仮面ライダーロア   作:瀝青

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今回から少しずつゼネラドやライダーの実態が見えてきます。


第6話 名残

 朝焼けに包まれた廃工場に向かって、一人の女が歩く。光の中で白い肌が暁の色に染まり、赤い瞳と青い瞳が炯々と輝き、彼女が持つ美しさの内の異様さが浮き彫りになる。

 やがて朽ちた建造物に至った彼女は錆びた扉を押して、曙光と共に建物の内に入る。

「ただいま戻りました」

 廃工場には似つかわしくない、座面の広いソファに人間の姿のスルクとセイズが腰掛けていた。

「おかえり」

 ルイーザの方を向かず、カバーの無い分厚い本に目を落としたままのスルクが呟くように言った。

「よっ、ルイーザ!……ってプロトロアドライバーじゃねえか。それが戻ってきたってことは……」

 セイズはルイーザが抱えていた灰色の機械を見てそう言った。

 彼女は『仮面ライダーW』という題と、黒い右半身と緑の左半身の仮面ライダーがカバーに印刷された漫画本を閉じて、ソファの前のローテーブルに置く。

「端役が増えますね」

 ルイーザは妖しく笑みを浮かべた。

「やっぱそういうことか。改めて思うけどお前のライダーシステム、ホントとんでもねえ発想からできてるよな。主役に相応しいヤツを探しつつ本番の仮面ライダーの対戦相手を増やすなんて、オレには思いつかねえよ」

 セイズはにやりと笑い返して話す。

「ふふ、お褒めいただきありがとうございます。とは言え主人公が遼也さんに決定した以上、プロトロアドライバーの"オーディション"という役目は終わってしまいましたが。そもそもプロトロアへの適合は困難な事ですから……」

 ルイーザが廃工場の中央に鎮座する装置へと近づくと、ひとりでにケーブルがプロトロアドライバーに伸び、接続された。

 続けて装置の棚から一枚のテイルディスクを取り出し、多数のテイルディスクが装填されている場所の空きにそれを入れた。

《Orc》

「不適合者の方々を尊い犠牲とし、円滑な物語の進行のための"怪人役"を演じていただく役者を集める機構としては現役ですが、ね……!」

 彼女の瞳がより一層輝き、笑顔が静かに狂乱で躍動した。

 マリオネットのように天井から吊り下げられた人形の一つが変形を開始する。

 オーク・ゼネラド。

 黒く滑らかな体表、牙のような白い模様が刻まれた眼のない鋭角的な貌、人間のものに近いが尖った歯、尻尾、身体の随所に備わった鰭は鯱に似て、白い装甲とケーブルは骨を想起させる。

 彼が床に降り立つと、その身体が溶解して人間の姿へ転じる。それはプロトロアに変身していた男のものだった。

 彼は何食わぬ顔でまだ朝日の残る扉の外へ去っていった。

 一連の流れを見届けたルイーザは先程とは一転、穏やかな口調で発話を再開する。

「……今後の予定ですが、深冬さんも変身を果たされましたし、真実の一端を見せることといたしましょうか。そしてセイズさん、昨日(さくじつ)は遼也さんをご覧になられた途端に逃げ出されたとのことですが……」

「あー……」

 セイズはルイーザから目を逸らし、ばつが悪そうに呻くような声を上げた。

「いえ、アナタを責める気は毛頭ございません。ただ"真希さん"の行動から遼也さんがアナタの正体がフェンリル・ゼネラドであるという事実に辿り着く可能性があるので、いっそ更にアナタの正体を仄めかす行動を取られてみては如何でしょうか。あの時アナタはロアドライバーの探知を妨害する能力を使用されていた筈です。疑い切れない、という状態を作り出すことは可能でしょう……」

「あ、ああ、分かった」

「では……」

 予定の修正は続く。

 

 二人の会話を聞き流していたスルクが本を閉じる。

 表紙には装飾化された『仮面ライダーロア』という文字列が、番組や作品のタイトルロゴのように踊っていた。

 ドラマや映画の()()。それが最も適切な表現だろう。

 

