仮面ライダーロア   作:瀝青

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今回はついに2号ライダーが登場します!


第4話 冬の女王

 ロアとマンティコア・ゼネラド、バーゲスト・ゼネラド、フェンリル・ゼネラドの戦闘、その翌日。醒蕾院大学、授業棟。段差に配置された座席が広がる講堂に、次々と学生たちが流れ込む。その中で深冬は真希の姿を見つけ、一気に駆け寄り彼女の肩に触れる。無邪気な声が発せられた。

「真希!」

「……ッ!?ああ、深冬か」

 目が見開かれる。過剰な驚きを見せる真希に、深冬は僅かに首を傾げる。

「うん……?」

 しかし心の中で「まあいいか」という声が上がり、結局気にせず会話を開始しようとする。二人並んで席に着く。

「昨日ずっとどこに居たの?あの、あれ、怪物が出てきた後。連絡しても全然返事くれなかったから心配したんだよ?」

「え——あ、いや、」

 更に落ち着きを失う真希。

「えっと、それよりさ……何でジャージなんだ、お前」

「え?おかしかったかな?」

 深冬は運動部やそれに類する同好会に所属している訳ではない。更に彼女は運動を好んでいる訳でもない。単に服装に拘りが無いだけだ。明らかに話を逸らした真希だが、深冬はそこにも触れることはなかった。

 そんな時、その場に現れた人物——遼也を一目見た真希は慌しく立ち上がる。そして驚愕する深冬に構わず、疎らに授業棟に流れ込む学生たちを掻き分けて駆ける。

「どこ行くの!?」

 一瞬遼也の目に写った真希の顔面には、確かな焦りが張り付いていた。

 興味が湧いた。

「追うぞ」

 

 

 

 

 

 

 真希が逃げた先、運河を跨ぐ幅の広い橋。走り続ける彼女の肩に白い手が触れた。

「今度はルイーザかよ……"ゴアイサツ"の準備か?」

 真希は立ち止まり、その人物と目を合わせる。そしてごく自然に彼女の名を口にした。

「ええ。折角此処でこうしてお会いした訳ですし、アナタも見物されては如何ですか、」

 

()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 見失ったか。

 どこ行っちゃったんだろう。

 息を切らした二人が辿り着いた先もまた大橋だった。

「はぁ……はぁ……遼也とあの子、真希って……これまで会ったことなかったよね」

「……その筈だ」

 では何故。

 その時、遼也の懐から警告音に似た音が流れ出す。ロアドライバーだ。二人が周囲を見回しても、有機体と無機体が混ざり合った怪人の姿は見つからない。

 しかし橋の先にはそれが、彼女がいた。

 殆ど建造物に塞がれていない青空の下の、白と灰色のタイルが一面に貼られた大橋。黒尽くめの服装で二色の髪の彼女の姿が強く浮かび上がっている。

 遼也と彼女の目が合う。鏡と相対しているような感覚、そして鏡そのものが自分を見つめているような感覚を彼は味わった。

 前に何処かで会ったか?

 彼女がにこりと笑う。

「おや、深冬さんもご一緒なのですね」

「なんで、私の名前を——!?」

「ああ——失礼致しました。(ワタクシ)、ルイーザと申します。以後お見知り置きを」

 彼女がそう名乗ると、その身体が衣服ごと崩れるように溶解し、別の存在が形成される。

「ジャバウォック・ゼネラドと呼んでいただいても差し支えありませんよ」

 ジャバウォック。ルイス・キャロルによる小説『鏡の国のアリス』の劇中に登場する詩に語られる怪物。その名は"議論の賜物"を意味し、一説によると言語の混沌を司る存在であるとされる。

 今の彼女の姿は何処か竜に似ている。眼は無く、銀色の歯だけは完全に左右対称。緩やかにS字を描き先端が前を向いた額の角、背中に備わる巨大な蝙蝠の如き翼、細長い尻尾、下顎の端から生えた触角。これらの造形は左右非対称。

 左半身は白一色で無機的。尻尾と翼を含めた滑らかな体表に張り巡らされたケーブルまでもが白い。額の角は鋭利。触角は鮎の髭。爪は尖り、基本的な形状は人間のものに近い。

 右半身は黒一色で有機的。体表は魚類のような煌めく鱗に覆われている。その上から人間の肋骨や脊椎を模した部品を鎧のように纏っている。角もまた縮小した脊椎そのもの。爬虫類の骨と変わらない尻尾。髪切虫のような触角。テリジノサウルスのような鉤爪。

