「へ? 真希がゼネラド?」
賑わう醒蕾院大学の食堂。遼也から鎖條真希について一連の考察を聞かされた深冬が困惑を示した。
思考が些か飛躍しているのは分かっていた。しかし舞雲港であの灰色の瞳を見た時、感情を疑念の状態に留める事を辞める、という事が必要になった。そして半ば衝動的にそれを彼女に告げた。
案の定、深冬は鎖條真希の行動を大して不審に思っていなかったようだ。
「うーん……」
話を聴き終わった彼女は納得したような、していないような何とも微妙な表情で唸りながらも鶏肉を包むクレープを摂食する。
クレープは彼女の好物とのことだ。中身は肉でも果物でもクリームでも構わないらしい。
彼女の返答を待ちつつ、淀みのない蒼い瞳を眺める。
その瞬間も長くは続かなかった。
鳴る警告音。
二人は顔を見合わせる。
現場は街中の公園。水路には群れて飛び立つ鳥の彫刻。青銅でできた彼等は、二体の怪人から逃れようと必死で羽撃いている。今はそう見えた。
退散する人々の中心に居たゼネラド。
両者は共に眼窩の無い髑髏のような頭部と生命維持装置に似た装甲を有している。ゼネラドに共通する銀の歯。
片方は赤のケーブルを備えた、古代ギリシャの女性の彫像を思わせる姿。右肩から象牙が突き出ていて、白く滑らかな外殻の節々から赤い筋組織が覗いていた。
もう片方は緑のケーブルを備えた、泥岩の人形とでも形容すべき姿。黒く粗い外殻の節々から緑の筋組織が覗いていた。
破壊するゼネラドに相対するのはただ二人。
《Lore Driver!》
《Crom Cruach》《Kernunnos》
「変身!」
彼は胸の前で腕を交差させ、手を開いて言った。
《Fuath Driver!》
《Beira》
「変身っ!」
彼女は空に向かって、右手を高く掲げて言った。
《Now Loading……Transform!》
《Now Loading……Transform!》
《KAMEN RIDER LORE》
《KAMEN RIDER BEIRA》
《Cromnunnos Form》
《To the opening.》
《Tales from phantasmagoric water create destiny.》
「開幕の時間だ!」
「え、あ、開幕の時間だぁっ!」
ベイラは取り敢えずロアに合わせて決め台詞を放つ。ソルスティスセプターで黒いゼネラドの拳を受け止め、外殻を打ち砕く。
《End Roll!》
《HUNTING RIDER KICK!》
ロアは早速、必殺の一蹴を行う。標的は白いゼネラド……ではない。それは人混みの中の
ベイラも無視された白いゼネラドも呆気に取られる。
「な、なな何やってるの遼也ー!?真希!避けて!」
ロアの獲物の顔を認識したベイラが黒いゼネラドの攻撃を相殺しつつ必死に呼びかけるが、当の真希の目に怯えや驚きの色は無い。寧ろその感情は喜びだった。
直撃。
爆風が晴れ、着地したロアと彼の一撃を防いだ真希の姿が出現。
「ハハッ……」
乾いた笑い声。人間の女性ではなく、狼の怪人の姿。彼女の声はノイズに包まれたものではなく、真希と同じもの。
「……あまりにも予想通りだな。少し味気ないと言ってもいい」
「えっ?え?え?え?」
「ま、そう言うなって……ホントはもう少し後に正体明かす予定だったんだが、これでコソコソする必要は無くなったな……!や、でもルイーザに何言われるか分かったもんじゃねえ……」
混乱の極みに取り込まれたベイラを余所に、ロアの台詞に応えつつも独り言のように喋り続けるフェンリル・ゼネラド。
《Barguest》
《Now Loading……Transform!》
《Barguestnunnos Form》
《To the next chapter.》
「あぁ?」
唐突に、鎖がフェンリル・ゼネラドの腕に絡み付く。
「うぉ!?」
次の瞬間に彼女の身体は地面から引き剥がされ、白いゼネラドを巻き添えにして投げ出される。
仮面ライダーロア、バーゲストヌンノスフォーム。装甲は黒く、手足に鎖、複眼は牙の如き形。
「そうやって御託を並べているからだ」
「言ってくれるじゃねえか……!」
狼と、彼女の下敷きになっていた白い彫刻が立ち上がる。
そっか、真希ってゼネラドだったんだ……!
が、周囲の舗装された地面や建物の破片が浮かび上がる。それらは黒いゼネラドの身体に癒着し、ベイラによって欠けた泥岩の鎧を再生させる。
ここまで来て何となく、彼女にもこのゼネラドの元となった存在を察することができた。
ゴーレムかな?
