くは神の存在を絵空事と捉えています。事実鳴葉の古い神を奉る場は尽く旅の名所となり、聖職も俗に墜ち商売に走り、最早この地には真に神を信じる者はごく少数です」

 

 

 

ザバァ!

 

「あり得ぬ!貴様戯言を抜かすのでない!」

 

怒声をあげて立ち上がる。人が神を信じぬ?忘れられるのなら終わりで手の出しようがないから置いておいて、疑われるのは我ら二人だけの問題でない。日の本の神全体が消えつつあるという意味ではないか。あり得ぬ、あってはならぬ。理が崩れ去るなどあってはならぬのだ。そう反論するも彼は続けた。

 

「江戸の伊勢参りを覚えていますか。詰まる所もう鳴葉の大御所の社は俗人の旅先に過ぎません。それに我々五穀の神も需要が減っています。何せこのあたりの田畑は全て人の住居となりましたから」

 

続けてこの家も四、五十年前はその一部だと付け加えた。

 

確かに江戸の頃から信仰の糞もなくただ旅を楽しんでいるだけの気楽な奴等が我の社にも来ていた。あの野郎共社には興味居ないくせに近くの蕎麦屋ばかりに行きやがり不快であったからよく覚えている。食い気には勝てぬのもあるけれども……

 

「っだが我の社の森は残っておったぞ!」

 

「あの一帯は地域の森林保護だからたまたま残存してきただけです」

 

「第一田畑が無くて人が生きられるものか!勘違いとはいえお主が豊穣として祀られた神であるなら神の大事さは知っておるだろう!それにいくら世も末でも神に救いを求める奴は大勢いたではないか!」

 

「…………だからあなたに協力を持ち掛けたんです」

 

その物言い、まさか我の動きを計算していた?此奴まさか初めからこれを見越して我を家に招き入れたのか。いやそれ以前に街で見つけたのも策の内か?

 

「いえ、見つけたのは全くの偶然です。ですが今日人の姿の神は見かけないので。それに私と同じ狐の土着神となると生かさない手はありません。きっとあなたも豊穣の神として祀られたのでしょう?」

 

……先程からの含みのあるその口振りと達観した態度だ。しかも我が豊穣の神と間違われたことも読んでいる。となれば彼も入調べをしたのだろう。そもそも此奴の最初を思い出すと元は彼が我に頼んでいたのではないか。ここは一度協力するのもありだろう。

 

「……策を話せ。事によっては乗ってやらんでもない」

 

彼は一度深呼吸した。我も熱い湯に肩まで沈みしばらく浴室に湯の入る音のみが響く。そして彼は覚悟を決めてこう願う。

 

「私と組んで二柱で一柱の神として奇跡を起こしませんか」

 

……は?此奴何を口走っておる。いくら神でもそんなことは無理だ。要は二人の人が一人になるようなことだろう。

 

「稲荷の協力に頼っていた私の力では鳴葉の維持は出来ません。じきに鳴葉は廃れ、歴史の波に消えゆくでしょう。土地の維持が出来なくなれば穢れ、人はより土地を捨てる。信仰もそれだけ減り最後には我々神は消える」

 

「それで?何故我が必要なのかさっぱりだ」

 

「信仰が薄れたということはつまり神の実情を知るものも少ない。狐といえば稲荷、人の理解は既にその程度でしかありません。ならばもう神は人の目を気にせずに動いても構わないと思いませんか?」

 

そこまで話されてやっと彼の行おうとする策が何となく頭に浮かんだ。成程、つまり彼らの無知に我々が漬け込んで生き延びるつもりだ。だが……これは………

 

「お主自分が何を言うとるのか分かっておるのか。相殿を神の独断でやる、そうなのか?」

 

「もう少し正確にしますとあなたと私の共通点は『狐』。そして人は狐であるのならばどれも一緒くたにする。ならばいっそ人に合わせ豊穣の神として私達二柱が一柱として立ち振舞う。それならどちらも消えることはない、私はそう考えます」

 

確かに理論はそうであるが……

 

「その代わりあなたに土地神の力の使い方を教えていただきたいのです。私は生まれて長いこと稲荷として職務をしていたものでして土地神本来の力を使いこなす技量はありません。稲荷の使者を辞めてから数十年はどうにか前のやり方で済んだのですが……信仰が足りない私では長く持たないでしょう」

 

「(元稲荷という者がここまで落ちぶれるとは今日の人はどうなっておるのだ?)」

 

我も人に忘れ去られてから長らく経つ。土地神の力など最後にいつ使ったか覚えておらぬし神力も進行のせいで虫の息だ。だが元稲荷が力を失うとなると我も意地を張らず彼の願いを飲んでおいて損はないだろう。

 

「死を恐れて外道に堕ちたか。おまけに力すらも使えぬとは神の恥晒しめ……だが悪い話ではない。お主の言う現し世の変貌をこの目で確かめた後我も誠意をもって答えを出そう」

 

そう言うと彼は礼をして立ち去ろうとした。だがまだ我は話を終えていない。

 

「待て、まだだ。誠意をもってといったが我は高く付くぞ。そうだな……我の社の代わりにお主の社に住まわせろ。飯もだ。それなら明日にでも社に出向こう」

 

「人里での生活は私の巫女が保証します。多少癖のある変わり者ではありますが今でも神を忘れぬ稀有な者です。用を頼めばある程度はこなしてくれるでしょう」

 

そう言い彼はその場を去る。

 

全く、話していたら随分と長風呂になった。ただ彼を皮肉るつもりで軽い気持ちだったのに余計なことを長々としゃべくりおって。その分得るものは得られたから許そう。

 

「(しばらくは……大社には帰れんな)」

 

取り敢えず衣食住は彼とその巫女が持つ。ならば態々ボロ屋に戻る必要もない。それに信仰を取り戻すにも人の世を多く知る必要がある。野盗の様な暮らしもしてみたくはあるが望んでするものではないだろう。信仰についても小さな社でも我のボロ屋よりはどこもいいだろうし問題にならん。いい加減風呂から出てもう寝てしまおう。

 

こうしてニ柱の奇妙な協力の下我の現代日本での生活が始まった。

 

 

 

 

 

一方そのころ

 

「! また女の子が増えた気配がする」

 

寝室にて巫女は何かを察したようだ。

 

 

 

 

 

ー--

 

 

 

コーラ

 

異邦より伝わった清涼飲料。黒く、そして絶えず泡立つ甘い液体。特性を熟知したならば飲む以外にも役立つ。

 

人だけでなく神すら虜にするその風味は多量の糖分と様々な香辛料に由来し薬剤に似た成分を含む。極少数の者は薬剤としての癖のある味に強く惹かれるらしい。




私事ですがおおきな空欄があるとドラック反転してみたくなります。

小説の適切な話数

  • 5話以下
  • 10話
  • 12話
  • 20話
  • 24話
  • 30話
  • 36話
  • 40話
  • 40話以上
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。