廃工場にて。
二枚のテイルディスクとゼノサイドライバー。それがスルクに差し出されたもの。
「ロアの強化に伴い、
ルイーザの笑み。
暗所で、二色の瞳が僅かな光を反射した。
「……まあ、やるよ。ボクはセイズと違って変身したいとは思わないけど、それで『仮面ライダーロア』を完成させられるなら別に良いかな」
素直に一式を受け取る。
「喜ばしい事です……」
頷くルイーザ。そして会話に割り込むのはセイズ。
「変身ポーズ忘れんなよ?折角オレがモチーフに合わせたの考えてやったんだからな」
「……はいはい。それが
「確かに彼女は——
「うん……その映画みたいな話だよね」
醒蕾院大学、図書館。
文系の学問に特化した学校であるが故の、膨大な蔵書。本棚の間をゆく二人。
「彼女の話が"本当"なら、な」
遼也の手には図書館で貸し出されているDVD。
とある男の日常——それは世界に向けて放映される番組として全てが仕組まれたモノだった、という物語を描く映画。
「へ?」
「仮に彼女の話が真実だとしても、きっと君に伝えられた事もその一端に過ぎないだろう」
「え、それって……」
「そもそも何のために"物語"を仕組むのか。プロトロアは何者なのか。ルイーザ、セイズ、スルク、そして幻月。彼女等四人のゼネラドは一体何者なのか」
深冬に言い聞かせるように問題提起。
「あ……!他のゼネラドは元々ロアだった人たちとすり替わってるって言ってたのに、そっちは……」
「その通り」
「じゃあ、幻月も私たちを……!?」
会話しながら歩くうちに、辿り着いた先は小規模な映画館と見紛う程の視聴覚室。
「飽く迄も可能性の話だ。結論を急ぐべきではない…………少し話題を変えよう。幻月の力の由来となった存在についてだが、君は何だと思う?」
機器に近寄りDVDを再生する準備を整えつつ、尋ねる遼也。
「私なりに色々調べてきたんだけど……うーん……」
彼女が導き出した答えは。
「リヴァイアサン?聖書の……それかエジプトのアポフィス、とか?」
リヴァイアサン。
旧約聖書に登場する海棲の聖獣、或いは嫉妬の象徴たる悪魔。
アポフィス。
エジプト神話に見られる、混沌の具現たる大蛇の悪神。太陽の運行を妨げ、日食の元凶となる。
「成程。確かに両者共にゼネラドとしての幻月の外見や能力と一致する……だが」
「だが?」
「泳ぐように浮遊する能力、地中に"潜る"能力、太陽光を消失させる能力、高速の動作。極めつけに、柄に蛇の頭の装飾が施された剣。これらの特徴から推測するなら、恐らくバクナワだ」
「ばく……バクバク……食いしん坊なの?」
「その認識で間違ってはいない。何せ月を六個も食べたからな」
「月!?月を六個!?どういうこと!?」
全力で驚愕を表現する深冬の表情に笑みを零しつつ、解説を開始。
しかし深海、天空、若しくは冥界に棲み、鼻先に一本角を備え、月食、日食、雨風、地震を司る巨大な蛇の怪物、バクナワがその内の六つを飲み込んでしまった。
その動機は美しいものへの羨望か。
それとも自らの家族を殺した人々への復讐か。
はたまた月に自らの愛を拒絶された怨恨か。
結局はバサラからの罰、或いは人々からの非難によってバクナワは月を全て吐き出すこととなったが、その後も虎視眈々と月を食う機会を窺っているという。
また古代フィリピンの人々はバクナワの力を享受する為に、カンピランやテネグレと呼ばれる剣の柄に彼、或いは彼女の頭部を模した装飾を施した。
「へー……そんなのがいるんだ」
「複数の月を飲み込んだバクナワが正体と考えると、"
「な、なるほど!……そうだ、映画観ようよ映画!」
「ああ」
素っ気無く、しかし喜びに満ち溢れた返事。
視聴覚室には二人だけ。
スクリーンに映し出されるのは、奇妙な程に現状と符号する映画。
夕闇に褐色の肌と暗緑色の髪を溶かす少女。
街中を進む彼女に一人、二人と追随する人々。
彼女が川を跨ぐトラス橋に差し掛かった時には、数十人を引き連れた状態となっていた。
橋の向こうには帰路についていた遼也と深冬。
「あ、スルク!」
