つゔぁいごっどねす!ふぉっくすふぁいあ!!!〜現代に生きる神様達は信仰が欲しいようです〜 作:囚人番号虚数番
ー鳴葉市街 神社前通り
昼頃の鳴葉の街、今日も今日とて現地の者と遠方から来た者との交流で賑う。その中心地にとも言える神社へと続く石の道には古くから続く伝統ある店と最近の流行りに乗じた店が混在する。故に古き街に惹かれ訪れた者は皆静かで趣のあると言い、そうでなくともどこか奇妙だと思われる。
「(これが真の鳴葉の地か。姿は違えど鳴葉はいつも騒がしい街だ)」
燐火の案内の元昨日の宣言通り彼の社である名所、鳴葉稲荷神社に訪れることとなった。今日は社のことはせず純粋に下見だけだ。
昼間で人の出入りが激しく、至るところで商いが行われ行き交う人を避けながら我ら二人でその街を並んで歩く。燐火曰くこの町では狐耳のかちゅーしゃとかいう付け耳が多く売っていて紛れられるから帽子は要らず、今は尻尾だけ隠している。
「鳴葉さん、気になりませんか?」
「ああ? 社か? そりゃ楽しみだ」
「そうじゃなくてこの街ですよ。江戸時代から様変わりしててなんだか歩きたくてウズウズしませんか?」
「一応見慣れた街だ。別に今更何も思わん。それより尻尾と耳の動きをどうにかしろ」
まあ、昔には無かった新しい店は興味がない訳ではない。燐火がソワソワしていたのは我にどの店を勧めようか迷っていたからだそう。旅人が多く訪れる地で名所は多い。だが彼が提示した店の数々を見ていたら神社に着く前に日が暮れてしまう。いくら見慣れぬ店が多くとも神社を見た後か後日にでもして今はまっすぐ目的地に向かいたい。
「いいや、今は真っ直ぐ社へ案内しろ」
「ぅ……そ、そうですか。分かりました。うー、お預けか……」
見るからに燐火の耳が下がりしゅんとする。まさかここまで落ち込むとは思わず、我も連れてきてもらった身であるので気が引ける。空を見上げて日の高さを測る。よし、まだ低い。なら1、2軒くらいを見ていくのならいいかも知れぬな。それを伝えると燐火は一転し元気に我の手を引き案内した。
それから鳴葉の大通りを歩きながら先に進む。彼と入った店は様々だ。
例えば古くから鳴葉に根付く懐かしい店
「あ、このお店は見覚えがありませんか?」
「ううむ、覚えているようなそうでないような。あっこの饅頭なら知っておるぞ。懐かしいな」
例えば近年出来たは流行りの店
「あの車の店で買ったくれーぷとかいう菓子は中々に美味だ。人があれ程並んでいるだけあって待つ価値はあったな」
「タピオカコーラフロートもおいしいです。あのお店は今年に出来た新しいお店で結構人気でネットでよくオススメされています。実際行ったのは初めてだけど来てよかったです」
「有名な店だったか。ならあの旨さにも納得するな」
道中で良く分からんなんかと出会ったり
「狐の人形が街を歩いておる。神の真似事とは滑稽だな……燐火、お主って実は」
「私じゃありませんよ! 地域のご当地キャラクターです。可愛いですよね」
「矢鱈顔が野生の狐に似すぎて不気味だ」
途中道に迷いつつ神社へと向かう。
「鳴葉さん!?そっちは神社の方向と逆ですよ」
「え、あ?ああ、そちらだったか。済まぬ、どうもこの辺りから道の作りに覚えがなくてだな」
「ここの道は神社が建設されたと同時期に敷設されましたから神社付近の小道は昔と違います。でも時期になれますよ」
まっすぐ目的地へというのは思いの外難しい。時が経ち姿は違えど名所には変わりない。いかに旅人の目を引くかを考えられただけある。歩けば歩くほど懐かしい店の思い出が蘇り、新たな店を見つけると好奇心からついつい足を踏み入れたくなってしまう。そのうち目的から外れて数件かに立ち入り遊んでしまった。結果日は少し高く登ってしまったが実に楽しく充実した時間だった。
土地神という立場がなければただでは死なぬ身なのだし辺りを放浪して生活するのもいいかもしれない。なんてことを考えながら道を先へと向かうと突き当りに当たる。目の前には長く続く石段と数多の鳥居があった。
「さて、到着しました」
