それではどうぞ
《Now Loading……Transform!》
《KAMEN RIDER LORE》
《Maintenance of Expressive Control:Vritra Dahaka Form》
《All the world's a stage, and so you play your part.》
普段とは違ったロアドライバーの音声が耳に届いた直後、彼の思考は過去に跳んだ。
創作物の中の絵空事を心の底から信じて、それを叶えようと純粋に試みる。
それが幼少期の芥遼也だった。
つまり、ありふれた幼子。
大抵、彼等彼女等が大事に抱える幻想は一瞬のうちに崩壊する。
人一倍強い好奇心と豊かな感性を生まれ持った芥遼也もまた、その一例に収まる運命だった。
崩壊の後、芥遼也は『ありふれた幼子』から『少し変わった幼子』へと変異した。
何処か悟りを開いたような。
何処か超然としたような。
幻想の残骸が芥遼也に留まり続けた。
幻想は崩壊に抗ったが、それは殆ど死体と評しても過言ではない状態となっていた。
しかし最早、幻想の残骸とその蘇生だけが芥遼也の動力だった。
残骸の中身を埋めようと芥遼也は“
芥遼也の心を躍らせる存在は、芥遼也が恋い慕うべきモノ。
芥遼也の心を躍らせない存在は、芥遼也が忌み嫌うべきモノ。
最大の問題は、芥遼也が芥遼也にとって恋い慕うべきモノに出会えなかったという事。
それは虚構の中にだけ在り得るモノだった。
あの時までは。
彼女は“芥遼也“だった。
その少女は鏡。芥遼也の姿を映す。
彼女の瞳は燦々と輝きを放ち、彼女の聲は柔らかに芥遼也の心を解した。
「あなたは、こんな
彼女もまた、自らの心を躍らせるような活き方を求めて彷徨っていたのだ。
「準備は整いましたね」
「いつかまた何処かで、会いましょう」
しかし、彼女は突如として芥遼也の前から姿を消した。
芥遼也にはそれでも良い、と思えた。
例え、彼女が天啓を与える女神ではなく人間を欺瞞する蛇だったとしても。
彼女は、駄作だった現実で初めて出会えた“面白いモノ”。
その存在は芥遼也に
時が過ぎ、彷徨って、彷徨って、そして辿り着いたのが、『仮面ライダーロア』だった。
今、芥遼也の視界は輝きで満たされている。
失った筈の幻想。
芥遼也はそれを確かに感じている。
芥遼也の手を引くのは、暖かな笑顔の——。
「……あれ? 遼也ー?」
ベイラはヴリトラダハーカフォームに変身した彼にそう呼び掛けた。
「寝ちゃった?」
彼の反応は無い。
なら私が、と槌を振るう予備動作。
しかし、その動作は実際の攻撃という段階に至らなかった。
「えっ、あ、え」
次の瞬間に、彼女が目にしたもの。
先程まで広場に溢れかえっていたツチグモ・ゼネラドの大群は居ない。
代わりにあちこちで燃え盛る炎の数々。
《You got a new episode.》
新たに入手したテイルディスクをディスクホルダーに収納したロアから、冷気が生じた。
広がる炎の中でも幻月はロアに向かってゆこうと図るが、ジャバウォック・ゼネラドの一太刀が彼女にそれを許さない。
「ひっ……」
「今のアナタには不可能です。
「そんな……」
ジャバウォック・ゼネラドの言葉が物語る通りだった。
「……ハ、ハハハッ、アハハハハハハッ!!」
周囲の状況を見渡してオフォイスは哄笑。
「笑ってないでさっさと行くよ」
アラクネ・ゼネラドは平常運転。
「応よ! 面白くなってきたぜェ……!」
「くっ……」
彼女達の動向を見極め、刃が触れる直前に幻月はこの場から脱しようとして跳んだ。
同時に、駅前が
密室の照明を落とすように、巨大な怪物が
人類が光を得る手段を知らなかった頃の、太古の暗闇という形容すら似合ってしまう程。
「幻月ゥ……!!」
「ほんと、困った子だ」
「おやおや……」
