つゔぁいごっどねす!ふぉっくすふぁいあ!!!〜現代に生きる神様達は信仰が欲しいようです〜   作:囚人番号虚数番

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「鳴葉駅前」 人の栄華、信仰亡き都市

現在時刻 事故から一週間後

 

ー鳴葉市街 黒姫家

 

 

 

カタ…………カタカタ……カタ……

 

「(次は鳴葉駅前と入れたいんだがNのキーは何処……見つかった。次はAと)」

 

床に直置きされたノートパソコンの前でローマ字の対応表とキーボードを交互に見ながらゆっくりと字を入力する。検索欄の中には「人 多い n」と入力されここまでにかれこれ5分以上かかっている。

 

「(四字如きにいつもいつもこれだけの苦行を強いるとはな。巫女からこれは使えると教えられたのだが技量が足りぬ)」

 

検索欄から分かる通り現在パソコンのインターネットを使って調べごとである。燐火から紹介されたこの道具は調べごとにはこれ以上ない物らしく曰く今晩のおかずから世界の裏側まで何でも知れるそう。またやろうと思えば遠くの者と話せたり買物ができたりとにかく色々なことが出来るそうだ。

 

ちなみに我が気になるのはアイドルとかいう踊り子だ。外国の言葉で「偶像 本尊」を表す言葉でその名の通り神のような信仰を集めるらしい。もっと早くこれがあれば我の信仰も集められていたかもしれない。

 

「ゔ〜あとはこのデカいのをっと!」ターン!

 

エンターキーを勢いよく叩く。「人 多い 鳴葉駅前」と検索すると駅とその内部や近くの店が沢山出てきた。一覧にされたそれらは距離的に慣れない土地でも距離的には一人で行けなくもない。取り敢えずいくつか絞り込んでここへ出向けばいいか。であれば早速巫女に頼み連れ出してもらおう。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ー鳴葉駅前

 

鳴葉に建てられた乗り入れ駅。古都の伝統を捨て時代を取り入れたこの地は周辺地域の中心地でありまた鳴葉稲荷神社へ行く為の乗り換え駅でもある。鳴葉のこの地に根付く民は今を生きる為に神社よりもここを好む。

 

古い大社を中心とした古都は鳴葉神社の建設の後に今の駅の場が中心となった。そして異邦の風が吹き込んだ時にはこの地から神は死んだ。神とて不要な神は寧ろ枷でしかないのだ。

 

 

 

何故慣れぬパソコンを使ってまでこの地に訪れたのか。それは鳴葉の地の人はどのような生活をしているのか知りたかったからだ。時代が進みしばらく過ごして薄々感じていた事だが社周辺は政治や生活の中心ではない。そこで以前燐火に教えられた現在の中心地へと訪れて見たかったのだ。まあ、一度はこの地を中心に出来た我なのだ。人の多さにはもう驚くことはないであろう。

 

それに燐火の家に居候してからそこそこ経って人について多くを学べた。燐火の修練ついでに巫女が厳選した日常アニメや漫画、映画等々を読み込んだのだ。その過程で人々の住まう都市について気になり、後に調べて鳴葉の駅がどうも似たような場であったので今回訪れてみようとした次第だ。

 

気がかりなことといえば燐火には世話になってるし巫女は私用で来れず足代と遊ぶ金を少しだけ渡され一人で行くことだ。だがそれも杞憂で電車という電動の大籠に乗り(安さ広さは最高だ。しかし人の多さには堪える物がある)教えられた金の払い方と地図を頼りに事故もなく自力で駅についた。

 

電車を降りて人混みに飲まれながらわけの分からぬ内に何時のまにか屋外へと出る。そして念願の現代の都市とのご対面だが……

 

 

 

 

ざわざわ……  がやがや……

 

「(平日の真昼間でも祭りのように人が多い、至るところに高そうな飯屋、 首が痛くなるまでにそびえ立つ石の塔……なんと綺羅びやかな街なのだ!?)」

 

「おお……これが人の地……!」

 

家を立つ前の我がいたなら教えてやりたい、時間の流れというのは恐ろしいものだと。写真では散々見た景色でも実際見るとかなり違う。例えば石の塔も我はてっきり神社の旧市街の建物に毛の生えた程度を想像していたのだ。あと外国の見知らぬ料理屋がどこかしこにもある。ここでなら一生かかっても食べられぬ物もあるかもしれぬ……とまあ、感動するところを挙げたらきりがない。

 

「(……はっ! こんなので迷っている暇はない。人の凄さはもう十分に感じたからこのスマホのマップに登録してもらった場所を早急に巡ろう)」

 

で、肝心の進行方向というと

 

「(えっとここから東だな。日は建物に隠れて見えない、となると山で方角をって山も隠れて見えぬと!?)」

 

こうして、自然から離れた都市を苦労しながら歩きまず初めに駅近くの場所に訪れる。

 

 

 

ーゲームセンター

 

ドゥンドゥンドゥンドゥン♪

 

ユックリコインヲイレテネ!