「え、えっと……こちらこそよろしくね?」

 これまで遭遇したゼネラドとは趣の異なるルイーザ、ジャバウォック・ゼネラドの姿に若干困惑しながらも、深冬は素直に返事をする。

「貴女がルイーザか……丁度いい」

 訊きたい事が山程ある。

 遼也はロアドライバーを装着した。

《Lore Driver!》

「ええ。早速で恐縮ですが、本題へ入らせていただきます」

 何時の間にか、白い手に二枚のテイルディスクが握られている。

「テイルディスク?」

「……何だ?」

《Crom Cruach》《Kernunnos》

 遼也は警戒し、クロムクルアクディスクとケルヌンノスディスクをロアドライバーに装填する。

「こうするのですよ」

 対してジャバウォック・ゼネラドはテイルディスクを黒い腕に押し当てる。

 するとテイルディスクは腕に沈み込むようにして消滅した。

 次に彼女は開かれた掌を前方に向けて黒い腕を掲げる。掌から大量に流れ出した黒い液体が地面に到達すると、それは徐々に人型を形作り、やがて十一体のゼネラドとなった。

「こんなに沢山……!?」

「それがゼネラドを生み出す方法か……?」

 一体のカマソッツ・ゼネラド。眼は無く、蝙蝠の耳と翼を備え、藍色の皮膚に返り血のような赤い装甲とケーブル。

 十体のエルフ・ゼネラド。こちらにも眼は無い。黄色い菌糸が張り付いた枯れ木を思わせる体表、黄緑色のケーブル、銀色の装甲と長く尖った耳、無色の蜻蛉の翅。体表と同じ有機的な弓。

「カマソッツ・ゼネラド、そして十体のエルフ・ゼネラドが"今回の怪人"です。それでは……」

「開幕の時間だ。変身!」

 ジャバウォック・ゼネラドの台詞を遮るように遼也は合言葉を言い放ち、ロアドライバーを操作する。

「ふふ……っ、それでこそ遼也さんです」

 嬉しげに呟く彼女。

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER LORE》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

 ロアの変身が完了するとエルフ・ゼネラドたちは背中の翅を震わせ飛び上がり、空中で次々と弓を引き絞るように上半身を動作させる。

 収束した黄緑色の光が矢となり、ロアを襲撃する。

 振るわれたブラッディコルヌコピアはそのうち数本を撃ち落とす。しかし空中から攻撃する手段を持つエルフ・ゼネラドが相手ではやはり分が悪く、白い装甲が火花を散らす。

 "エルフの一突き"を使うのなら更に厄介な相手になっていた事だろう。

 十七世紀のスコットランドや北イングランドの人々は、突然の麻痺を"エルフの一突き(elf stroke)"と呼んだ。幸運なことにエルフ・ゼネラドはそのような能力を持たなかったが。

 追撃。地上に留まるカマソッツ・ゼネラドが腰を落とすと、その前方の空中に赤い光が収束。

 人間の頭ほどの大きさの球体が生成され、カマソッツ・ゼネラドはそれを膝で蹴り飛ばす。

 テイルディスクを切り替えようとするロアの頭部に高速で命中。

「……サッカーは嫌いだ」

 否、この場合はメソアメリカの球戯か?どちらにせよ球戯は性に合わないが。

 マヤ神話に登場する蝙蝠の姿をした神、カマソッツ。彼は英雄フンアフプーの首を切り落とし、球戯で使用するボールとした。

「私もちょっと」

「気が合うな」

 深冬が笑う。彼も仮面の下で微笑む。

 改めてテイルディスクを取り出す。赤色で鶏冠(とさか)を有す蛇の頭部と《Basilisk》の文字が刻まれた緑のテイルディスク——バジリスクディスクとマンティコアディスクをロアドライバーに装填、ボタンを押す。

