仮面ライダーロア   作:瀝青

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第8話 狼藉

「そういえば」

 講義が終わり大学の廊下を歩く中、深冬が口を開いた。

「全然ニュースとかにならないね、仮面ライダーとかゼネラドのこと。なんだか誰かに……検閲されてる、みたいな」

「"検閲"か、言い得て妙だ。確かにどのメディアにも君が巻き込まれたアラクネ・ゼネラドとマンティコア・ゼネラドの件は取り上げられていない」

「マンティコアのときはスマホで撮ってる人もいたのに……?おかしいよそんなの」

「全くだ。この時代ならSNSに投稿され、瞬く間に世界中に知れ渡っても可笑しくない。というより、それが自然だ」

「そうだよね。でもロアとゼネラドを見た、って人の話なら聞いたことあるよ。具体的に名前が出てた訳じゃないけど」

「ああ。およそ十年前からインターネット上で語られる、『白い身体に赤い複眼、鹿と羊の角に白黒のベルトを装着した仮面の戦士』の事だろう」

「そうそう!でも遼也が初めて変身したのって……」

「前も言ったように今年に入ってからだ。だが更に奇妙なことに、遡って二十年程前には『全身が灰色一色、山羊と牛の角に灰色のベルトを装着した仮面の戦士』が目撃されている……」

「遼也ってそんな四十歳とか五十歳とかじゃないよね?」

「君からそう見えるならともかく、灰色の戦士に関してはそもそもベルトの色からして違う。恐らくだがロアとはまた異なる存在だろう」

「うーん?」

「……この題目について、まず根本的な認識を問う必要があると俺は考える。本来仮面ライダーとは虚構の中の存在、それは君も知っている筈だ」

「うんうん」

「つまり、この"仮面ライダーの噂"を基にロアやゼネラドが作られた可能性もある」

「あ、確かにそっか……!でも今はまだハッキリしたことは分からないよね……」

「伏線の回収はまだ先だな」

 二人の話題は移り変わる。

「あれ以来君の友達も学校に来ていないが、彼女から何か連絡は無かったのか?」

 彼女の表情が少し沈んだ。

「ううん、何も……しかもそもそもみんな真希なんて子知らないって言ってるんだよ……?あんなにみんなと仲よさそうだったのに……」

 "待ってろよ仮面ライダー共、次はこうはいかねえぜ……?"

 彼の脳裏に真希(セイズ)の台詞が過る。

「まさか——」

 言いかけて、(言葉)を呑む。

「へ?」

 二人同時に立ち止まる。

 正午の光が、天井の窓から人の気配が消え失せた白い廊下に降下する。

 思い返してみれば、仮面ライダーの力を授けられた時と同じだった。否、深冬と出会った時も、大橋でルイーザと対峙した時も、そして真希(セイズ)の正体が明るみに出た時も。

 映像作品の撮影のために整えられた舞台のように。

 都合良く、という表現が似合う程に(ことごと)く人々は去っていた。

 

 そして、唐突に二人の耳に飛び込む軍靴の音。無言、獣じみた笑み——鎖條真希(セイズ)

 以前とは異なり白いワイシャツ、黒いネクタイ、黒い軍服風の上着、太腿が露出する程に短い黒のタイトスカート、灰色の革製オーバーコートを着用している彼女。

「……イメチェンした?」

 一瞬、呆然としていた深冬が呟く。

「イメチェンだと?本性を隠すつもりが無くなったという方が正確だろう……」

 冷静に正面を見つめる遼也。

「なァお前ら、こうは思わねえか?」

 真希(セイズ)は二人の発言を無視して一方的に台詞を吐き出した。

「どうしたの?」

 日常の何気ない会話と変わらない調子でそう尋ねる深冬。

「『仮面ライダー』の登場人物になるんなら、ライダーに変身する()がいい、ってな……!」

 懐から徐に"機器"を取り出し、腹部に当てる。

《XenociDriver!》

 低く、不明瞭な音声が響いた。

「え、真希も変身するの!?」

「嗚呼、そういう事か……」

「アハハッ!その反応が見たかったんだよオレは……!」

 嬉々とした様子の真希(セイズ)。彼女にとっても、仮面ライダーに至るのは喜ばしい事なのだろう。

 装着された機器の名はゼノサイドライバー。灰色で、所々に乾いた血のような濃い赤。両端から伸びるベルトは灰色。ロアドライバーとは異なり左右非対称で、左側に比重が寄っている。

 真希(セイズ)はゼノサイドライバーの両方の側面に付いた取っ手を引いた。PCに内蔵されているCD・DVDトレイに似た板が出現。彼女は更に灰色で狼の頭部が刻まれた青袋鼠(せいたいねず)のオフォイスディスクと、紫色で狼の頭部が刻まれた灰色のフェンリルディスクを取り出し、トレイに装填。