ゴーレム。ユダヤの伝承に登場する泥人形。その名はヘブライ語で「胎児」を意味し、主人の命令を忠実に守り、動く。また動作を開始すると自動的に巨大化する性質を持つ。
黒いゼネラド、改めゴーレム・ゼネラドの再生能力を目の当たりにしても、剛腕が襲い掛かってきても、彼女は敢然とソルスティスセプターで殴り続けた。
やがて無残に岩が剥離、粉砕されたゴーレム・ゼネラド。
今ならいける!
「じゃあ、これで!」
《End Roll!》
《VICIOUS RAID!》
カマソッツディスクがソルスティスセプターに装填され、先端の装飾から赤い光の球体が生成された。宙に浮遊するそれを華麗に蹴り飛ばし、ゴーレム・ゼネラドの剥き出しの筋繊維に衝撃を与える。
「はあっ!」
更に彼女は高速で低空飛行、槌が追撃して決定打。
こうして新たなテイルディスクを手にした。
一方では紫炎の幕が地面を灼く。
確かな熱を感じる。
北欧神話のフェンリルは、口を開けば上顎は天に、下顎は地に触れるとされる。フェンリル・ゼネラドの身長は二メートルと十数センチメートル程だが、彼女の喉の奥から来る炎は神話上のフェンリルに匹敵するだろう。
炎を凌いだ直後、ロアは突き出された象牙を最小限の動作で避ける。
象牙は白いゼネラドの左腕が変形したものであり、彫像に似た外殻と並んでその起源を探るための鍵となった。
ガラテア。ギリシャ神話に語られる女性。キプロス島の王・ピュグマリオンの手で作られた象牙の彫像であったが、愛の女神・アフロディーテによって命を与えられ人間に変身した。
《Basilisk》《Manticore》
《Now Loading……Transform!》
《Basiticore Form》
《To the next chapter.》
ロア、バジティコアフォームはその場に立った状態で一度翼をはためかせ、緑色の霧を発生させる。身を躍らせ飛び掛かるフェンリル・ゼネラドと、両腕を象牙に変換して刺突の構えを取る彫像——ガラテア・ゼネラド。緑の風に曝された彼女達は身体に違和感を覚え、狙いを外して倒れ伏す。
「あァ?……毒か!」
フェンリル・ゼネラドの爪、ガラテア・ゼネラドの外殻には
「ご明察」
半ば嘲笑うように応答。
ヨーロッパに伝わる蛇や鶏の魔物・バジリスクの毒は石を砕き、自らの住処さえ砂漠に変えてしまうほど強力だ。
以前のフェンリル・ゼネラドとの交戦を考慮し、彼は単純に彼女の迅速な攻撃を封じる手段に出た。
「さて、何故君がロアドライバーに探知されなかったのか、何故
フェンリル・ゼネラドの背を踏み付け、モータルスティンガーを突き付けて脅迫。
スルクことアラクネ・ゼネラド同様に復活が可能ならば、これは無意味になる筈だが——。
「……ああ、そういう力ならある。別にオレだけじゃねえ、スルクもルイーザも、ゼネラドなら誰でもな。これがどういう意味か、お前なら分かるよなァ?」
挑発。
彼は先日のディープ・ワン・ゼネラドを思い出す。何百か、何千か、何万か、何億か?人間という仮面を被った怪人。彼等が一斉に正体を現したのなら、それはさぞ刺激的な光景だろう。
「分かるとも」
「へえ……で、オレの猿芝居に関しちゃあ…………今はただこう言っておくぜ。『そうした方が面白くなるからに決まってんだろ』」
はぐらかす回答。払い除けられるモータルスティンガー。再起するフェンリル・ゼネラドから足を退けて臨戦。
「さあ、さっきの続きといこうじゃねえか」
紫色の焔を全身に帯す。ガラテア・ゼネラドが隣に。
「……」
今回はこれ以上情報を引き出す事は不可能か。彼は諦めて槍を向けた。
「ところで
フェンリル・ゼネラドとガラテア・ゼネラドの頭に衝撃が響く。炎が消えた。
「お、お前……!オレが怪人とは言えよくトモダチを平気で殴れるなオイ」
「?」
背後から殴打したベイラが首を傾げる。
彼は思う。改めて、興味を掻き立てられる人物だ。非日常的な出来事にも悩まされない彼女を豪胆と評すべきか、それとも。
「もういい……あァ……ゥオオオオオオオォ......!」
どうやらそんな彼女に呆れ切ってしまったらしい。ガラテア・ゼネラドを巻き込んで再び全身から発火。そして灼けたガラテア・ゼネラドの肩から生えた象牙を掴み、錯乱したようにベイラではなくロアに投げ付ける。
「流石の凶暴性だな」
次の瞬間にはモータルスティンガーが筋組織を貫いていた。
《You got a new episode.》
「おー、すごい力持ちだね真希!遼也も!」
「どうも。しかしお喋りしている暇は……」
「ウォオオオオオオオォ……!」
