仮面ライダーロア   作:瀝青

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第9話 鑑渉

 “灰色のロア”。

 オフォイスは突如出現した彼、或いは彼女に警戒しつつも武器を構えて駆け出す。

 対する“灰色のロア”は必要以上の動作を取らず、戦棍と刃を手で受け止めた。

「あぐっ……」

 オフォイスの腹部に蹴りが突き刺さり、彼女は後退る。それだけで戦いは終わらない。睥睨の戦棍と地平の強弓が紫色で燃え上がり、今度はオフォイスが攻勢に転じた。

 武器の有無など関係無く対等に渡り合う、二人の灰色のライダー。淡々として無言の“灰色のロア”と、情熱的に掛け声を発するオフォイス。ロアとベイラはその様子をただ静観するだけだった。

 “灰色のロア”は回避や防御を主体として立ち回りつつ、オフォイスの隙を的確に突く。

「ぐ、ッ…………オラァッ!!」

 オフォイスは荒々しく突撃し、彼或いは彼女に手痛い反撃を喰らわせた。

《Biblioclasm!》

《INCISING DELETION!》

 狼が喰らい付く。

 左脚に紫が着火、高い天井に向かって跳躍。空中で全身を大きく捻り、体重を乗せた浴びせ蹴りを。

「ウォォォォォォォッ!!」

《Xenoglossia!》

《RIDER KICK!》

 一方、地上に留まる“灰色のロア”。オフォイスと同じく左脚を灰色に燃やし、直立した姿勢から上段蹴りで迎え撃つ。

 二色の猛火が相殺。次の瞬間、ロアとベイラの視界には床に倒れるオフォイスと“灰色のロア”。

「はぁ……今回はここまでか。ま、次は四人目のヤツもよろしく頼むぜ」

 彼女は特に“灰色のロア”を疎むようなことも無く、鋭い音を立て、破片を散らし、窓を破壊して退去。先程までの戦闘が嘘のようだ。

「あ……行っちゃった」

 フーアドライバーを外した深冬の口からその言葉が零れる間に、“灰色のロア”もまた黒衣(くろご)のように、其処に居ないこととされている者のように廊下の向こうへ消えようとするが——。

「待て」

 同じく変身を解いた遼也が呼び止める。仮に彼でなくともその行為は当然だろう。

 振り返らずに立ち止まった彼或いは彼女。腰の"灰色のロアドライバー"を取り外し、出現した者の名を彼は知らない。しかしローブと手袋で一切露出していない肌、フードと影で覆われた不可視の顔は彼の記憶に焼き付いていた。

「“ローブの”——」

 他に呼びようがない。

 誰に向かって言うわけでもなく、遼也は反射的にぼそりと呟いた。

「え、この人が!?」

「……“ローブの人物”でも“この人”でもなく、私のことは“仮面ライダープロトロア”とでも呼べ」

 相も変わらず、ただ決められた台詞を読み上げるように語る。

 揃って発せられようとする二名の疑問を両断する、虚ろな勢いで彼或いは彼女は続いて言った。

「私の役目は真相を明かすことではない。そして言うべきことは何も持ち合わせていない。私やゼネラドの正体も、目的も、貴方方が仮面ライダーに()()()()理由に関しても。今の私の役目はただ、貴方にこれを渡すこと。その一点だ」

 遼也に差し出された手には、二枚のテイルディスク。

 それらは双方ともに漆黒。

 片方には黄土色で蛇の頭部と《Vritra(ヴリトラ)》の文字。

 片方には濡羽色で三つの頭を有する竜と《Azi Dahaka(アジ・ダハーカ)》の文字。

「これからの"展開"には期待している。それではまた会おう」

 ディスクを受け取った彼と、背後からそれを覗き込む彼女が有無を言わせない別辞を耳にして顔を上げた時、"プロトロア"は既に学生で溢れ始めた廊下に溶けて消えていた。

 

 

 

 

 

 

 座席に闇が降り、スクリーンに配給会社のロゴと波濤を立てる海が映し出される。

 

 ただ一人の観客、暗緑の髪と褐色の肌を備えた少女——スルクは高揚も興奮も見せずに開幕した物語を見つめる。“観て”いるのではなく、“見て”いる。

 

