仮面ライダーロア   作:瀝青

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今回は漸くギリシャに直接関係の無いゼネラドが登場します。


第2話 被造物の脅威

 寂れた廃工場にて。

 仮面ライダーロアが使用するものと同規格のディスクが装填された、用途不明の大型機器。それに繋がれた無数のケーブル、その先には全く同じ外見をした二メートル程の人形たち。表面は金属にも生物の骨にも見える質感。

《Arachne》

 大型の機器からロアドライバーに比べ無機質で淡々とした音声が鳴ると、人形のうちの一体が形と色を変えてゆく。それは仮面ライダーロアの外装が形成される過程にも似ていた。

 やがて人形は蜘蛛の特徴を備えた怪人、ロアの攻撃により爆散したはずのアラクネ・ゼネラドと化す。

 そしてアラクネ・ゼネラドの身体に接続されたケーブルが自動的に外れた瞬間。

 廃工場の扉が開かれ、逆光で黒く染まった狼の如き異形の人影——ゼネラドがその中に踏み入る。歩くたびに身体から垂れた鎖の金属音が響く。

 アラクネ・ゼネラドに話しかける鎖のゼネラド。親しげな口調とは裏腹に、酷いノイズに包まれた彼あるいは彼女の声。

「よう!戻ってたのかよ、スルク」

 スルクという名前で呼ばれたアラクネ・ゼネラドは、鎖のゼネラドとは対照的に無感情な口調で応じる。

「ついさっきね。キミのことだしまた仮面ライダーの様子でも見てきたんでしょ、セイズ」

 鎖のゼネラド、セイズが返答する。

「ああ、あのサソリライオン野郎にはそこまで苦戦してなかったみてえだ」

「なら、次は彼を差し向けてみたらどうかな。それでも敵わなかったらキミが直接やればいい」

 影の奥から新たなゼネラドが出現する。黒一色の体躯に眼だけが紅く輝き、セイズと同様に鎖を引き摺っている。

「でも倒しちゃダメだよ、"また"そんなことしたらルイーザちゃんに注意されちゃう……」

「ああ、分かってるからよ。しかしお前、何だかオレと似たようなナリしてんな……まあいい、まだ仮面ライダーは醒蕾院大学の近くにいる筈だ、早速ひと暴れしに行くぞ!」

 バシン、とセイズが黒いゼネラドの肩を叩く音が響いた。

「了解」

 低い男性の声で承知の意を伝え、セイズに追従する黒いゼネラド。扉を蹴り開けるセイズ。そして脱力した口調のスルク。

「じゃあな、スルク!」

「いってらっしゃーい」

 

 

 扉が閉じ、動くものはスルクのみとなった廃工場。放たれる不穏な言葉。

「……間違って仮面ライダーを殺したりしないよね、あの子」

 

 

 

 

 

 

「まさか仮面ライダーさんが私の同級生だったなんて……」

 醒蕾院大学の近場に在る自然豊かな公園。廃工場での出来事など知る由もない二人の会話。「仮面ライダー」に興味津々な深冬に対し、当の仮面ライダーロアの変身者である遼也の方も何処かこの状況を楽しんでいる様子だ。

 そして遼也の顔を真っ直ぐ見据えて、好奇心の赴くままに深冬は幾つもの疑問を投げかける。

「それで……そもそも芥君はどんな仮面ライダーでどうやって仮面ライダーになったんですか?あとあのゼネラド?はどういう人たちなんですか?……人じゃない気もしますけど」

「そう焦るな。それと同学年である俺に対してそこまで畏まる必要は無い」

 距離を詰めるように促す発言。

 二度も偶然の邂逅を果たした相手である彼女には、遼也は漠然と思うところがあった。彼にとっては珍しいことだ。

「あっ、じゃあ遼也って呼んでもいい?」

「構わない。質問の答えだが……そうだな、まず仮面ライダーという存在そのものについて話そう。本来『仮面ライダー』とは"戦士(クウガ)"や"欲望の王(オーズ)"等の神話や伝承に語られる戦士を指す言葉だったが、近年の創作物や都市伝説の類にもこの名前を冠するキャラクターが登場するようになった。彼らのうち殆どの者は特殊な道具——基本的にはベルト型の物を使用して仮面の戦士に姿を変え、敵対する怪人と同質の力で戦う。そして俺が『仮面ライダーロア』に変身する為に必要なのがこの『ロアドライバー』と『テイルディスク』だ」