燐火が私の前へ出て振り向きとても自慢げに我を見る。
「ここがお主の神社か。中々に上等そうじゃないか」
「お褒めに預かり光栄です。私の神社、鳴葉稲荷神社へようこそ」
ー鳴葉稲荷神社
山1つを丸々使った鳴葉最大規模の面積を持つ唯一残る鳴葉の神社。幾度の災害を乗り越え今もなお広大な神社は現在では厄払いと奇跡の名所であり、また稲荷信仰の名所でもある。
だがこの社は古き神を祀る地に建てられた社とは多くの者は忘れてしまっている。
敷地に入り数多の朱色の鳥居を潜り石段を登る。やはり森に囲まれているから市街地より涼しく心地が良い。心做しか旅人も薄く袖の長い服を着た者と多くすれ違う。たまに着物の者もいて古くからの慣習を持つものはやはりいたのかと喜ぶ。が、燐火にそれを伝えるとあれはただ貸し出されたた着物を着た観光客らだと教えられかえって落胆した。
長い石段を登る途中手持ち無沙汰なものでこれから教える神の力について燐火がどこまで知っているのか聞くことにした。
「なあ燐火。神の力の使い方は忘れているのだな」
「ええ。奇跡を起こすのに必要で、でも使えずに信仰が集められないのです。使者時代は稲荷の加護でその場にいるだけで奇跡を起こしていたので楽でしたよ」
「加護は使者に力を貸し与えているだけだから無力な我らには出来ぬ。諦めろ。ただまあ力を使いたいと思えてるのなら使えるな」
我は上から降りてくる旅人の一団を指差す。
「アレに力を使え」
「……えっ!? そんないきなりですか?」
流石にいきなり実践は唐突過ぎたのか燐火は驚き、そして無理だという。まあ、長年出来ずにいたのがいきなりできるようになるのはちと無理があるとも思うだろう。
「なーに人をしたいようにすればいいだけだ」
「したいようにすればって……具体的にはどうすれば……」
「祈れ。人を崇めればあとは本能で分かる筈だ」
「ええ〜、じゃあやってみます」
燐火は目を瞑り人の方に向かって手を合わせる。傍から見たら奇妙で面白い。本人も滑稽なことだと自覚し恥じており顔が少し赤い。その上何も起きていない。そうしてこちらを気に留めることも無く旅人は下に降りてしまった。
「むー……むー…………むーっ!」
「うるさい。旅人はもう去ったぞ」耳モフモフ
「うひゃっ!? いきなり耳を触らないで下さい!くすぐったいじゃないですか」
「んなもん分かっとる」
ぷりぷりと怒る彼を適当にあしらいまた新たな実験台を待つか。そう思いまた石段の続きを登ろうとふたりで歩き始める。
「キャッ!」
瞬間、短い悲鳴。ばっと振り返ると先程の旅人らの一人、一番後方の者が足を滑らせて頭から転がろうとして宙を舞っていた。足元を見ると旅人の乗った石段が割れて崩れていた。
「おっと?」
「あっ!」
他の旅人らは気づき後ろを見ようとするも恐らく間に合わない。しかも石段の間隔も狭く角度も急だ。ここで我は燐火の耳にこう囁く。
「もしお主が放っておいたらあやつら、全員巻き込んでここから最下段まで転がり落ちる。となると骨の2、3じゃ済まぬかもな」
「へっ!? 鳴葉さん!」
「お主が救いたいなら早う手を動かせ。まず視点に立てなければ何も始まらんぞ」
燐火は焦り困惑するもあまりに唐突で硬直して動けない。我からは手出しをするつもりもないし助けられもしなそうだからそのまま歩き出す。だが突如現れた後方の強烈な白い光に振り向く。
光源の正体はやはり燐火だった。彼女は光る大弓を数本の矢を持ち構えていた。身長よりも長く、ギリギリと鳴るその音で弦の張りも相応だろう。だがそれでも幼い手で引けているあたり神の力の存在を感じる。なんだ、やればできるじゃないか。
「っ間に合って!」
そして手を離し凄まじい勢いで矢は飛び旅人の彼らの体を射抜いた。
「ってああ!?人殺しちゃったー!?しかもなんか出てきたってこんなの知らない。鳴葉さん、これって……」
「神器、奇跡を起こすのに必要な道具だ。人目は気にせんでいい。何故だか知らぬが神器を出すと人から見えぬようになるからな。ほれ、見てみろ」