 左側にオフォイス、右側にフェンリル。

《Base: Ophois》《Addition: Fenrir》

 トレイを戻すと音声の後に古代エジプトの音楽、現代のロック、テクノが歪に混じり合った旋律が奏でられる。同時に、鉛色の霧が彼女の周囲に発生。

 またゼノサイドライバーの正面は先程から音声、音楽に合わせて発光し、絶えず流動する奇怪な文様を映している。須臾(しゅゆ)ののち、霧が凝縮。金属光沢を放つ液体へと変化、彼女の前でロアに似た"仮面ライダー"の姿を造り出す。

 彼女はゼノサイドライバーの左側上部、深紅の複雑な——強いて言うならエンターキーに近い——形状のボタンを拳で叩いた。そのまま手の形を変えず、前方に突き出す。

「オラァッ!」

 殴打を一つ。砕かれた"仮面ライダー"の欠片が空中に散乱。

《Now Invading……》

「変、」

 彼女は両腕を左に向けて伸ばして左手を広げ、右手をやや下で構えて拳を握る。欠片たちが真希(セイズ)を囲む。

《Deform!》

「身ッ!」

 機敏に腕の位置を変え、右手を開いた状態でオーソドックススタイルのファイティングポーズを取る。欠片たちが彼女の身体に収束してゆく。

《Fenrir in OPHOIS the MASKED RIDER》

《Fade out.》

 ゼノサイドライバーの画面がオフォイスディスクの紋章を表示。新たな仮面ライダーの顕現。

 仮面ライダーオフォイス、フェンリルフォーム。

 左右非対称の装甲は大部分が灰色、一部が紫色、銀色。

 灰色のアンダースーツ。

 口部(クラッシャー)は銀色でゼネラドのものに酷似し、尖った犬歯を持つ食い縛られた人間の歯。憤怒とも狂喜とも取れる表情を演出。

 額には頂点が下を向いた、紫で二等辺三角形の「第三の目(Oシグナル)」。

 左右で合わせて見ると緩やかにV字を描いている、釣り上がった一対の紫色の複眼。その輪郭は直線だけで構成され、ロアやベイラのものより細長く、鋭利な刃物や獣の牙、爪を想起させる。また、左の複眼のみが格子状の部品で覆われていた。

 複眼の上には狼の耳を模した一対の装飾があるもののイヌ科の動物特有の愛嬌など無く、凶悪さに拍車を掛ける役目を果たしていた。

 指先、紫色の爪もまた狼らしい。

 狼の毛並みに似た灰色で刺々しい装甲には古代エジプトの壁画に見られる冠、杖、十字(アンク)といった図柄が歪に絡み合って刻まれている。棘の中には先端が透き通った紫色のものもある。

 銀色かつ無地の装甲は鎖やベルト、リベットによって強引に固定されており、フェンリル・ゼネラドを彷彿とさせる。

 総括すると、"仮面ライダー"と"怪人"の要素を併せ持つ異形の鎧。

「これでオレも仮面ライダー——仮面ライダーオフォイスだ……!ハハッ、最高の気分だぜ」

「か、怪人?」

 ロアとは掛け離れたその姿に、深冬はそう反応する他なかった。

「オフォイス……つまりウプウアウトか」

 ウプウアウト/オフォイス。

 狼や胡狼(ジャッカル)そのもの、或いはそれらの動物の頭部を備え、槌矛(メイス)と弓を携えた戦士として表現されるエジプト神話の軍神。ウプウアウトの名は"道を開く者(Opener of the Ways)"を意味し、その名の通り偵察を得意とする。