 男性としては細い手と指が白と黒の二色で構成された器具と複数枚の光ディスクを取り出す。

「このディスク、確かあの怪人を倒したときにベルトから出て来てなかった?『ブレイド』か『ビルド』みたい……」

 先程の戦いのことを振り返りながら深冬は言う。

「ああ、このロアドライバーには倒したゼネラドに応じて新たなテイルディスクを作り出す機能が搭載されているようだ。これを作った人物は余程仮面ライダーが好きなのか、或いは……失礼、少し話が逸れた。あの怪人——ゼネラドについてだが、彼等は様々な神話や伝承に登場する神や怪物の力を持ち、人間に擬態する事を可能とする。更に言うと、このテイルディスクも同様に神話・伝承上の存在の情報が記録されている。つまり俺も仮面ライダーの例に漏れず、怪人と同じ力で戦っている、という事だ。因みに以前君に襲いかかったゼネラドはギリシア神話に登場する蜘蛛に姿を変えられた女性のアラクネ、今日出現したものは、ギリシアやローマの書物で言及される蠍の尻尾と人間の顔を持つライオンの姿をした怪物であるマンティコアを基にした個体だ」

 遼也は説明しながら《Arachne》の文字が刻まれた暗緑色のアラクネディスクと《Manticore》の文字が刻まれた赤錆色のマンティコアディスクを提示する。

 目を輝かせて前のめりになりながら時折頷き、仮面ライダー、ロアドライバー、テイルディスク、そしてゼネラドについての説明に聞き入る深冬。当然新たな疑問も幾つか湧き出てくる。

「えっと……それでゼネラドって結局何者なの?」

「率直に言うと俺にも分からない。外見から判断して、彼らが自然に発生した存在ではないことは確かだが」

 言っている内容に反して、何故か遼也は微かに笑っている。"これから明かされるゼネラドの正体に期待"、といった所だ。

「ええっ!?」

「生憎俺にロアドライバーとテイルディスクを与えた『人物』は、テイルディスクやゼネラドという名称を教えはしたが、詳しい事は何一つとして言わなかったからな」

「あっ、そういえば遼也にこれを渡した人って……」

「まだ俺が仮面ライダーになった経緯を話していなかったな。ある日この公園でゼネラドに襲われていた時に、年齢も性別も国籍も目的も分からないローブを着た人物に二本のベルトとディスクを渡された。精々二ヶ月前のことだ」

「……って、それだけ!?しかも意外と最近!?この公園で!?あと今二本のベルトって言わなかった!?」

 驚愕の言葉を重ねる深冬に、ロアドライバーより簡素な寒色の装置と青色のテイルディスクを見せながら遼也は答える。

「フーアドライバー、と謂うそうだ。どんなテイルディスクを使っても変身できるロアドライバーとは違って、俺が今持っているテイルディスクの中ではこのベイラディスクでなければ変身できない仕様になっているらしい。一度これで"ベイラ"なるライダーに変身してはみたが、戦法が限られてどうにも不便というか……君が使ってみるか?」

「いいの?!」

「という冗談はさておき、まだ他に訊きたい事があるだろう?」

「そんなぁ……うーん……」

 少し落胆した深冬が再び問おうとした瞬間、ロアドライバーから低い警告音のような、それでいて警告音とは何かが根本的に異なる音が流れ出す。

「え?えっ?」

「現れたか」

 困惑する深冬。笑みを浮かべる遼也。

「ロアドライバーにはゼネラドの出現を報せる機能も搭載されている。つまり……」

 二人の目の前に出現するゼネラド。体毛と装甲、張り巡らされたケーブルはいずれも黒一色。銀色の歯を備え、犬に似た頭部に存在する眼は赤一色。身体に巻き付き、地面に着く程長い鎖は鉛色。熊の前足の如く厳しい腕。額から突き出た、歪んだ剣に似た一本の角。