声を荒げるオフォイス、冷静に呆れるアラクネ・ゼネラド、余裕綽々を崩さないジャバウォック・ゼネラド。
幻月の撹乱に対する、彼女の同僚の反応は三者三様だ。
ロアは本当に眠っているかのように言葉を発さない。
煌々と燃えていた炎すら不可視になった闇の中で幻月は空中を泳ぎ、混乱するベイラを掻っ攫う。
「うわぁぁっ!?」
「どうか、お許しを」
二人が去り、暗闇も去った。
「あぁ、あのクソアマが……ッ!?」
オフォイスが
それはオフォイスだけでなく、アラクネ・ゼネラド、ジャバウォック・ゼネラド、ヒマムシニュウドウ・ゼネラド、ポリフェムス・ゼネラドにも降り注ぐ。
ロアを取り巻く冷気。
空中に浮く、尖った氷の針。それらが彼女達に向かって飛来。
アラクネ・ゼネラドが地面から蜘蛛の巣を生成して防御する暇も無く、何度も、何度も。
侵攻する氷柱の豪雨に、ゼネラド達は防戦を強いられる。
唐突にまるで台風の目が訪れたかのように雨が止み、ゼネラド達は攻勢に転ずる。
オフォイスが駆け出す。睥睨の戦棍と地平の強弓を携えて。
「気を取り直してさっきのお返しだぜ……オラオラオラァッ!!」
彼女はヒマムシニュウドウ・ゼネラドとポリフェムス・ゼネラドの爆撃に追撃を重ねる。
文字通り火花を散らしてロアの装甲を削った——そう、それが可能だと彼女は思い込んでいた。
しかしヴリトラの名は「遮蔽物」を示す。
更に彼が持つ「水を閉ざす」という性質は大地を
どちらも輪廻する自然現象の産物であり、故に不滅。
アジ・ダハーカもまた、身体を剣で貫かれても終末の時が訪れるまでは果てることを知らない。
つまり、オフォイスの猛攻も意味を為さない。
黒い霧を纏った殴打がオフォイスに命中。
「おぉ……ッ? 強くなりやがって」
仮面の下で笑みを深める。
以前交戦したゴーレムガラテアフォーム以上に頑健な拳。オフォイスの優位に立てる程ではないが、相当に力が増している。
続けて、オフォイスがロアの相手をしている間にアラクネ・ゼネラドが掌から糸を発射して周囲の物を伝って、ジャバウォック・ゼネラドがヴォーパルを掲げて空中から彼に迫るが——。
《End Roll!》
《DEPRAVED RIDER CLOSING!》
「うおッ!?」
「……っ」
「……ふふっ」
ロアが黒い霧を全身に帯び、三者を吹き飛ばして上昇する。相変わらずジャバウォック・ゼネラドに攻撃が通った様子は無いが。
地面に衝突させられた三者に向かって急降下。黒い蹴撃は少し離れた位置に留まっていたヒマムシニュウドウ・ゼネラドとポリフェムス・ゼネラドにまで影響を及ぼす爆発を発生させ、ロアは容易く二枚のテイルディスクを得た。
だが、オフォイス、アラクネ・ゼネラド、ジャバウォック・ゼネラドは未だ健在。
地面に降り立った彼。
爆煙が晴れぬうちに再起した彼女等が一斉に仕掛ける。
アラクネ・ゼネラドの掌より糸が放たれ、ロアを雁字搦めに。
「ちょっと止まっててよ」
オフォイスはゼノサイドライバーを操作し、ジャバウォック・ゼネラドのヴォーパルは弓に変形した。
「これでも喰らいやがれ!」
「それでは
《Biblioclasm!》
《INCISING DELETION!》
爆発。
紫色と灰色の矢を、抵抗も回避もせず無傷で受け止めたロアが煙の中から迫り来る。
再度、攻撃の構えを取る両陣営。
両者共に決して譲らない戦い。
しかしそれは、唐突に終わりを告げた。
ロアドライバーから黒い電流が
「……
人間の姿に戻ったルイーザが呟いた。
打って変わって、言葉通り彼女の表情には悲しみの色が浮かんでいる。瞳の奥には揺るがない期待を込めて。
「はぁ……戻るか」
不本意ながら、といった様子のゼノサイドライバーを外したセイズ。
スルクは意見せず、セイズと共に去ってゆく。
一人残ったルイーザは暫し遼也を見つめ、既に姿を消したセイズとスルクを追う。
