仮面ライダーロア   作:瀝青

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2025/3/1:一部文章を変更


第12話 Breaking Character

 街を彷徨う。

 これから彼と接点を持つ事も無いであろう、有象無象の人々と擦れ違う。

 袖が触れ合う瞬間、ふと思い立つ。

 灰色に染まった空の下、階段となった地下通路の出口。振り返れば一人、何の変哲も無い女性の後ろ姿。

《Lore Driver!》

 ロアドライバーを装着。

 警告音は発せられておらず、ゼネラドもゼネラドが変身する仮面ライダーも見当たらないにも関わらず。

《Crom Cruach》《Kernunnos》

「変身……!」

 普段とは違った調子の合言葉。

 動物に例えるなら蛇が相応しい彼の容貌だが、瞼を最大限に開き瞳孔を鋭く尖らせた今の彼は正に蛇の化身。

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER LORE》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

 散歩でもするような気楽さで階段を下り、女性に接近するロア。

 そのまま裏拳を彼女の頬へ。

 ロアドライバーの音声を携帯電話の着信か何かだとでも思っていたのだろう、彼女は先程から振り返りもしなかった。

 殴打と共に放たれた膨大な力に反して、紅に染まらない白い拳。

 階段の下を見やる。

 転げ落ちた彼女は無傷。外見に(たが)わず無事で立ち上がろうとする。

 しかしその体躯が、衣服を巻き込んで溶解。

 再構築。完成した怪人は蚊の如き者。

 黒い外骨格に黄色い金属的な装甲。

 ケーブルは暗褐色と黄色の縞模様。

 蚊と髑髏を折衷した頭部。目が無い代わりに太く鋭い針が一本、そして銀の歯。

 外套のように長く黒い翅が一対。

 蚊の特徴を持つ化生や神性——遼也に蓄えられた虚構の物語で、それに合致する者が一つ。

 ガリニッパー。

 アメリカの民間伝承に在る、人間の血液を一口で吸い尽くす巨大な蚊の怪物。

 目前のゼネラドは、この怪物に(なぞら)え同じ名で呼ばれる実在の蚊——プロソフォラ(Psorophora)シリアタ(ciliata)によく似た体色の持ち主だ。

 ぷうん、と音を立てて飛び上がる彼女——ガリニッパー・ゼネラドの脚を掴み、強引に引き摺り下ろす。

 そして頭部に備わる針を活かし、反撃を試みる彼女の動作を完全に阻むような乱撃が繰り出される。

 拳による、打撃に()ぐ打撃。

《End Roll!》

《HUNTING RIDER KICK!》

 殴打の濁流を中断、ロアドライバーに手が伸びた。

 飛び蹴りというよりは踏み付けに近い技が、ガリニッパー・ゼネラドを爆散させる。

 易々とテイルディスクを得た彼の侵攻は止まない。

 

 

 

 

 

 

「遼也ー! りょーやー!!」

 彼の行方を探る深冬と幻月(ゲンゲツ)。彼はまだ駅からそう離れていない筈。

 深冬は彼の名を大声で叫びながら、幻月は普段以上に不安げに。とは言っても不安なのは深冬も同じだった。

 

 幻月から告げられた、あのテイルディスクの効果。

 使用した者の——遼也の過去の記憶に沿って彼に“役割”を与える事。

 それはつまり思考の固定化。与えられた"役割"を遵守し、結果的に暴走。

 

 駅に戻り、高架下を巡り、駆け抜けたその先で。

 紅い眼を煌々と輝かせる白い戦士の姿。

 高架下を流れる川に、水飛沫が散る。

 深冬は戦う遼也/仮面ライダーロアの姿から冷静な印象を受けていたが、今の彼は何かを粛々と遂行する傀儡以外の何者でもない。

 遼也の過去に沿った役割、と聞かされても深冬は彼自身についてよく知らなかった。役割の内容なんて想像出来ない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 粘着質で淡黄色の表皮、爬虫類の鱗や棘のような赤黒い装甲とケーブル、二本の触角を備えた蝸牛に似たゼネラド——カルコル・ゼネラドを無機質に乱打する彼を見て、立ち止まり考え込んでしまう。

 つまり深冬は彼を理解して、彼の暴走を止めたいという事。

「っ……拙が、止めます……!」

 見兼ねた幻月はその姿を海蛇と熱帯魚の特徴を持つ怪人に変え、タイダルカンピランに波濤を纏わせ()()()()()

