仮面ライダーロア   作:瀝青

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第19話 各々

 醒蕾院大学の講義室。各々が剣を掲げるジャバウォック・ゼネラドの動作を目にすると同時に、目に映る現在地が変化。瞬間移動、ないしは空間の歪曲であった。

 

 

 

 

 

 

 ルイーザ、セイズ、スルク、フォーマラウタは拠点である廃工場に。

「久しぶりだね、それを使うのは」

 大型のローテーブル付近に配置されたソファのうちの一つに掛け、“台本”を手に取りながらスルクが言う。

「位相・空間への干渉や《プネウマデータ》を強制的に休眠状態へと移行させる“停滞”などは……その無闇な行使が物語に貢献するとは限りませんからね」

 人間の姿に変化したルイーザは「強制的に休眠状態に移行させる」という部分をやや強調して言う。実質的に、これは脅迫だった。

「ああ、そう」

 スルクはその発想自体には無関心。

「なあ、弱長虫女(幻月)の《プネウマデータ》は回収しなくていいのかよ?」

 続いてセイズがルイーザに問う。

「差し支えございません、そもそも(ワタクシ)は彼女が抗う事を望んでいたので。プロトロアドライバーも()()()()()を齎すでしょう……」

「ま、確かに見ものだな。あの蟒蛇(うわばみ)闘乱(物語)を生き残れンのか……」

 セイズは幻月を愚弄、ルイーザに同意。

「新たな、役割……! ああ、なんと素敵な響きなのでしょうかァ……!」

 感極まるフォーマラウタ。

「そういうフォーマラウタちゃんは……フォマちゃんは結局誰の“創作”に味方するのかな」

 スルクが寸鉄人(すんてつひと)を刺すが如く言い放つ。

 対してフォーマラウタは堂々と主張。

「ウフフ……無数の物語のうち、最上(さいじょう)詞華集(しかしゅう)に含まれるべき物語を……小生は逃す理由などないのですッ……! 故に小生は裏切り者でも不心得者(ふこころえもの)でもありませんよォ!」

 ルイーザは感心して反応。

「素晴らしい役ですね。いずれ、アナタにもゼノサイドライバーを付与いたしましょうか……そうですね、『仮面ライダーエーギル』でいかがでしょう?」

「小生がァ……仮面ライダーにッ!? フフッ、アハ、アハハッ、アハハハハッ、アッハハハハハハハハハハハ──!」

 フォーマラウタは歓喜で哄笑。

「ハハ」

 セイズも短く笑い声をあげる。強大な力を持つ者が舞台上に増えるというのは、彼女にとって幸運な出来事である。

「あとメルヴィレアちゃん……メルちゃんのせいでまた“台本”を修正しなきゃいけないね」

 フォーマラウタの長い笑いが止むまで、普段と同じ無機質な瞳でその様を見ていたスルクが切り出す。

「ええ。しかし、この『想定外』もまた物語の彩りです。という訳でセイズさん、スルクさんにはこちらを」

 ルイーザはセイズに銀色で《Chiyou(蚩尤)》の文字と奇妙な獣が刻まれた赤いテイルディスクを、スルクに赤色で《Khepri》の文字とスカラベが刻まれた黒いテイルディスクを渡す。

 更なる力であった。

 

 

 

 

 

 

 幻月は街中、雑踏に。

 心中に去来する数々の不安、恐怖、悲哀、憂鬱、そして物語への願いと共に、暫しの間佇むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 メルヴィレアは廃墟と化した水族館に。

 辛うじて残った水槽の中で、周囲の事情も知らず漂い続ける水母(クラゲ)を彼女は一瞥。自らの計画を進行させる。

 前方に手を翳し、黒い水から薄型の機械を生成。それは以前書店でフーアドライバーに装着して変身を試みたものの、不具合を起こした機械だった。

 彼女は、自身が所持するテイルディスクに記録された情報を含む人類が創作した物語の情報、セドナ・ゼネラドとしての能力、“著者”に普及した技術、他の星で得た技術、《プネウマデータ》の特性を用いてその機械の完成を目指す。

 

 

 

 

 

 

 遼也と深冬はとある部屋、その玄関に。

「え、ここどこ?」

 深冬は狭い玄関の領域で蹌踉(よろ)めくが、遼也が彼女の肩に手を置いて支えた。

 彼は自分の取った行動に対して僅かに動揺しつつ、知覚した状況を端的に伝える。

「どうやら俺の部屋らしい」

 ここは低層のマンション、遼也が住む一室。

「へー……お邪魔、しまーす……?」

「ああ、歓迎する」

「ありがと!」

 全く予定されていない、外部的な要因による訪問だったが、客人は他でもない深冬だ。億劫である筈がない。

 深冬はスニーカーを脱ぎ、勝手に洗面所を探し出して入ると、手洗いと(うがい)を手早く済ませた。遼也も彼女に続いた。

 広い、この2LDKの部屋。多様な書籍が整頓されて収められた大型の本棚の存在が非常に際立っている。

 そして深冬はリヴィング・ルームの椅子に腰を下ろしながら付いて来た遼也に向き直る。彼は冷蔵庫の扉を開いていた。

「ふー、今日だけで色々あったね……あ、何か甘い飲み物ない?」

「ある。幸運な事に」

 遼也がグラスに注いだ飲料は葡萄のジュース。深冬にそれを差し出して返答。

「……確かに混乱させられるような出来事ばかりだった。そうだな、これまでに判明した事実を整理するべきだ」

「うん! まずゼネラドって……えーっと……」

 遼也が代わりにその先を述べる。

 