 また地平線から昇り、空を"開く"存在として太陽神・ラーにも関連付けられた。

《Lore Driver!》

《Crom Cruach》《Kernunnos》

 知識を元に敵の特性を推測しつつ、彼は何時もの手順をなぞる。

《Fuath Driver!》

《Beira》

 若干まごつきながら彼女も付いて来る。

「良いね、そう来なくっちゃな」

 オフォイスの口部(クラッシャー)の口角が上がったように見えた。

「変身!」

「変身っ!」

《Now Loading……Transform!》

《Now Loading……Transform!》

《KAMEN RIDER LORE》

《KAMEN RIDER BEIRA》

《Cromnunnos Form》

《To the opening.》

《Tales from phantasmagoric water create destiny.》

「仮面ライダーロア、開幕の時間だ!」

「仮面ライダーベイラ、開幕の時間だぁっ!」

 前回とは違い、二人の台詞はほぼ同時に発せられた。

「いくよ真希!おりゃー!」

 まず元気にベイラが先陣を切る。

《End Roll!》

《VORTEX BANE!》

 開始早々、渦潮と共に急降下して蹴りを放つベイラだったが——。

「おっと、その手は食わねえよ」

 オフォイスの目前で水流の方向が変化。

「え——」

 流れは一つの束となり、空中のベイラを押して地面に叩き付ける。

「うわぁっ!?」

「深冬——!」

 後方でオフォイスの能力を見極めていたロアがベイラのもとに駆け寄った。

 フェンリルの別名の一つに"希望川の怪物(ヴァナルガンド)"というものがある。神々によって拘束されたフェンリルの口が開かれたままの状態となり、流れ出た唾液から川ができた。そして、その川が希望(ヴァン)川と呼ばれた事に由来する名だ。

 フェンリルの力を宿す仮面ライダーオフォイスが水流を操作する、というのも何ら可笑しい話では無い。しかしフェンリル・ゼネラドはこの能力を行使していなかった。敢えて抑えていたか、はたまたゼノサイドライバーと謂うらしいあの機器の産物なのか。

 ベイラが立ち上がる間、オフォイスは背負っていた二つの武器を手に取る。

 右手には先端から狼の牙のような突起が不規則に生えた灰色の槌矛(メイス)——睥睨(へいげい)戦棍(せんこん)

 左手にはフレーム部分が白銀色の鋭い刃となった弓型の武器——地平の強弓(ごうきゅう)

「さ、仲良く争い合おうぜ」

 武装して詰め寄るオフォイス。ロアは咄嗟にベイラのディスクホルダーに手を伸ばした。

「借りるぞ」

「へ?あ、どうぞ」

 彼が抜き取ったのは緑色で岩の人形が刻まれた黒いテイルディスク——ゴーレムディスクだ。

《Golem》《Galatea》

 赤色でギリシャ彫刻風の女性の顔が刻まれた白いテイルディスク——ガラテアディスク共々、それをロアドライバーに装填。

《Now Loading……Transform!》

《Golem Galatea Form》

《To the next chapter.》

 仮面ライダーロア、ゴーレムガラテアフォーム。

 複眼は緑、アンダースーツは赤い血管の模様が入った黒、上半身に無骨な黒い装甲、下半身に滑らかな白い装甲。左の拳は黒く巨大で、右腕の装甲からはテイルレンダーに干渉しない形で二本の象牙が突き出している。

「へえ、防御特化か」

 ロアとベイラの反撃が始まった。

「ハァッ!」

「はぁあああっ!」

 重量を込めた拳と槌が炸裂する。しかしオフォイスは回避も防御もせずに猛攻を受け入れ、武器を持った腕を上げようともしない。

「ま、意味ねえけど」

 難無く、無造作に戦棍と強弓を振り回す。打撃と斬撃に為す術もなく払われる二人。

 彼女は体制を立て直した二人にそれ以上攻撃する様子もなく、またしても勝手に語り出した。

「仮面ライダーってのは戦うモンだ。そうだろ?」

「ああ」

「そ、そう…………だよね」

 ひとまず二人は肯定した。物語の中で、彼等は怪人、もしくは同じ仮面ライダー同士で戦いを繰り広げる。今の状況は後者にあたる。

「で、オレが思うに戦いは手っ取り早く、んでもって派手に物語を創れる手段なワケよ。スルクとかルイーザとか、あとお前らもまだ会ってないもう一人のヤツとはオレの考え方は(ちげ)ぇがまあいい、とにかくオレたちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何ッ?」

「それって一体……」

 意味深長な台詞に惑わされる二人に投げ掛けられる言葉は。

「つまるところ、」

《Biblioclasm!》

《INCISING DELETION!》

「オレたちを興醒めさせるんじゃねえぞ、って言いてえんだよ」

 彼女は睥睨の戦棍を床に叩き付けた。ゼノサイドライバーのボタンが二度押された。

 紫炎を帯びた地平の強弓で空中を二度、十字を描くように斬る。

「不味い——」

「あ——」

 回避、不能。十字の炎が直進し、二人の足元に命中、爆発。

 オフォイスは地平の強弓に備えられた、矢のようなグリップを引くが——。

 

 煙が薄らいだ先。立ち塞がり爆破を遮った影を見た。

 

「お前——」

 強弓を持つ手を下ろす。

 

「貴方は——」

「もしかし、て——」

 

 灰色の体躯。山羊と牛の角。灰色のロアドライバー。

 噂に語られる、二十年前の戦士そのものであった。




3話から存在が示唆されていたゼノサイドライバーですが、今回からようやく正式な登場となりました。

ゼノサイドライバーの仕様に関してはデモンズドライバーやヴィジョンドライバーが更に豪華になった感じを想像していただければ。


次回もよろしくお願いします!
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