 

 

 

 

 

 ジャバウォック・ゼネラド、ルイーザとの邂逅から数日、日曜日。

 マンションの一室、独り暮らしの彼が思考していた。

 彼女と相対した際の奇妙な——相手が自分と"同じ"だと柔らかに、しかし一方的に説き伏せられるような感覚を持つのは、初めての経験ではない。

 それは断言せざるを得ない程に強い確信だった。

 しかし中学生の少女にも、自分より少し年上の二十代半ばの女性にも見える、美しくも異様と表現できてしまう、どこか自分自身の貌を彷彿とさせる人物は俺の記憶の中では不在だった。

 他にも幾つもの疑問が頭を過る。

 あの日、結局深冬の友人である鎖條真希は見つからず、連絡が取れたのもその翌日だった。

 深冬の話ではマンティコア・ゼネラドの襲撃の際にも一時的に消息を絶ったとの事で、彼女にも自然と疑いの目が向く。

 鎖條真希こそがフェンリル・ゼネラドなのではないか?

 しかし彼女がゼネラドであるなら、何故ロアドライバーの警報が作動しなかった?ゼネラドはロアドライバーの検知を遮断する能力を有するのか?

 答えが出ない。思考の軌道が逸れる。

 鎖條真希、深冬の友人。ふと思い返す。自分にとって友と呼べる存在は……。

 その時、記憶が解き放たれる感覚。同時にルイーザに対する既視感の正体が分かった。

 淡い過去が流れ出す。

 

 力を手にしたあの公園。

 長く黒い髪が揺れ、涼やかな黒い瞳が見つめていた。

 強烈な親近感。

「あなたは、こんな物語(人生)に満足していないでしょう?」

 温かく、寄り添うように彼女は言った。

 

 しかし、回想は警報によって中断される。

 あまりにも時機が悪い。

 

 

 

 

 

 

 バジティコアフォームに変身し、空を飛び辿り着いたのは港。

 フーアドライバーには警報が搭載されていない。出発する前に深冬に電話越しに「ゼネラドが舞雲港(ぶうんこう)に出た」と伝えたが、彼女は「うぅ、ん……」と眠たげな声を残して通話を切断した。

 まあ、強制する事でもないのだが。

 遼也(ロア)は目の前の状況に意識を戻した。

 埠頭の先から白と黒で彩色された、鯱に似た姿のゼネラドが迫り来る。だが疎らに集まった釣り人達は逃げる様子もなく、悠々と獲物を待っている……ように見えた。

 鯱のゼネラドが突進を開始した瞬間、その光景は崩壊した。

 釣り人達は竿を捨て一斉に立ち上がり、薄緑の鮫肌、青白い鱗状の装甲、暗緑のケーブル、魚と蛙の中間に位置しているような目の無い頭部、人間と変わらない銀色の歯、シーラカンスの鰭、指の間に水掻きを備えたゼネラドに変異した。

 

 ここまで大量のゼネラドが?

 

 驚きに加え、"彼女"の面影が脳裏から離れず反応が遅れたロアは鯱のゼネラドの体当たりを喰らい地面を転がる。

 今までのゼネラドは一体ずつ出現していた。このような状態が有り触れたものならば、人間に擬態し社会に溶け込んでいるゼネラドの数は彼の想像以上に多いのかも知れない。

「ぐッ……」

《Arachne》《Scolopendra》

《Now Loading……Transform!》

《Arachnependra Form》

《To the next chapter.》

 急いでテイルディスクを切り替え、アラクネペンドラフォームとなるロア。疾走する鯱のゼネラドと跳ねて前進する魚蛙のゼネラド達を寄せ付けない為に、多脚を振るい後退しながら普段通り分析を開始する。

 まず鯱のゼネラド。骨に似た装甲を持ち、シャチの学名(Orcinus orca)が「冥界の魔物」を意味する点を考慮すると(orca)に由来する海の怪物・オーク(orc)か。