 仮面ライダーロア、オークペンドラフォームと同様の挙動で。

 彼の背後の地面から出現、奇襲。

 刹那に駆け抜ける風の如き一閃。

 ロアとカルコル・ゼネラドの横を撫でるように。

 蝸牛の怪人は爆散、狂戦士は斬撃を受け止めロアドライバーに手を添える。

《End Roll!》

《HUNTING RIDER KICK!》

「——!」

 赤い瘴気を掻い潜り、幻月は空中からロアドライバーを剥ぎ取る。

 それでも尚、幽鬼の如き彼。

「遼、也」

 彼の瞳が深冬に向く。

 

 

 

 

 

 

 二人は川辺に腰掛け、一人は離れた位置から様子を見守る。

 幻月の紹介も程々に、ヴリトラダハーカフォームの真相を畳み掛けるように伝えた深冬。

 その内容を受けて、遼也は淡々と自らの過去、理念について語った。

 極端に自己を俯瞰する彼の様子にやはり普段の彼とは違うものを感じ取り、今まで知らなかった彼の根本的な性質を目の当たりにして、そして。

 そして、それでも彼女は。

「なら、私が」

 屈託の無い笑顔で。

 西洋の絵画に在る、愛らしい少女の姿をした妖精の具現化と言ってもいい。

 彼女の優美な手が彼の手を取る。

「私が遼也と一緒に探してあげる! 遼也の物語、面白くできるものを!」

 それでも彼女は、受け入れた。

「——」

 

 そうか。君が。深冬が。

 

 拘束が解かれるような感覚。今回の件よりずっと前から、芥遼也は"役割"に縛られ続けていたのかも知れない。

 驚く程彼女は容易に成し遂げた。

 やはり彼女は芥遼也という物語に必要不可欠なヒロインであるのだ。

 

 予想外にあっさりとした問題解決。

 

 今日は、もう、拙の出る幕は、ありませんね……。

 

 未だ心中にとある秘密を抱えたまま、静観していた幻月は身を引く。彼女は二人を妨げる勇気を持ち合わせていない。

 

 妖精のようなお方ですね、深冬さまは。

 

 幻月は去りながら考えを巡らせる。

 改めて、遼也の歪みを受容出来る深冬の()()に違和感を覚えた。

 純粋。非人間的な程に。

 現代でこそ妖精は透き通るように可憐なモノ、という印象を持たれがちだが、実際には悪意や凶暴性に満ちた者も数多く存在する。

 深冬の澄み渡る精神性には一種の恐ろしさが潜んでいるように感じられた。

 敢えて明確に簡潔に表現するならば、幼さに似た狂気、狂気に似た幼さ。

 それこそ妖精の持つ二面性の如く。

 

 

 

 

 

 

 青、橙、紫。色が溶け合う日没の下。

 高層建築物、屋上に佇むルイーザ。

 僅かに紅の瞳と蒼の瞳は潤む。眼下に並んで歩む遼也と深冬。

「すっかり立派な遼也さんのヒロインですね、深冬さん——いえ、()()。誇りに思いますよ」

 慈愛に溢れた口調。それはまるで——。

「これからもアナタがヒロインで在れますように……そして、アナタ自身も遼也さんと共に幸福で在れますように……(ワタクシ)はいつでも祈っていますよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大切な大切な、(ワタクシ)の娘——」




今回の怪人
ガリニッパー・ゼネラド
対応するテイルディスク:ガリニッパーディスク
身長:209cm
体重:80kg
特色/力:吸血、飛行
初登場回:12話

アメリカの民間伝承に出現する巨大な蚊の怪物・ガリニッパーに由来するゼネラド。
実在の蚊であるプロソフォラ(Psorophora)シリアタ(ciliata)に似た身体的特徴を持つ。


カルコル・ゼネラド
対応するテイルディスク:カルコルディスク
身長:225cm
体重:154kg
特色/力:粘液、伸縮する触角、堅牢な殻
初登場回:12話

フランスの伝承に見られる蝸牛の殻や触角を持つ竜・カルコル(ル・カルコル)に由来するゼネラド。



暴走は結構あっさり解決しましたが、最後にとんでもない発言が飛び出すこととなりました......

少しでもこの作品を良いと思っていただけたら是非とも高評価やお気に入り登録、読了報告や感想をくだされば幸いです。
それでは次回以降も宜しくお願いします!
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