グラスちゃんの黒歴史ノートがエルちゃんに見つかってしまうSSです。
グラスちゃんは中3なので、厨二病を患うこともあるかもなと思って書きました。

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グラスワンダー「狂乱の焔が煉獄の扉を開く。浄火に犯された十三の魂……今こそ炎の洪水と為りて、世界を虚無に還せ!」

 

「"融合召喚! 顕れろ! 『インフェルノイド・ティエラ』"!!」

「…………」

「ってなんデスか?」

 

「っああああああああ!!!!」

 

 それはある日のこと。

 エルコンドルパサーは不意にグラスワンダーのノートに書かれていた召喚口上を見つけてしまったのだった。

 

※『召喚口上』:遊☆戯☆王において、思い入れのあるモンスターを召喚するときに詠唱するセリフ。オリジナル口上は大抵痛々しいので、人前で決してやってはいけない。

 

(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!!)

 

『恥ずかしい』という言葉が脳を埋める。羞恥の感情で顔が真っ赤に染まる。

 だがそこは鎌倉武士系ウマ娘。強靭な精神で押し込み、瞬時に冷静を取り戻す。

 気づくと、手には薙刀が握られていた。

 

「エル……今すぐそれを忘れるか……○になさい♪」

「全然冷静じゃない!!」

 

 思ったより冷静じゃなかったグラスワンダー。

 彼女が選んだのは恫喝だった。

 生きとし生けるものすべてに許された原初の交渉。

 

 圧倒的な武力の差がある2人において、それは有効な手段である──

 

「でも……いいんデスか? そんなこと言って」

「……は?」

 

 かに思われた。

 

「今、主導権を握っているのはエルのほう!! あなたが偉そうなことを言えば、すぐにこの写真をばらまいてやりマース!!」

 

 エルコンドルパサーはグラスワンダーの黒歴史を写真として記録していた。すでに急所を握りこんでいたのだ。

 

「……そういうことですか」

 

 通常なら絶望的な宣告。

 もはやできることは、誰にも言わないように頼み倒すことだけ。

 

「でも、関係ありません」

「……ケ?」

 

 だが、グラスワンダーは揺るがない。

 彼女の青い眼の光が揺らめく。

 

「それをする前に○す、と言っているんですよ……!」

 

 すでに薙刀はスマホを持つエルコンドルパサーの右手に向けられていた。

 

 ──下手に動けば切り落とす。

 

 無言の圧力。

 彼女の持つ圧倒的暴力。

 やはり暴力。暴力はすべてを解決する。

 

「……何が可笑しいんですか?」

 

 だが、エルコンドルパサーはあろうことか余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ふふふ。もう遅い。手遅れデース。グループラインを見てみてくだサーイ」

「グループライン?」

 

 エルコンドルパサーへの警戒を解かぬまま、左手でスマホを操作する。グループ『最強世代』(5)に新着のラインが2件。

 

 

 える:見てください!! 面白い写真が手に入りました! 

 

 える:(召喚口上の書かれたノートの写真)

 

 

「あああああああ!!!」

 

 本日2度目の絶叫。未だかつて味わったことのないほどの恥辱。グラスワンダーの体が悶える。

 

「はははっ! だから言ったでしょう! もう手遅れだって!!」

 

 勝ち誇ったように笑うエルコンドルパサー。

 しかしそこで気づく。グラスワンダーの纏う空気の変化に。

 制御しきれず溢れ出す、碧く透明な殺意に。

 

 その殺意の中心で、彼女は静かに微笑んでいた。

 

「どうして笑うんデスか……?」

「ふふふ。わからないのですか? やっぱり貴方は愚かですね」

 

 みしり。

 握っていた薙刀がきしむ。

 

「貴方は核弾頭のスイッチを押してしまいました。でも私は生きている。もう恐れるものはないのですよ♪」

 

「……」 

 

「今から貴方を徹底的に痛めつけます。二度とこんな気を起こさないようにね。そして元画像を消してもらう」

 

「……」

 

「そうしたら、今度はあの三人の『説得』に行きます。あの子たちはあなたと違ってすぐに人に広めたりはしないでしょう。今から行けば十分に間に合うはずです」

 

「……」

 

「なんてことはない。これでこの話はおしまいです。誰も知らない。何もなかった」

 

「……」

 

「さあ、覚悟はいいですか♪」

 

 一度歯向かった愚か者には徹底的な制裁を。

 二度と歯向かうことができないよう、一本残らず牙を叩き折る。

 すでにグラスワンダーの思考はどんな方法で苦しめてやろうかということにシフトしていた。

 