影の中でも映える青い瞳で、顔だけでなく声までも無表情な少女の姿を捉える。親しい知り合いにでも会ったかのような深冬。
「恐らく後ろの連中もゼネラド、か……」
深冬の隣で思案。
これまでロア/プロトロアに選ばれた人々を元にした——。
「彼らだけじゃない。今日はこれを見せに来たんだ」
《XenociDriver!》
装着されるゼノサイドライバー。
「えっスルクも変身しちゃうの!?」
深冬は慌ててフーアドライバーを取り出す。
《Fuath Driver!》
《Beira》
「何だ、俺を死者の軍団に加えようとでも?」
遼也もまた臨戦態勢だ。
《Lore Driver!》
《Crom Cruach》《Kernunnos》
スルクが後方に従える人々。
彼等と同じ轍を踏むのは勘弁だ。
「あ、多分そうはならないから」
《Base: Anansi》《Addition: Arachne》
金の蜘蛛が刻印された緑のテイルディスク——アナンシディスクを左側に。そして見慣れたアラクネディスクを右側に。
「ルイーザちゃんはそんなの望まないだろうし」
音楽。民族的なアフロビートと重低音が際立つトラップ、掴み所の無いチルアウトが混在。弦を弾く音が不穏に響き渡る。
同時に、ゼノサイドライバーの画面は蜘蛛の巣に似た揺れ動く紋様を描く。
「自分はルイーザの忠実な
「違うかな。ボクがボクの、というかボクらの本能に従うためにルイーザちゃんに従ってるだけだよ」
「え?それってつまりどういう——」
謎かけのような言葉の配列。
「まあ、このまま進めばそのうち分かるから」
「……ゼネラドは抽象的な物言いが特技なのか?」
「そうかもね」
人差し指でゼノサイドライバーを操作。灰色の霧。
それは"仮面ライダー"を造り出す。
オフォイスの場合は狼を模した装甲や装飾を備えたロアに似た姿だったが、今回は狼ではなく蜘蛛と蜂を彷彿とさせた。
スルクは両手首を付けて、親指だけを閉じた状態で両手を開いて構える。八本の指で蜘蛛の体を表現しているようだ。
彼女の背からゼネラドとしての蜘蛛の脚が四本飛び出し、"仮面ライダー"を打ち砕く。
欠片が舞い散る中で節足を戻し、消滅させる。
そして右手で顔を覆い、左腕全体をL字型に構える。
「変身」
淡々と放たれた二文字熟語。
《Now Invading……Deform!》
欠片がスルクを覆う。
《Arachne in ANANSI the MASKED RIDER》
《Fade out.》
ゼノサイドライバーの画面がアナンシディスクの紋章を映し出す。
仮面ライダーアナンシ、アラクネフォーム。
同じくゼノサイドライバーで変身するオフォイスと比較すると、軽装。
左右非対称の装甲は大部分が金。蜘蛛や蜂を想起させる形状、豹や虎を連想させる色調。
一部の装甲は暗緑と橙で、植物の茎や根と蜘蛛の外骨格を融和させた意匠を持ち、右の
顔の左側には、牙や翅を
顔の右側には透き通った紫色のカバー、その下には横に二つ並ぶ蜘蛛のような橙の眼が透けて見える。
蜂の頭部の中央にあるような、紫色の小さな丸い眼が額に三つ。
銀の
口部の両端から一対の黒い鋏角が伸びる。
アンダースーツは黒を基本に、緑と黄緑と赤の差し色。
緑と赤で彩られ、折り畳まれた蜘蛛の脚が肩の背部に合計四本。アラクネ・ゼネラドより物々しく、前方ではなく後方に向かって配置されている。
左の側頭部に二本、右の側頭部に二本、後頭部に二本、合計六本の黒い角がトゲグモの突起のように配置されている。
「仮面ライダーアナンシ。この物語を完成させる」
アナンシ。
アフリカの伝承に語られる、蜘蛛の姿を持つ知恵の神。
錦蛇のオニニ、雀蜂のモボロ、豹のオセボ、妖精のモアティアという四つの生物を捕らえ、総ての物語を自らの手中に収めた者。
「変身!」
「変身っ!」
奇妙な名乗りに何時もの合言葉で返事。
《Now Loading……Transform!》
《Now Loading……Transform!》
《KAMEN RIDER LORE》
《KAMEN RIDER BEIRA》
《Cromnunnos Form》
《To the opening.》