「対象を発見……」

 ゼネラドが低く呟く。

「こういう事だ」

「こういう事だったんだ……え?」

 遅れて今の状況を認識する深冬をよそに遼也は手際良くロアドライバーを装着し、テイルディスクを挿入する。警告音が消え、流れ出す待機音。

《Lore Driver!》

《Crom Cruach》《Kernunnos》

 深冬は慌てて近くの木の背後に隠れ、様子を伺い始める。

 遼也はロアドライバー上部のボタンを押し、腕を胸の前で交差させる。

「変身!」

《Now Loading……Transform!》

 足元から生じた銀色の液体が波となり、黒いゼネラドの口から放たれた赤い炎の球を遮る。

「わぁ……」

 初めて目撃する「変身」に、深冬は感嘆の声をあげる。

《KAMEN RIDER LORE》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

「仮面ライダーロア、開幕の時間だ!」

「あ、決め台詞だ!」

 液体が武装となる。仮面ライダーロア、クロムヌンノスフォームが黒いゼネラドと相対する。

「対象を排除する……」

 ブラッディコルヌコピアを両手に構え突撃するロアに対し、黒いゼネラドが鎖を鞭のように振るい迎撃する。剣と鎖がぶつかり合い、文字通り火花を散らす。

 鎖を跳ね返された黒いゼネラドは後ろに飛び退き、再び炎を放つ。そしてロアは交差させたブラッディコルヌコピアで炎から身を守る。

 鎖、炎、黒い体毛、犬と熊の身体的特徴。ロアは攻撃を防ぎながら思考を巡らせる。自分の判断が正しければ、このゼネラドの弱点は——。

「そうだ……!一つ試したい事がある、ついて来い!」

 ロアはゼネラドに向かってそう言い放ち、灰色の馬が描かれ、《Grani》の文字が刻まれたオフホワイトのテイルディスク——グラニディスクを取り出した。

《Ride on: GRAY GRANI》

 彼の右手首に搭載された薄型で銀色の装置——テイルレンダーにグラニディスクが挿入された瞬間。ロアの側の地面から変身の際に発生するものと同じ銀色の液体が出現し、新たに何かを形成し始める。

 完成したそれは鋭角的かつ重厚感のある堅牢な灰色の装甲を纏い、ゼネラドの身体のように黒いケーブルが張り巡らされたバイク、グレイグラニであった。

「えっ?ちょ、ちょっと!?どこ行くの!?」

「心配するな、質問には後で答える」

 ロアはグレイグラニに跨がって走り出しながら、唐突に見せた逃走の姿勢に混乱する深冬の言葉に応じる。

「対象を追跡する……」

 公園を高速で走り抜けるロアと、それを追うゼネラド。置き去りにされた深冬は彼らが去った方向を見て、呆然とするほかなかった。

 

 

 公園の木々。住宅。ゼネラドは炎を吐き、ロアはそれらを的確に回避し、景色を通り過ぎて何処かへと向かい走る。この動作を続ける彼らだったが、両岸が舗装された川に差し掛かったところで不意にロアは方向変換し、ゼネラドの周囲を旋回し始めたのだ。ゼネラドは攻撃を中断し、ロアの出方を窺う。しかしその間にもグレイグラニの速度は徐々に上昇する。

「今だ……!」

 やがて再び進行方向を変え、ゼネラドへ突き進んでいく。

 ゼネラドは鎖を振り翳してロアの妨害を試みるが、一瞬のうちにロアの左手に握られていたブラッディコルヌコピアで遮られ、次の瞬間にはグレイグラニの先端の装甲がゼネラドに衝突。

 空中に投げ出されたゼネラドはフェンスを越え、浅い流れの中に墜落。水飛沫が飛び散る。

 ロアはグレイグラニから降り、追撃のために自らも川へ飛び込む。

 ロアの着地と同時にゼネラドが立ち上がり、鋭い爪でロアに斬り掛かろうとする。しかしその動きは先程のものより遥かに鈍く、ロアに届くようなものではなかった。

 ロアは観察する。黒いゼネラドの身体に目立った損傷は見当たらない。それにも関わらず、明らかに弱体化している。だとすれば——。

「やはりバーゲストか……!」

 遼也は仮面の下で笑みを浮かべる。

 バーゲスト。イングランドの民間伝承に語られる邪悪な妖精。

 その姿は"鎖"を引き摺る"角"と"赤い眼"を備えた"黒い犬"であり、"熊"であり、首のない人間でもある。そして流水の上を渡ることができないという特性を持つ。

 つまり初めからロアの目的は逃走ではなく、バーゲストとしての特性を利用して黒いゼネラド——バーゲスト・ゼネラドを追い詰める事だったのだ。

《Manticore》

 ロアはロアドライバーの左側のクロムクルアクディスクをマンティコアディスクに入れ替え、マンティコア・ゼネラドと戦った時と同じようにロアドライバーを操作して自らの形態を変化させる。