 そんなグラスワンダーの穏やかな笑みを見て、エルコンドルパサーは震える。

 3年間という決して短くない間に刻まれた恐怖。身の毛のよだつ制裁。

 

 それをその身に感じながら、エルコンドルパサーは言い放つ。

 

「うるせえ」

「……○す」

 

 グラスワンダーが薙刀を振りかぶる。

 殺意のこもった一撃。

 白刃が煌めく。

 瞬間。

 

「やめて! グラスちゃん!!」

 

 聞き慣れた声が響く。それはエルコンドルパサーの右手のスマホから発されたものだった。

 

「……スペ……ちゃん……?」

 

 声の主はスペシャルウィーク。

 どうして彼女と通話がつながっているのか? 

 いやそもそもなぜ通話をしているのか? 

 

 

 話はおよそ15分前に遡る。

 

 エルコンドルパサーの気分は上々だった。珍しくグラスワンダーの弱みを握ったので、いたずらしてやろうと思っていた。

 が、ライングループに写真を送る直前、彼女の身体をえも言えぬ悪寒が通り抜ける。

 

(……待て。このままじゃまずい……のか?)

 

 それは恐怖だった。恐怖は警告となり、エルコンドルパサーの足を止める。

 本能がかけたストップ。

 これが彼女の運命を変える。

 

(もしここで、ラインをみんなに送ったとして、それでグラスの致命傷にならなかったとして、私はどうなる?)

 

 目を瞑ってよく考える。

 

(……最悪、○ぬ)

 

 脳裏に浮かんだのは最悪の未来。

 

(ならばどうする? 諦めるか? いや、せっかく手に入れたグラスの弱み。できればイジりたい……!!)

 

 行くは地獄。だが、戻れば確実に後悔する。

 どうすればいいのか。

 

(……保険だ)

 

 極限まで諦めない心が、エルコンドルパサーの思考を『深化』させる。

 

(みんなにラインを送るのは必須。そもそもそれが目的だし、実際に私が『やる』ということを示す必要がある)

 

 行くか逃げるかの先。3次元の発想。

 

(その上で、保険。さらなる爆弾を用意する。でも暴発させてはいけない。そこまでやる気はない。ちょっと狼狽えるグラスが見れればいいのだ。その辺の塩梅を考えて……)

 

 そしてエルコンドルパサーはたどり着いた。確かな勝ち筋に。

 

 

 時間は現在に戻る。

 

「聞いてマスか? スペちゃん」

「う、うん。聞こえてるよ。エルちゃん」

 

 思いついたのが、スペシャルウィークとのライン通話。

 グラスワンダーはここで初めて後手に回る。

 それはスペシャルウィークにここまでの会話を聞かれていたことではない。

 

(……一体なにが目的なんだ……?)

 

 彼女にはエルコンドルパサーの狙いがわからない。

 スペシャルウィークはグループラインにいる以上、すでに写真について知っている。よってそれはグラスワンダーにとってダメージにはなりえない。

 だが、エルコンドルパサーが自信満々に出してきた最後の切り札。きっと何か意味があるはず。

 彼女の次の言葉を待つ。

 

「スペちゃん、もしエルがグラスに○されたら……」

「……」

「ウオッカに、あの写真を送ってください!!」

「…………っっ!!」

 

 ウオッカ。ナチュラル厨二病。そのメンタリティはまさに中2男子のそれである。

 

(……ウオッカはまずい……!!)

 

 グラスワンダーが目に見えて狼狽える。

 それはこの脅しの恐ろしさに気づいたからに他ならない。

 

 なぜウオッカはまずいのか。それは彼女が素直で、明るく、それ故に拗らせていないタイプの厨二病だからである。

 故に彼女は純粋な称賛の気持ちで、写真を広める可能性がある。悪意は罪悪感によって静止しうるが、善意を止めることはできない。

 

『グラス先輩!! カッコいいですね!! 他のも教えて下さいよ!!』

『聞けよスイープ!! グラス先輩の考えた呪文、カッコいいんだぜ!』

 

 今回のエルコンドルパサーの作戦の秀逸なところは3つ。

 

 1つ。暴露する相手としてウオッカをチョイスしたこと。自分を善だと思いこんでいる邪悪ほど手に負えないものはない。

 

 2つ。ウオッカへの伝達を他者に任せたこと。もしエルコンドルパサー自身が写真を送ると脅した場合、武力制圧されスマホを奪われれば終わりである。

 