《Basilisk》《Manticore》

《Now Loading……Transform!》

《Basiticore Form》

《To the next chapter.》

 仮面ライダーロア、バジティコアフォーム。

 複眼、装甲の色と形状はマンティヌンノスフォームと同様だが、アンダースーツは緑色で、部分的に紫色。

 頭には鶏の鶏冠の一種、燃え盛る炎に似た赤色の単冠を模した装飾。

 背中には緑の蝙蝠、或いは竜の翼。手にはモータルスティンガー。

 ロアは翼を広げ飛翔。彼を包囲するように放たれた矢をモータルスティンガーで迎え撃つ。

 空中でカマソッツ・ゼネラドが放った赤い球体と突進するエルフ・ゼネラドを掻い潜る。

 操作。終幕を知らせるロアドライバーの音声。

《End Roll!》

《MORTAL RIDER STING!》

 赤の光と緑の霧を纏うモータルスティンガーが三体のエルフ・ゼネラドを一度に貫く。爆発。

 そして飛び交う矢と球体を回避。ロアはモータルスティンガーで次々とエルフ・ゼネラドの数を減らし、一瞬のうちにエルフ・ゼネラドは全滅した。

「やったぁ!」

 観戦者であった深冬の歓声が響く。

《You got a new episode.》

 ルイーザが所持していたエルフディスク——黄緑色で《Elf》の文字と尖った耳の人間の頭部が刻まれた黄色のテイルディスクがベルト右側のスロット——シソーラスロットに出現。彼はそれをベルト左側の小箱——ディスクホルダーに収める。

 カマソッツ・ゼネラドは休憩でもとるかのように、戦いを傍観していたジャバウォック・ゼネラドの横に降り立つ。

 遼也の心中。違和感を禁じ得ない。

 アラクネ・ゼネラドやフェンリル・ゼネラドとは異なり、ジャバウォック・ゼネラドから生み出されたゼネラドはマンティコア・ゼネラドやバーゲスト・ゼネラドのように意志の存在を感じない。

 その様は正しく傀儡。

 だがマンティコア・ゼネラドとバーゲスト・ゼネラドではまた何かが別——マンティコア・ゼネラドのような者は()()()()()()()()。バーゲスト・ゼネラドのような者は()()()()()()()。アラクネ・ゼネラドのような者は()()()()()()()

「おやおや、これは予想以上ですね」

 エルフ・ゼネラドの全滅は好ましい結果だった、と回顧するように彼女はその声に喜びの色を滲ませる。

 着陸し、カマソッツ・ゼネラドとジャバウォック・ゼネラドとの戦闘に備えるロア。

「どのようにして我々のように意思を持つゼネラドが発生するのか、そしてあのローブの人物が我々と何らかの関係を持っているのではないか、でしょう?申し訳ございませんが、それはまだお伝え出来かねますね……」

 彼女は自分と同じ感性の持ち主だ。

 自分の疑問を的確に言い当てるルイーザ、ジャバウォック・ゼネラドに対して、そのような感想を持たずには居られない。

「それより見せて下さいよ、アナタの物語を」

 彼女は白い手を自らの胸部に沈み込ませる。そこから一メートルを優に超す、半分だけが刺々しい形状を呈する刀幅の広い灰色の剣——ヴォーパルを引き摺り出す。

「……望むところだ」

 今はただ、この物語を楽しむだけだ。

 "決め台詞"の如き戦線布告に応じる遼也(ロア)

 次の瞬間にはロアドライバーは彼の腰から外れ、変身を解除された彼の身体と二つのバックルとテイルディスクが地面に飛び散る。

 深冬にも遼也本人にもその時起こった事を理解することは不可能だった。

 遠距離から光の球体を衝突させたカマソッツ・ゼネラド。

 低空飛行から肉薄、斬撃を繰り出したジャバウォック・ゼネラド。

「遼也!」

 咄嗟に、勝手に深冬の身体が動いた。その手はコバルトブルーと薄水色の機械が、フーアドライバーが握られている。

「すぅ……」

 深呼吸。

 遼也がそうしていたように、フーアドライバーを腹部に押し当てる。

「……あれ?」

 フーアドライバーからベルトは伸びない。

 二体のゼネラドは彼女を妨害する素振りも見せず、ただ見守っている。

 深冬は何度も同じ動作を繰り返す。

 異様な光景だった。

「うーん?」

「……逆さだ」

 倒れたまま、呻くように彼はそう言う。

「あっ、そっか!」

 地面に手を着けて脚を振り上げる。

「ふっ……ぐぐっ……」

 逆立ちを試みているのだ。

(いった)ぁ!」

 転倒。

 

「ああもう何やってんだよ深冬、さっさと変身しろよ……!」

 物陰で参戦を望む気持ちを堪え、大人しく観戦していた真希(セイズ)の苛立ち。

 