《Tales from phantasmagoric water create destiny.》
1号ライダーと2号ライダーが見参。
4号ライダーの背後。人々は溶解しゼネラドの姿へ変貌、散開。
軍隊と見紛う程に規則正しく、統率のとれた挙動。アナンシを護るように。
先陣を切る、
粘液を滴らせる群青色の皮膚に黄金の装甲とケーブル。蛇に似た頭部には一対の触角と幅広の鰭。尾が九本。
「ハッ!」
ロアは伸びてくる触角をブラッディコルヌコピアで切断。
だが、即座に再生。今度は鱏のように針を備えた尾を伸ばした。
赤い装甲と水色のケーブルを伴い、体中に鎌が生えた黄緑で蟷螂の如きカグン・ゼネラドに、多数のツチグモ・ゼネラドも加わった。
次々と跳躍し押し寄せる。
「深冬!」
尾を弾きながらベイラに攻撃を促し、一時後退。テイルディスクを取り出した。
「えっと、えーっと」
フーアドライバーからベイラディスクを抜き取り、ソルスティスセプターへ。
《End Roll!》
《VORTEX RAID!》
冷気を散布。激流を用いて凍結したゼネラドを粉砕。
《You got a new episode.》
テイルディスクを二枚取得。
《Vritra》《Azi Dahaka》
《Now Loading……Transform!》
《Maintenance of Expressive Control:Vritra Dahaka Form》
《All the world's a stage, and so you play your part.》
仮面ライダーロア、ヴリトラダハーカフォームが唯一難を逃れたカグン・ゼネラドを迎え討つ。
カグン・ゼネラドは鎌を展開して突進。
ロアはただ、少し離れたカグン・ゼネラドに手を翳す。
するとカグン・ゼネラドは発火、爆発。
《You got a new episode.》
ロアに新たなテイルディスクを与える結果となるのだった。
「これで盾はなくなったね!」
追い詰めたよ!と宣言しているも同然のベイラ。無邪気に、無自覚に、無慈悲に。
「そろそろ君自身の出番じゃないのか?」
以前のように暴走に囚われることのないロアは、半ば挑発するように言葉を紡いだ。
返答として、アナンシは二人の視界から姿を掻き消す。
次の瞬間には赤熱状態となった大型の蜂の針、と形容すべき物体がロアの目前に。
「——ッ!?」
アナンシの右腕の装甲に備わる針——
「うぉーりゃあっ!」
ベイラによって横から振るわれたソルスティスセプターは空を切る。
「へっ?」
「何?」
面食らって周囲を見渡す。
アナンシは先程の位置に戻り、ベルトの右側面に固定されていた銃——ロアが使用するネストガンナーに似た武器、傲慢の織り手を握っていた。
ネストガンナーとは明確に異なり、テイルディスクを装填する部分は本体ではなく引き金前部のドラムマガジン型の部位。
アナンシは引き金を一度弾きながら横に振り抜く。
縦に四つ並んだ銃口から黄金の糸が伸び、その軌道に沿って橋の棒材を切断。刹那の間の出来事。
降り注ぐ金属の断片。
ロアは手を翳し、氷の障壁を生成し防御。
「あーよかっ——」
《Ceirean》
《Single Reading Biblioclasm!》
《TORRENT XENOCIDE BULLETS!》
響く不明瞭な低音。
ベイラの安堵とは反対に、罅割れる氷。
「た……」
氷の向こう。
アナンシがドラムマガジン側面に三つ開いた細長い穴のうち一つにテイルディスクを挿入。引き金を二度弾いていた。
障壁を完全に破砕したのは銀色に煌めく四匹の蛇。その頭部は
四つの銃口から放たれた蛇はロアとベイラに喰らい付く。装甲から火花が散る。
損傷は両者ともに軽微。ロアに至っては皆無と言ってもいい。ヴリトラダハーカフォームの耐久性の恩恵だろう。
反撃すべく駆け出す二人だが、背後からあの音声が聞こえた。
《Ceirean》《Beisht Kione》
《Double Reading Biblioclasm!》
《TORRENT XENOCIDE BULLETS!》