宙を舞う旅人は予想通り全員を巻き込んで体制を崩す。しかし押し倒した本人は軌道がずれて石段周りの比較的柔らかい地面に倒れ、他の者も同じく地面に倒れた他互いの荷物が緩衝材となり手足を擦りむいただけでどうにか大怪我は逃れた。それから互いの無事をご利益だとか騒ぎながらどこかに去る。
「おお、気づいてない!」
「我ら神はこうやって神器を使い信仰を集めるのだ。お主の能力は光の大弓の矢で奇跡を起こす能力らしいな。信仰を集めやすく扱いやすい。これならこの先楽だろうな」
「成程ー。ありがとうございます」
燐火は数段飛ばして石段を駆け上がり先に歩き始めてしまった我に追いつき隣で歩く。石段の終わり木の隙間から本殿が見えてきた。当然ながら本殿の中に御神体が保管されている。我にはそういった類の像やら何やらには縁がなく、特に他社の物などは初めて見るから楽しみだ。だが燐火にそれを話すと顔を赤らめ恥ずかしそうにな顔をした。
「あの……御神体は無闇に公開するものでは無いから本殿の奥に仕舞われてますよ。それに、ほら、御神体って私達神の本体みたいな物なので何だか裸を見られているようで恥ずかしいです」
「え、あれそういうのなのか。神なのに初耳だな。人目は神器を出せば見えなくなるからそれでいいだろう。恥ずかしいのは……まあ、うん、気にするな」
……御神体ってそんな物なのか。無知とは恐ろしい。一つ学んだところでまた上を目指そう。
「ちなみに鳴葉さんの神器と能力って何ですか?必ず勝負に勝てるとか、病気が治るとか?」
「効果は色々だ。少なくともここらの奴らには好かれた。逆に政をする輩からは好まれなかったな。守り神以上に意味は持たぬ、それが全盛期の我だ」
ー鳴葉稲荷神社 本殿
山の上の広い空間に建てられた鳴葉稲荷神社の本殿。此処こそが鳴葉稲荷の核であり建設から色あせない華やかさを保つ。
だがいつまでも真に狐は祭られない。知れぬ者を祭るなど人の視野には出来ぬことだ。だから黒姫は啓蒙した。神の畏敬、創造を。
昔からの一般的な神社にあるものはここにもある。我らは神らしく鳥居の真ん中を潜り手水舎にもよらずに、参拝の為並ぶ人共を抜け本殿に直行する。だが、案の定扉は固く閉ざされ御神体は見えない。うーむ。回り込んだり上から侵入するのも難しそうだし人目も多いから鍵を盗んで真正面というのも昼間の今はやるべきでない。静かに舌打ちしその場を立ち去る。ここは後で巫女を頼ろう、クソが。燐火は寧ろ御神体を見られずに良かったそうで安心していた。
「(しっかしまあここも人が多いな)」
ここにまで来る途中如何なる場所でも人脚が途絶えることが無かった。流石に細い路地とかはそうでないがどこもかしこも人ばかり。そこの建物も豪華になりしみじみと時の流れと進歩を感じる。
「(全盛期の我ですらここまで人を集めたことがない。日の本の人も随分と頑張りおって)」
もう本当に神など必要が無いのかもしれぬ。本殿の前に戻る途中に飾られた絵馬の数々を前にしてそう思う。一つ手に取り読むとそこには受験だの恋愛沙汰など土地神や稲荷としても縁もゆかりのない願いばかりだ。総じて俗物の願いばかりで神への願いでなく己の願望を叶えるためのただの手段としか捉えていないのであろう。
「(こうなると我の奇跡も通用しないかも知れぬな)」
「絵馬に興味がおありですか?」
悲観していた我に燐火が言う。別にそういうわけでもないが……急に言われたものだから返答できず断る前に彼は走り去りどこかへ走っていった。あっちの方はお守りとかが売ってる所だ。きっと我が物欲しそうに見ていたのだと勘違いしたのか。
数分も経たぬ内に燐火が息を切らして戻ってきた。手には一枚の絵馬を持ち我に渡す。既に短く黒字で何か書いてある。
「鳴葉の土地神信仰が復興しますように 燐火」
「お主、これは……我らがやれと?」
「はい! 実は私も前からこうやって人に紛れて神様に願ってみたかったんです」
神が神頼みとはこれまた皮肉めいた事をするものだ。書いたところで祈る神とは自分だ。だからこんな物は木の板に書いた弱音に過ぎん。
「はっはっは! ずいぶんと手間のかかる予定帳だな。だが気に入った、我もそれに乗ってやろう」