 

Silveeeeeeeeeeeeeer rush !!!

 

祭り囃子の如く至るところから激しい音楽が流れる陰鬱とした施設。若年の男女が集まりそれぞれ多種多様な機械で遊戯をする。その外部と隔絶された雰囲気から各々近いからと来るべきではない気もしてきた。

 

ここにはどうやら楽器を模した遊戯が多いらしい。壁に貼られたここの地図を見ると音楽ゲームコーナーという。ここに訪れる者は皆余程の達人ばかりの集まりらしく誰もが恐ろしい指捌きで画面に流れる譜面を演奏している。困ったな、我には音楽の教養などない。

 

そこから奥に進むと玄人の空気が薄れ陽気な音楽の流れる場所につく。地図いわくクレーンゲームコーナーと。若い男女がこの台に張り付き中の物品を取らんとする。確率機やら運ゲーやらと嘆く、また多額の銭をつぎ込んでいる所からここは賭博のようなものだろうか。鉄火場とあればか弱き子供の身だ、できれば触れたくはない。

 

となると安全な場所はどこか見て回ると逆に我より小さい幼子がこぞって集まる場所も見つけた……だが、どうも遊ぶ気には慣れない。ただその近くに音楽ゲームコーナーにもあった台を見つけ、ここにあるのならば安全に違いないと一度遊んでみた。

 

一曲目は適当に簡単な曲を選び、二曲目は和風の祭りの曲。やはり子供用らしく初めてでも簡単に楽しめる。

 

「これで最後の曲だな。最後くらい我の技量を試してみたい」

 

ならば腕試しにこの題名からして魑魅魍魎な曲共の中から試してみよう。

 

「技量を見せると言っても今までも相当簡単であったから今回も……お"っ!?!?!?ちょ、まっ!おいおいおいおい何だこの鮭の産卵!?これあの達人共用の曲じゃ、何故ここにって我騙され……あ"ー待てゲージが、ゲージがあああああああ!」

 

 

 

ドゥォン  ー 閉 ☆ 店 ー <GAME OVER

 

 

 

 

 

 

酷い目にあった。無様な成績を晒して恥ずかしくなり我は逃げるように店から出てショッピングモールへとやってきた。

 

ここは事前に調べておいたからある程度概要を掴めている。ここは巨大な箱に様々な店がすし詰めにされた商店街のようなものらしい。主に食料品と服屋と雑貨屋が多い。流石に用もないからここにもあったゲームセンターも避けた。しかし二階の本屋ならば入り易そうで冷やかしにやってきてみた。

 

「(鳴葉稲荷の案内本が多くあるな。一冊読むか……お? 『お稲荷様のライトノベル特集コーナー?』燐火に似た幼い稲荷神の書かれた書籍が山積みになっておる。どれどれ……)」

 

一冊を手に取り数ページ読んでみる。登場人物の一覧を見るに女ばかりで一人の男を囲う恋愛物?題には冒険譚と書かれているがそうとも思えない、緊張感もない。分かるのは我の肌に合う物ではないな。有用な書物でないと知ると興味を失いその場を去る。それより近世からの日の本の歴史や学術や技師の指南書などは面白そうである。ただ多くは買うまでの興味はない。

 

ふと1つの本に目が行く。表紙には漢字の書かれた古い資料の写真で題名は「鳴葉駅前歴史資料館写真集」。中をめくるとそこまでの地図と料金が載っていて手持ちの金でも行けなくもない。元々行く予定であったが危うく忘れかけていた。

 

「(こういうのは巫女が持っていそうだ。本は必要はない、それとは別にこの歴史館は絶対に行ってみるべきだ)」

 

本を置いて店を立ち去り早速ここに訪れようと最適な出口の方を探す。だが何故だか下の階が騒がしい。吹き抜けから1階を覗く。

 

「……お?」

 

下の階では面白そうな事が起きていた。数人の黒服の男が刃物やら武器を持ち店員を脅している。店の硝子棚は砕け散り中の物は彼等が所持している。そして店員は必死そうに店の中の金を彼らの前に献上している。

 

「(賊か! 都市といえいつの世にもああいう輩は居なくならないな)」

 

彼らは既に護衛と思わしき別の集団から囲われ逃げ場はない。だが逆にそこに攻め込まれる様子もない。もしや……やっぱりだ。よく見ると店員の他に質がいるのか。しかもご丁寧に動けないようにどちらも簡易的に縛られてる。あの賊共、相当に手練だ。

 

 

 

 

「………」

 

「……!………!!……!!!」

 

 

 

「(どいつもこいつも怖気づいて動けぬか)」

 

恐らくこのまま無関係と放置してもきっと人の事だ。我の助けが無くともどうにもなるだろう。しかしあの人質らは幸運だ。何せここには神がいる。今は少しでも信仰がほしいのだ。直々に神の力を拝める権利を我から与えようぞ。

 

信仰が足りるか不安だったが神の力は僅かながらに使えそうだ。目に見える程にはまだ足りぬが奇跡を起こすには十分だろう。ならばあとは信仰を力にするのだ。吹き抜けの穴から距離を取り、姿を消してから足に力を込める。

 

「ふぅ…………っ!」ダッ!