炎を纏った爪が二人を薙ぎ払った。無論、それだけでは終わらない。
「ッ!」
「うわぁ!?」
地面に倒れた二人は一際大きく燃え上がる炎を目にする。慌しく立ち上がり、合流。連続して発生する爆炎を背に全力で疾走。
「落ち着いてよ真希!?」
「君は彼女を言葉で止められるとでも思っているのか?兎に角フーアドライバーで必殺技を発動するんだ、俺は後から追撃する」
「あ、火を消せば……!」
《End Roll!》
《VORTEX BANE!》
飛翔する渦が炎を抹消。そのまま炎の中心部だった彼女へ。
「何ッ!?」
「はあぁっ!」
強烈な蹴りがフェンリル・ゼネラドを大幅に後退させる。
「ぐォッ……ハ、ハハハッ!深冬のフーアドライバーも上手く適合してるみてえだな……」
彼女は笑い、そう呟く。それも、何故か満足げな様子で。
《Orc》《Scolopendra》
《Now Loading……Transform!》
《Orcpendra Form》
《To the next chapter.》
「遼也!」
既に新たな形態へ変身していたロア。
仮面ライダーロア、オークペンドラフォーム。同じくスコロペンドラディスクを使用して変身する形態であるアラクネペンドラフォームとは異なり、頭部の上に一対、頭部の側面に一対、骨を模した白い肩の装甲に一対の鯱の鰭、アンダースーツは黒く白い牙の模様。
《End Roll!》
《STREAMING RIDER RUPTURE!》
ロアドライバーの音声と共に、彼は
「えっ?」
「は?」
ベイラとフェンリル・ゼネラドは揃ってロアの姿を探すが、フェンリル・ゼネラドへの返事は何処からか来た斬撃だった。
「がッ!?」
もう一度、別方向から斬り付けられる。
「ガあッ!?」
フェンリル・ゼネラドの視界の端に映るものは黒い鰭。鯱のように
ロアが彼女の正面の地面から飛び出した。
転脱の猶予は無く、回転飛び蹴りが叩き込まれる。命中時に白い粒子で形成された鯱の頭蓋骨がフェンリル・ゼネラドに喰らい付き、消滅。彼女は地面に膝を付いた。
「な、何が起こったのかよく分からなかった……」
呆然とするベイラを横目に、今度こそ止めを刺すべくロアはフェンリル・ゼネラドに近寄るが——。
「ハハッ、待ってろよ仮面ライダー共、次はこうはいかねえぜ……?」
その台詞と同時に紫炎の緞帳が降りる。
二人が視界を塞がれている間に彼女は退散し、気付けば公園には二人だけ。
「セイズがもう正体明かしちゃったらしいけど大丈夫なの、ルイーザちゃん」
廃工場にて。
「ええ、心配には及びません。何もかも台本通りであればいい、という訳ではありませんから。少しは予想外の事が起こる方が面白い、そうは思いませんか?」
「ふうん。そういうものなんだね」
スルクはいつも通り感情の籠らない声で返事をした後、"台本"を開く。
対してルイーザはプロトロアドライバーと、その隣の灰色に濃い赤色が散りばめられた機械をうっとりと眺める。
「さて、次回の『仮面ライダーロア』は、"3号ライダー"・オフォイスのお披露目です。アナタのより凶暴な活躍を期待していますよ、セイズさん?」
独り言が静かに、物騒に響いた。
今回、初めて登場した怪人
ゴーレム・ゼネラド
対応するテイルディスク:ゴーレムディスク
身長:234cm
体重:180kg
特色/力:岩のような外殻、再生能力
初登場回:7話
ユダヤの伝承に登場する動く泥人形・ゴーレムに由来するゼネラド。
容姿は「眼窩の無い髑髏のような頭部と生命維持装置に似た装甲を有している。ゼネラドに共通する銀の歯。緑のケーブルを備えた、泥岩の人形とでも形容すべき姿。黒く粗い外殻の節々から緑の筋組織が覗いていた」。
ガラテア・ゼネラド
対応するテイルディスク:ガラテアディスク
身長:200cm
体重:168kg
特色/力:象牙のように変形する腕
初登場回:7話
ギリシャ神話に語られる、愛の女神・アフロディーテによって彫像から人間に変身した女性・ガラテアに由来するゼネラド。
容姿は「眼窩の無い髑髏のような頭部と生命維持装置に似た装甲を有している。ゼネラドに共通する銀の歯。赤のケーブルを備えた、古代ギリシャの女性の彫像を思わせる姿。右肩から象牙が突き出ていて、白く滑らかな外殻の節々から赤い筋組織が覗いていた」。
今回のゼネラドのモチーフについてですが、ガラテアとゴーレムはある意味対になる存在で、心理学用語で教育者の期待によって学習者の成績が上がる「ガラテア効果(ピグマリオン効果)」と、その逆の「ゴーレム効果」が存在するそうです。
それでは次回もよろしくお願いします!