燐火から絵馬と筆を奪う。ふーむ、何を書こうか……いや、今の我の願う事は一つしかない。器用に筆を走らせて願いを書く。筆先が慣れぬ形であるにしては中々に達筆に書いたそれを眺め数多の絵馬に紛れて飾る。
「我の本来の力が戻るように 鳴葉」
「これでよし」
「わ〜綺麗な崩し字。懐かしいですねー」
そうか、崩し字も使わんのか。これでまた新たなことを一つ学べた。珍しい体験ついでにおみくじというのもやってみることにした。幸運なことに1番の棒を引き大吉を見事に当てた。隣の燐火は末吉だ。それでお互い何が書かれているのかをその場で読んでいると知る声で微かに笑い声が聞こえた。……巫女か、何巫女の服も着ずに物陰から見ておる。
「あ、バレちゃった?いーやね?ただちょっと……」
「何言い淀んでおる。言うなら言え」
「うーん、見た目通りって感じで微笑ましくて。じゃ」
彼は物陰に隠れ我らは追いかけるも既に立ち去っていた……だがここは行き止まりだ。まあ彼しか知らぬ隠し道でもあるのだろうがあえて今調べるものでもない。一日歩いて疲れてきたし今日はもう帰ろう。
帰り道に石段の上から街を望む。中心の通りはどこまでも続き道を挟んて古い街と新たな街が立ち並んでいた。新たな街はどれも建物が為政者の城の如く高くそびえそれだけ発展していると分かる。人もきっとそれだけ多いのだろう。あの辺りは社とは別に地政的にとりわけいつもそうだった。
「燐火、あっちの街は随分と栄えていそうだ」
「あそこらは街の中心地ですからね。駅やおっきな施設とかはあそこにあります」
「我の力が戻ればあの街一つからでも十分信仰を集められるだろうな」
「ならまた下見をしに行くのですか?」
「……もうしばらくは人に慣れよう。社のことも何もしておらん。それに調べごとも多いからな」
「それなら現代には便利な道具がありますよ。インターネットのヒッキーペディアというのですが…………」
こうして帰り道に狐耳のニ柱は夕方の石段を下る。
今日は早く寝てまた明日に備えるのだ。
ーーー
奇跡
神が己の持つ力を使い起こす御業。人々が窮地に陥った時、神は人に隠れこれを使い有り難い恩恵を与え信仰を得て神は生き延びるのだ。
神のこうした行いを奇跡と呼ぶのは本来は異邦の文化である。だが幾多の災を被らぬ社を長い歴史と共に見た鳴葉の民が奇跡と呼ぶのはある意味当然であり、神の手によらない奇跡なのだ。
神器
神の力に付属する道具。神の体に刻みつけられたそれは姿形は様々で、だがどれも神の意志の元にその手に現れる。これを出すことで神は神としての役割を担い人が捉えられる存在から外れる。
一部の神の力と認識を逃れる効果は武器を出さずとも使える。
神器の多くは用途の是非を持たず神器でしかない。ただ今の鳴葉では神とは肯定されるもので、よって奇跡こそが姿が真である。
小説の適切な話数
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5話以下
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10話
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12話
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20話
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24話
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30話
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36話
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40話
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40話以上