 ゼネラドという存在は幹部とそれ以外──名付けるなら“下級”に分類可能だろう。

 幹部は地球外生命体である“著者”或いは“権威者”が本性であり、確認された個体はセイズことフェンリル・ゼネラド、スルクことアラクネ・ゼネラド、幻月ことバクナワ・ゼネラド、メルヴィレアことセドナ・ゼネラド、フォーマラウタことダゴン・ゼネラド、そして統率者らしきルイーザことジャバウォック・ゼネラドの六人のみ。単純な協力関係を築いている訳ではない事が伺える。

 下級は過去にロア及びプロトロアに変身していた人物の記憶と人格の情報によって人間の有り様を模倣する失敗作の残滓にして“著者”の傀儡であり、恐らく膨大な数の個体が存在する。

 よって幹部と下級は『ゼネラド』という媒体こそ共通だが、例えるなら搭載された“ソフトウェア”が根本から異なるといえる。

 

「そうだよね! で、仮面ライダーは──」

 続いて深冬が。

 

 神話とか民話みたいな古い物語の、仮面を被って敵と同じ力で戦う英雄と、これを元にして作られた色んな小説とか、漫画とか、ドラマとか、アニメとかに出てくるキャラクター……それをルイーザたちが現実にして、私たちはその物語になってる。そうだよね?

 

「ああ。“著者”であるゼネラド幹部の目的は『仮面ライダーロア』という物語そのもの、俺たちも“著者”も登場人物なのだろう」

 遼也が返答。

「じゃあ前にプロトロアとロアに変身してた人たちは、登場人物にふさわしくなかったのかな? 自分の役割が仮面ライダーに必要なら……」

「ならば俺たちは相応しい……ところで、君に関して気掛かりな事があるのだが」

「うん?」

「ルイーザが深冬をベイラに選ぶと決めていたのなら、何故彼女は君に直接フーアドライバーを与えなかったのか。これが疑問だ」

「そっか、遼也はロアドライバー直接もらったもんね」

「そうだ。加えて君がベイラとなる背景が不透明だ。仮に俺がルイーザの立場に在ったのなら、“物語”としての正当性を伴う理由で君をライダーに仕立て上げている筈だ……いや、気紛れに何の変哲も因縁もない人間を戦いに突き落とす、というのもまた一興だが──」

 遼也がそこまで言った瞬間、二人は久々にロアドライバーの警報を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 遼也の住むマンションから近い川辺。

 二人が相対するのは竜のような意匠を持った、全身が鋼鉄の如き銀色の怪人。鱗で覆われた体表、堅牢な装甲、ダクトやパイプにも似たケーブル。そして一振り、銀の剣を構えている。

「今回の相手は下級ゼネラドか」

「こっちのディスク使ってみるかな……行こう!」

「ああ……これからの物語の為にも」

 遼也はロアドライバーを、深冬はゼノサイドライバーを装着。

《Lore Driver!》

《XenociDriver!》

 ロアドライバーにヴリトラディスク、アジダハーカディスクを。

《Vritra》《Azi Dahaka》

 ゼノサイドライバーにベイラディスク、モーガンディスクを。

《Base: Beira》《Addition: Morgan》

「変身!」

「変身っ!」

 そして、装着したドライバーを操作。

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER LORE》

《Maintenance of Expressive Control: Vritra Dahaka Form》

《All the world's a stage, and so you play your part.》

 仮面ライダーロア、ヴリトラダハーカフォーム。

 黒く、竜蛇の如き者。

《Now Invading……Deform!》

《Morgan in BEIRA the MASKED RIDER》

《Fade out.》

 仮面ライダーベイラ、モーガンフォーム。

 フェルニジェスフォームと共通する部分も多いが、一部の色や形状は異なる。

 左腕と左肩の装甲は灰色と深紅で、烏の翼を思わせる鋭い形状。

 複眼と第三の目(シグナル)は深紅。

 複眼の部分を覆う追加の仮面は烏の嘴を模したものに。

 至点の槌に加え、戦禍の槍──深紅の刃と灰色の柄で構成された長槍を携える。

 