 ブウウーン……………………。

 暗転したスクリーン。脳髄を揺さぶる奇妙な音が(こだま)する。

 混凝土(コンクリート)と鉄格子で閉ざされた部屋に配置されたベッドの上で青年が目覚める。

 

 気配も無く、スルクの隣で席に着く人影が在った。

「こんにちは…………」

 囁きに近い、消え入りそうな女性の声。

「やあ、幻月(ゲンゲツ)ちゃん」

 俯いた顔、月明かりの如き淡い黄色の瞳。

 右目の目尻の辺りにぽつりと居座った泣き黒子。

 少しウェーブがかったボブヘアはグラデーションが入り、ラピスラズリが示す明るい青から藍色へと濃くなってゆき、そして毛先は茶褐色が混じった深紅を呈し、熱帯魚を思わせる色彩。

 彼女の容貌は、身を包む流水の文様が刻まれた寒色を基調とした振袖と相俟(あいま)って神秘的な雰囲気を醸し出している——が、膝に乗るポップコーンで満ちた大きな紙製のカップが明らかに不釣り合いであった。

 

 部屋の壁を突き抜け、若い女性が叫び、青年を呼ぶ声が狂ったように響く。

 自分が何者であるのか。それすら分からない青年はその声に応じない。

 

 スルクとは対照的に、振袖姿の女性——幻月は映画を"観て"いながらも手と口は弾けた玉蜀黍(トウモロコシ)の実を貪るために動く。しかし視線はスクリーンに固定された状態で。

 

 何度か場面は移り変わり、青年は青褪めた大男に連れられ別の部屋に。

 青年はその中で眠っていた少女の無邪気な、平穏な寝顔に見入る。

 声の主。

 

「あの、」

 食事を中断して話し掛ける。

 スルクは目だけを幻月に向けた。

「確か、セイズさまも、仮面ライダーに……」

 幻月はスルクと目を合わせ、逸らす。それを繰り返してぼそぼそと言葉を紡ぐ。

「そうだね。今頃元気に戦ってるんじゃないかな」

 俯きの角度が増した。

 

 少女の閉じた瞼と瞼の隙間から涙が溢れ出す。

 安らかな乙女の表情が、何処となく淋しげな——艶やかな女性の表情に変貌する瞬間を、青年は見逃さなかった。

 譫言。

 

(せつ)、には、分からないのです……遼也さまも、深冬さまも……何故、」

 一度、言葉を区切る。

「何故、()()()()()()()()()()()()()()()

 悲観的に吐露。

「仮にも、親しかった筈のセイズさま……いえ、真希さまを……ルイーザさまも、何故、()()()()()()()……」

「そんなに気になるならキミが直接確かめればいいでしょ」

 突き放すスルク。

 

 青年の手に、映画と同じ題名を冠する冊子。

 

 それが、顔を上げた幻月の瞳に反射した場面だった。

 彼女の"読解"が始まる。




今回、初めて登場した人物

幻月/[編集済]・ゼネラド

種族:ゼネラド
対応するテイルディスク:[編集済]ディスク
性別:女性
容姿(人間態):見るからに大人しそうで、何処となく神秘的な雰囲気の女性。グラデーションが入ったウェーブボブの髪は青色と赤色と茶色で、瞳は月のような淡い黄色。
身長(人間態):169cm
体重(人間態):54kg
スリーサイズ(人間態):B90/W57/H88
好きなこと:食事(好物は飴玉)
苦手なこと:戦い

[編集済]神話に登場する、[編集済]の⬛︎を⬛︎⬛︎した巨大な⬛︎⬛︎・[編集済]に由来するゼネラド。

一人称は「(せつ)」もしくは「幻月」。気弱、控えめな性格。本来ゼネラドは食事を必要としないが、健啖家である。


今更ですが、スルクの名前はアイヌ語でトリカブトを意味する言葉から来ています。
ギリシャ神話のアラクネがトリカブトの汁を浴びて蜘蛛に変異したことが由来です。

ゲンゲツの怪人態の披露はもう少し先なので、是非ともモチーフを推測して次回以降も楽しみにしていただけると嬉しいです!
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