振り返る二人の目に映るのは銀の蛇、四匹。先刻との差異として彼等の輪郭はより厳めしく、頭部には黒い筋が走る。
「見切った……!」
拳に黒い霧を纏わせる、ロアは。空中より迫る蛇を潰す。
「おりゃあ!」
ソルスティスセプターの装飾を地に突き立てる、ベイラは。地面から生じた尖鋭な氷柱が蛇を貫通。
二人はアナンシの姿を探る。
辛うじて残存していた橋の棒材、その先端に彼女は佇んでいた。
オフォイスが「剛」なら、アナンシは「柔」。
こちら側を絶えず翻弄する彼女には妥当な形容だ。
ゼノサイドライバーのベルト。その左側面、灰色のディスクホルダーから更なるテイルディスクを。
傲慢の織り手に三枚目のテイルディスクが装填された。
「最後だよ、これで」
二度弾かれる引き金。
《Ceirean》《Beisht Kione》《Rahab》
セイリアン/シレイン・クロイン、スコットランドに伝わる巨躯の海蛇。
ベイシュト・キオーネ、マン島に伝わる黒き馬の頭を備えた海棲の獣。
ラハブ、ユダヤに伝わるリヴァイアサンの如き紅海の悪魔。
《Triple Reading Biblioclasm!》
《TORRENT XENOCIDE BULLETS!》
より悍ましく変異した四匹の蛇が、銃弾として出力される。
ロアは翼をはためかせ黒い霧を放出、蛇を一網打尽に。
アナンシの視界を阻む黒が晴れた時、夜空を切り裂く黒い翼と青い翼が遠のく景色。
「……ま、初戦はこんな感じでいいかな」
逃走を選択した二人に呆れる事も憤る事もせず、アナンシはゼノサイドライバーを外した。
時刻は深夜。
輝きの消えた街。
市役所。それが幻月の行き先。
到着した彼女は見上げて思う。
この建物の何処かに、深冬さまの起源が——。
短絡的な発想だが、自分が何を為そうと大きく取り沙汰される事など無い筈。
ルイーザは
入口に向かう幻月の前に、一つの暗い人影が現れた。
「あの、あなた、は……」
全身を灰色のローブで隠した人物。
「私は明確に悪だろう。少なくとも、貴方にとっては」
妄言じみた台詞を吐きながら、"ローブの人物"は灰色の機械を懐から引き出す。
「プロトロア、ドライバー……!?」
彼或いは彼女もまたルイーザさまに見出された被害者、なのでしょうか?
思考を巡らせる幻月に誇示するように、ローブの人物は変身の手順に沿う。
《ProtoLore Driver!》
《Moloch》《Baphomet》
「変身……!」
《Now Loading……Henshin!》
《MASKED RIDER PROTOLORE》
プロトロアドライバーの声は雑音に阻まれる事無く、戦士の名を響かせた。
《Chapter ZERO.》
今回の怪人
ラーガルフリョゥツオルムル・ゼネラド
対応するテイルディスク:ラーガルフリョゥツオルムルディスク
身長:224cm
体重:133kg
特色/力:粘液、伸縮する触角、毒針を備えた尻尾、高い再生能力
初登場回:13話
アイスランドのラーガルフリョゥトに生息するとされる怪物・ラーガルフリョゥツオルムル(ラーガルフリョゥトルムリン)に由来するゼネラド。
カグン・ゼネラド
対応するテイルディスク:カグンディスク
身長:218cm
体重:84kg
特色/力:全身に備わる鎌、変身能力
初登場回:13話
アフリカのサン族に伝わる、蟷螂の姿をした変身能力を持つ神・カグン(カゲン)に由来するゼネラド。
4号ライダー登場回でした。
アラクネ・ゼネラドの時点でレンゲルとスパイダーアンデッドを参考にしてましたが、アナンシは背中の蜘蛛の脚のデザインや顔のカバーなど、タランチュラアンデッドを意識した要素も入ってます。
あと変身ポーズの二段階目も完全にレンゲルですね。勿論金の装甲もですが。
他にも弄火の毒針はザビーですし、ハチオーグにも触発された所もあったりします。
アナンシの必殺技に使われたディスクですが、ベイシュト・キオーネに関しては原神の跋掣のモチーフと言えば伝わる方もいるかも……?
高評価やお気に入り登録、読了報告や感想をくだされば幸いです。
それでは次回以降も宜しくお願いします!