また、去り際に彼を一瞥。
再び幻想から覚醒させられた彼を。
とあるビルの屋上、駅前から逃走した深冬と幻月。
「えーっと……」
風が二人を撫でる。
深冬が何も話さない幻月に切り出す。
「どういうことなの? その、色々と」
俯く幻月がぽつり、ぽつりと話し出す。
「拙が、知っていることは、そう、多くはありません……ですが、まず、これだけは確か、です。深冬さまや、遼也さまを取り巻く出来事は——全て、彼女達、三人に、仕組まれて、います。『仮面ライダー』という物語を、現実で、繰り広げる、ために」
「——え?」
「どうか、落ち着いて、聞いて……これまで、あの三人は、沢山の人々に、今は遼也さまが、持っている、あの機械——ロアドライバーを、渡して、きました。聞くところによると、プロトロアドライバー、というものも渡しているそう、ですが……詳しいことは、拙にも分かりません。拙は、あの三人とは、考えが、あまり合わなくて。ごめん、なさい」
「う、うん……それで?」
気を取り直し、真剣に聞く深冬。
「そして、ロアに変身していた、彼等は、彼女等は、戦いの末、命、を……」
「……」
告げられた内容に衝撃を受けつつも、幻月の言葉に耳を傾ける。
深冬にすら理解できる、この事態の異常性。
「ロアドライバーは彼等、彼女等の人格や記憶、容姿を記録、します……それらはルイーザさま、セイズさま、スルクさま、拙こと幻月以外のゼネラドが、人間に擬態して、人間として、犠牲となった人々にすり替わって、暮らしてゆくための情報として、使われるのです……あとは、仮面ライダーに倒される、敵としての出番を待つ……結局は倒されても元通り、復活することとなるの、ですが」
「……う、あの、遼也が使ったのは」
ヴリトラディスクとアジ・ダハーカディスク。
深冬はこの二枚を使って変身した途端に沈黙してしまった遼也のことを思い浮かべる。
深冬に限らず、誰の目から見ても彼の状態は異様だった。
「それは——」
酷く懐かしいモノを味わった。
しかし同時に、酷く忌まわしいモノを味わった。
抱えていた夢が壊され、自分が
心地の良い夢から叩き起こされる感覚。
そんな表現も似合い切らない厭な感覚。
兎に角、今の自分が為すべき事は一つ。
すっかり元通りになってしまった、この空虚を埋め尽くす。
過去の自分が、そうしていたように。
今回の怪人
ツチグモ・ゼネラド
対応するテイルディスク:ツチグモディスク
身長:208cm
体重:74kg
特色/力:口から射出される金属の糸
初登場回:10話
古代日本の土着の民、及び彼等から派生した蜘蛛の妖怪・土蜘蛛に由来するゼネラド。
能の題材にも採用された背景を反映し、顔面の造形は"顰"という能面に似ている。
ヒマムシニュウドウ・ゼネラド
対応するテイルディスク:ヒマムシニュウドウディスク
身長:215cm
体重:78kg
特色/力:口から爆発を起こす油のような液体を撒き散らす能力、素早い動作
初登場回:10話
鳥山石燕による画集『今昔百鬼拾遺』に登場する、行灯の油を舐める妖怪・火間虫入道に由来するゼネラド。
火間虫入道はゴキブリにも関連付けられるためこの姿。
ポリフェムス・ゼネラド
対応するテイルディスク:ポリフェムスディスク
身長:230cm
体重:176kg
特色/力:腕から発射される空中にも対応した魚雷、堅牢な外殻、遊泳、水中の環境への適応
初登場回:10話
ギリシャ神話に登場するサイクロプス(単眼の巨人)の一人・ポリフェムスに由来するゼネラド。
ポリフェムスから名付けられたLimulus polyphemus(アメリカカブトガニ)とイギリス軍艦のポリフェムスの要素も含む。
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