 

我は吹き抜けに向かい走り出す。幼子の脚力では足は遅く大した威力にはならなそうだが本質はそうではない。限界まで吹き抜け周りの硝子壁に接近し走った勢いを載せて蹴り飛ばす。

 

「ふっ! っぐ〜!」ドゴッ!

 

足は硝子壁の下方の枠組みに当たる。ガラスは傷一つ付いておらず金属枠が低く唸りながら鳴る。我は固い面の部分に足が当たって予想以上の痛みに足を抑えて悶える。だが折れてはない。

 

「ぐぅ……流石に当たり所が悪かったな」

 

しかし神の力を使うのは成功したようだ。計画通り蹴りの当たった金属部に異変が起きた。

 

ピキッ ピキピキッ

 

枠は音を立てながら硝子壁の接合部にヒビが入る。そしてそのヒビは他の壁にも伸び、深くなるその度にフラフラと壁が揺れる。そしてすべての壁に損傷が到達した時全体が内側に倒れ込むよう、吹き抜けの方に大きく傾いた。そして……

 

 

 

 

 

 

「ふー……痛みも引いてきた。さて、帰るか」

 

足がだいぶ良くなってきて再び立ち上がり、吹き抜けに集まり来る人共を神の力の認識阻害で避けながら降りる。神の力の認識阻害は凄いな、エスカレーターの乗降探知が反応しなかった。1階について例の店に目を向けると人集りが出来ていた。その間から見えるのは泣き叫ぶ子供と子を抱えたまま呆然として震える客。それと硝子片が全身に突き刺さった数人の死体。

 

はんばーくとかいうのがあんな肉から作れるらしいな。今日の晩飯にでも頼んでみるか。

 

 

 

ーーー

 

それから様々な場所へと訪れた。電気屋や服屋、他にも色々だ。そして最期に辿り着いた場所。

 

 

 

ー鳴葉駅前歴史資料館

 

鳴葉の長い歴史を残すための施設。鳴葉の歴史の内に書き記された資料がここに保管され古き文化と学術をに伝える。故に稲荷に出向く過程で多くの者が訪れる駅前に立つのだ。

 

取り扱う資料は鳴葉稲荷建設当時の資料が多い。だが稲荷神社建設以前の詳細な資料は未だその子孫が鳴葉の原点の多くを秘匿している。つまり禁忌であり、知る者だけが知るのみでいいのだ。

 

 

 

小学生の入場料は半額で安く入れた。駅前というだけあり建物は細長く、そして近代的な施設で小綺麗だ。展示資料はどれも時の流れを感じさせ、だが我の知るような物も多く懐かしく思う。ただ正直美術品やら為政者の記録やらが多いからか我の知りたかった情報はない。勿論理由は身を持って知ってる。それでも一応人の目からどう見られているか知りたかったのだが……

 

「あっこれは。懐かしいな、確かにこんな時代もあった」

 

探している内に懐かしい物を見つけた。厳重に管理された小さな紙片でたった数字の漢字の書かれている。解説に「鳴葉と記載された最古の資料」とある。提供者には黒姫の名が記されていた。黒姫といえど巫女でない、祖先に当たる名だろう。

 

以下は文章だ。

 

「麻賀加久禮宇知勢伊士夜久阿理岐那理波由禮流許禮那良伊鳴葉登須」

 

「万葉仮名……こんな物までまだ残っておるとは」

 

年代等を見るにこれは我の信仰が始まってから中頃の物だ。塵屑みたいに小さくなったけれど残っているとは感慨深い。これが見れただけでも良かったと思っておこう。その後は目ぼしいものはなく見たい物が無くなり資料館から出た。空は青空にやや赤みがかりかけた時刻だ。

 

「(今日はもう疲れたな。帰るか。今からの時間だと帰りの電車は6時頃、夕飯時には帰れそうであるな。朝は駅こそ凄まじい人集りだったが車内は結構座れていたし少し寝るか)」

 

 

 

 

 

 

 

そうして我は家に帰る為電車に乗る。勿論午後6時頃のラッシュ真っ盛りの電車、すし詰めになった車内でまともに座れる筈なく疲れ切った体に鞭打ちながら帰った。

 

「タスケテ…………タスケテ……………」

 

 

 

 




投稿誤爆したので投稿です。

小説の適切な話数

  • 5話以下
  • 10話
  • 12話
  • 20話
  • 24話
  • 30話
  • 36話
  • 40話
  • 40話以上

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