 「オーク」という語は、現代の創作物では専らゴブリンやオーガに近い粗暴な人型の種族を指すが、本来はそのような意味で用いられる。

 次に魚蛙のゼネラド。一見すると各地の神話や伝承に登場する半魚人を彷彿とさせるが、蛙の要素を含むためハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『インスマスの影』等の"クトゥルフ神話"に登場する水棲の種族・深きものども(Deep Ones)であろう。

 見た目通り、水中での戦闘では彼らに軍配が上がる筈だ。ならば地上で、遠距離からの攻撃であればこちらが有利か。

 速戦即決。

 蜘蛛と百足の脚を戻し、ネストガンナーにマンティコアディスクを装填し引き金を二回連続で引く。

《End Roll!》

《MORTAL RIDER BULLETS!》

 赤錆色の棘状の弾丸が魚蛙のゼネラド——ディープ・ワン・ゼネラドの半数を殲滅、爆炎が巻き起こった。

 残りのゼネラドはまだ多い。どう片付ける?

 そう思ったのも一瞬、鯱のゼネラド——オーク・ゼネラドの背後の水面を突き破り、新たなゼネラドが出現する。

「……そこまでして邪魔したいのか?」

 今日ばかりはゼネラドに対する苛立ちが募った。結局はゼネラドの観察を行うのだが。

 全身が白く、目の無い貌に歯だけが銀色。

 額からは上嘴のようなバイザーが生え、頭は烏賊の如く後方に向かって長く伸び、その両端に三角形の鰭を備えている。

 背中から垂れ下がる八本の触手と二本の触腕以外は甲殻類の外骨格と尖った装甲、ケーブルに覆われて、右手は蟹の鋏。

 烏賊に加え甲殻類の要素を持つため、クラーケン・ゼネラドとでも呼ぶべき存在だろう。

 クラーケン。北欧に伝わる、大渦潮(メイルストロム)を発生させる海の怪物。

 今日ではその正体はダイオウイカとされているが、中世、近世では烏賊は勿論、蛸、海星、鯨、魚、蟹、海老といった様々な姿を与えられていた。

 最大の脅威にして弱点は触手と触腕か。

《Crom Cruach》《Kernunnos》

《Now Loading……Transform!》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

 クロムヌンノスフォームに変身。

 ぎこちなく接近する魚蛙、突撃する鯱、伸びる白い触手を往なし、切り裂き、一体のディープ・ワン・ゼネラドが頭上を跳んだ直後、ロアドライバーを操作。

《End Roll!》

《HUNTING RIDER KICK!》

 オーク・ゼネラドの背に紅を纏った上段回し蹴りを放つ。

 鮮やかに爆散。

《You got a new episode.》

 振り下ろされた鋏を前転で避け、黒で鯱が刻まれた白いオークディスクを収納。クラーケン・ゼネラドに斬り掛かろうとした瞬間。

「遼也ー!来たよー!」

「深冬——」

 無邪気な声。ベイラが飛来しながらソルスティスセプターで烏賊を打擲——。

「うわあぁぁぁぁ!?」

 しなかった。

 ベイラは触腕で投げ飛ばされ、派手に水飛沫を上げる。

 クラーケン・ゼネラドと数体のディープ・ワン・ゼネラドが彼女に追い打ちをかけるように揺らめく水面へ消えてゆく。

 少し彼女が心配だが、深冬と出会う以前の経験でベイラは水中での戦闘も可能だと彼は理解していた。今は地上に残ったディープ・ワン・ゼネラドの処理を優先する。

 

 一方、海中。

「あれ?息できてる?私泳げないのに?」

 水泡と共に落ちてくるゼネラド達。

「えーっと……」

 取り敢えず翼を動かしてみる。

「ペンギンってこんな感じなのかな……」

 暢気に呟いて、ベイラは水中を翔ぶ。しかし地上での動きから激変した泳ぎでディープ・ワン・ゼネラド達が追い縋り、彼女への包囲網を形成した。クラーケン・ゼネラドも触手と触腕を靡かせ合流。彼等はベイラの周囲を旋回。その速度は急激な上昇を続け、渦を発生させる。