 3つ。電話相手にスペシャルウィークを選んだこと。もし『最強世代』の他の二人、キングヘイローとセイウンスカイだったなら、この頼みは聞き入れてもらえないだろう。

 なぜならこの二人は、人の厨二病黒歴史を広めるという行為の罪深さを理解しているからだ。おそらく、エルコンドルパサーがグラスワンダーに制裁を受けるとして、自業自得だと放って置くだろう。

 だが、スペシャルウィークは違う。彼女は厨二病を知らない。いや正確にはわからないのだ。それが何なのか、何故恥ずかしいかが理解できない。まるでモノクロの世界に生きる生物が『赤』という概念を理解できないように。

 故に、スペシャルウィークは今このように考えている。

 

(うーん、エルちゃんまたグラスちゃんにいたずらしたのか……。でも、今回のいたずらはそんなに悪いことでもないし、これで厳しくお仕置きされるのは、エルちゃんがかわいそうだな……)

 

 だからこそ、スペシャルウィークはエルコンドルパサーに協力する。

 グラスワンダーが嫌がっているので、実際に写真を送る気はない。でも脅しまでならやってもいいか。そう考えている。

 

 エルコンドルパサーはそんな彼女の思考すら読み切って作戦を決行した。

 命を懸けたブラフ。

 恐怖に向き合う勇気が、殺意を砕く。

 

 ピッ。

 無言で電話を切ると、グラスワンダーに話しかける。

 

「というわけですグラス! あなたはとっくに詰んでいる! さっさとその薙刀を離すのです! どろっぷゆあうぇぽん(ネイティブ発音)!!」

「……」

 

「どうしましたか? 早くしなさい!」

「……」

 

「あれー? 言うことを聞かないんですかあ? じゃあもうやっちゃおうかなー?」

「……ふ」

 

「ふ?」

「ふ、ふぇぇ……」

 

 

 そして、グラスワンダーの精神は限界を迎えたのだった。

 

 

「ふ、ふぇぇぇん! ひぐっ……ふぇぇぇぇん!」

(……泣いた!? マジ!?)

 

 グラスワンダーは『絶望』に弱い。

 

「なんでっ……そんなこと……ひぐっ……するんですかぁ……」ポロポロ

 

 と言ってもそれは決して打たれ弱いということではない。

 むしろ彼女はすべての負けを糧とする強靭すぎる精神力を持っている。どんなみじめな敗北も、彼女にとっては『まだ強くなれる』という『希望』でしかない。

 

「……わ゛だじ……そんなに……わるいこと……ひっく……しましたかあ(号泣)」

 

 だが『絶望』、すなわち『望みが絶たれる』場合はどうだろうか? 

 頑張ってどうにかなることなら、いくらでも乗り越えてきたグラスワンダー。だが、その一方でどう頑張っても覆ることのない現実に直面した時──彼女は脆くも瓦解する。

 

「……うぅ……ぐすっ……」グスグス

 

 例を挙げるならば、『倒すべき目標と引退という形で2度と戦うことができなくなる』といった状況が考えられる。このような場面、案外立て直すのに時間がかかったりするかもしれない。

 

「うぇぇ……うぅ……ひぐっ……うああああ!!!」

 

 そして今、はからずも状況は『絶望』だった。

 

「ちょっ! な、泣かないでくだサイ!! エルが悪者みたいじゃないデスか!!」

「いや、どう見てもそうでしょ」

「流石にこれはひどいわ……」

「セイちゃん!? キング!? いつの間に来てたんデスか!?」

 

 なおも泣き続けるグラスワンダー。それはまるで無垢な赤子のよう。

 

「ふぇぇ……えるがいじめる……」

「よしよし。グラスちゃん大丈夫だよ〜」

「ほらっ! 早く謝りなさいエルさん! お姉ちゃんでしょ!」

「もうなにがなにやら……」

 

 収集がつかなくなってきているこの状況。

 だが、どうやらこれを解決する方法があるらしい。

 

「こうなったら"あれ"をするしかない」

「ああ、やればみんなが笑顔になれる"あれ"ね!」

「そ、そうか! "あれ"デスね!!」

 

 全員がスマホを持つ。

 そして、言うのだった。

 

「「「遊戯王マスターデュエル!!」」」」

 

 この後、めちゃくちゃ煉獄の氾濫した。

 

 完

 




インフェルノイドというテーマを知っているでしょうか?

何度破壊されても復活して相手を焼き尽くすまで止まらない、どっかのフェニックスガイとは別の意味で不死鳥みたいなテーマです。
最高にかっこいいです。

また現環境では、Tier表に乗ることはありませんが、結構戦えます。
相剣にはかなり高い勝率が出ます!

先行制圧に飽きた方、後手から制圧をふっ飛ばしたい方、ぜひインフェルノイドを使ってみてください!


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