《Now Loading……Transform!》

《Mantinunnos Form》

《To the next chapter.》

 仮面ライダーロア、マンティヌンノスフォーム。

 基本形態であるクロムヌンノスフォームとは違い、装甲は赤錆色となり蠍の外骨格のように。

 額の星形の部分と複眼に繋がった羊の角は獅子の鬣を思わせる形に変化。

 背中には、ブラッディコルヌコピアの代わりに先端が蠍の尾を模した形状の赤錆色の長槍・モータルスティンガーが携帯されている。

 大幅に威力の落ちた炎の球を避け、ロアは目にも留まらぬ素早い動作でバーゲスト・ゼネラドを翻弄。

 幾度となくその身体をモータルスティンガーで穿つ今のロアは、まさしく獲物に喰らいつくマンティコアであった。

「閉幕の時間だ……!」

 ロアドライバーのボタンを二度押す、必殺への予備動作。

《End Roll!》

《MORTAL RIDER STING!》

「ハァッ!」

 モータルスティンガーの先端に紅い光が収束し、必殺の一撃が放たれる。蠍の尾がバーゲスト・ゼネラドの胸を貫通。黒い犬は停止、金属片を残して爆発。

《You got a new episode.》

「さて、戻るか」

 黒い犬の頭が描かれた赤いディスク、バーゲストディスクを手に入れたロアが深冬の元に戻るためグレイグラニへと向おうとした瞬間、その場にノイズを伴った声が響く。

「待て……!」

 ロアの眼前に新たなゼネラドが着地する。

「相手は、オレだ!」

 一見すると、身体に鎖を巻き付けたその姿は灰色のバーゲスト・ゼネラドと形容するべきものに思えた。

 しかし装甲には拘束衣のような意匠が施され、目も覆い隠されているように見える。

 体毛は灰色で、頭部はバーゲスト・ゼネラドとは違い、狼の顔のような鋭さを持っている。

 またケーブルは紫色、体格は全体的に少し華奢で、特に腕はバーゲスト・ゼネラドに比べ細く、爪はより長くなっている。

 

 牙の間で、微かに紫の炎が迸った。




今回、初めて登場した人物
スルク/アラクネ・ゼネラド
種族:ゼネラド
対応するテイルディスク:アラクネディスク
性別:女性
容姿(人間態):濃い褐色の肌を備えた端正な顔の少女。橙色のメッシュが入った暗緑色の長い髪は左側で纏められている。
身長(人間態):161cm
体重(人間態):45kg
スリーサイズ(人間態):B72/W51/H70
好きなもの:特になし
嫌いなもの:特になし

ギリシャ神話に登場する、蜘蛛に姿を変えられた女性・アラクネに由来するゼネラド。

一人称は「ボク」。基本的に無表情で、抑揚に乏しい口調で話す。そのため人間態であっても人間味のない不気味な雰囲気を纏う。


今回、初めて登場した怪人
バーゲスト・ゼネラド
対応するテイルディスク:バーゲストディスク
身長:225cm
体重:104kg
特色/力:鎖による打撃、強靭な爪、口から発せられる炎の玉

イングランドの民間伝承に登場する黒い犬や熊、首のない人間の姿をした不吉な妖精・バーゲストの特性を持つゼネラド。
流水の中に居ると著しく弱体化するため、ロアにその弱点を利用され討伐された。


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・ゼネラド/セイズ
対応するテイルディスク:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ディスク
身長:214cm
体重:92kg
特色/力:不明

ゼネラドの幹部。
⬛︎⬛︎神話に登場する神々に災いを齎す狼・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に由来する。



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