 鋼鉄の怪人は灼熱を滾らせる。銀色の全身が赤く染まる。その威圧的な色と同等の猛威を以て、風のように突撃。

 ロアとベイラの回避は成功。

 

 鋼鉄の身体、剣、熱、竜の意匠──バトラズか。

 それはアーサー王の原型と推測される者。竜であるザリアグ・カルムの死体に由来する炭で鋼鉄の身体を鍛えられた、オセット人のナルト叙事詩に登場する英雄。

 

 放たれる灼熱を封じる事が、有利な戦闘への条件か。

 

 遼也の戦略と同じ提案をベイラが先回り。

「凍らせてみよう!」

 鋼鉄の怪人──バトラズ・ゼネラドが再び突撃。ロア、ベイラは回避の直後、バトラズ・ゼネラドの背後に向かい冷気を発する。

 バトラズ・ゼネラドは川の水ごと氷に閉ざされ冷却、拘束される。

「意外と簡単だったね!」

「早速だが(とど)めだ──何だと!?」

 しかし、空から一筋の眩く赤い光が彗星の如く到来。爆発による煙の中からバトラズ・ゼネラドと共に現れたのは新たなゼネラドであった。

 全身が鮮やかな赤色。得物は金色の剣。バトラズ・ゼネラドに似ていたが、竜に加えて騎士と王の意匠が含まれている。ジェットエンジンやロケットエンジンに似た小型の機構が背中に四つ。

 

 赤き竜に象徴されるウェールズの王。彗星を予兆として誕生した王。アーサー王伝説の中心、アーサーだろう。

 

「また新しいゼネラドが……!? あ、でも……!」

 ベイラが動揺しながらも戦禍の槍をバトラズ・ゼネラドと赤い竜の怪人──アーサー・ゼネラドに向けた。戦禍の槍、その穂先から赤黒い波動が(ほとばし)る。

 それを受けた二体の怪人は一度動きを止め、全身を赤く輝かせ、何と互いへの攻撃を開始したのだ。

 

 アーサー王伝説の魔女、モーガン・ル・フェイ。彼女はケルトにおける戦争の女神であるモリガンと同一視され、更にモリガンは戦場に混乱や同士討ちを発生させる女神にも関連する。

 

「あはは! 面白いことになっちゃったね」

「何にせよ深冬が作った好機だ。俺は銀色の方を狙う、君は──」

「わかった、赤い方だね!」

「ああ!」

 ロアはバトラズ・ゼネラドに、ベイラはアーサー・ゼネラドに同時に蹴りを一発。

 

 次にロアはバトラズ・ゼネラドの腹部に狙いを定め、何度も纏った拳を突き出す。

 不死の肉体を持つバトラズの弱点、それは腸。アキレスの踵のように。

 バトラズ・ゼネラドは熱を帯びた剣で反撃するが、ロアは冷気でそれを無力化。

 

 一方、ベイラ。

 エンジンからの噴射の勢いに乗って切り掛かるアーサー・ゼネラド。しかしベイラの姿は虚ろに揺らぎ、斬撃が空を切る。宛ら蜃気楼。

 

 伝説曰く、モーガンはイタリアのメッシーナ海峡に蜃気楼を発生させる。

 

 彼女は槍による刺撃、槌による打撃を加える。

 

 ロアがバトラズ・ゼネラドの剣を砕き、ベイラが至点の槌を振るった直後。二人は装着したドライバーを操作。

《End Roll!》

《Biblioclasm!》

《DEPRAVED RIDER CLOSING!》

《VORTEX DELETION!》

 バトラズ・ゼネラドとアーサー・ゼネラドの両方に、二人のライダーが同じ瞬間に蹴撃技を叩き込む。ロアは炎、氷、黒い霧と、ベイラは青黒い激流と共に。

《You got a new episode.》

 爆破。

 ロアは二枚のテイルディスクを入手。この機能はゼノサイドライバーには搭載されていないため、ベイラは得られなかったが。

「え? ああそっか、それ私のには付いてないから……そうだ、夏休みけっこう近いよね!」

 ベイラは深冬の姿に戻る。話題も転換。

「プールか?」

 変身を解除した遼也が応じる。

 

 

 

 

 

 

 会話しながら去る二人。その背後、戦闘で荒れた川辺。

 川の中に走る“赤い流れ”。それは形を変化させて泳ぎ、形成された感覚器で二人の人間へと一瞥を送った。









バトラズ・ゼネラド
対応するテイルディスク:バトラズディスク
身長:226cm
体重:247kg
特色/力:斬撃、赤熱する身体

鋼鉄の身体を備えたナルト叙事詩の英雄、バトラズに由来するゼネラド。
バトラズの弱点が腸であったように、腹部を弱点とする。



アーサー・ゼネラド
対応するテイルディスク:アーサーディスク
身長:233cm
体重:125kg
特色/力:斬撃、エナジーの噴射

アーサー王伝説に登場する聖剣を持つ王、アーサーに由来するゼネラド。



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