 正にメイルストロム。

 ベイラは慌てて流れの中からの脱出を試み激流に抗って羽撃くが、ディープ・ワン・ゼネラドの執拗かつ獰猛な衝突が行く手を阻み、更にはクラーケン・ゼネラドの触手が彼女を捕らえた。

「うっ、でもこうすれば……!」

 固く巻き付いた触手の下でフーアドライバーに手を伸ばし、ボタンに触れた。

《End Roll!》

《VORTEX BANE!》

 彼女はゼネラドの渦潮を掻き消し、上書きする程の新たな渦潮を全身に羽織り、触手を吹き飛ばした。体当たり、蹴撃、槌の打撃を次々に炸裂させ、散り散りになるディープ・ワン・ゼネラドを着実に減らしていく。

 ベイラは水中の魚蛙を全滅させ、迫る触手と触腕を跳ね除け、渦に合わせて自分自身も回転を開始。

 青と白が優美に、激甚にはためく。

「はあぁぁぁぁっ!」

 邁進、一蹴、爆発。

 海面が繁吹きを上げた。

 

 クラーケンディスクを手に入れた彼女が上陸したのは、彼が最後の斬撃を繰り出した時だった。

《You got a new episode.》

 深冬(ベイラ)と、魚とも蛙ともつかない、薄緑の"深きもの"の頭部が刻まれた暗緑のディープ・ワンディスクを得た遼也(ロア)は変身を解く。

「お疲れ様!」

 深冬の笑顔が弾ける。

「ああ、君も……しかし何故来てくれたんだ」

 

 彼女はただ、偶然が重なった結果仮面ライダーに変身することになった……筈だ。自身が知る限りでは。

 そんな彼女が持つ理由を知りたい。

 

「だって変身してるときの遼也、すごく楽しそうだし、生き生きしてるから」

 

 彼は微笑んだ。彼自身には見ることができないが、それほど狂気じみたものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 一瞬、横を見た彼の目。

 物陰から覗く薄墨色の瞳を確実に捉えていた。




今回、初めて登場した人物
謎の少女
種族:人間?
性別:女性
年齢:不明
容姿:長い黒髪と黒い瞳、涼しげな目つきの少女。ルイーザ同様、どこか遼也に似た雰囲気。
職業・身分など:不明
家族など:不明
身長:不明
体重:不明
誕生日:不明
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明

過去の遼也の友人。

彼の良き理解者であったが......?


今回、初めて登場した怪人
オーク・ゼネラド
対応するテイルディスク:オークディスク
身長:233cm
体重:147kg
特色/力:強力な突撃、遊泳、水中の環境への適応
初登場回:6話

ルドヴィーコ・アリオストの叙事詩『狂えるオルランド』等に登場し、鯱に関連する海の怪物・オークに由来するゼネラド。


ディープ・ワン・ゼネラド
対応するテイルディスク:ディープ・ワンディスク
身長:205cm
体重:130kg
特色/力:遊泳、水中の環境への適応
初登場回:6話

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『インスマスの影』等の"クトゥルフ神話"に登場する水棲の種族・深きものどもに由来する、集団で行動を取るゼネラド。
舞雲港の釣り人に擬態していた。


クラーケン・ゼネラド
対応するテイルディスク:クラーケンディスク
身長:242cm
体重:144kg
特色/力:遊泳、触手、触腕、水中の環境への適応、渦潮
初登場回:6話

烏賊、蛸、海星、鯨、魚、蟹、海老といった様々な姿を与えられてきた、北欧に伝わる海の怪物・クラーケンに由来するゼネラド。


物語の本筋には関係ない事ですが、この世界でのダブルは最初から漫画作品です。

今回登場したクラーケン・ゼネラドの頭の形は『エイリアン』のゼノモーフみたいな感じです。ジャバウォック・ゼネラドの方も少し影響を受けていたりします。

それでは次回もよろしくお願いします!
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