「……『フーアドライバーの上下が逆さだ』と言えば理解できるか」

 呆れ、よろめき、立ち上がる遼也。

「あっ……そっか……!」

 彼女の表情が晴れ渡った。

《Fuath Driver!》

 ディスクの挿入口を上向きにしてフーアドライバーを装着。白いベルトが深冬の腰に巻き付いた。

 遼也から深冬に手渡されるベイラディスク。翼を広げた烏の正面図と《Beira》の文字が白で刻まれた青いテイルディスク。

 ベイラ、またの名をカリアッハ・ベーラ。

 アイルランド、スコットランド等の神話に語られる女神。渦潮を引き起こすことで冬の到来を告げ、その手に大地を凍らせる杖、或いは丘と谷を形成する(つち)を持つ。

《Beira》

 ベイラディスクをフーアドライバーに装填。波濤、水流と飛散する水滴を想起させる音楽がフーアドライバーから溢れ出す。

《Lore Driver!》

《Crom Cruach》《Kernunnos》

 彼女に追随し、遼也もロアドライバーを装着、二枚のテイルディスクを装填。ロアドライバーのボタンを押す。

 "使い方はなんとなく分かるよ!"という台詞が聞こえてくるような勢いで深冬はフーアドライバーの左側面、三角形が描かれた長方形のボタンを押す。

 まるで長年の間、共に戦ってきた仲間のように一瞬顔を見合わせてからゼネラドを見据え、合言葉を唱える。

「変身!」

「変身っ!」

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER LORE》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

 仮面ライダーロア。白い体躯に赤い複眼と角が猛る。

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER BEIRA》

《Tales from phantasmagoric water create destiny.》

 仮面ライダーベイラ。見る者に神秘的、幻想的な印象を与えるその姿。

 白に薄水色が散りばめられた装甲はロアに比べて薄く、アンダースーツは紺色。

 コバルトブルーの複眼は広げられた烏の翼のような形状。左右対称に配置された曲線を描く銀色の角が五本。それは鹿や牛の角、枯れた木の枝、王冠にも見える。

 中央の角の根本である額に縦長でコバルトブルー、菱形の第三の目(Oシグナル)

 銀色の口部(クラッシャー)はロアに比べ大人しい形状で、鳥の(くちばし)を思わせる。

 腰に長く白い前垂れと、それとは別に腰から脚にかけてコートの裾のような前開きの白い布、背中にも青い鳥の翼が垂れ下がっている。

 左手には身の丈程の杖、その両端は異なる形状で、片方は銀色の波濤と雪の結晶を模した装飾、片方は両口で角張った槌。

 

「当初の予定よりも早い登場となりましたが、これで当分の役者は揃いましたね……」

 拍手を送るルイーザが、抑え切れない喜びを呟いた。




今回、初めて登場した怪人
エルフ・ゼネラド
対応するテイルディスク:エルフディスク
身長:201cm
体重:80kg
特色/力:弓による射撃、飛行

ジャバウォック・ゼネラドが生み出した、集団で行動するゼネラド。
ヨーロッパの伝承に登場する人型の妖精・エルフに由来する。


カマソッツ・ゼネラド
対応するテイルディスク:カマソッツディスク
身長:202cm
体重:78kg
特色/力:エナジーの球体の生成、飛行

ジャバウォック・ゼネラドが生み出したゼネラド。
マヤ神話に登場する蝙蝠の姿をした神性・カマソッツに由来する。


ジャバウォック・ゼネラド
対応するテイルディスク:ジャバウォックディスク
身長:248cm
体重:136kg
特色/力:全容は不明

ゼネラドの幹部。
ルイス・キャロルによる小説『鏡の国のアリス』の劇中に登場する詩に語られる怪物・ジャバウォックに由来する。


文章で上手く伝えられたか分かりませんが、ジャバウォック・ゼネラドの容姿はかなり韮沢靖さんのデザインを意識したものとなっております。ゼネラド共通の銀色の人間の歯は勿論、左右非対称な造形や骨の意匠がその表れです。
そしてルイーザの名前は『鏡の国のアリス』の作者である「ルイス・キャロル」及び「ルイス(Lewis)」から派生した女性名、「ルイーザ(Luisa/Louisa)」に由来しています。

それでは次回も宜しくお願いします!
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